『輸液』で戦う! 〜「輸液は苦手(-”-)」でも失敗しないための“+α”〜 まずは“ショックかどうか”をチェック! • sBP90mmHg以下、mBP60mmHg以下、40mmHg 以上の急激な血圧低下が定義だが・・・代償機転 が働いて、『バイタルOK、ケロッとしている』ショッ クもあり! • 『橈骨80、大腿70、総頸60』は結構当てになる • 体温が0.55℃上がったら、心拍数は10回/分上が る(ただし、洞性頻脈の限界は150程度) • 「Hbは低下しないないから出血はしてない」・・・で はない!Hbが低下しはじめるのは数時間たって から “hypovolemia”の有用な身体所見 身体所見 起立による脈拍上昇(>30回/分) 起立性低血圧 腋窩の乾燥 口腔鼻腔粘膜の乾燥 舌の乾燥 溝舌 眼窩の陥凹 混迷 四肢の脱力 不明瞭な発語 毛細血管再充満時間の遷延 感度 (%) 43 29 50 85 59 85 62 57 43 56 34 特異度 (%) 75 81 82 58 73 58 82 73 82 82 95 LR+ LR- 1.7 1.5 2.8 2.0 2.1 2.0 3.4 2.1 2.3 2.3 6.9 0.8 0.9 0.6 0.3 0.6 0.3 0.5 0.6 0.7 0.7 0.7 McGee S, et al: Is this patient hypovolemic ?, JAMA, 281(11): 1022-1029, 1999. ショック指数と重症度(shock index) ショック指数 0.5 1.0 1.5 2.0 脈拍数 60 100 120 120 収縮期血圧 120 100 80 60 出血量(%) 0 10~30 30~50 50~70 中等度 重症~ 3:1の法則 • 循環血液量喪失1を補うためには3倍量 の細胞外液を投与すること! ☆1,000ml輸液して血管内に残る量(目安) ・5%ブドウ糖:85ml ・3号液:150ml ・細胞外液:275ml ・アルブミン製剤:500ml ・全血:1,000ml hypovolemic shockへの初期輸液 • 細胞外液500~1,000mlを30~60分で急速点 滴静注(特に、最初の200~500mlはクレメン 全開で!) • 単回急速静注後に血行動態の改善(血圧、 心拍数、尿量など)を確認 • 改善不十分なら急速静注と評価を繰り返す クリティカルケアでの“4つの相” <栄養期> <利尿期> “マイナスバランスへ” <安定期> “血管内ボリューム維持” <蘇生期> “EGDTに従う” ストレス侵襲 24~48時間 72~96時間 •蘇生期:EGDTに従い、輸液負荷±カテコラミン •安定期:輸液なしでも血管内ボリューが維持されるため、細胞外液/維持液±最少のカテコラミン •利尿期:間質・サードスペースから大量の水分が血管内に戻るため、うっ血性心不全を回避する目的で 意識的に利尿を起こすように管理 “4つの相”で考える ① 炎症・ストレス反応の極期での血管透過性亢進 期の大量輸液⇒EGDT ② いったん血行動態が安定し、輸液負荷をせずと も現行の輸液量でバイタルサイン、循環動態、 呼吸状態が安定する時期(プラトー期)⇒維持 輸液 ③ 炎症・ストレス反応改善時のサードスペースか らの水が引ける利尿期の相⇒輸液を絞る、もし くは利尿剤の併用 ④ その後の栄養療法(経腸栄養、経静脈栄養)で の輸液(中心静脈栄養、末梢静脈栄養) Early Goal-Directed Therapy(EGDT) • 敗血症性ショック出現後6時間以内に、十分 な心前負荷を維持することを推奨 • 初期到達目標はCVP 8-12mmHg、平均血圧 ≧65 mmHg、中心静脈酸素飽和度≧70% • 晶質液であれば1~2 L/h、膠質液であれば 0.6~1 L/hの輸液速度が目標 • ①心負荷増大、②肺内水分貯溜の増加と肺 酸素化能低下、③腸管浮腫と腹腔内圧増加、 ④創処治癒の遅延などに注意 細胞外液 (血管内) 5% 細胞外液 (間質) 15% 細胞内液 40% 総体液量=体重(kg)×0.6(L) 細胞外液量=体重(kg)×0.2(L) 循環血漿量=体重(kg)×0.05(L) この患者さん『脱水』です・・・ • 脱水(dehydration) 水だけ喪失→高Na血症→血漿浸透圧上昇→ 細胞内液が細胞外液へ→細胞内脱水→自 由水を補充 • 細胞外液量欠乏(hypovolemia) 水とNaが両方とも喪失→細胞外液が欠乏→ 有効循環血漿量が減少→等張液を補充 細胞外液 (血管内) 5% 細胞外液 (間質) 15% アルブミン 細胞内液 40% K Na 細胞外にとどめたければNaの多い輸 