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日本経済学会
2006年10月21日
実現ボラティリティ
森棟公夫
京都大学経済学部
45=35+10
13:10-14:00
アウトライン
 ボラティリティとは何か?
• 収益率の分散(あるいは標準偏差)
 なぜ分散の性質を研究するのか
• 効率的な市場だと,対数価格はランダム・ウォークに従う。
(前期値に乱数が付加されるだけ)
log( pt )  log( pt 1)  white noise
pt
rt  log(
)  white noise
pt 1
役に立つのか??
•リスク管理
•オプション価格の決定要因
•ボラティリティの取引
2
従来の研究は
•ARCH (ノーベル賞) , GARCH
条件付き不均一分散モデル ,SVなど
(渡辺敏明 ボラティリティ変動モデル 朝倉書店)
実現ボラティリティ(Realized Volatility: RV)とは?
高頻度データを使って計算したボラティリティ推定値,標本分散 (モデル不要)
実現ボラティリティの長所と特徴
•モデルを使わなくて良い。モデルのスペックエラーを避けられる
•容易に計算できる
実現ボラティリティの未解決大問題
•ノイズの影響
実現ボラティリティの将来性
•モデル依存型からモデルに依存しない実現ボラティリティへ:利用度高まる
3
1. ボラティリティ分析の基礎
ボラティリティに関する基礎知識
 収益率の図
12
8
4
0
-4
-8
-12
500
1000
1500
2000
2500
RET
5
時系列分析の基礎知識
 自己相関係数:同一変数の,t期と(t-k)期の値の相関係
数。無関係なら0,よく似ていると1に近い値を取る。
• 自分のt時点の体重と,一年前の体重の相関係数
 kを0とすれば,同じ値だから相関係数は1になる。(図の
最初の棒)
1.0
 例えば,kとして50以下の正の整数をとり,相関係数をす
Series : "r"
べてのkについて計算する,これを自己相関関数という
0.6
0.8
 時系列の性質自己相関関数に集約
0.0
0.2
0.4
ACF
 図は,収益率に時系列構造がないことを示している。つ
まり,効率的市場仮説が支持されている。
0
5
10
Lag
15
20
6
収益率の自己相関関数(k次ラグの相関係数)
0.0
0.2
0.4
ACF
0.6
0.8
1.0
Series : "r"
0
5
10
Lag
15
20
7
 ところが,収益率の分散を見てみると,一定とは言えない。
 収益率の図をみると理解できるように,収益率の散らば
りの幅は時間と共に変化し,かつ,大きな散らばりは固
まって現れる。これをボラティティ・クラスタリングという。
図1: 標準化された日次収益率
6
4
2
0
-2
-4
-6
0
500
1000
1500
2000
2500
8
 ボラティリティが観測できないので,収益率の二乗の自
己相関関数を求める
• 有意な相関がみつかる。自己相関係数に時系列構造が生じる。
ボラティリティ・クラスタリングとは,このような時系列構造。
0.0
0.2
0.4
ACF
0.6
0.8
1.0
Series : "rr"
0
5
10
Lag
15
20
9
ボラティリティ推定法
ARCH, GARCH, SVモデルなど盛りだくさん。
 収益率式とボラティリティ式の二式で構成
• 第一式は収益率式:
rt  ht ut
1/ 2
• 収益率
rt
• 条件付き分散(ボラティリティ)
ht
• 分散が1のホワイト・ノイズ(確率変数ということ)
ut
11
もう1個の式はボラティリティ式
 分散が,「過去」を所与とした上で,上式により表現でき
るとする。これを条件付き不均一分散 (CH)という。これ
は未知
過去への依存具合をモデル化する事が必要。
 最もポピュラーなGARCH(1,1)モデルは,
ht  a  a1ht 1  b1rt 12
 ノーベル賞を貰ったEngleのARCH(アーチ)は
ht  a  b1rt 12
12
二式を結びつけるのは条件付き期待値
rt  ht1/ 2ut
• 過去を条件とした,収益率の条件付き分散は
V (rt | past )  E(rt | past )  ht E(ut )  ht
2
2
13
ボラティリティをGARCHで推定
 ボラティリティーは観測不可能
先のGARCH(1,1)の推定をする。図の収益率上下の黒線は2シグマ線で,
GARCH推定により得られる。通常2シグマ線は均一分散で,直線
収益率と2シグマ(GARCH推定)
15
10
5
0
1
51
101
151
-5
-10
14
15
ボラティリティ研究の新展開:
実現ボラティリティ(Realized Volatility,RV)
 一日に数十個の日中観測値があれば,一日当たり収益
率と,日中収益率の標本分散=RVが計算できる。モデル
不要!!これが重要!!
 理論的な根拠
• Merton (1980)、高頻度のデータから求まる標本分散によって,
任意の時間の条件付き分散が正確に推定できる
1 nt
 t   ( ri  r )2
nt i 1
2
17
例:一日当たり収益率と標本標準偏差
 収益率と2シグマ= 2 RV の図
収益率と2シグマ(2標準偏差)
30
20
10
0
-10
-20
-30
18
実現ボラティリティの長所と短所
 初等統計における標本分散だから,計算が容易。
• ボラティリティの性質を直接検討することができる
• 従来は,収益率だけ観測可能→GARCH
 漸近分布なども利用可能で,実用性が非常に高い。
 従来のARCH,GARCH,SVモデルのような高度の知識
や複雑な計算法が不必要である
 問題は
• データのavailabilityが低い。高価!!
• 原系列は使えないので,フィルターしないといけない。
• 観測誤差の影響が大
19
実現ボラティリティの数値例
 データの基礎的な性質を求めるために便利
• 収益率は裾厚分布,ボラティリティは長期記憶性
20
絵で見る収益率データ:基礎的な性質
 データ:N株に関する2843日分の60分足系列から求めた
標準化日次収益率
図1: 標準化された日次収益率
6
4
2
0
-2
-4
-6
0
500
1000
1500
2000
2500
21
N株
収益率:標準正規密度と比較すれば,
ヒストグラムは裾厚、尖度過剰
図2: 収益率の密度
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
-3.5
-2.5
-1.5
-0.5
0.5
1.5
2.5
3.5
22
N株
RVの時系列を見ると,クラスタリング
収益率の二乗ではなくRVを利用
図3 R V の系列
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0
500
1000
1500
2000
2500
23
N株
収益率をRVで標準化する
収益率を各日のRVで標準化すれば,分布は標準正規に近づく
図4 標準化log(R V )の密度
0.6
0.4
0.2
0
-3.5
-2.5
-1.5
-0.5
0.5
1.5
2.5
3.5
24
N株
RVとlogRVの自己相関関数
 クラスタリング明らか。また長期記憶性も
• 収益率に関しては自己相関関数は有意な値が無かった。収益率の2乗
については,6次まで有意だった。RVに関しては,50次以上有意
図6:
R V (実線)とlog(R V )(点線)のA C 関数
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0
10
20
30
40
50
60
70
25
長期記憶性の検討
自己相関関数の形状から,長期記憶性が明ら
かになる。
長期記憶性:昔の影響が残る
計算ツールの紹介:差分演算子
 ラグ:LXt=Xt-1
 一階差分:(1-L)Xt=Xt-LXt =Xt-Xt-1
 二階差分:(1-L)2Xt=(1-2L+L2)Xt = Xt-2LXt +L2Xt
= Xt-2Xt-1 +Xt-2
 小数差分:dが小数だと,2項展開して

