「メディアによる新たな公共性と 民主政の可能性」 宮﨑文彦(東京工業大学大学院) 本発表の概要 ①公共性/公共圏を巡る現状と その問題点 ②トンプソンによる「メディアによって媒介 される公共性」 ③新たな公共性が民主政(デモクラシー) にどのような影響を与えるのか? 日本における「公共性」論 ハーバーマス『公共性の構造転換』 →花田達朗の見解 :「公共性」ではなく「公共圏」 空間概念(空間のメタファー)としての Öffentlichkeit 英訳版における“public sphere”との翻訳 「公共性」か「公共圏」か? たしかに「カフェ」や「サロン」といった具体 的な「場所」の存在の重要性 しかしより重要なものとしての、その場で 形成される「政治的公共性」という機能を 持った「公論」の形成 →政治的機能という「規範性」に分離され ないもの ハーバーマスの問題認識 「社会福祉国家Sozialstaat」=「国家と社 会の自同化」という現代の認識 →国家と社会の「裂け目」に現れていた 「自律的公共圏」の衰退・消滅 →このような現代においていかにして、 民主的なコントロールは存在するのか? 「公共圏」の問題点 ①そもそも英訳においても“public sphere” だけでなく “publicness”と訳した方が適切 である部分もあるとのことわり書きの存在 ②日本語における「公共性」との差異 →「公的」=「公共的」といえるのか? 「公共圏」の「公共」はどういう意味 か? トンプソン『メディアとモダニティ』 メディアによるコミュニケーションの変容と の視点からコミュニケーションの三分類を 提出 さらにそのようなコミュニケーションの変容 が、どのような公共性の変容をもたらすか、 について言及 ハーバーマスとの比較・差異 コミュニケーションの三形態 ①直接的なもの「フェイス・トゥー・フェイ ス」共にその場にいることによって生まれ る ②メディアによる一対一のコミュニケーショ ン(電話や手紙など):距離や時間を越え ての内容伝達が可能になる ③マス・メディアによる「擬似的相互行為」 →「可視性 visibility」の変容 「公共性の再定義」 コミュニケーション・メディアの発達 →グローバリゼーション、相互連関的 国家を超えたところに存在する公共性 「共に在ること」という公共性の古典的な モデルからの離脱の必要性 →「空間」ではあるが「場所」ではない 「可視性の空間」としてのメディア 「メディア媒介的公共性」の意義 民主政(デモクラシー)に与える影響 直接民主政:非現実性から評価せず →「熟議の民主政deliverlative democracy 」 ①判断形成、決定の《プロ セス》 ②必ずしも「対話的」でなく てよい ③終結のないものである 様々な意見の競合の結果が意思決定プ ロセスに入り込む制度設計が必要 「熟議の民主政」に問題は? ハーバーマス理論との関係 →非現実的と批判したハーバーマスの理 論と関係はどうなっているか? よりよく「メディア媒介的な公共性」が活か された民主政のモデルは存在しないか? →「異議申し立ての民主政contestatory democracy 」 「異議申し立ての民主政」とは? これまでの民主政に関する議論 =政治参加・選挙に関心が集中 →しかしこれだけでは、ハーバーマスの問 題認識にもあった「社会福祉国家」や「行 政国家」といった現代の政治状況を反映 できない。 →裁量権を持った行政をどうコントロール するのか 図1 政治システムにおける2種類のコントロール(統 制) トンプソン理論との関係 メディアの発達による、近代世界の相互 連関性、時間・空間的近接性の認識 対話的である必要がなく、終わりのない 「熟議」の《プロセス》を重視する民主政 →意思決定がなされれば「終わり」になる のではなく、決定が執行され、それに対す る反応からフィード・バックがなされるまで を考慮するような民主政論の必要性 結論 メディア媒介的な公共性が開く新たな地平 →単に直接民主政を実現する可能性とい うのではなく、民主政のあり方そのものの 再考を迫るものである。 今後の課題としては、具体的にどのような 制度が整えられるべきかが検討されるべ きである。 「メディアによる新たな公共性と 民主政の可能性」 宮﨑文彦(東京工業大学大学院)
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