琉球大学工学部情報工学科 卒業研究発表会 統計的モデルを用いた風力発電システムの発電量解析 075759E:真地 泰子 指導教員 : 玉城 史朗 1 はじめに 風力発電システムの性能評価 2 近年,人間の産業活動に伴って排出される温室効果ガス 風力発電システムの性能評価として,物理的モデルと統 の原因による地球温暖化が問題となっている.京都議定書 計的モデルが挙げられる.しかし,我々の研究室では,これ では,2008 年から 2012 年までの期間中に,温室効果ガス までに統計的モデルで風力発電システムの性能評価を行っ を 1990 年に比べて少なくとも 6 %削減することが制定され ていない.統計的モデルは,工学の分野だけではなく,他 た.しかし,その目標は実現できていない.一方,人口爆 にも経済学や生物学などさまざまな分野で使用されている. 発と発展途上国の経済成長などにより,世界のエネルギー 例として,株価や為替レートに用いられている. 消費量は,ますます増加している.また,世界で最も使用 風量発電システムは,天候によって発電が変動するため されているエネルギーは,有限な資源である化石燃料であ 発電の需要が不安定な電源でもある.そのため,発電量の り,その埋蔵量は,数十年から 200 年未満といわれている. 予測が重要とされる.発電量の予測をすることによって,そ そのため,従来の化石燃料を主力としたエネルギーの利 の後の電力稼働に役立てることができる. 用から,自然エネルギーを主とした再生可能エネルギーに 風力発電システムの発電量は,確率・統計的に扱うこと 変えていくことが要求されている.それらの対策として,太 ができる.ある程度の量のデータを集めておくことにより, 陽光・風力・バイオマスネネルギーなどの利用が検討され 発電量の予測を行うことができる. ている.[1] その中でも風力発電システムは,太陽光発電システムの 次に普及している,大型風力発電システムに関しては多く の地域で導入が進められている.一方,小型風力発電シス テムは,大型風力発電システムに比べて普及されていない. なぜなら,メンテナンスに手間がかかり,強風時の破損事 故が多いことがあげられる.しかし,小型風力発電システ ムも以下の観点から有望とされている. · エネルギーの自給自足 · 自然の風から動力を取り出せる · 独立型であり,電気のないところでも電気を作れる · 太陽光に比べて,風があれば 24 時間発電可能 小型風力発電システムを普及させるために,我々の研究 室では,強風域に特化した小型風力発電システムを研究開 発を行ってきた.風力発電システムの外観を図 1 に示す. 時系列データ分析 3 本研究では,統計的モデルを使用し,小型風力発電シス テムから得られる風力エネルギーと発電量の時系列データ を統計的に扱う.それによって,風力エネルギーと発電量 の関係を解析する.その結果から,将来の風力発電システ ムの発電量を予測することを目的とする. 風力エネルギーと発電量の実際のデータを,自己回帰移 動平均モデル (Auto Regressive Moving Average model: ARMA モデル) に適用する.実際の出力とモデル出力を最 小化する規範として,最小二乗法を用いる.これを用いる ことによって,風力発電システムの解析を行い,将来の発 電量を予測することができる. 3.1 自己回帰移動平均モデル (ARMA モデル) ARMA モデルは統計学において時系列データに適用され るモデルである.時系列データ xt について,ARMA モデ ルはその将来の値を予測するためのツールとして機能する. 次数 p の自己回帰モデル:AR(p) と次数 q の移動平均モデ ル:M A(q) の2つのモデルを組み合わせて式 (1) で表され る.[2] ここで,AR モデルは発電量,MA モデルは風力エ ネルギーとする. xt = p ∑ i=1 図 1: 風力発電システム ϕi xt−i + q ∑ i=1 θi ut−i + εt (1) 琉球大学工学部情報工学科 卒業研究発表会 ϕ1 , · · · , ϕp : 発電量の自己回帰係数 θ1 , · · · , θq : 風力エネルギーの移動平均係数 xt−1 , · · · , xt−p : 発電量の時系列データ ut−1 , · · · , ut−q : 風力エネルギーの時系列データ 入する. BIC は,統計学における情報量規準の 1 つで,統計モデ ルの良さを評価するための指標である.BIC は最小がベス トとなっている.よって,BIC が最小となるモデルが良い モデルだと選択できる.BIC の公式を式 (2) に示す.[3] εt : 誤差 ARMA(p,q) として,式 (1) の誤差 εt が最も小さくなる ϕ1 ∼ϕp ,θ1 ∼θq を求める.その係数と風力エネルギー · 発 電量の時系列データを ARMA モデルにあてはめることに BIC(M ) = −2 · M LL(M ) + p · log(n) (2) M : モデル よって,発電量の予測が求められる. M LL : 最大対数尤度 (M aximumLogLikelihood) ARMA(2,2) と ARMA(12,2) の解析結果を図 3 に示す. p : パラメータ数 n : データ数 BIC の結果を図 4 に示す. 図 2: 発電量の予測値 また,ARMA(p,2) の予測値と実測値の誤差の平均二乗偏 差を図 3 に示す. 図 4: BIC 図 4 より,BIC が最小になるのが AR(p) が 9 のときで, ARMA(9,2) が今回解析した中で一番良い予測モデルだと わかる. 5 まとめ 今回,ARMA モデル,BIC を用いて風力発電システムの 発電量の時系列データから,発電量の予測を行った.今後, この予測モデルを風力発電システムの開発に役立てて行く. 図 3: 平均二乗偏差 図 3 から,ARMA モデルの次数が大きいほど,実測値と 参考文献 予測値との誤差は小さくなることがわかる. [1] 上坂博亨, 安藤満, 吉牟田裕, 『小型風力発電システムの 構築と高効率 PCS の検討』 4 ベイズ情報量規準 (BIC) [2] 管 正信,『ARMA モデルを用いた時系列解析』, 株式会 社数理設計研究所 パラメータの次数を増やすほど,その測定データとの適 合度を高めることができる.平均二乗偏差は,モデルのパ ラメータの推定誤差にも依存する.パラメータの推定誤差 は,モデルが高次になるほど大きくなる.したがって,パ ラメータが多すぎるモデルをあてはめないように BIC を導 [3] 逸見功, 田中稔, 宇佐美嘉弘, 渡辺則生, 『入門 時系列解 析と予測』
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