110 - 日本放射線技術学会 東北部会

パルス X 線における小型電離箱線量計の
イオン再結合補正係数の算出
新潟大学医歯学総合病院 診療支援部放射線部門
○早川 岳英
笠原 敏文
井上 富夫
(Hayakawa Takahide)
(Kasahara Toshifumi) (Inoue Tomio)
新潟大学医学部保健学科 放射線技術科学専攻
坂本 昌隆
稲越 英機
(Sakamoto Masataka)
(Inakoshi Hideki)
【目的】
標準測定法01(以下、[01]とする)は、イオン再結合補正係数ksの算出にWeinhousらが報告した2点電圧
法を採用している1)。これは2つの印加電圧で測定した電離箱線量計の電荷(測定値)からksを推定する方
法で、その推定の回帰式を引用掲載している。この回帰式はファーマ形電離箱を用いたときに適用するが、
より感応体積の小さい小型電離箱に適用可能か明確ではない。そこで、この回帰式の根拠となった
Weinhousらの計算プログラム2)をExcelVBAを用いて作成し、そのプログラムから算出したksと、[01]の回帰
式から算出したksを比較して、小型電離箱のイオン再結合補正係数ksの算出について検討した。
SCD 100 cm
【使用機器】
field size
直線加速器 Clinac2100C/D (Varian)
10×10 cm
電位計
Ionex Dosemaster 2590A
(NE Technology)
beam axis
ion chamber
小型電離箱 31002 flexible (PTW)
感応体積 0.125 cm3
depth 10 cm
水ファントム 40×40×40 cmアクリル製
(日本原子工業)
water phantom
【方法】
Fig. 1 実測の幾何学的配置
1.実測データの取得
直線加速器の4 MVと10 MVのX線において、印加電圧を-25~-375 Vの12種類で変化させたとき
の小型電離箱の電荷をそれぞれ測定した。ビーム軸は床に平行とし、水ファントム中の水等価10 cm深
(SCD 100cm)に電離箱の幾何学的中心を一致させた(Fig. 1)。 照射野は10×10 cm,MU値は150で、
電荷の読み値に温度気圧補正係数kTPを乗じた5回測定の平均を測定値とした。
2.イオン再結合補正係数ksの算出
2-1.回帰式による算出
次式の2点電圧法の回帰式からksを算出した。a0, a1, a2 は回帰係数(印加電圧比V1/V2に応じた各係数
2
⎛ q1 ⎞
⎛ q1 ⎞ が[01]の付録に表で掲載されている)、q1 は高い方の印加電圧
⎜
⎟
⎜
⎟
k = a 0 + a1 ⋅ ⎜
⎟ + a 2 ⋅ ⎜ q ⎟ V1での測定値、q2 は低い方の印加電圧V2での測定値。
s
⎝ q2 ⎠
⎝ 2⎠
2-2.プログラムによる算出
パルスX線のksは電離箱線量計のイオン収集効率fの逆数で次式により導かれる。
f =
1
1
= ⋅ ln (1 + u )
k
u
s
(1)
⎡
α
1
ρ ⋅d2
ρ ⋅d2 ⎤
ただし, ⎢u = ⋅
⋅
=μ⋅
⎥
e k1 + k 2
V
V ⎦
⎣
αはイオン再結合率、eは素電荷,k1,k2はそれぞれ正・負イオンの移動度、ρはパルス当たりに発生す
る電離密度、dは電極間隔、Vは印加電圧であり、物理定数であるα,e,k1,k2をまとめて定数μとする。
2点電圧法は、高い方の電圧V1、低い方の電圧V2を電離箱線量計に印加したときの測定電荷q1、q2か
ら、それぞれf1とf2が以下のように表せる(nはパルス数)。
V1,V2 と q1,q2 を入力
q
q
1
1
f1 = 1 = ⋅ ln(1 + u1)
f 2 = 2 = ⋅ ln(1 + u2 )
n ⋅ ρ u1
n ⋅ ρ u2
初期値 u=0, ou=5×10-4
f1とf2の比をとると、次式で表せる。
f1 q1 u2 ln (1 + u1 )
=
= ⋅
f 2 q2 u1 ln (1 + u2 )
q1 V1
ln (1 + u1 )
=
⋅
q 2 V 2 ln[1 + u1 ⋅ (V1 V2 )]
