情報社会論II 第2回 なぜ情報倫理学なのか 東邦大学2003年秋学期講義 2003年10月10日 Agenda 過去の講義スライドの閲覧について 講義計画 レポートの書き方 なぜ情報倫理学なのか 情報倫理学は役に立つのか? 歴史的事例から見た情報倫理学 過去の講義スライドの閲覧について 下記のURLで閲覧可能。 http://www.venus.dti.ne.jp/~ootani/toho200 3lecture.htm 講義計画 1.イントロダクション(2003年10月3日) 2.なぜ情報倫理学なのか(2003年10月10日) 3.インターネットの歴史(1)(2003年10月17日) 4.インターネットの歴史(2)(2003年10月24日) 5.日本におけるインターネットの普及と現在(2003年10月31日) 6.インターネットの倫理問題(2003年11月14日) 7.情報の複製をめぐって(2003年11月21日) 8.知的財産権の基礎(2003年11月28日) 9.なぜ勝手にコピーしてはいけないのか?(2003年12月5日) 10.オープンソースソフトウェア(2003年12月12日) 11.インターネットのコンテンツ規制はどこまで可能か?(2003年12月19日) レポート課題提示。 11.電子ネットワークとプライバシー(1)(2003年1月9日) 13.電子ネットワークとプライバシー(2)(2003年1月16日) レポート提出締め切り。 レポートの書き方 参考書 澤田昭夫『論文の書き方』(講談社学術文庫、1977年) 大事なこと 事実(他人の意見含む)と自分の主張を分ける。他人の発見した事実や、他 人の意見については、出典を明示して示す。やり方は、上記の参考書を参照。 論文の基本的構成は次の通り。 この論文で何を論じるかを明確に定義。解決すべき問題を提示。 論じるべき問題の説明。客観的な事実や、他人がこの問題についてどう言ってい るかを読み手にわかりやすく伝える。 自分がどう考えるか。主張を明確にわかりやすく書く。 論理的に展開する。自分の主張には、それを支える論拠を提示すること。 「自分はこう思う」だけじゃダメ。いろんな話題を少しずつ入れるのもダメ。論 拠は2つ以上。 こうやって書くと3200~4000文字はすぐ書いてしまうはずだが、きついという 意見があったので、2000~4000文字とする。しかし、理系・文系は関係ない。 理系でも文章を書くの得意な人はたくさんいるぞ。 なぜ情報倫理学なのか 現代において情報倫理学はなぜ重要か? そもそも情報倫理学は役に立つのか?役に立つ としたらどんな意味で? 歴史的に見て、情報倫理学はどんな意義をもつ か? 情報倫理学は役に立つのか? 情報倫理学は、ネチケットやセキュリティとは 関係ない、と思う。 では、何をやるのか?? ネチケットとは何だろう? 電子ネットワークを利用するうえで、利用者本 人やその他の利用者が困らないように適切 な使い方の方針を定めたガイドラインのこと。 Net + Etiquetteの合成語。 ネチケットを知るには RFC1855という文書を読む。 IETF(Internet Engineering Task Force)での議 論を通じてできたもの。 RFCはRequest For Comments(ご意見募集)。 日本語訳もある。 http://www.cgh.ed.jp/netiquette/ 上記サイトは、東金女子高校の高橋邦夫先生が 運営。 なぜネチケットが生まれたか? 1990年代中葉までのインターネット 1990年代中葉以後のインターネット 学術ネットワーク AUP(Accepted Users Policy) 一般に開放 プロバイダ経由のユーザーはAUPなど知らない 一般の利用者が知っておくべき知識をRFC1855に まとめる。同文書以外にも、インターネット利用上の 注意をまとめた文書が配布・出版される。 AUPとは何か? 組織が定める電子ネットワーク利用者向けの ガイドライン 利用前にAUPを理解しておくことが義務付け られる。 