通貨危機 - 一橋大学商学部・大学院商学研究科

ユーロ圏危機
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図1:ユーロ為替相場の動向
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先進諸国の財政収支悪化
• 世界金融危機
⇒①金融機関のB/Sの毀損⇒資本注入
②世界同時不況⇒G20における財政刺激の国際協調
• 世界各国で財政赤字増大。
• トリガーは、ギリシャ政権交代による財政上の統計処
理の不備(実際の財政赤字拡大)⇒財政当局の信認の
失墜⇒財政危機
• ソブリン・リスクが他のユーロ圏へ波及
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図2:ユーロ圏諸国の財政赤字
Data: Eurostat
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図3:ユーロ圏諸国の一般政府債務残高
Data: Eurostat
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ギリシャの財政危機
• 世界金融危機によって2008年にEU各国の財政赤字が拡大。
ギリシャ:銀行への資本注入50億ユーロ、新規融資への政府保証
150億ユーロ、銀行への流動性供給80億ユーロ⇒総計280億ユー
ロ(GDPの12%)の財政負担。EU27カ国で最悪。
• 2009年10月の政権交代(新民主主義党のカラマンリス政権⇒全
ギリシャ社会主義運動のパパンドレウ政権)をきっかけに財政に
関する統計処理の不備が発覚
財政赤字GDP比(2008年:5% →7.7%、2009年見通し:3.7% →
12.7% → 13.6%)
公的債務GDP比(2009 年末:99.6% → 115.1%)
⇒財政赤字の数字そのものだけではなく、財政当局の信認を失墜。
*複数均衡:ソブリン・バブル⇒ソブリン危機
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図4:ユーロ圏諸国の一般政府債務残高(2010年末)
Data: Eurostat
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図5:ギリシャの一般政府債務残高の推移
Data: Eurostat
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図6:長期金利(10年物国債利回り)
2009年10月ギリシャ財政危機
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財政危機の波及
• 欧州財政危機
ギリシャ(ユーロ圏GDPの2.7%)の財政危機がIIPS (
GIIPS:ユーロ圏GDPの35%)への波及の現実化。
• 背景
①ユーロ圏の財政主権が統合されていないことに起因す
るユーロ圏諸国の足並みの乱れが露呈。
②リスボン条約に規定された「財政移転禁止」が制約。
ドイツ憲法裁判所の合憲性審理によって、2012年7月に予定していた
欧州安定メカニズムESMの設立が2012年10月に遅れた。
• 対応
EUとECBとIMF(トロイカ)による金融支援(+ FRBから
ECBへドル流動性供給)。
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財政危機の波及メカニズム
(1) ギリシャ国債の価格暴落⇒投機家による他の(財政赤
字の多い)国債価格暴落の予想⇒空売りによる投機⇒
他の国債価格暴落
(2) ギリシャ国債の価格暴落⇒投資家の国際ポートフォリオ
に占めるギリシャ国債のシェアの現象⇒ポートフォリオ
調整による他の(財政赤字の多い)国債の売却⇒他の
国債価格暴落
(3) ギリシャ国債のデフォルト/債務リストラ⇒欧州金融機関
のB/S悪化⇒他の(財政赤字の多い)国債の売却⇒他の
国債価格暴落
(4) 上記(1)~(3)の予想⇒他の(財政赤字の多い)国債の売
却⇒他の国債価格暴落【自己実現的投機】
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財政危機対応の3点セット
①財政危機国の緊縮財政・財政再建
⇒財政規律確立とモラルハザード防止によるソブ
リン・リスク縮小
②深刻な財政危機国の債務削減
⇒債務負担削減による債務持続性(debt
sustainability)増大とソブリン・リスク縮小
③金融機関へのセイフティネット
⇒債務削減によってバランスシートを毀損した金融
機関への波及を抑制。
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ユーロ圏における財政危機対応
• ギリシャへの第1次金融支援(2010年5月)
①緊縮財政のみ。
③セイフティネットの整備がなく、②債務削減もなし。
• ギリシャへの第2次金融支援(2012年3月)
③セイフティネット(EFSFとESM)が整備されたことから
