2008年度情報数学 (後藤滋樹 担当分) • 2008年度の講義予定(後藤の担当は3回) (1) 5月19日(月) ブール代数と命題論理 (2) 5月26日(月) 述語論理と∀∃ (3) 6月2日(月) 完全性と不完全性 • 講義資料(本資料を含む) http://www.goto.info.waseda.ac.jp/~goto/infomath.html 上のURLはシラバスに掲載されている (念のために次ページに拡大表示します) 1 URL の 拡大表示 http:// www.goto.info.waseda.ac.jp /~goto/infomath.html 2 2007年度以前の「情報数学」 を再履修している諸君 • 今期の授業は2単位 • 再履修科目の「情報数学」は3単位 • 今期の授業で2単位を取得、残る1単位につい ては上田和紀教授の指示に従う。 その連絡がCourseN@viに登録したメールアドレ スに届く。 ・ 履修登録を正確な科目で行うこと ・ Waseda_netのquotaがオーバーしないように 3 参考書と使い方 • 本講義の内容は概ね次の書籍の1章の全部お よび2章の一部に相当する内容を扱う。 廣瀬健「論理」(現代応用数学の基礎) 日本評論社, 1994. ISBN4-535-60829-6 同書は現在「品切」と表示されている。 オンデマンド版が入手可能となるよう交渉中。 • 上の本では細部の説明が省略されている箇所 がある。細部を補うには、次の本の第1章と第2 章が参考になる。 小野寛晰「情報科学における論理」 日本評論社, 1994. ISBN4-535-60814-8 4 論理記号が書籍によって異なる • この授業では次の記号を使う(JIS第一水準漢字) ∧, ∨, ⇒, ⇔, ¬ , ∀, ∃. • 第1回授業の開始時点では上の論理記号の意味 が分からなくても差し支えない。 • 第1回授業の終了時には最初の5つの記号を理解 していること。 • 第2回授業の終了時には残りの2つの記号を理解 していること。 5 記号論理あるいは数理論理 • 廣瀬健先生の「論理」による導入: 数学的な議論の展開は、論理的な推論の積 み重ねである。 論理学は、真な命題から真な命題を導く推論 法則を研究する学問である。 論理的な推論を記号を用いて表現し、数学的 な方法で研究する分野を、記号論理あるいは 数理論理という。 • 記号論理: symbolic logic 数理論理: mathematical logic 6 論理記号の登場 • 廣瀬先生による導入の続き: 記号論理では、推論や推論の対象を記号で 表現する。まず「概念」を記号で表現すること が重要である。次に命題や述語で表現された 概念の「正しさの説明=証明」についての考 察をする。 • 数学的理論では、基本概念を論理的な言葉 で結びつけている。 「かつ」, 「あるいは」, 「ならば」, 「同値である」, 「~でない」, 「すべての…について…が成り立つ」, 「…を満たす…が存在する」. 7 論理記号の登場(2) ∧ かつ, conjunction 論理積 ∨ あるいは, disjunction 論理和 ⇒ ならば, implication 含意 ⇔ 同値である, equivalence 同値 ¬ …でない, negation 否定 ∀ すべての…について…が成り立つ, universal ∃ …を満たす…が存在する. existential いずれの記号も、具体的な使い方を後に学ぶ。 8 この講義でカバーする内容 • 命題論理と述語論理 • 真理値と公理・推論規則・定理 1 命題論理 (真理値) 命題論理 (公理と推論規則) 3 2 述語論理 (モデルと解釈) 意味論 semantics 述語論理 (公理と推論規則) syntax 構文論 9 命題論理 命題:proposition • 命題とは、真偽が確定している文のこと。 例: 100 ≦ 200 (真) 17は素数である (真) 平行な2直線は1点で交わる (偽) • 原理的に確定していれば良い。 例: 2より大きな偶数は2つの素数の和で 表すことができる (Goldbachの予想) (?) • 変数を含む文は、真偽を確定できない。 例: x ≦ 200 y は素数である (後に述語として登場) 10 真理値表 truth table • 真(true)を t と表す。偽(false)を f と表す。 集合 T = { t, f } とする。 φ : T T を1変数(引数)の真理関数という。 φ : T×T T を2変数(引数)の真理関数という。 • 論理記号 ∧, ∨, ⇒, ⇔ の意味は、2変数の真理関 数として定義される。 論理記号 ¬ の意味は、1変数の真理関数として 定義される。 • 真理関数: truth function 変数: argument (変数=variable と区別) T×T は集合の直積(direct product, Cartesian product) 11 直積(デカルト積,Cartesian product) A×B = { < a, b > | a∈A,b∈B } A の要素(元)と B の要素(元)の順序対の集合 集合の共通部分を「積集合」と呼ぶことがあるが別物 例: T×T = { < f, f >, < f, t >, < t, f >, < t, t >} Tは2つの要素からなる集合 T×Tは、4つの要素からなる集合 順序対であるから < f, t > と < t, f > を区別する 12 真理値表(2) A, Bは命題変数( t または f の値を取る) A B A∧B A∨B A⇒B A⇔B f f f f t t f t f t t f t f f t f f t t t t t t A ¬A f t t f A∧B を単独に書けば次の表 A B t t t f f f f f 13 論理回路 • 論理回路(ろんりかいろ)は、ブール代数(論理演算) を行う回路、およびデジタル信号を記憶する回路。 (出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』) AND A・B OR A+B NOT A • 論理回路の設計をする技術者は、数学の論理演算 記号とは違う記号を用いて論理式を記述することが 多い。(同上) 14 または(∨), ならば(⇒) • または(∨) 論理和 inclusive or : 紅茶 または コーヒー 包含的論理和 exclusive or : 両方を取るのは駄目 A 排他的論理和 排他的論理和 B t t f f t • ならば(⇒) 含意 日常的な含意は、因果関係、 時間的な前後を意味する場合がある。 例: レポートを出さない ならば 成績が下がる 真理値表の含意は実質的(material)含意 例: 0=1 ならば 私はローマ法王である(真) f t f 15 論理式 (formula) の定義 1. 個々の命題定数 t, f は、それ自身で論理式である 2. 個々の命題変数は、それ自身で論理式である 3. A, B が論理式であるとき (A∧B), (A∨B), (A⇒B), (A⇔B), (¬A) は、いずれも論理式である 論理式の例示は後出 • 一番外側の括弧を省略して良い • 否定記号は結合力が強いと見なして、(¬A)の 括弧を省略して良い 16 トートロジー (tautology) 恒真論理式 • 論理式 A に n 個の命題変数が含まれていると する。この時、個々の命題変数の真理値(t, f)の n n 値の取り方は 2 通りある。この 2 通りの真理 値のすべての場合に A が真となるとき、論理式 A をトートロジー、あるいは恒真(valid)な論理式 という。 • ある論理式 B がトートロジーであるかどうかを判 定するには、B に含まれる命題変数の真理値の すべての組合せを列挙して、Bの真理値を計算 すれば良い。(有限の手続きで判定可能) 17 基本的なトートロジー 1. (A∧A)⇔A, (A∨A)⇔A 巾等律 2. (A∧(B∧C))⇔((A∧B)∧C), 結合律 (A∨(B∨C))⇔((A∨B)∨C) 3. (A∧B)⇔(B∧A), (A∨B)⇔(B∨A) 交換律 4. (A∧(A∨B))⇔A, (A∨(A∧B))⇔A 吸収律 5. (A∧(B∨C))⇔((A∧B)∨(A∧C)), 分配律 (A∨(B∧C))⇔((A∨B)∧(A∨C)) 6. (¬(¬A)))⇔A 二重否定の除去 7. (¬(A∨B))⇔(¬A∧¬B), ド・モルガンの法則 (¬(A∧B))⇔(¬A∨¬B) 8. (A⇒B)⇔(¬A∨B) 含意記号の置換 18 命題定数を含むトートロジー ¬ t ⇔ f, ¬f⇔t (A∧t) ⇔ A, (A∨f) ⇔ A (A∧f) ⇔ f, (A∨t) ⇔ t (A∧¬A) ⇔ f 矛盾律, (A∨¬A) ⇔ t 排中律 13. ¬A ⇔ (A⇒f), A ⇔ (t⇒A) 9. 10. 11. 12. t の真理値は常に t である。f の真理値は常に f である。 19 トートロジーの判定法 • 論理式に含まれる命題変数の真理値のすべての組合せを列挙 して、その論理式の真理値を計算する 4左 A B A∨B f f f t f t f t 8 t t A∧(A∨B) f t t t f t t t A B A⇒B ¬A ¬A∨B f f t t t t f t f t t f t t (A∧(A∨B))⇔A t t f t f f t t (A⇒B)⇔(¬A∨B) t t t t 20 充足可能な論理式 • 論理式 A に n 個の命題変数が含まれているとする。 