~クロスロードは小中学生への防 災教育ツールとなりうるか?~ 著者:吉本 和弘 災害情報 No. 11 2013 紹介者:静岡大学教育学部総合科学専攻 寺本 洋次郎 はじめに① クロスロードとは? 防災に関するとりくみにしばしば見られる ジレンマを素材として、プレイヤー(ゲー ム参加者)がまず自分自身で二者択一の設 問にYesまたはNoの判断を下し、その後ジレ ンマについてグループ内で話し合うもので ある。 はじめに② 開催地:神戸市北区星和台・鳴子地区 阪神淡路大震災でも大きな被害を受けな かったこともあり、東日本大震災以前は住 民の防災意識は高くなかった。しかし東日 本大震災を契機にして、住民の意識が急に 高まった。特に、小学校PTA・児童館・ 青少年育成協議会などの地域団体は、でき るだけ低い年齢層からの防災教育の必要性 を意識するようになった。 研究目的 できるだけ低い年齢層(小中学生)に対する 防災教育の事業化 低い年齢層と高い年齢層が交えてやるこ とでコミュニケーションをとり世代間交 流がとれること 設定 中学生=Aクロスロード 「あなたは・・避難所の責任者」 *中学生以外の大人も 小学生(5年生及び6年生)=Bクロスロード 「あなたは・・小学生」 設問① 朝早く、地震で家が大きくゆれて、家の中 がぐちゃぐちゃです。お父さんはお母さん に「みんなで避難所に行きなさい。お父さ んは、会社に行く」と言ってます。でも、 お母さんも妹も不安そうにしています。あ なたは、お父さんが仕事に行ってもよいと 思いますか? 結果① ・Aクロスロード Yes 20人 No 39人 ・Bクロスロード Yes 7人 No 17人 理由① Yes ・「(お父さんは警察官)会社の仕事が大事」 ・「お父さんは会社でお金を扱う仕事をしているので、お 金が安全だったかどうかをチェックしないといけない」 No ・「家がメチャメチャなのに、また地震がきたら怖い」 ・「家族がバラバラになると心配だから」 ・「行く途中で地震があったら、お父さんが危ない」 設問② あなたは、お母さんと妹と一緒に避難所に 着きました。あなたは朝から何も食べてな くて、お腹ペコペコです。避難所の人が 「ごめんね。これがけしかないの!」とパ ンを1個くれました。お母さんは「パンを 妹と分けて食べなさい。」と言います。パ ンをふたつに分けると大きいのと小さいの ができました。あなたは、大きい方を妹に あげますか? 結果② ・Bクロスロード Yes 21人 No 4人 理由② Yes ・「僕は大きいから我慢できるけど、妹は小さいので我慢 できないから」 ・「妹は小さいので、かわいそうだから」 ・「ぐずぐず言って、うるさいから」 No ・「妹は食が細く、いつも食べ残しているから」 ・「僕の方が体が大きいから」 設問③ あなたは避難所にいるたくさんの人にパン 配りの手伝いをすることになりました。パ ン配りは、並んでいる人に「ひとり1個づ つ」パンを配ることです。パンを配ってい ると、「動けなくて、並べないおばあちゃ んがいます。パンを2個ください。」とい う人がいました。あなたの近くに相談でき る人はいません。あなたは、この人にパン を2個あげますか? 結果③ ・Aクロスロード Yes 25人 No 34人 ・Bクロスロード Yes 14人 No 11人 理由③ Yes ・「歩けない人も歩けたらパンをもらえたから、パンをあ げる」 ・「動けない人がなにも食べられないのは可哀そう」 No ・「パンの数が決まっているので、2個あげるとほかの人 が困るから」 ・「喧嘩がおこるかも」 ・「本当かどうかを確かめないと渡せない」 設問④ あなたの学校では、毎年5年生になると全員で海 へ野外キャンプに行きます。あなたはこのキャン プを大変楽しみにしています。ところが、今年に なって、行き先の海にくる津波の予想高がこれま での3倍(15m)になると発表され、自由参加の行 事になりました。お父さんは、「もしも地震が起 こったらあなたが心配なので、キャンプへの参加 をやめるように」と言ってます。あなたは、キャ ンプに行きたいと思いますか? 結果④ ・Bクロスロード Yes 4人 No 21人 理由④ Yes ・「学校の行事で決まったことなので、先生を信頼して参 加します(みんなとキャンプを楽しみたい)」 ・「本当に津波が来るかどうかわからないから」 No ・「家族がバラバラになると嫌だから」 ・「津波の予想は(予想があっても、それは)大事だから」 ・「お父さんが“やめとけ”と言うから」 評価① 問1はなかったが、クロスロードが進むにつれ、 問2では2人、問3では7人、問4では2人と子 供たちから進んで意見を発表したいという手が上 がるようになった。問3で多くの手が上がったの は、クロスロード設問に慣れてきたこと、意見が 真っ二つに分かれたためと考えられる。1時間を 超えるクロスロードであったが、私語、退出者が なかった。この結果、出題した設問の問題状況は 小学生に完全に理解されたと評価できる。 評価② 設問中に中高生が理解しづらい内容があっ た場合、グループ内の成人が体験などを語 り中高生と一緒になって考えるという場が 生まれ、この場が成人と中高生とのコミュニ ケーションを育むよい機会となった。 反省 反省点で問題になったのは問4で大半の意 見がNoとなった点である。設問中にお父さ んから不参加を促すような発言をしたこと から「お父さんが“やめとけ”と言うか ら」というNo意見が集中したのではと指摘 があった。むしろ「お父さんが“やめと け”と言う」という情報を削除して子供たち に「お父さんならどういうかなあ」と考えさせるべ きだという意見に落ち着いた。 まとめ クロスロードはゲームであり設問に正解がないの で子供たちが安心して自由な発想と発表に興味を 持てば、Yes/No判断が分かれるよう作られている 設問なので、子供たちは色々な意見があることに 気付く。今回のクロスロードを通じて、子供たち が決まったことを一方的に与えられるより、自分 たちの意見発表に飢えていた。この飢えがある限 り、クロスロードの場を小中学生のリンク・コ ミュニケーションに活用できる。以上、クロス ロードは十分小中学生の防災教育となりうる。
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