AUPの例:チェーンメールの禁止 コンピュータウィルス関連の情報 セキュリティ関係の政府機関や企業のウェブ トレンドマイクロ www.trendmicro.com/jp/home/enterprise.htm シマンテック www.symantec.co.jp/ ネットワークアソシエイツ www.nai.com/japan/security/ IPAセキュリティセンター www.ipa.go.jp/security/index.html Yahoo!Japanなどのインターネット上のニュースサイトも。 学内ネットワークの利用規定 多くの大学では、学内ネットワークの利用規 定を定めている。 学内ネットワーク利用のための講習会などで説 明されることが多いようだ。 情報セキュリティに対して配慮された内容も多い。 東邦大学にはあるかな?? 企業や組織の利用規定 大企業や政府機関・自治体などでも利用規 定の整備は進んでいる。 重要な情報を守ったり、財産・信用を守ったり するという情報セキュリティの観点から、利用 規定が定められることが多い。 ネチケットは 情報倫理学ではない(たぶん) 情報倫理学 道徳や法律、ネチケットなどの社会規範をつくる 概念や考え方を理解することが重要。 哲学や倫理学上の概念や議論を応用して、現場 の問題を考える。 現場で生じる問題から、哲学や倫理学上の概念 や議論の現代における妥当性をチェックする。 ネチケットのようなガイドラインそのものを学ぶこ とは重要な課題ではない。 じゃあ、ネチケットは何なのか? ネチケットは、現実世界の習慣・慣習に当た る 知っている人に会ったら挨拶する。 日本家屋ならば玄関で靴を脱ぐ。 日本人相手であまり目を見てしゃべると不快に思 われる。逆に西洋人の場合、目を見ないと腹に 一物あるのではないかと疑われる。 それじゃ、 情報倫理学は役に立つのか? 議論を通じて、公正な制度をつくっていくため の基本的な考え方を提供する。 マクロなレベルでは 法律や政策などの制度設計で概念・議論が生き る。 ミクロなレベルでは 電子掲示板やメーリングリストのルールを決める 中で、概念・議論が生きる。 情報倫理学に関係する 問題はややこしい 情報は「物」と同じように扱えるのか? 情報はなんで勝手に複製してはいけないの か? プライバシーとは何なのか? 表現の自由・言論の自由とはそもそも何なの か?どうすれば守れるのか? なんで勝手にコンピュータにログインして使っ てはいけないのか? 議論によって 公正な制度をつくることは可能か? 合理的で公正な議論が力に負けちゃうことも 多々ある。 しかし、公正さや理念に訴えかけない限り、 強引に力を振るっても、最終的にはうまくいか ない(ケースが多い)。 合理性や公正さという概念の検討は必要だ が、議論を通じて制度をつくっていくことを志 向したほうがよい。 しかし、ネチケットも重要 インターネットを利用するうえで必要な知識が 整理されている(とくに、RFC1855)。 規則を覚えるのではなく、どうしてそのように 振舞わなくてはいけないかを理解するのが大 事。 歴史的観点から見て、 なぜ情報倫理学は重要か? 「電話の倫理学」、「自動車の倫理学」はある か? 情報倫理学は何が特別なのだろうか? 電話・自動車が引き起こす 道徳的問題? 1926年、コロンブス騎士会成人教育委員会の会合で、「現代の発明は 人々の品性や健康に寄与するものか、害するものか?」という議題で話 し合うことが提案された。次のような問いが提起された。 「電話は人を活動的にしているか、あるいは怠け者にしてしまったか?」 「電話は、家庭生活や、友を訪ねる旧い習慣を破壊しているか?」 「いったい誰が、そしてどのような条件がそろえば、自動車を買うことができる のか?」 「どうすれば、人は自動車の主人になることができ、その逆でなくいられるの か?」 騎士会会員たちは、生活を楽にしてくれる現代の発明品は、人間を「軟 弱にし」、構想建物での暮らしは人格を破壊し、電気照明のおかげで 人々は家にひきこもり、ラジオから流れる「低級な音楽」は道徳心を蝕ん でいるのではないかと考えた。 