Weinhousらはこれを変形して、次式の反復計算からu1を求め、
⎛ V ⎞⎤
⎡
u1 = ⎢1 + u1 ⋅ ⎜⎜ 1 ⎟⎟ ⎥
⎜V ⎟
⎢⎣
⎝ 2 ⎠ ⎥⎦
⎡
⎛ V ⎞⎤
u = ⎢1 + ou ⋅ ⎜⎜ 1 ⎟⎟ ⎥
⎝ V2 ⎠ ⎦⎥
⎣⎢
(q1 ⋅V2 )(q2 ⋅V1 )
−1
(q1⋅V2 ) (q2 ⋅V1 )
−1
(u-ou) < 5×10-9
u1を式(1)のuに代入してksを算出するFORTRANプログラムを報告
している。今回はそのプログラムをExcel VBAで作成しksを算出した。
No
Yes
u より式(1)から ks を算出
プログラムのフローチャートをFig.2に、プログラムコードを付録に
Fig.2 フローチャート
示す。
Table 1 ksの算出結果(4MV)
Table 2 ksの算出結果(10MV)
印加電圧 印加電圧比
V1
V1/V2
-350
3.5
2
プログラム
Program
1.0021
1.0030
回帰式
fitted
1.0026
1.0029
差
dev(%)
0.051%
-0.011%
印加電圧 印加電圧比
V1
V1/V2
-350
3.5
2
プログラム
Program
1.0043
1.0048
回帰式
fitted
1.0047
1.0046
差
dev(%)
0.043%
-0.017%
-300
3
2
1.0031
1.0043
1.0030
1.0041
-0.012%
-0.015%
-300
3
2
1.0049
1.0053
1.0047
1.0051
-0.018%
-0.018%
-250
5
2.5
2
1.0034
1.0038
1.0045
1.0037
1.0046
1.0044
0.037%
0.086%
-0.016%
-250
5
2.5
2
1.0051
1.0052
1.0052
1.0054
1.0060
1.0051
0.031%
0.081%
-0.018%
-200
4
2
1.0037
1.0033
1.0037
1.0032
-0.004%
-0.012%
-200
4
2
1.0066
1.0072
1.0065
1.0070
-0.014%
-0.024%
【結果】
ksの算出結果をTable 1とTable 2に示す。回帰式とプログラムのそれぞれで算出したksの差は0.1%未満
であった(4MV、10MVともに、通常電圧の-250V以外の印加電圧でも同様の結果であった)。
【まとめ】
[01]の回帰式で算出したksと、Weinhousらのプログラムで算出したksに大きな差はなく、[01]の回帰式は
使用した小型電離箱に適用可能と考えられた。
【参考文献】
1) 日本医学物理学会編: 外部放射線治療における吸収線量の標準測定法 (標準測定法01) 第二版,
通商産業研究社,東京,2002.
2) Weinhous MS, and Meli JA: Determining Pion, the correction factor for recombination losses in an
ionization chamber. Med Phys, 11 (6), 846-849, 1984.
【付録】
Excel VBAのプログラムコード
v1、v2、q1、q2を入力変数としてksを計算す
るマクロ(関数名pion)を作成した。
( Excel の 「 ツ ー ル 」 - 「 マ ク ロ 」 - 「 Visual
Basic Editor」の機能を使う)
Function pion(v1 As Single, v2 As Single, q1 As Single, q2 As Single) As Double
E = (q1 * v2) / (q2 * v1)
ou = 0.0005
Do
u = (1 + ou * v1 / v2) ^ E - 1
a = Abs(u - ou)
If a < 0.000000005 Then
Exit Do
Else
ou = u
End If
Loop
f = Log(1 + u) / u
pion = 1 / f
End Function