麻酔時の歯牙損傷に対する対応 Our attitude to the dental damage at anesthetic maneuver 聖隷浜松病院 麻酔科 The Department of Anesthesiology, Seirei Hamamatsu General Hospital ○宮地 圭祐 竹内 啓人 小久保 荘太郎 Keisuke MIYAJI, Hirohito TAKEUCHI, Sotaro KOKUBO 歯牙損傷(麻酔合併症としての) •全身麻酔の合併症の一つである。(0.22%〜12.5%) •気管内挿管時に最も起こりやすい。(80%以上) •損傷の程度は様々 外傷性歯根膜炎(可逆的・不可逆的) 修復物や冠橋義歯の破損・脱離 歯冠・歯根の破折 歯の脱臼(完全・不完全) 歯槽骨骨折 歯牙損傷の要因 患者側の要因 •損傷歯の問題 (齲蝕・歯周疾患等) •解剖学的問題(喉頭等) •病状的問題(緊急度) 麻酔医側の要因 •麻酔をする ( させる ?) のは誰? •気道確保の方法は? •どの歯に荷重する? これらの要因が重なり歯牙損傷が起きる! 補償は? •原則として全額本人負担−横浜市立大学医学部(HPより) •健常歯でなければ本人負担−三井記念病院(LiSA 07-09) •外傷機転のある損傷は病院負担を考慮する −旭川医科大学(LiSA 07-09) •原則として病院負担−東北大学歯学部(LiSA 07-09) ↓ 施設によって対応がまちまちであるが、いずれも ( 他の施設も含め)術前の十分な説明が大事であると記 されている。 ↓ 本当にそうであろうか? 事後救済システム 事前説明の重要性を否定するわけではないが.... 事後救済システムを持つことが最も重要である! ↓ 何でも補償すれば良い訳ではなく補償の基準が必要 ↓ その判断には麻酔・歯科双方に対する知識と理解 が必要 ↓ 麻酔科と歯科の連携が重要 ↓ 歯科麻酔医の存在で即時に評価・判断が行える! 当科での補償基準 当該歯牙の存在が術中管理に 支障を来すか? YES NO 損傷を避けられたか? YES NO 要治療歯であったか? NO 病院補償 YES 損傷により治療の最終形態が 変わったか? YES NO 患者負担 現在、判断は歯科麻酔医が行っている。これで納得しない場合は 院内Safety Managerや弁護士が対応している。 損傷例-病院補償例と患者負担例2年間(2002-2003年)の病院補償例は3例(全麻9575例中) うち2例は基準により病院補償。 補償例 気管内挿管時に喉頭鏡にて上顎左側中切歯の冠義歯を破損。この冠義歯は 要治療歯ではなかったため、病院補償となり治療費10万円+見舞金10万円を 支払った。 患者負担例 LMA挿入のため用手開口時上顎右側側切歯の歯冠を破折。歯頸部に全周性の 大きな齲蝕があり、指で軽く荷重をかけただけで折れたため、損傷はさけら れなかった要治療歯と判断。治療の最終形態も変化しないため、術後本人に 説明、納得してもらい本人負担となった。 損傷例-係争例全身麻酔導入後LMAを挿入するため用手開口しようとしたところ、上顎右側犬 歯〜左側第一小臼歯の橋義歯が動揺が激しいのを発見。支台歯は両側犬歯・ 左側第一小臼歯の3歯であったが、両側犬歯の冠-支台間のセメントは脱落し ており、左側第一小臼歯のみセメントで冠−支台間が合着されている状態であ った。しかし、左側第一小臼歯の動揺度は3度(一般に抜歯適応)であった。 LMAの挿入・固定や覚醒時のLMA抜去や咬み込みにより容易に脱落の危険があ ると判断し、予め左側第一小臼歯の抜歯を含めこの橋義歯を除去した。 術後本人および家族に説明を行い一旦は了承を得たが、退院後補償を求めて きた。当科としては補償対象ではないと拒否した。 その後係争となり、弁護士同士の話し合いで示談金50万円を支払った。 結語 •麻酔時の歯牙損傷に対して事後救済システムを 持つことが重要である。 •歯牙損傷の状況判断には歯科・麻酔双方に対する 理解が必要である。(=歯科麻酔医の重要性) •損傷直後に評価を行うシステムを開始した。
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