審査 対応実務演習「電気」

審査対応実務演習「電気」
(平成20年新人研修(前期))
総論と、課題の講評
弁理士 椿 豊
(www.tsubakipat.jp)
はじめに(総論)
【事例】
 代理人として、クライアント(出願人、また
は勤務先の会社)のために特許出願を行
なったところ、しばらく経って、拒絶理由通
知書が届いた。
 あなたは何をすべきか?
審査対応実務(中間処理)にお
ける注意点




期限管理が極めて重要(致命的なミスが
生じやすい。)
期限管理をコンピュータに任せる、事務員
など他人に任せる、という考えもあるが、
代理人となるのであれば、全責任を持つ
必要がある。
特に、回復できない期限について注意
意外な落とし穴がある(かもしれない)
期間計算(例題1)

練習問題の拒絶理由通知書





起案日 平成19年11月10日
発送日 平成19年12月 7日
(郵便で受取った日は、12月 8日とする)
「・・・これについて意見があれば、この通知書
の発送の日から60日以内に意見書を提出し
てください。」
Q) 期間の末日は?
期間計算(例題1)
起
案
日
発 受
送 領
日 日
12
月
7
日
最
終
期
限《
?
日月
?
日
》
期間計算(例題2)

特許無効審判の審決に対する訴えの提起
があったときの訂正審判の請求期間

審決に対する訴えの提起


平成19年12月 7日
Q) 期間の末日は?
期間計算(例題2)
第126条②
提
起
日
12
月
7
日
最
終
期
限《
?
日月
?
日
》
出願日が2008年4月以前の
特許出願(査定後の分割)
30日以内(初日不算入)
拒絶査定不服審
判の請求
補正期限
分割出願
手続の却下
(133条③)
子出願の
運命は?
出願日が2008年4月以前の
特許出願(査定後の分割)





審判長による補正指令(特許法第133条)
指定期間内に応答の手続がされないと、審判請
求書が決定却下(第133条第3項)
原出願の拒絶査定は、拒絶査定の謄本の送達
の日から30日を経過した時点にさかのぼって確
定。
補正をすることができる期間が発生しないため、
分割出願は認められない。
昭和51(行ウ)178 特許権 行政訴訟事件
拒絶理由を受領した後の手続
(1)



クライアントへのコンタクト(代理人としての
アカウンタビリティー(説明責任))
(対応米国出願があるときには、IDS提出)
期日までの時間配分は?
拒絶理由を受領した後の手続
(2)


クライアントへのコメントの作成
クライアントとの打合せなど

目標をどこに定めるか?対処の方針は?
拒絶理由を受領した後の手続
(3)
【方針の決定】
 応答/放置(本当に特許権が必要か?)
 どの程度の広さの権利が必要か?






拒絶を回避し、可能な限り広い権利
実施品をカバーできる権利
イ号製品をカバーできる権利
狭くてもよいので、とにかく権利が欲しいetc.
権利取得の可能性は?
早期に権利化すべきか?
拒絶理由を受領した後の手続
(4)

結局のところ、方針に応じて対処は変わる
ので、正解は1つではない。
拒絶通知の確認

引用例の日付けの妥当性



拒絶の妥当性




29条1項、29条第2項
29条の2
審査基準は重要
「最後の拒絶」である場合、判断は妥当か
審査官とのコンタクト(電話、ファクシミリ)
対応外国出願の審査状況
拒絶理由への対応


意見書
補正書


新規事項
最初の拒絶、最後の拒絶

分割出願

審判請求
補正における注意



新規事項追加が禁止されるのは、平成6年1月1
日以降の出願。それ以前の出願には、「要旨変
更」の基準が適用される。
最初の拒絶と最後の拒絶の違い
クレームを追加するのであれば、最初の拒絶が
なされた時に行なう。
判例研究(1)(29条①柱書き)

H11. 5.26 東京高裁 平成09(行ケ)206

特許出願公告平5-57595号
請求項(特許出願公告平5-57595号)

歌うべき曲の伴奏となる音声情報と、該曲
の歌詞となる文字情報および映像情報と
が記録されたビデオ記録媒体において、
前記文字情報のうちの前記音声情報の進
行に伴なった歌うべき文字の色を上記文
字情報に着色を行う色調変化器によって
異ならしめて記録したことを特徴とするビ
デオ記録媒体。
審決