液、血管内にとどめたいならアルブミ ン製剤、細胞内脱水や高ナトリウム血 症の補正なら張度が0の5%ブドウ糖液 『維持液』と言われる所以 • 維持液にはNa35mEq/L、K20mEqが含まれて いる⇒2,000ml中ならNa70mEq/L、K40mEq • NaCl1g=17mEq、KCl1g=13mEqなので、維持 液2,000ml中には食塩が約4g、KClが約3g含 まれる⇒1日の電解質量としてちょうどよい • よって、ソリタT3(500)やKN3A(500)を4本投 与すると、安定した状態の入院患者さんに とって、その状態を“維持”することが可能 身体の中にある“3つ目の場所” • ストレス侵襲→サイトカインが凝固カスケードに作 用(血液凝固促進、微小血管閉塞など)→微生物・ 毒素などを、局所に閉じ込めておこうとする(急性 炎症)→血管透過性亢進→サードスペース出現 • ・サードスペース出現→血管内ボリューム減少→ ①交感神経賦活による心拍数・心収縮亢進、末梢 血管の収縮、②RAA系賦活による腎臓でのNa、水 の再吸収亢進、ADH分泌亢進→尿量減少(生体に とって正常な反応なので、この時期にむやみに利 尿剤を使うのは循環動態の破綻につながる!) • 一緒にNaと、それにひっぱられて水、さらに普段は 血管外に漏れない膠質浸透圧を形成している蛋 白成分(主にアルブミン)も漏れだす→浮腫! サードスペースが改善しない?! • 原疾患のコントロールがついていな い可能性は? • 気道・呼吸、循環のトラブルは? • 院内感染症の合併は? • 新たなイベントが起こって、第二の サードスペースが出来ている可能性 は? 低Na血症は絶対おさえる • 入院中の低Na血症の割合は42.6%(入院時 28.2%、入院後14.4%)の報告あり!1) • 急性低Na血症は脳浮腫を引き起こすヤバイ 病態!痙攣、昏睡、呼吸停止の可能性あり • 慢性低Na血症は自覚症状に乏しいこともある が、歩行の不安定性や注意力の低下から転 倒の危険因子に2) • 治療は放置しても治療しても責められるかも 1) Hawkins RC: Age and gender as risk factors for hyponatremia and hypoernatoremia. Clin Chim Acta, 337: 169-172, 2003. 2) Renneboog B, MUSCH W, et al: Mild chronic hyponatoremia is associated with falls, unsteadiness, and attention deficits. Am J Med, 119, 71 e1-8, 2006. 低ナトリウム血症の鑑別 低Na血症 等張性 (280~295mOsm/kg H2O) ・偽性低Na血症 ・ブドウ糖やマンニトール 等張液の輸液 体液量減少 低張性 (<280mOsm/kg H2O) 高張性 (>295mOsm/kg H2O) ・偽性低Na血症 ・ブドウ糖やマンニトール 高張液の輸液 体液量正常 体液量過剰 尿中Na+ 尿中Na+ <20mEq/L >20mEq/L 非腎性Na+喪失 腎性Na+喪失 ・消化管からの喪失 ・滲出液 ・皮膚からの喪失 ・利尿剤 ・塩類喪失性腎炎 ・副腎不全 ・浸透圧性利尿 ・SIADH ・薬物 ・甲状腺機能低下 ・低カリウム血症 ・浸透圧受容体のリセット ・心因性多飲 <20mEq/L >20mEq/L 浮腫状態 ・ネフローゼ症候群 ・肝硬変 ・うっ血性心不全 ・慢性腎不全 水中毒じゃなければ細胞外液をチェック 細胞外液 ↓ → ↑ 原因疾患 嘔吐、下痢、利尿剤、塩類喪失性腎症、 低アルドステロン症、MRHEなど SIADH、甲状腺機能低下症、糖質コル チコイド欠乏など 腎不全、心不全、肝硬変、ネフローゼ 症候群など MRHE; Mineralcorticoid Responsive Hyponatremia of the Elderly(老人性鉱質 コ ルチコイド反応性低Na血症) カリウムとマグネシウムは“一心同 体” • Mgは代謝に関与する多くの酵素のco-facter として作用し、エネルギー産生、貯蔵、利用、 蛋白合成などに重要! • 生体内で4番目に多く細胞内では2番目に多 いのに・・・血管内には1%しかない(正常値で も不足しているかも?!) • 低K血症の3~4割に低Mg血症、低Mg血症の 3~4割に低K血症を合併 • 重度の低Mg血症で痙攣重責、致死的不整脈 (torsades de pointes)、昏睡・・・死亡! 