気分はハムレット あなたは総合病院に勤める研修医救命救急 センターの当直である.今晩も,昏睡の患 者さんが立て続けに二人運び込まれてきた 小平さん 萩山さん 65歳男性 昏睡 65歳男性 昏睡 (反射的に気道,血管確保) その後,さあどうしますか? することは決まっている 一番大事なことから 一番大事なことって何? 一番大事なこと !! To be or not to be 生きているのか? 死んでいるのか? どうやって見分けるの? バイタルサイン(生命徴候) 小平さん: BP 180/100, PR 70, BT 36.5 萩山さん: BP 70/40, PR 120, BT 35.5 2番目に大切な疑問 意識障害の原因は? Plum & Posnerの教科書から 意識障害の診断 救急外来でどちらをとるか? 先進各国の CT台数 (1996年) 意識障害鑑別診断:悩みの種 • 意識障害の半数以上は脳病変なし • CT/MRIへの依存 – 診断の遅れ – 安易な“脳梗塞”の診断 – 撮影中の急変 • 神経学的診察:効率性不明 CT or not CT !! 小平さん: BP 180/100, PR 70, BT 36.5 萩山さん: BP 70/40, PR 120, BT 35.5 それはあなたの勘 ?それともエビデンス? こんなもの が役に立つ のか? 意識障害診断における仮説 高血圧と徐脈は脳病変を示唆し, 低血圧と頻脈は全身性疾患を示唆する. 背景 1. 脳卒中急性期の血圧上昇 2. クッシング効果 3. 意識障害を起こす全身疾患で血圧低下 対象と方法 期間: 2000年1月-12月 施設: 旭中央病院救命救急センター 対象: 意識障害 (GCS: Glasgow Coma Scale <15) 529例 (15才以上,頭部外傷を除く) 指標: 収縮期 (SBP)・拡張期 (DBP)血圧, 脈拍 (PR), 体温 (BT) ,意識障害 (GCS). Gold Standard:最終診断 意識障害529 例の特徴 Characteristic 脳病変あり n = 312 脳病変なし n = 217 P Value 年齢, 平均 ± S.D. 65.8 ± 14.0 62.7 ± 21.8 0.07 女性, 数. (% ) 137 (43.9) 98 (45.2) 0.78 Glasgow Coma Scale 9.88 ± 3.79 9.49 ± 3.55 0.23 収縮期血圧 (mmHg) 168 ± 36 111 ± 27 <0.0001 拡張期血圧 (mmHg) 90 ± 19 67 ± 17 <0.0001 脈拍 (/min) 84 ± 20 94 ± 24 <0.0001 体温 36.6 ± 1.0 36.8 ± 2.0 0.31 脳病変のある例の原疾患とバイタルサイン n 血圧 (mmHg) 脈拍 体温 (/min)(℃) 脳卒中 脳出血 脳梗塞 くも膜下出血 慢性硬膜下血腫 小計 104 97 41 17 259 184 / 98 165 / 87 169 / 91 153 / 82 172 / 92 81 80 82 80 81 36.5 36.4 36.3 37.0 36.5 脳腫瘍 てんかん 髄膜炎/脳炎 13 29 11 147 / 78 144 / 80 146 / 88 98 108 95 36.8 36.9 37.9 合計 312 168 / 90 84 36.6 (値は平均値) 脳病変のない例の原疾患とバイタルサイン n 血圧 脈拍 体温 (mmHg) (/min)(ÞC) 薬物中毒 肝性脳症 糖尿病性昏睡 低血糖 電解質異常 尿毒症 低酸素血症/ びまん性脳虚血 その他 59 20 12 7 11 3 95 109 / 67 121 / 69 116 / 74 120 / 74 107 / 69 137 / 65 110 / 66 87 98 103 75 84 81 100 35.8 37.0 36.2 35.5 36.6 35.7 37.5 10 103 / 62 86 35.9 合計 217 111 / 67 94 36.8 (値は平均値) 収縮期血圧と脳病変の有無 120 脳病変なし 患者数 100 脳病変あり 80 60 40 20 0 <90 90- 100- 110- 120- 130- 収縮期血圧 (mmHg) 140- 150- 160- 170- 180<= 拡張期血圧と脳病変の有無 80 脳病変なし 患者数 脳病変あり 60 40 20 0 <50 50- 60- 70- 80- 拡張期血圧 (mmHg) 90- 100- 110<= 脈拍と脳病変の有無 脳病変なし 患者数 60 脳病変あり 40 20 0 <50 50- 60- 70- 80- 90- 100- 110- 120脈拍 (/分) 130<= ROC曲線 receiver operating characteristic curve(受診 者動作特性曲 線) • • • • • • 診断法の精度を比較する 視覚的比較ができる 縦軸:感度 、横軸:偽陽性率 A:偽陽性率も感度も低い C:偽陽性率も感度も高い 曲線がより左上方に位置するほ ど 優れている • 曲線の下の面積ROC AUC で定 量比較可能 各バイタルサインのROC Curve分析 収縮期圧 感度 拡張期圧 脈拍 ROC AUC (ROC曲線下面積) 収縮期圧= 0.90 拡張期圧= 0.83 脈拍= 0.63 偽陽性率 ( 1- 特異度 ) 診断指標のROC AUC • 収縮期血圧(意識障害での脳病変) 0.90 • 空腹時血糖(糖尿病) 0.83 • クレアチンキナーゼ(急性心筋梗塞)0.66 収縮期血圧の階層別尤度比 ・感度・特異度・検 査後確率 収縮期血圧 感度 特異度 尤度比 検査後確率 <90 0.99 0.19 0.03 0.04 90-100 0.98 0.31 0.08 0.1 1600.48 0.97 4.31 0.86 1700.37 0.99 6.09 0.9 180< 0 1 26.43 0.97 検査前・検査後確率と 尤度比(LR:Likelihood Ratio) 検査前確率*f (LR) = 検査後確率 Fagan's Nomogram バイタルサイン(生命徴候) 小平さん: BP 180/100, PR 70, BT 36.5 萩山さん: BP 70/40, PR 120, BT 35.5 Cutoff Point 感度 & 特異度 (階層別) 尤度比 収縮期血圧の階層別尤度比 ・感度・特異度・検 査後確率 収縮期血圧 感度 特異度 尤度比 検査後確率 <90 0.99 0.19 0.03 0.04 90-100 0.98 0.31 0.08 0.1 1600.48 0.97 4.31 0.86 1700.37 0.99 6.09 0.9 180< 0 1 26.43 0.97 小平さん 萩山さん 応用問題 63歳の男性が昏睡状態で救急外来に搬入され てきた.同伴してきた職場の同僚によれば, 昼前に勤務先で気分が悪いと言って倒れたと のこと.その同僚から聴いた限りでは,会社 員として普通の生活を送っており,特に持病 や通院している様子には見えなかったが,家 族も駆けつけてはおらず,それ以上の詳しい 病歴はわからなかった。 63歳男性,職場で卒中様意識障害 • 収縮期血圧: 70mmHg(触診) • 脈拍120/分 • 体温36度:ただし四肢末梢冷感著明 • 浅い頻呼吸 • 腹部正中手術痕→10年前胃癌手術,脾摘 • 出血傾向 • 神経学的所見:明らかな局在徴候なし 意識障害診療の難しさ=面白さ • 診療情報:病歴,診察所見 • 緊急性 • 鑑別診断の多さ • 様々な疾患,病態に精通 意識障害のDos & Donts • 基本的情報に集中 – 病歴,バイタルサイン,身体所見 • 脳よりも全身を考える • 治療可能な病気を優先 • CTに頼るな:”CT偽陰性“に注意 • 酔っ払いは弘法大師 基本的情報に集中 • 病歴,バイタルサイン,身体所見 • 情報が少ない:開き直り –要点に集中できる –雑音が少ない→迷いが少ない 意識障害の評価の仕方 目 口 手足 自発的に 動く 開眼を維持 できる 自発語あり 自発的に 動かす 刺激で初 めて動く 刺激で初め て開眼 呼びかけて 発語,発声 痛みで動 く 刺激でも 動かない 刺激しても 開眼せず 呼びかけて も応答なし 痛みに反 応しない 意識障害における神経学的診察(案) ーこれしかできないんじゃないー • • • • 眼:瞳孔,眼球の位置,眼球の自動運動 顔面左右対称性 頚部の向き(項部硬直) 四肢:特に左右差に注目 – 肢位 – 筋緊張 – 自発運動,痛覚刺激による誘発運動 意識障害のDos & Donts • 基本的情報に集中 – 病歴,バイタルサイン,身体所見 • 脳よりも全身を考える • 治療可能な病気を優先 • CTに頼るな:”CT偽陰性“に注意 • 酔っ払いは弘法大師 脳よりも全身疾患を考える • 意識障害の半分は脳以外の全身疾患 • 正しい診断で救命できる疾患が多い • 緊急性の高い疾患が多い –見逃せば事故に直結しやすい アイウエオチップス • • • • • • • • • Alcoholism:慢性硬膜下血腫,ウェルニッケ脳症,振戦せん妄 Insulin:低血糖,ケトアシドーシス,高浸透圧性昏睡 Uremia:尿毒症 Encephalopathy, Endocrinopathy, Electrolytes:内分泌代謝脳症 Opiate, Decreased O2:薬物中毒,低酸素血症,高炭酸ガス血症 Trauma:頭部外傷,慢性硬膜下血腫 Infection:髄膜炎,脳炎,敗血症性ショック Psychiatry:緊張病性・ヒステリー性昏迷,ポルフィリア Syncope, Stroke:Adams-Stokes,てんかん 意識障害のDos & Donts • 基本的情報に集中 – 病歴,バイタルサイン,身体所見 • 脳よりも全身を考える • 治療可能な病気を優先 • CTに頼るな:” 偽陰性“に注意 • 酔っ払いは弘法大師 意識障害を起こす脳疾患で CT所見に乏しいもの • • • • 髄膜炎・脳炎 脳静脈洞血栓症 脳幹病変 てんかん重積状態 意識障害のDos & Donts • 基本的情報に集中 – 病歴,バイタルサイン,身体所見 • 脳よりも全身を考える • 治療可能な病気を優先 • CTに頼るな:” 偽陰性“に注意 • 酔っ払いは弘法大師 アルコールと意識障害 • • • • 慢性硬膜下血腫 ウェルニッケ脳症 低血糖 低ナトリウム血症 – 橋中心性髄鞘崩壊 • 肝性脳症 • 代謝性アシドーシス 意識障害と紛らわしい病態 • • • • 譫妄(痴呆,アルコール離脱,薬物) 昏迷(うつ病,ヒステリー,緊張病) 頚椎脱臼(高位脊髄障害) 閉じ込め(Locked in)症候群 63歳男性,職場で卒中様意識障害 • 収縮期血圧: 70mmHg(触診) • 脈拍120/分 • 体温36度:ただし四肢末梢冷感著明 • 浅い頻呼吸 • 腹部正中手術痕→10年前胃癌手術,脾摘 • 出血傾向 • 神経学的所見:明らかな局在徴候なし Key Message • 基本的な臨床情報の大切さ • わかっているようで実はわからないこと • 検査前確率を高めることの大切さ
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