光・放射線化学

光化学
6章 6.1.5 Ver. 1.0
FUT
原 道寛
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光化学I
序章
• “光化学”を学ぶにあたって
1章
• 光とは何か
2章
• 分子の電子状態
3章
• 電子励起状態
4章
• 分子と光の相互作用
5章
• 光化学における時間スケール
6章
• 分子に光をあてると何が起こるか
• 1化学反応機構の概略
• 2光反応とポテンシャルエネルギー曲線
7章
• 光化学の観測と解析
8章
• どのように光を当てるか
9章
• 光化学の素過程
10章
• 光化学反応の特徴
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6.1.5.光反応機構と立体化学
化学反応における立体化学
• 反応機構においてもっとも重要な命題の一つである
A
• 反応が立体特異的であれば協奏機構で進行する
しかし、反応分子の立体化学が保持されない場合
B
• 長寿命中間種を経由する多段階反応と推論される.
協奏的なぺリ環状反応(pericyclic reaction)の
立体化学
C
• 軌道対称性保存則(Woodward-Hoffmann則)によって
合理的に説明
Woodward-Hoffmann則
基底状態の軌道相関図
基底状態のエチレンにおいては2つの π 結
合に4つの π 電子が所属している。 ウッド
ワード・ホフマン則によれば「反応の前後に
おいて反応に関与する電子の所属する分
子軌道の対称性は保存される」から、反応
前に2つの π 軌道にあった電子は反応後に
1つの σ 軌道と σ* 軌道に所属することにな
る。 π 軌道にあった電子は π* 軌道より生
成するもう1つの σ 軌道には移ることができ
ない。これは軌道の対称性が異なっている
からである。 このようにして基底状態のエ
チレン同士が反応した場合、σ 軌道と σ* 軌
道に電子が所属した2電子励起状態のシク
ロブタンが生成することになる。 2電子励起
状態のエネルギーは熱的に供給するには
大きすぎるため、活性化エネルギーの障壁
を越えられず反応は起こらない。 このよう
に反応系と生成系の軌道の対称性によっ
て起こらない反応を対称禁制であるという。
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Woodward-Hoffmann則
• 一電子励起状態の軌道相関図
一方、片方のエチレンが1電子励起状態、もう
片方のエチレンが基底状態にある場合を考
える。 この場合、2つの π 軌道に3つの π 電
子が、1つの π* 軌道に1つの π 電子が所属し
ている。 反応前に2つの π 軌道にあった電子
は反応後に1つの σ 軌道と σ* 軌道に所属す
ることになる。 一方 π* 軌道にあった電子はも
う1つの σ 軌道に所属することになる。 このよ
うにして1電子励起状態のエチレンと基底状
態のエチレンが反応した場合、σ 軌道に3つ
の電子、σ* 軌道に1つの電子が所属した1電
子励起状態のシクロブタンが生成することに
なる。 この励起状態分のエネルギーは最初
に片方のエチレンを1電子励起状態にする
(通常は光によって与えられる)エネルギーで
まかなうことができる。 そのため活性化エネ
ルギーの障壁を越えて反応が可能となる。 こ
のように軌道の対称性の点からは起こること
が許されている反応は対称許容であるという。
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ペリ環状反応/周辺環状反応
• π電子系を含む複数の結合が環状の遷移状
態を経て反応中間体を生成せずに同時に形
成、切断される反応様式のこと
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6.1.5.光反応機構と立体化学
シクロブタン環の開環反応:図6.14
• メチル基とフェノキシ基がシス配置をした
A
シクロブタン化合物を3種類の方法で開環反応
B
• 三重項消光剤が過剰に共存する直接光吸収による反応,
C
• ベンゾフェノンを用いた三重項光増感反応
D
• 光を用いない加熱で反応
E
• ⇒生成するオレフィンの異性体分布はそれぞれ異なる.
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6.1.5.光反応機構と立体化学
直接光励起:出発分子の立体化学が完
全に保持される反応.
• 過剰の三重項消光剤が共存しているから三重項
A
状態は消光され,
B
• 一重項状態の反応だけが起こったと考えてよい.
• すなわち,励起一重項状態では立体保持の
C
(協奏的な[
σ2s+σ2s])開環反応が進行.
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6.1.5.光反応機構と立体化学
三重項増感反応で生成するオレフィン:出発分子の立体
配置とは無関係にほぼ等量の二種の異性体の混合物.
A
• 増感剤からの三重項エネルギー移動によって出発分子の三重項状態
が生成
B
• 続いて,シクロブタン環の一つの結合がまず切れて,
C
• 長寿命の三重項ビラジカルが生成し,
• スピン反転の間に結合の回転が起こり,
D
• 出発分子の立体化学が失われる.
• 最後に,もう一つの結合が切れて最終生成物に至る.
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6.1.5.光反応機構と立体化学
シクロブタン環の開環反応:図6.14
熱反応の場合(3)
•
•
•
•
立体化学は大部分保持されているが立体特異的ではない.
熱エネルギーによって,シクロブタン環のもっとも弱い結合がまず切れて,
A
一重項ビラジカルが生成する.
B
このビラジカルを経て最終生成物に至る過程はスピン許容で,結合の速
C
い回転と競争しながらも優先して進行するから,立体化学が大部分保持
される.
