正統性をめぐるパズル モロッコにおける君主制と議会政治 浜中 新吾(山形大学)/白谷望(上智大学大学院) 日本比較政治学会2015年度研究大会 はじめに 「アラブの春」が生んだ君主制の正統性問題 なぜ君主制は安定するのか? 国王のジレンマ問題 国王はジレンマに直面しない? 体制の安定性を正統性にフォーカスして 論じる 1. 正統性の理論と中東の君主制 正統性の理論 モロッコの正統性 ・・・ 伝統的(理念型) 17世紀より継続する王家 シャリーフの系譜・バラカ(恩寵) アミール・アル=ムゥーミニーン バイアという統治契約の儀式 正統性の実証分析に向けて 既存の政治制度が最適であるという信念 政府に対する支持,業績への満足,政府へ の服従と信頼に対する世論調査の回答で 測定 中東の国家・体制・政府の間は曖昧 正統性をめぐるパズル モロッコはレンティア国家ではない モロッコは王朝君主制にも当てはまらない 「リンチピン君主」→体制崩壊に憂き目に あった国王たちもリンチピンだったのでは? 議会制の役割・・・分極した多党制を作り出して 国王が調停者として振る舞うと体制が安定? 正統性をめぐるパズル 国家・体制・政府への服従・・・測定可 国家・体制・政府への信頼・・・測定可 国家・体制・政府への評価・・・測定可 議会制度に代表される「民主主義」を 相応に評価?・・・・・観察可能な含意 2. 実証分析: 多国間比較 表3:モデル(5)の君主制と民主主義評価 6 4 従 属 変 数 ・ 政 府 評 価 2 Linear Prediction 8 Adjusted Predictions of monarchy with 95% CIs No democ 1 2 3 4 5 6 7 8 To what extent is your country democratic? Republic Monarchy 9 Democ 表5:モデル(5)の君主制と民主主義評価 2 2.5 従 属 変 数 ・ 政 府 へ の 信 頼 1.5 Linear Prediction 3 Adjusted Predictions of monarchy with 95% CIs No democ 1 2 3 4 5 6 7 8 To what extent is your country democratic? Republic Monarchy 9 Democ 3.モロッコの事例 分断統治と多党制 1956年の独立直後:独立運動を母体とするイスティクラール党の弱体化 ・多党制の導入 ・イスティクラール党内部の亀裂の操作 ・宗教的権威を利用した国王の「仲裁者」としての機能の確立 60年代以降:社会主義系組織の弱体化 ・彼らと対立関係にあったイスラーム主義系組織の活動を黙認 政治勢力の断片化: ・議会選挙には約30ほどの政党が参加 ・第1党でも総議席数の2割弱 コスメティック・デモクラシー 複数政党制と政権交代 ~90年代: ・実際に政治運営を行なっていたのは、国王の意向を代弁する王党派政党 ・複数政党制は、民主的な装い(コスメティック・デモクラシー) 90年代~: ・政治的自由化(憲法改正、国王の権限に初の制限) ・社会主義政党「人民社会主義諸勢力連合(USFP)」の政権獲得 ・モロッコ初のイスラーム主義政党「公正開発党」の合法化 2011年「アラブの春」~: ・公正開発党の政権獲得 与党・野党のローテーション制 時代状況に応じて、支配体制が与党と野党を入れ替える制度 与党・野党のローテーション制 ローテーション制の前提: ・政治勢力の断片化 ・全アクターが協力し合い、1つの巨大な勢力として現れることはない モロッコの事例から見るローテーションの条件: ①政治アクターの細分化とそれに伴う連立形成の必要性 ②調整役としての王党派政党の存在 ③政府への不満・変革の要求の高まりへの対応 結 論 モロッコ王制の正統性 リチャード=ウォーターベリー仮説の検証: ・「民主主義」への評価=正統性をめぐるパズルの鍵 「与党・野党のローテーション制」説 ・分極的多党制 + 選挙を通じた「名目的」政権交代 ・議会政治が国民世論を介して君主制の正統性に寄与 残された課題 他のアラブ君主制諸国との比較 産油国 (レンティア国家) 非産油国 民主的政治体制 (議会制民主主義あり) クウェート[6]、 バハレーン[6→6.5] モロッコ[4.5] 非民主的政治体制 UAE[6]、カタル[5.5]、 オマーン[5.5]、 サウディアラビア[7] ヨルダン[5.5] [ ]内の数字はFreedom Houseのスコア
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