「本願発明が、技術的思想でないものであ
るから、特許法2条に定義されている発明
とは認められず、特許法29条1項柱書き
に規定する要件を満たしていないので、特
許を受けることができない。」
H11. 5.26 東京高裁 平成09(行ケ)206
判決

・・・歌うべき曲の歌詞である文字情報に基づく文
字について、一定の色を付すことを前提として、
伴奏となる音声情報の進行、すなわち時間の経
過に伴い、色調変化器によって、この文字の色
を、順次、異なる色に着色せしめて記録したこと
を特徴とするものと認められ、この記録媒体を表
示装置において再生した場合には、歌唱者に対
して、伴奏となる音声情報の進行に伴って、歌う
べき文字の色が、順次、異なって表示されていく
という結果を提供するものである。
H11. 5.26 東京高裁 平成09(行ケ)206
判決

このように歌うべき歌詞を文字として記録
するようにし、しかも、その文字のうち現に
歌うべき文字を他の文字と区別できるよう
に色を変化させて記録するという構成を採
用し、これに相当する結果を提供する以上
、本願発明は、文字に関する「情報の提示
」に技術的特徴を有するものといわなけれ
ばならない。
判例研究(2)(29条②)

平成17年(行ケ)第10490号

特願平6-322201号
平成17年(行ケ)第10490号

引例(実開昭62-51461)

紙葉類の積層状態検知装置
平成17年(行ケ)第10490号
【請求項1】

所定方向に搬送される紙葉類の一部に照射する
照射光を発光する発光素子と、前記照射光が前
記紙葉類の一部を透過した透過光を前記所定
方向とは交叉する方向で該紙葉類の一部とは異
なる他部に照射されるように光学的に結合する
導光部材と、前記紙葉類の他部を透過した透過
光を受光する受光素子とを含み、前記発光素子
,前記導光部材,及び前記受光素子は前記紙葉
類を搬送するための搬送通路近傍の異なる位置
に配置されて成ることを特徴とする紙葉類識別
装置の光学検出部。
審決

「一般に,紙葉類の識別を行う際に,紙葉類 の特
徴箇所を選んで識別することは,当業者が容易に
想到し得たことである。
したがって,引用例に記載の発明において,紙葉
類の一部を透過した透過光を該紙葉類の一部と
は異なる他部に照射されるようにする際に,前記
所定方向とは交叉する方向で該紙葉類の一部と
は異なる他部に照射されるようにすることは,単
なる設計変更である。」
判決(1)

本願発明は,従来の紙葉類識別装置が一対の発
光・受光素子により紙葉類の所定位置の光学的
情報を有する透過光データを検出して識別を行
っていたところ,・・・本願発明の構成により,発光・
受光素子の配設数を増やすことなく,一対の発光
・受光素子により紙葉類の検出ラインごとの異な
る複数箇所に係る光学的情報を混在させた透過
光データを検出して識別を行い,識別の精度を上
げようとするものであって,・・
判決(2)

単に,一対の発光・受光素子による識別を
二対の発光・受光素子によって行うなどと
いった量的な追加とは質的に異なる発想
の転換があるものというべきであり,1本の
検出ラインが2本になっている点のみをとら
えて単なる設計変更にすぎないということ
はできないものというべきである。
判決(3)

紙葉類の積層状態検知装置及び紙葉類
識別装置は,近接した技術分野であるとし
ても,その差異を無視し得るようなものでは
なく,構成において,紙葉類の積層状態検
知装置を紙葉類識別装置に置き換えるの
が容易であるというためには,それなりの
動機付けを必要とするものであって,・・・
判決(4)

引用発明及び本件周知装置ともに「紙葉
類を扱うもの」,「発光素子,受光素子により
紙葉類の透過光を検出するもの」であると
いうことで,直ちに,紙葉類の積層状態検知
装置を紙葉類識別装置に置き換えること
が当業者において容易であるとすることは
できない。
具体的事例(課題講評)
具体的事例(課題講評)




