ユーロ圏危機 MBA国際金融2015 1 図1:ユーロ為替相場の動向 MBA国際金融2015 2 先進諸国の財政収支悪化 • 世界金融危機 ⇒①金融機関のB/Sの毀損⇒資本注入 ②世界同時不況⇒G20における財政刺激の国際協調 • 世界各国で財政赤字増大。 • トリガーは、ギリシャ政権交代による財政上の統計処 理の不備(実際の財政赤字拡大)⇒財政当局の信認の 失墜⇒財政危機 • ソブリン・リスクが他のユーロ圏へ波及 MBA国際金融2015 3 図2:ユーロ圏諸国の財政赤字 Data: Eurostat MBA国際金融2015 4 図3:ユーロ圏諸国の一般政府債務残高 Data: Eurostat MBA国際金融2015 5 ギリシャの財政危機 • 世界金融危機によって2008年にEU各国の財政赤字が拡大。 ギリシャ:銀行への資本注入50億ユーロ、新規融資への政府保証 150億ユーロ、銀行への流動性供給80億ユーロ⇒総計280億ユー ロ(GDPの12%)の財政負担。EU27カ国で最悪。 • 2009年10月の政権交代(新民主主義党のカラマンリス政権⇒全 ギリシャ社会主義運動のパパンドレウ政権)をきっかけに財政に 関する統計処理の不備が発覚 財政赤字GDP比(2008年:5% →7.7%、2009年見通し:3.7% → 12.7% → 13.6%) 公的債務GDP比(2009 年末:99.6% → 115.1%) ⇒財政赤字の数字そのものだけではなく、財政当局の信認を失墜。 *複数均衡:ソブリン・バブル⇒ソブリン危機 MBA国際金融2015 6 図4:ユーロ圏諸国の一般政府債務残高(2010年末) Data: Eurostat MBA国際金融2015 7 図5:ギリシャの一般政府債務残高の推移 Data: Eurostat MBA国際金融2015 8 図6:長期金利(10年物国債利回り) 2009年10月ギリシャ財政危機 MBA国際金融2015 9 財政危機の波及 • 欧州財政危機 ギリシャ(ユーロ圏GDPの2.7%)の財政危機がIIPS ( GIIPS:ユーロ圏GDPの35%)への波及の現実化。 • 背景 ①ユーロ圏の財政主権が統合されていないことに起因す るユーロ圏諸国の足並みの乱れが露呈。 ②リスボン条約に規定された「財政移転禁止」が制約。 ドイツ憲法裁判所の合憲性審理によって、2012年7月に予定していた 欧州安定メカニズムESMの設立が2012年10月に遅れた。 • 対応 EUとECBとIMF(トロイカ)による金融支援(+ FRBから ECBへドル流動性供給)。 MBA国際金融2015 10 財政危機の波及メカニズム (1) ギリシャ国債の価格暴落⇒投機家による他の(財政赤 字の多い)国債価格暴落の予想⇒空売りによる投機⇒ 他の国債価格暴落 (2) ギリシャ国債の価格暴落⇒投資家の国際ポートフォリオ に占めるギリシャ国債のシェアの現象⇒ポートフォリオ 調整による他の(財政赤字の多い)国債の売却⇒他の 国債価格暴落 (3) ギリシャ国債のデフォルト/債務リストラ⇒欧州金融機関 のB/S悪化⇒他の(財政赤字の多い)国債の売却⇒他の 国債価格暴落 (4) 上記(1)~(3)の予想⇒他の(財政赤字の多い)国債の売 却⇒他の国債価格暴落【自己実現的投機】 MBA国際金融2015 11 財政危機対応の3点セット ①財政危機国の緊縮財政・財政再建 ⇒財政規律確立とモラルハザード防止によるソブ リン・リスク縮小 ②深刻な財政危機国の債務削減 ⇒債務負担削減による債務持続性(debt sustainability)増大とソブリン・リスク縮小 ③金融機関へのセイフティネット ⇒債務削減によってバランスシートを毀損した金融 機関への波及を抑制。 MBA国際金融2015 12 ユーロ圏における財政危機対応 • ギリシャへの第1次金融支援(2010年5月) ①緊縮財政のみ。 ③セイフティネットの整備がなく、②債務削減もなし。 • ギリシャへの第2次金融支援(2012年3月) ③セイフティネット(EFSFとESM)が整備されたことから 、①緊縮財政に加えて、②債務削減を実施。EFSF・ECB による国債買上げ+各国政府による資本注入が金融危 機への発展を抑制。 MBA国際金融2015 13 ユーロ圏危機に対するトロイカの対応 • ユーロ圏危機国(ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、 キプロス)がIMFの支援を要請した際に、中東欧での ECとIMFとの合同プログラムでの経験は有用であった。 