Claude S. Fischer、吉見俊哉他訳『電話するアメリカ テレフォンネット ワークの社会史』(NTT出版 2000年)p.1. 電話の初期の歴史(1) 1876年 アレクサンダー・グラハム・ベル、電話を発明。 1877年 ベル電話会社設立。当初は、二地点間の伝達用に2台の電話をリース。 1878年 電話交換局が業務を開始。加入者同士で誰とでも更新できるようになる。 1878年 ウェスタンユニオン社、電話サービスを開始。ベル社特許侵害で同社を訴える。ベ ル社の利用者は、約1万人。 1879年 訴訟が決着。ウェスタンユニオン社、ベル社側にすべての特許権・設備を移管。ベ ル社は電信サービスを放棄し、電話事業総収入の20%を支払うことなどに同意。 1880年 ベル社の利用者は、約6万人。1000人当たり1台。この時代から、ベル社の電話 事業の独占が始まる。この頃は、比較的高い基本料金の定額制サービスを実施する。初 期利用者の主流はビジネスマン。医師、薬剤師なども所有していたことが知られる。 1893年 翌年にかけて、ベル社の主要特許の期限が切れる。合衆国全土に新しい電話の ベンチャー的企業が起る。多くの企業は、地域の住民が共同出資してつくった相互会社。こ の頃、合衆国の電話は約26万台。250人に1台。競争によって、電話料金の低下が始まる。 『電話するアメリカ』pp.48-71をもとに作成. 電話の初期の歴史(2) 1902年 人口4000人以上の町の52%に2社以上の電話会社が存在。全 国に6000以上の共同出資の相互会社が存在していた。 1907年 独立系企業が電話市場の半分を占める。電話は約600万台。 1910年 ベル社、ウェスタンユニオン社を買収。競争相手から独占という 理由での批難が集まる。 1913年 ベル社、ウェスタンユニオン社の支配権を放棄。政府の許可な く独立系会社を買収することを控え、非ベル系との回線接続を認めること を発表。 1914年 以後、自然独占により電話事業の統合が進む。 1930年 大恐慌をきっかけに、電話普及率が下がる。1930年から1933 年までに20%落ち込む。 1939年 1930年の水準まで回復。 『電話するアメリカ』pp.48-71をもとに作成. 初期の電話利用の問題(1) 電話を利用する礼儀作法 不敬な言葉を発する。 わめく。 罰金や投獄によって、礼儀作法を徹底しよう とした。 『電話するアメリカ』pp.93-94 初期の電話利用の問題(2) 初期の電話は共同回線が普通。 長電話はほかの人に迷惑。 盗み聞きが可能。 『電話するアメリカ』pp.93-94 電話会社は どんな電話の利用法を想定したか 実用的な連絡 緊急の連絡 仕事の連絡を家庭から 予定の変更の通知、急病の知らせ。 社交的な利用法は想定していなかった いかがわしい会話を許すのではないか。 社交上の会話は軽薄だし、不要。 『電話するアメリカ』pp.105. 消費者は電話会社の思惑を超えて 電話を利用し始める 電話によって、対面的な社交は代替された か? 予告なしで立ち寄る訪問が電話に変わった。 しかし、外で会う約束が電話によって可能になっ た。 『電話するアメリカ』pp.302-303. 電話は会話を増やした 「家の外で顔を合わせて交わす会話の総量 が減ったのは、電話のせいかどうかはわから ないが、電話のせいで社交的な会話の総量 が著しく増えたことはたしかだ。電話はおそら く、あらゆる種類の会話を増やすことになった のだ。」 『電話するアメリカ』p.303. コンピュータやインターネットも 電話と同じ? コンピュータやインターネットがどのように根 付いていくかは不明。 社会規範や制度を大きく変えつつあるように 見える。それは、何よりも社会規範や制度を 支えていた概念を変えようとしているから。 情報倫理学は、社会規範や制度を支える概 念の変化を考えるうえでも重要。
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