ソフトウェア関連の発明
請求項は2つ(1が装置、2が方法)
請求項2は、法上の「発明」に該当しないと
して拒絶(理由A)。
請求項1は、引用文献1に基づき、進歩性
なし(29条2項)として拒絶(理由B)。
本願発明
【請求項1】
(1)単語に対する品詞を記述した品詞辞書を記録した記録
部と、
(2)品詞辞書を参照して、与えられた言語を単語に分割す
るとともに各単語の品詞を取得する分割・品詞取得手段
と、
(3)1つの単語に対し、分割・品詞取得手段によって得られ
た品詞が2以上ある場合には、当該単語の前または後も
しくは双方に位置する1または複数の単語の品詞に基づ
いて、当該単語に与えられた2以上の品詞から1つの品
詞を選択する品詞選択手段と、
(4)を備えた品詞決定装置。
発明の構成(1)
(1)記録部
単語に対する品詞を記述した品詞辞書を記録した
(【図5】参照)

単語→品詞の対応を記録



「僕」→「一般名詞」
「へ」→「間接目的語としての不変化詞」
「は」→「B(45)」(「は」のためのルールテーブルへの
参照情報(2以上の品詞を有するため。))
発明の構成(2)
(2)分割・品詞取得手段
品詞辞書を参照して、与えられた言語を単語に
分割するとともに各単語の品詞を取得する
(【図6A】参照)
発明の構成(3)
(3)品詞選択手段
1つの単語に対し、分割・品詞取得手段によっ
て得られた品詞が2以上ある場合には、
(【図6A】の「は」→「B(45)」)
当該単語の前または後もしくは双方に位置する
1または複数の単語の品詞に基づいて、当該単
語に与えられた2以上の品詞から1つの品詞を
選択する
(【図8】のテーブルB(45)を用いて、【図6B】の
「は」に関して、「主格の不変化詞」を選択する。)
クレームでの規定

「当該単語の前または後もしくは双方に位
置する1または複数の品詞に基づいて」


図8では、 「当該単語の前のみに位置する1
の品詞に基づいて」品詞を選択している。
【0042】では、後に位置する品詞に基づいて
選択すること、前後の双方に位置する品詞に
基づいて選択すること、がカバーされ、クレー
ムがサポートされている。
引用文献1の認定
N
入力文
S
品詞バッ S
ファ(表
1)
1
2
Time
Flies
①動詞
①動詞
②形容詞 ②名詞
③名詞
品詞列バッ [S] (品詞 ①=0.4
ファ (品詞列 列候補)
②=0.3?
候補を保持) (P=1.0)
③=0.6
E
E
引用文献1

品詞列バッファ



語ごとに、文頭からその語までの品詞列候補
を保持する(【0014】)
2グラム(2個の品詞からなる品詞列)の場合、
図9の生起確率の表を利用して、品詞列候補
の優先度を求める。
優先度順に品詞列候補を取出して、構文解析
を行なう。
引用文献1


構文解析が成功→それを採用
失敗→次の候補へ
拒絶理由

拒絶理由A(発明の成立性)


「請求項2に記載された品詞決定方法は、言
語処理に関する取決めに過ぎず、全体として
自然法則を利用していないものである。」
29条1項柱書違反
請求項2の内容
【請求項2】
与えられた言語の各単語に対して品詞を付与する文書分
割および品詞決定方法であって、
種々の単語に対する品詞を品詞辞書として記録部に記憶
しておき、
与えられた言語の各単語に対応する品詞を品詞辞書から
取得し、
1つの単語に対し品詞が複数ある場合には、当該単語の
前または後もしくは双方に位置する1または複数の単語
の品詞に基づいて、当該単語の品詞を絞り込むようにし
たこと、
を特徴とする品詞決定方法。
拒絶の根拠法文

特許法第29条第1項柱書


第2条1項


「・・・その発明について特許を受けることがで
きる。」
「この法律で『発明』とは、自然法則を利用し
た・・・」
拒絶は妥当か?
拒絶理由A



【論点】
請求項2に係る発明は、自然法則を利用し
ていないものを含んでいるか?
(入っているとしたら、保護対象でないもの
について権利を請求していることになる。)
請求項2の考え方

(1)「請求項に記載された発明」が審査の
対象となる。



→「実施例では、コンピュータが使われている
ので、拒絶は違法である。」との議論は通らな
い。
リパーゼ判決
審査基準
リパーゼ判決

「・・・特許要件、すなわち、特許出願に係
る発明の新規性及び進歩性について審理
するに当っては、・・・特段の事情のない限
り、願書に添付した明細書の特許請求の
範囲の記載に基づいてされるべきであ
る。」