もう一つのパートナーとしてECBが加わって、支援体制 (「トロイカ」)の協調が拡大した。 • EU諸国は、ギリシャへトロイカの金融支援の2/3の資金 を提供した。IMFは残りの1/3の金融支援を提供した。 IMFは、危機管理において主要な役割を果たすのが一 般的であるが、ユーロ圏危機のケースではマイナーな 貸し手となった。そのために、トロイカの運営に難しさが 14 MBA国際金融2015 残っている。 財政危機波及の防止策としてのESM • • • • リスボン条約第122条第2項に基づいて、自然災害と同 等の「制御できない例外的な事態」に備えるために欧州 金融安定化ファシリティ(EFSF)を設立。しかし、リスボ ン条約では財政移転禁止のため、リスボン条約の改正 によって欧州安定メカニズム(ESM)の設立が必要。 ESMの設立を1年前倒しして、2012年7月に設立を予定 したが、ドイツ憲法裁判所にて合憲の判決を待ったため に2012年10月に設立が延期。 EFSFを2013年半ばまで存続させ、2012年10月から2013 年半ばまではESMとEFSFの両者によって財政危機に 対応することとなった。 EFSFやESMから直接に銀行へ資本注入を可能に。 MBA国際金融2015 15 15 財政当局の信認回復のための措置 • 2011年12月8・9日のEU首脳会議 • 経済同盟の強化、とりわけ、「財政安定同盟」( “Fiscal Stability Union”)に向けた動きに基本合 意 (イギリスとチェコを除く)。 ①財政規律を強化するために新しい財政ルールを 含む財政協定(Fiscal Compact) ②セーフティネットとしての欧州安定メカニズム( ESM)の早期設立(2013年7月⇒2012年7月実際 には2012年10月) MBA国際金融2015 16 16 財政安定同盟の下の財政協定 • さしあたり、めざすものは、「財政安定同盟(Fiscal Stability Union)」であって、「財政同盟(Fiscal Union)」で はない。 • 財政規律を強化するために新しい財政ルールを含む財 政協定(Fiscal Compact)につくる。 ①一般政府予算を均衡。 景気変動に影響を受ける循環的赤字を除いた、構造的赤字につい てGDPの0.5%以下。 ②財政ルールを、各国の憲法あるいはそれに相当する法律で規定。 ③欧州委員会によってある国の財政赤字の上限超過を認められた ならば即時に、ユーロ圏諸国の反対がないかぎり、自動的に過剰 財政赤字手続きが適用される自動修正メカニズムを導入。 MBA国際金融2015 17 銀行同盟 • 単一監督メカニズム(SSM=Single Supervisory Mechanism) • 単一破綻処理メカニズム(SRM= Single Resolution Mechanism) • 預金保険制度(DGS=Deposit Guarantee Scheme) MBA国際金融2015 18 単一監督メカニズム(SSM=Single Supervisory Mechanism) • ECBがユーロ圏内の銀行に対する単一の監督権を持つという仕 組み。 • ECBが直接監督する対象は、EU内の銀行のうち、影響力の大き い300億ユーロ超の資産を持つ銀行、あるいは母国のGDP比で少 なくとも20%の資産を持つ銀行で、銀行同盟に加わる約6,000の銀 行の中の、主としてユーロ圏にある約130行。 • ECBは既定の自己資本要件に違反した、あるいは違反する危険 性のある銀行に対して、早期に介入し、是正を要求することができ る。その他の銀行については、各国当局が直接監督し、ECBは間 接的に監督する。ただし、ECBはこれらの銀行についても、いつで も直接監督し、保護する権限を持つ。 • SSMは、2014年11月4日、正式に稼動を開始。 MBA国際金融2015 19 欧州金融機関のストレステスト • ECB, Aggregate Report on the Comprehensive Assessment, October 2014. • SSMの中でECBの銀行監督業務として実施。 • 130銀行に対して2014年~2016年の3か年について、2 つのマクロ経済(金利上昇等)シナリオ【ベースライン・ シナリオ(EC Winter 2014予測)と悪化シナリオ(EBA想 定)】を想定して、自己資本比率を維持するために必要 とされる資本不足額を計算。 • ⇒資本不足は、25銀行で総額246億ユーロ。 MBA国際金融2015 20 図7:国別の資本不足額・資本不足銀行数 出典:ECB, Aggregate Report on the Comprehensive Assessment, October 2014. MBA国際金融2015 21 MBA国際金融2015 22 単一破綻処理メカニズム(SRM= Single Resolution Mechanism) • 危機の際、迅速な意思決定と破綻処理を行い、他のユーロ圏の 国々への伝播を防ぐ仕組み。一元的に意思決定を行うことにより 、各国で破綻処理を行うよりも効率的な対処が可能となり、金融 への悪影響を最小化する。 • SRMの対象となるのは単一監督メカニズムの対象行で、銀行の 破綻処理の決定は、ECBの代表、欧州委員会、当該国の当局 で構成される単一破綻処理委員会(Single Resolution Board)の 提案に基づき、欧州委員会が行う。 • SRMの資金源は単一破綻処理基金(Single Bank Resolution Fund)。銀行同盟内の全銀行により、2016年から8年かけて総額 約550億ユーロが積み立てる。 • SRMは2016年1月から稼動する予定。 MBA国際金融2015 23 預金保険制度(DGS=Deposit Guarantee Scheme) • 預金保険制度(DGS=Deposit Guarantee Scheme)につ いては、EU共通のルールとして各国が預金者一人あた り10万ユーロまで保護し、銀行破綻から7日以内に支払 うことが義務付けられる。 • 今のところ、単一の預金保険制度という枠組みができる わけではないが、ルールではEU各国が自発的に、互い の基金を融通しあうことなども想定している。 • DGSは、法案が間もなく可決される見通しである。 MBA国際金融2015 24 再燃するギリシャ問題 • 2015年1月25日:ギリシャ総選挙、反緊縮財政政策の 急進左派連合(チプラス党首)が圧勝。 • 2015年6月30日:ギリシャ、IMFへの返済(約15億ユー ロ)延滞 • 2015年7月5日:反緊縮財政を国民投票。 • 2015年7月16日:ギリシャ議会、財政改革案を可決。 ⇒財政規律&モラルハザードvs.債務負担軽減 MBA国際金融2015 25 IMFによるギリシャ公的債務持続可能性分析 IMF, “Preliminary Public Debt Sustainability Analysis,” IMF Country Report, June 26, 2015. • 基礎的財政収支黒字目標の下落(対GDPの2.5%)と 民営化の遅れとGDP成長率の低下(年率1%)によって 、2014年5月の第5回レビューに比較して、委譲許的融 資及び債務削減がない場合には、一般政府債務と必 要資金調達総額が増大。 • ギリシャ融資ファシリティ全額の債務削減(531億ユー ロ)と譲許的融資によって一般政府債務と必要資金調 達総額を軽減。 MBA国際金融2015 26 図8:一般政府債務と必要資金調達総額(譲許的融資及び 債務削減がない場合) Source: IMF Country Report, No.15/165, June 26, 2015. MBA国際金融2015 27 図9:一般政府債務と必要資金調達総額(譲許的融 資及び債務削減(531億ユーロ)がある場合) Source: IMF Country Report, No.15/165, June 26, 2015. MBA国際金融2015 28 結論 • ギリシャ問題に対しては、財政危機対応の3点セット( 財政緊縮と債務削減とセイフティネット)によって対応 する必要がある。 • ユーロ圏危機の教訓は、平時において危機管理のス キームを構築することが必要であった。 • 財政規律のない国を通貨同盟に入れることの問題が 露呈。通貨同盟には、財政政策を監視するための財 政安定化同盟、ひいては財政同盟を伴う必要がある。 MBA国際金融2015 29
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