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計算事例
Ar原子のフラーレンへの内包過程
フラーレンを手術するかのごとく「開胸」し、そこに原子や分子を内包させてからフラーレン
を「閉胸」するという「分子手術」法により、いろいろな内包フラーレンを効率的に作ることがで
きます。その際、フラーレンや内包分子の形やエネルギーはどのように変化しているのでしょ
うか? ・・・そのような過程も、Reaction plusで簡単に計算することができます。
右図は、Ar原子がフラーレンに内包されていく過程のアニメーションですが、Arがまさに内
包されようとする瞬間、フラーレンの「口」が大きく開き、そしてArが無事内包されると、また口
を閉じることがわかります。このように、フラーレン開口部の構造が変化することにより、一旦
内包されたArが再び外にこぼれ出ることを防いでいることがわかります。
この内包過程のポテンシャル曲線を見てみると、遷移状態が2個存在していることが分かり
ます。このうち、フラーレンの「口」が大きく開くのは1つめの遷移状態に相当します。一方、2
つめの遷移状態(候補)は今回の計算で新たに発見されたものですが、化学的にどういう意
味があるのかについては、今後さらなる検証が必要と思われます。
T. Futagoishi, M. Murata, A. Wakamiya, T. Sasamori, Y. Murata,Org. Lett. 15, 2750 (2013)
計算事例
CO2の固定化
第1段階
Cu錯体を触媒としてアルキンにCO2が固定化される反応です。CO2固定化までの反応は2段
階で進行します。
反応の第1段階(図1)では、アルキンが比較的自然に銅錯体に付加します。初めにNEB計
算を行って大まかな反応経路を求めた後(図1左)、遷移状態付近の構造からString計算を用
いて精査を行うと、手軽に遷移状態構造や反応経路を最適化することができます(図1右)。
活性化エネルギーは約10 kcal/molと計算され、実験では室温で反応が進行することと矛盾
しません。
第2段階
図1
第2段階(図2)では、この分子にCO2が挿入される形で付加します。同様に、NEB法で大まか
な反応経路計算を行い、求まった遷移状態付近の反応経路をString法で精査しました。
CO2はやや強引に割り込むためか、活性化エネルギーは約40 kcal/molと高めに計算されま
した。この反応は実験では高温にしないと進行しないことが確認されていますので、実験結
果と計算結果が良い対応をしていることがわかります。
図2
T. Fujihara, T. Xu, K. Semba, J. Terao, Y. Tsuji, Angew. Chem. Int. Ed. 50, 523 (2011)
計算事例
Sn触媒によるアリルスルフィドの[3 + 2]環化付加反応
より複雑に分子構造が変化する反応もReaction plusで計算することができます。この反応
では塩化スズを触媒として[3 + 2]環化付加が起こりますが、その際、スルフィド基が隣の炭素
に転位しながら五員環形成していることが特徴です。したがって、この反応は(中間体か遷移
状態かはともかく)硫黄を含む三員環構造を経由して進行するであろうと予想されます。
この反応に限らず、複雑な反応では何ヶ月かけても遷移状態が求まらないということがよく
ありますが、Reaction plusを利用することにより、約1日で大まかな反応経路と遷移状態を求
めることが出来ました(16並列計算)。計算結果のアニメーション(右図)を見ると、確かに予
想通り、硫黄の三員環構造を経由していることが確認されました。
反応経路のポテンシャル曲線を調べると、この3員環構造は遷移状態ではなく、中間状態
であることがわかりました。また、この中間体と反応前後の構造の間に遷移状態が存在して
いることも確認できます。
さらに、この2つの遷移状態構造付近の反応経路の高精度計算を行いました。この計算は、
(1)遷移状態構造・活性化エネルギーの高精度化だけでなく、(2)2つの遷移状態構造が始状
態構造・終状態構造を繋ぐ反応経路上の中間構造として正しいことの検証にもなっています。
K. Hirabayashi, H. Sato, Y. Kuriyama, J. Matsuo, S. Sato, T. Shimizu, N. Kamigata
Chem. Lett. 36, 826 (2007)