この時、個々の命題変数の真理値(t, f)の値の取り 方は 2n 通りある。この 2n 通りの真理値の取り方の 中で1つ以上の取り方において A が真となるとき、 論理式 A を充足可能(satisfiable)な論理式という。 • 充足可能でない論理式を充足不可能(unsatisfiable) という 論理式Aが充足不可能であるための必要十分条件 は論理式¬Aがトートロジーとなることである。 21 論理和と論理積の拡張 • n 個の論理式の論理和、論理積 A1 A2 Am を B1 B2 Bn を m A i i 1 n B i 1 i と書く と書く • 命題変数、または命題変数の直前に否定記号 が1つだけ付いた形の論理式をリテラルという A, B 22 論理式の標準形 • 論理和標準形 principal disjunctive form 任意の論理式 A に対して m ni A L i j がトートロジーとなる 注意 ような i 1 j 1 リテラル ni L i j が存在する。 • 論理積標準形 principal conjunctive form 任意の論理式 B に対して m ni B M i j がトートロジーとなる ような i 1 j 1 リテラル M i j が存在する。 23 jの範囲が ni となる理由 i と j の動く範囲 j □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ i □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ 24 論理和標準形(第1の方法) 1. A⇔Bを(A⇒B)∧(B⇒A)で置き換える 2. ⇒を¬と∨で置き換える 3. 否定¬が∧や∨の内側に現われるようにする (ド・モルガンの法則) 4. 偶数個の¬を除去(二重否定の除去) 5. 分配律を用いて、∧の内側に現われる∨を∧の 外側に現れるようにする 6. さらにトートロジーを用いて同値な論理式に変 形してもよい 25 論理和標準形(例題) ¬(A⇒(B∧C))⇔¬(¬A∨(B∧C)) ⇔¬¬A∧¬(B∧C) ⇔A∧(¬B∨¬C) ⇔(A∧¬B)∨(A∧¬C) 論理和標準形、さらに次のように変形しても良い A∧¬B ⇔ ⇔A∧¬B∧t ⇔A∧¬B∧(C∨¬C ) ⇔(A∧¬B∧C)∨ (A∧¬B∧¬C ) ⇔ (A∧¬B∧C)∨ (A∧¬B∧¬C )∨(A∧¬C) これも論理和標準形、標準形は一意に定まらない 26 論理和標準形(第2の方法) • 論理式 A に命題変数 B1, B2, …, Bm が含まれて いるとき、論理式 A の真理値は命題変数の真理 値に依存して決まる。 • 論理式 A の真理値が t となるような命題変数B1, B2, …, Bm の組合せが n 通りあるとする。 • i番目(1≦i≦n)の組合せにおいて、命題変数Bj ( 1≦j≦m)の真理値が t の場合は Bj 自身をリテラ ルとする。Bj の真理値が f の場合は¬Bjをリテラ ルとする。 27 論理積標準形(例題) f t f t B∧C f f f t A⇒(B∧C) t t t t ¬(A⇒(B∧C)) f f f f f f t f t f f f f f f f t t t t t t t f A B C f f f f f f t t t t t t (A∧¬B∧¬C)∨(A∧¬B∧C)∨(A∧B∧¬C) 28 論理積標準形 • 論理積標準形を求める第1の方法は、分配律の (A∨(B∧C))⇔((A∨B)∧(A∨C)) を使う他は論理 和標準形と同じ。 つまり、∨の内側に現れる∧を、∨の外側に現れる ようにする。 • 論理積標準形を求める第2の方法は、論理式 A の真理値が f となる組合せにおいて、Bjの真理 値が t の場合は¬Bj をリテラルとし、 f の場合に は Bj自身をリテラルにする。 29 論理記号の縮約 • 標準形では論理記号を3つだけ使う(∧, ∨, ¬) • さらにド・モルガンの法則を用いれば、論理記号 は2つで済む(∧と¬, または ∨と¬)。 • 同様のことが(⇒と¬)の2つの論理記号に対し ても成立つ。 • さらに1つの記号でカバーすることもできる。 Sheffer stroke function (NAND) A | B = ¬(A∧B) Peirce function (NOR) A ↓ B = ¬(A∨B) 30
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