、①緊縮財政に加えて、②債務削減を実施。EFSF・ECB
による国債買上げ+各国政府による資本注入が金融危
機への発展を抑制。
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ユーロ圏危機に対するトロイカの対応
• ユーロ圏危機国(ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、
キプロス)がIMFの支援を要請した際に、中東欧での
ECとIMFとの合同プログラムでの経験は有用であった。
もう一つのパートナーとしてECBが加わって、支援体制
(「トロイカ」)の協調が拡大した。
• EU諸国は、ギリシャへトロイカの金融支援の2/3の資金
を提供した。IMFは残りの1/3の金融支援を提供した。
IMFは、危機管理において主要な役割を果たすのが一
般的であるが、ユーロ圏危機のケースではマイナーな
貸し手となった。そのために、トロイカの運営に難しさが
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残っている。
財政危機波及の防止策としてのESM
•
•
•
•
リスボン条約第122条第2項に基づいて、自然災害と同
等の「制御できない例外的な事態」に備えるために欧州
金融安定化ファシリティ(EFSF)を設立。しかし、リスボ
ン条約では財政移転禁止のため、リスボン条約の改正
によって欧州安定メカニズム(ESM)の設立が必要。
ESMの設立を1年前倒しして、2012年7月に設立を予定
したが、ドイツ憲法裁判所にて合憲の判決を待ったため
に2012年10月に設立が延期。
EFSFを2013年半ばまで存続させ、2012年10月から2013
年半ばまではESMとEFSFの両者によって財政危機に
対応することとなった。
EFSFやESMから直接に銀行へ資本注入を可能に。
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財政当局の信認回復のための措置
• 2011年12月8・9日のEU首脳会議
• 経済同盟の強化、とりわけ、「財政安定同盟」(
“Fiscal Stability Union”)に向けた動きに基本合
意 (イギリスとチェコを除く)。
①財政規律を強化するために新しい財政ルールを
含む財政協定(Fiscal Compact)
②セーフティネットとしての欧州安定メカニズム(
ESM)の早期設立(2013年7月⇒2012年7月実際
には2012年10月) MBA国際金融2015
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財政安定同盟の下の財政協定
• さしあたり、めざすものは、「財政安定同盟(Fiscal
Stability Union)」であって、「財政同盟(Fiscal Union)」で
はない。
• 財政規律を強化するために新しい財政ルールを含む財
政協定(Fiscal Compact)につくる。
①一般政府予算を均衡。
景気変動に影響を受ける循環的赤字を除いた、構造的赤字につい
てGDPの0.5%以下。
②財政ルールを、各国の憲法あるいはそれに相当する法律で規定。
③欧州委員会によってある国の財政赤字の上限超過を認められた
ならば即時に、ユーロ圏諸国の反対がないかぎり、自動的に過剰
財政赤字手続きが適用される自動修正メカニズムを導入。
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銀行同盟
• 単一監督メカニズム(SSM=Single
Supervisory Mechanism)
• 単一破綻処理メカニズム(SRM= Single
Resolution Mechanism)
• 預金保険制度(DGS=Deposit Guarantee
Scheme)
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単一監督メカニズム(SSM=Single Supervisory
Mechanism)
• ECBがユーロ圏内の銀行に対する単一の監督権を持つという仕
組み。
• ECBが直接監督する対象は、EU内の銀行のうち、影響力の大き
い300億ユーロ超の資産を持つ銀行、あるいは母国のGDP比で少
なくとも20%の資産を持つ銀行で、銀行同盟に加わる約6,000の銀
行の中の、主としてユーロ圏にある約130行。
• ECBは既定の自己資本要件に違反した、あるいは違反する危険
性のある銀行に対して、早期に介入し、是正を要求することができ
る。その他の銀行については、各国当局が直接監督し、ECBは間
接的に監督する。ただし、ECBはこれらの銀行についても、いつで
も直接監督し、保護する権限を持つ。
• SSMは、2014年11月4日、正式に稼動を開始。
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欧州金融機関のストレステスト
• ECB, Aggregate Report on the Comprehensive
Assessment, October 2014.