(平成3年3月8日最高裁判決
(昭和62年(行ツ)第3号))
審査基準(新規性・進歩性)
1.5.1 請求項に係る発明の認定
請求項に係る発明の認定は、請求項の記載に基
づいて行う。この場合においては、明細書の特許
請求の範囲以外の部分及び図面の記載並びに
出願時の技術常識を考慮して請求項に記載され
た発明を特定するための事項(用語)の意義を解
釈する。・・・
(1)請求項の記載が明確である場合は、請求項
の記載どおりに請求項に係る発明を認定する。
この場合、請求項の用語の意味は、その用語が
有する通常の意味と解釈する。
請求項2(方法クレーム)

現状は、人間が実行している方法を含ん
でいるように読める

→ 現状のままではNG。補正の必要あり。
拒絶理由Aの解消のために

どこまで限定すれば拒絶理由Aをクリアで
きるのか?




→「ステップ」を付ける?
→「・・・手段」が処理を実行することを規定す
る?
→「コンピュータ」が処理を実行することを規定
する?
審査基準では?審査実務上は?
参考補正案


参考補正案1、2について
権利範囲との関係


保護対象とならないものがクレームされた権
利が生じることは認めるべきではない。
可能な限り、広い範囲を取得したい。


「プログラム」、「ウェブ上でのサービス」などを含め
るためには?
クレームを削除する補正について
拒絶理由B(進歩性)


「・・・請求項1に係る発明は、・・・特許法第
29条第2項の規定により特許を受けること
ができない。」
「言語解析における他品詞解消のために、
隣接する品詞情報を利用する技術は、下
記文献1に開示されており、本請求項(請
求項1)に係る発明は、この開示から当業
者が容易に想到しえたものと認められ
る。」
拒絶理由Bの法文確認

特許法第29条第2項

特許出願前にその発明の属する技術の分野
における通常の知識を有する者が前項各号
に掲げる発明に基いて容易に発明をすること
ができたときは、その発明については、同項
の規定にかかわらず、特許を受けることがで
きない。
拒絶B(基本的な考え方)

「請求項に記載された発明」は、引用文献
に対してどの程度の差があるか?


→「実施例」の比較ではない。請求項同士の
比較でもない。
クレーム範囲との関係

後で出願した権利が、先行技術を含んでいる
場合に、特許することは妥当か?
進歩性での拒絶

拒絶は妥当か?
基本的な考え方(拒絶理由B)



拒絶理由Aと同様に、クレームの文言のみ
で勝負する(原則)。
クレームされてないことを主張しても苦しい
(また、禁反言を考慮すること)
クレーム中の「または」「もしくは」の語をど
う捉えるべきか?

権利範囲との関係(特許権となった場合を想
定する。)
現在の拒絶が妥当と思うなら

補正


先行技術を回避しつつ、権利範囲を獲得する
ための陣取りゲーム
本件では、どのような補正が妥当か?

本件の実施例を分析し、限定のネタを探す
参考補正書など



参考補正書1
参考補正書2
参考意見書
提出頂いた答案(1)

単に「テーブルを用いて」の限定を入れる




→リパーゼ判決を考えると?
データの構造(辞書の内容)を限定する
「前または後ろもしくは双方」を「双方」に限
定する
「複数のルールから適合するルールを用
いる」と限定する
提出頂いた答案(2)




S,Eの件
オムニバスクレーム
商業的成功
本願に対する引例の差を説明するのでは
なく、引例に対する本願の差を説明するこ
と。
提出頂いた答案(3)



引例は複雑だが、本件はシンプル、という
議論は?
クライアントのコメントに対する対処
禁反言に注意

「本件は、~のみで処理しており」などの議論
提出頂いた答案(4)

その他




書面提出先
「補正をする者」
補正の根拠
時代における進歩性の程度の考え方の変化

特許庁、裁判所、
提出頂いた答案(5)

読み手の立場を考える




アンダーライン
短文化、明確、簡潔な文
補正の根拠
他人の財産権を扱っている、という自覚を
持つ。
お疲れ様でした。
常に研鑽を積み、クライアントに信
頼される弁理士を目指しましょう。
弁理士 椿 豊
(www.tsubakipat.jp)