(1-L)dXt=Xt +
 (1)
i 1
i
d (d  1)
(d  i  1)
X t i
i!
27
定常性(Stationarity)のまとめ
 定常性?Cov(Xt Xt-k)が,時間差kに依存,時点tに依存しない
 {Xt} t=1,2,….,T が定常: 原系列が定常
• ARMA (後で紹介)
 {(Xt-Xt-1)} ={(1-L) Xt} t=1,2,….,T が定常:差分が定常
• ARIMA
• ARIMA=ARMA×I
 小数和分 {(1-L)dXt} t=1,2,….,T が定常:小数差分が定常
• ARFIMA あるいは FARIMA (後で紹介)
• ARFIMA=ARMA×FI
 全て分析法が異なる。検定によって調べる。
28
 1.
通常の時系列は,原系列 {Xt} が定常。
定常性とは,Cov(Xt Xt-k)が,kに依存し,時点tに依存しないといった性質。
 2. 1985-1995年に集中的に研究された単位根系列あるいは和分
過程{Xt}は,(Xt-Xt-1)= (1-L) Xtが定常。ランダムウォーク
一階の差分を取ると定常になる,といわれる。
Granger ノーベル賞
 3. 長期記憶過程{Xt}とは小数和分過程ともいわれるが,小数dに
関して, {(1-L)dXt} が定常になる。小数差分が定常
特にd<0.5なら,定常な長期記憶過程となる。
• 参考:蓑谷千凰彦「金融データの統計分析」東洋経済新報社
29
長期記憶性検定 (N株に関する検定結果:0<d<0.5)
 修正R/S検定:
• RVは3.9で1%有意,対数RVに関しては5.3でやはり1%有意と
なる
 GPH検定:
• RVに関するdは0.36,検定統計量は3.6で1%有意,したがって
定常な長期記憶となる
 ハースト係数:
• RVのハースト係数は0.70,対数RVは0.79となり,ともに定常な
長期記憶という結果になる
 局所Whittle検定:
• R/S検定の結果と変わらない
 パラメトリックモデルの推定:
• 定常な長期記憶という結果になる
30
GARCHなどとRVを比較する
比較の基準:予測平均平方誤差(MSPE)
予測にはモデルが必要。
比較のためのMSPE基準
 比較の基準はMSPE(予測の平均平方誤差)
1