• SSMの中でECBの銀行監督業務として実施。
• 130銀行に対して2014年~2016年の3か年について、2
つのマクロ経済(金利上昇等)シナリオ【ベースライン・
シナリオ(EC Winter 2014予測)と悪化シナリオ(EBA想
定)】を想定して、自己資本比率を維持するために必要
とされる資本不足額を計算。
• ⇒資本不足は、25銀行で総額246億ユーロ。
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図7:国別の資本不足額・資本不足銀行数
出典:ECB, Aggregate Report on the Comprehensive Assessment, October 2014.
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単一破綻処理メカニズム(SRM= Single Resolution
Mechanism)
• 危機の際、迅速な意思決定と破綻処理を行い、他のユーロ圏の
国々への伝播を防ぐ仕組み。一元的に意思決定を行うことにより
、各国で破綻処理を行うよりも効率的な対処が可能となり、金融
への悪影響を最小化する。
• SRMの対象となるのは単一監督メカニズムの対象行で、銀行の
破綻処理の決定は、ECBの代表、欧州委員会、当該国の当局
で構成される単一破綻処理委員会(Single Resolution Board)の
提案に基づき、欧州委員会が行う。
• SRMの資金源は単一破綻処理基金(Single Bank Resolution
Fund)。銀行同盟内の全銀行により、2016年から8年かけて総額
約550億ユーロが積み立てる。
• SRMは2016年1月から稼動する予定。
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預金保険制度(DGS=Deposit Guarantee Scheme)
• 預金保険制度(DGS=Deposit Guarantee Scheme)につ
いては、EU共通のルールとして各国が預金者一人あた
り10万ユーロまで保護し、銀行破綻から7日以内に支払
うことが義務付けられる。
• 今のところ、単一の預金保険制度という枠組みができる
わけではないが、ルールではEU各国が自発的に、互い
の基金を融通しあうことなども想定している。
• DGSは、法案が間もなく可決される見通しである。
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再燃するギリシャ問題
• 2015年1月25日:ギリシャ総選挙、反緊縮財政政策の
急進左派連合(チプラス党首)が圧勝。
• 2015年6月30日:ギリシャ、IMFへの返済(約15億ユー
ロ)延滞
• 2015年7月5日:反緊縮財政を国民投票。
• 2015年7月16日:ギリシャ議会、財政改革案を可決。
⇒財政規律&モラルハザードvs.債務負担軽減
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IMFによるギリシャ公的債務持続可能性分析
IMF, “Preliminary Public Debt Sustainability Analysis,” IMF Country Report, June 26,
2015.
• 基礎的財政収支黒字目標の下落(対GDPの2.5%)と
民営化の遅れとGDP成長率の低下(年率1%)によって
、2014年5月の第5回レビューに比較して、委譲許的融
資及び債務削減がない場合には、一般政府債務と必
要資金調達総額が増大。
• ギリシャ融資ファシリティ全額の債務削減(531億ユー
ロ)と譲許的融資によって一般政府債務と必要資金調
達総額を軽減。
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図8:一般政府債務と必要資金調達総額(譲許的融資及び
債務削減がない場合)
Source: IMF Country Report, No.15/165, June 26, 2015.
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図9:一般政府債務と必要資金調達総額(譲許的融
資及び債務削減(531億ユーロ)がある場合)
Source: IMF Country Report, No.15/165, June 26, 2015.
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結論
• ギリシャ問題に対しては、財政危機対応の3点セット(
財政緊縮と債務削減とセイフティネット)によって対応
する必要がある。
• ユーロ圏危機の教訓は、平時において危機管理のス
キームを構築することが必要であった。
• 財政規律のない国を通貨同盟に入れることの問題が
露呈。通貨同盟には、財政政策を監視するための財
政安定化同盟、ひいては財政同盟を伴う必要がある。
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