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6.1.5.光反応機構と立体化学
光環化付加反応の立体化学:図6・15(a)
• S1(1ππ*)の1-シアノナフタレンとcisまたはtrans-1A
フェノキシプロペンとのエキシプレックスを経て進行
• この反応におけるエンド選択性とレギオ選択性は,
二つの分子がその平面をサンドイッチ型に向かい
B
合わせ、ππ相互作用をすることによる、安定化した
C
エキシプレックスの立体配置を反映
D
• 付加反応の立体化学は軌道対称性保存則から,
励起状態で許容の[π2s+π2s]協奏反応
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6.1.5.光反応機構と立体化学
ベンゾフェノンとcis―およびtrans-2-ブテンとの光付加反応
• T1(3nπ*)を経て進行するが,求電子的な3nπ* のカルボニル酸素がオレフィンに付加し
• 三重項1,4-ビラジカル中間体を与える.
A
B
• この中間体が最終生成物に至るには一重項状態ビラジカルへのスピン反転が必要。
C
• その速度は結合回転より遅いため,オレフィンの立体化学が失われる.
• カルボニル化合物のオレフィンヘの光付加反応はPaterno-Büchi反応として知られ,
• T1( 3nπ* )を経由する場合,ほとんどは立体保持をしない.
D
もし,T1を経る付加反応が中間体を経由せずに協奏的に起こると,スピン
保存則に従って生成物は三重項でなければならない.
E
そのような反応は通常,吸エルゴン的なので起こらない.
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6.1.5.光反応機構と立体化学
ベンゾフェノンとcis―およびtrasn-2-ブテンとの光付加反応
• カルボニル化合物がS1(1nπ*)の場合
A
• アセトンのS1( 1nπ* )は約1 nsの寿命があり分子間反応が起こる.
• 図6.15(C):アセトンのマレオニトリルへの光付加反応はS1( 1nπ* )を経て
B
立体保持で起こる.
不飽和化合物間の光付加反応における立体化学
C
• 励起状態の電子配置(ππ*またはnπ*)よりもスピン状態により強く支配され
る
D
• カルボニル化合物のオレフィンヘの光付加反応にも励起錯体が介在
• 励起錯体は光化学反応において一般性のある中間体.
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6.1.5.光反応機構と立体化学
三重項状態を経る光反応
A
• スピン反転を必然的に含み,三重項ビラジカルのような寿命が比較的長い中間体を
B
経由するから,一部の例外はあるものの出発分子の立体化学は保持されない.
環化反応以外に,励起状態のスピン多重度によって光化学反応の
立体化学が支配される例:
• γ位にsp3C-Hを有するアルキルケトンのノリッシュII型反応.
C
• nπ*カルボニル酸素がγ位の水素原子を引抜き,
D
• それによって生成した1,4―ビラジカルのβ開裂を経て最終生成物に至る.
• 競争して引抜かれた水素(ビラジカルのO-H)がもとのγ位の炭素に戻り,出発分
子が再生する.
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6.1.5.光反応機構と立体化学
γ位が不斉炭素であるケトンのTypeII反応
フェニルアルキルケトン(R=Ph)の場合,
3nπ*)を経て反応が進行.
• 項間交差が速いので、T
(
1
A
• ⇒生成するオレフィンは幾何異性体の混合物&ケトンのラセミ化
B
• ⇒中間活性種である三重項ビラジカルのスピン反転(≧10 ns)の
間に結合回転が起こって、不斉中心の立体配置が失われ,
C
• その後引抜かれた水素原子がもとのγ位の炭素に戻るからである.
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6.1.5.光反応機構と立体化学
γ位が不斉炭素であるケトンのTypeII反応
メチルアルキルケトン(R=Me)の反応
•
•
•
•
S1(1nπ*)とT1(3nπ*)の両方を含む
寿命の長いT1(3nπ*)を三重項消光剤で完全に消光して,
SA1(1nπ*)からの反応のみが起こるようにすると,
B
ラセミ化は起こらない.
Type II反応で生成するオレフィン
• 出発分子の立体配置を90%以上保持している.
C
• 一重項ビラジカルのType II開裂反応は結合回転より速い.
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単語帳
•
協奏反応/きょうそうはんのう/連続した電子の移動により結合の形成、切断が複数同時に進行する反応。
•
吸エルゴン反応(きゅう-はんのう)はギブズエネルギー変化が正である反応をいい、非自発反応と同義である。
•
β開裂:ラジカルの付加反応の逆反応がβ(ベータ)開裂反応である。
•
ラセミ化 (ラセミか、racemization) とは有機化学や無機化学においてある物質がキラリティーを持っているとき、
量が多い方のエナンチオマーがもう一方のエナンチオマーに変わることによって系の鏡像体過剰率 (ee) が減少、
または消失するような化学反応。反応の要因は熱、あるいは酸や塩基などの反応剤である。原系が旋光性を
持っていた場合はそれが弱まるか、消失する。
•
ラセミ体:キラル化合物の2種類の鏡像異性体(エナンチオマー)が等量存在することにより旋光性を示さなくなっ
た状態の化合物のこと
•
メソ化合物もしくは メソ体 とは立体化学の用語のひとつで、分子内にキラル中心を持つが、同時に対称面も持つ
ためにキラリティーを示さない化合物のこと
•
キラリティー (chirality) は、3次元の図形や物体や現象が、その鏡像と重ね合わすことができない性質。掌性。
•
ノリッシュI型反応 (Norrish type I reaction) ではケトンまたはアルデヒドが光照射を受け、カルボニル炭素と、α炭
素または水素との結合がホモ開裂して2個のラジカルとなる。
•
ノリッシュII型反応 (Norrish type II reaction) ではケトンが光照射を受け、カルボニル基の酸素がラジカル的に γ位
の水素を引き抜いてビラジカルを与える。このビラジカルからさらに α位と β位の炭素-炭素結合がラジカル的に
開裂し、エノール(速やかにケトンに異性化する)とオレフィンに変わる。または、ビラジカルが分子内で再結合し
てオキセタン環に変わる。
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参考文献
• 光化学I 井上ら 丸善(株)
• ウィキペディア 他
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