1000 t 1843,2842

2
t|t 1
 RVt

2
 データ:RVデータは日次で2842個,その内最初の1842日を
用いて推定を行い,まず1843日目だけの一日予測をする。
 推定を日々アップデートし,一日予測を1000回繰り返す
 RVについても,過去データを推定し,t期のRVを予測する。そ
れをt期の観測値と比較。
32
予測のためのモデルの紹介
 GARCH(ボラティリティ ht 観測不可)
rt
収益率式
 ht1/ 2ut
2
ht  a  a1ht 1  b1rt 1
ボラティリティ式
• RVに関するARMA法 (古典的な時系列法)
収益率式
使わない
ボラティリティ式
ht  a2  d1ht 1  d2ht 2  error
33
RVに関するARFIMA(FARIMA)
 長期記憶を扱うためのARMAの改良
 ARFIMA=ARMA×FI(小数和分)
• ARFIMAモデルが一番良いということになっている。ABDL論文
– Andersen, Bollerslev, Diebold, Labys (2003) ‘Modeling and
Forecasting Realized Volatility’ Econometrica 71 529-626
34
RVに関するARFIMA(FARIMA)
 ARFIMA
• 収益率式使わない
• ボラティリティ式
(ARMAの拡張)
(1  L)d ht  a2  d1 (1  L)d ht 1  d 2 (1  L)dht  2
 error
35
このような諸推定法の比較を行った
•
•
•
•
EGARCH (追加)
GARCH
ARMA
FARIMA
• これらのモデルのMSPEを比較
36
表1
予測平均平方誤差(MSPE)の比較
37
最初の4モデルの比較
結果:
 GARCHよりRVを使うARFIMAがはるかに優れている
• これはABDLの再確認
 しかし,RVだけの系列を使った一変数分析。収益率
RETを利用していない。RETとRVの両方使うには
VAR(複数ARMA)が適切
38
VAR
 VARモデル
rett  a1  b1ht 1  b2ht 2  c1rett 1  c2rett 2  error
ht  a2  d1ht 1  d2ht 2  e1rett 1  e2rett 2  error
 VARを考えると,収益率とボラティリティ間の,Leverage
効果も容易に分析できる。 Leverage =Causality,共相
関関数の分析が利用できる。
39
レバレッジは?

Autocorrelations with 2 Std.Err. Bounds
Cor(RET,RV(-i))
Cor(RET,RET(-i))
.3
.3
.2
.2
.1
.1
.0
.0
-.1
-.1
-.2
-.2
-.3
-.3
10
20
30
40
50
60
70
80
90
10
100
20
30
40
50
60
70
80
90
100
80
90
100
Cor(RV,RV(-i))
Cor(RV,RET(-i))
.3
.3
.2
.2
.1
.1
.0
.0
-.1
-.1
-.2
-.2
-.3
-.3
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
10
20
30
40
50
60
70
40
VARFIMA
 収益率式とボラティリティ式のVAR(2式のARMA)。しか
し,小数和分はどうするか??小数差分を取る
 長期記憶を処理
• ボラティリティに小数差分表現を使う。簡単なモデルは
rett  a1  b1 (1  L) ht 1  b2 (1  L) ht 2
d
d
 c1rett 1  c2rett 2  error
(1  L) ht  a2  d1 (1  L) ht 1  d2 (1  L) ht 2
 e1rett 1  e2rett 2  error
d
d
d
41
この式の推定は困難
 そこで,小数差分を展開して,有限項で近似する。
• 展開は

(1  L) ht   ( 1)
d
i 0
i
d ( d  1)
( d  i  1)
ht i
i!
• VAR式は
(1  L)d ht  a2  d1(1  L)d ht 1  d 2 (1  L)d ht 2
 e1rett 1  e2 rett 2  error
42
各
(1  L)d
を展開すると,
d ( d  1)
( d  i  1)
ht i  a2
 ( 1)
i!
i 0

( d  i  1)
i d ( d  1)
 d1  ( 1)
ht 1i
i!
i 0

( d  i  1)
i d ( d  1)
+d 2  ( 1)
ht  2i
i!
i 0
 e1rett 1  e2 rett  2  error

i
43
 この式を整理して
200?
ht  a2    i ht i  e1rett 1  e2 rett  2  error
i 1
44
係数に関する制約
 係数には制約が含まれる
1  d  d1
d (1  d )
2 
 d1d  d 2
2
d (1  d )(2  d )
d (1  d )
3 
 d1
 d 2d  d3
3!
2
など,高次まで続く。
 推定は,係数制約を無視して最小2乗法で行う。独立変
数の数は211個,一日毎のupdate推定を1000回繰り返
して,MSPEを求めた。
45
表1
5
予測平均平方誤差(MSPE)の比較
RV +収益率
VAR-FIMA
RV=200, RET=10
132%
217
46
結論
 この報告では,最近のボラティリティ研究を概説した
 RVに関する計算例を示したが,長期記憶性に関す
る性質を含め,最近の諸結果を追認するものとなる
 RVに関する応用は,ボラティリティ値が容易に推定
可能になるため,ティックデータの利用可能性が高
まるにつれ急速に広まっていくと予想される
 予測では,VARFIMA=高次VARMAが最も優れてい
る
 RVを利用する際の最大問題は観測ノイズの処理だ
が,これは困難な諸問題を含む
47