低リン血症だと死亡率4倍! • リンは①ATPの産生に関りエネルギー代謝を 改善、②赤血球内の2,3‐GDP産生を促進し酸 素運搬能を改善する • ①の障害により筋力低下、心不全、呼吸不全、 ②の障害によりイライラ感、異常感覚、錯乱、 痙攣、昏睡などを起こす • 副甲状腺機能亢進症以外にアルコール依存、 神経因性食思不振症、慢性下痢、TPN長期 投与・・・何より医原性が多い! クリティカルケアにおける栄養管理の7大原則 1. クリティカルケアでは蘇生が最優先!栄養サポートは2 番目(Resuscitaion 1st !) 2. クリティカルケアでの“ストレス侵襲下”は“飢餓状態”と は全く異なる! 3. ストレス侵襲化下での必要カロリーは概算式を適宜用 いて見積もる 4. 急性期の栄養過剰投与は必ず避ける!“Permissive underfeeding”を重視 5. 血糖コントロールに注意!目標は150mg/dL前後 6. どの経路を使っても、可能な限り早期に経腸栄養を選 択する 7. 急性期栄養管理は“蛋白>糖質(炭水化物)>>脂質 1.クリティカルケアでは蘇生が最優先! • 急性期は栄養よりも循環・呼吸を安定させる ことが最優先! • 循環動態の落ち着いていない状態での栄養 投与は、心臓・肺・肝臓・腎臓の負担を増や すだけで、多臓器不全を助長する可能性も • 可能な限り早期(できれば72時間以内)に循 環動態を安定させ、栄養投与開始にもちこむ ことが重要(蘇生期の高カロリー輸液はほぼ 禁忌!) 2.“ストレス侵襲下”と“飢餓状態”は全く異なる! • ストレス侵襲下の反応は『フル回転』 • 飢餓状態では『働かない、無理しない』 • ストレス侵襲下の目標は「フル回転させ ない」⇒理想の栄養投与量を追及して はダメ! • 蛋白分解/異化亢進に対して“蛋白> 総カロリー”の栄養管理が必要 3.必要カロリーを適宜見積もる ・Harris-Benedictの式 男性:BEE=66.47+[13.75×体重(kg)]+[5.0×身長(cm)]-[6.75×年齢] 女性:BEE=655.1+[9.56×体重(kg)]+[1.85×身長(cm)]-[4.68×年齢] ・代替値 15~35kcal/kg/日(重症患者は“25kcal×体重”として使用) ・簡便法 50kg→1,300kcal/日 60kg→1,500kcal/日 70kg→1,700kcal/日 80kg→1,900 kcal/日 ストレス係数 ・大きい手術(合併症なし)→1.0~1.1 ・中等度の外傷、中等度の腹膜炎→1.25 ・重症外傷・感染症・臓器不全→1.3~1.6 ・体表面先の40%以上の熱傷→2.0 活動係数 ・寝たきり1.0〜1.1 ・ベッド上安静1.2 ・歩行可能1.3 4.“Permissive underfeeding” • 急性期の糖負荷→インスリン拮抗ホルモン(ステロイド、 成長ホルモン、グルカゴン)と交感神経刺激→高血糖→ ①白血球貪食能低下、②高浸透圧性利尿、③感染リス ク増加、④電解質の細胞内移動(特にカリウム、リン) • 栄養過剰状態→酸素消費上昇→過剰なCO2産生→呼 吸不全の進行 • よって、急性期栄養は『蘇生期』、『過小栄養許容期 (Permissive underfeeding)』、『安定期』に分けて管理 • 『蘇生期』は、とりあえず栄養は無視!循環・呼吸を優先 • 『過小栄養許容期』は①栄養療法開始72〜96時間で目 標カロリーの60〜80%を目指す、②その後、ストレス侵襲 による炎症反応改善とともに100%を目指す • 『安定期』は・・・安定させる Refeeding syndrome • うっ血性心不全 • 電解質異常(低カリウム血症、低マグネシウ ム血症、低リン血症) • 高血糖 • 水分貯留による全身浮腫 • 意識障害(Wernicke-Korsakoff症候群など) • よくわからない発熱 • よくわからない乳酸アシドーシス 5.血糖の動きに要注意 • ストレス侵襲下は①ストレスホルモンによるイ ンスリン拮抗、②交感神経亢進による糖新生 亢進、末梢インスリン抵抗亢進、インスリンの 相対的な分泌低下、蛋白分解増加→“ストレ ス”糖尿病の出現 • 血糖値150前後で推移させるように工夫 • スライディングスケールは『後追い“低血糖” +“高血糖”と乱高下するジェットコースター 血糖コントロール』になるため、極力避ける 6.可能な限り早期に経腸栄養を開始 • 経路にこだわらず、可能な限り早期に経腸栄 養を開始 • Permissive underfeedingに入り次第、経腸栄 養を開始するのがベスト(健常者なら5〜7日 程度遅らせてもかまわないといわれている) 7.“蛋白>糖質(炭水化物)>>脂質” • 急性期は異化亢進→窒素排泄増加が起こる ので、蘇生期を過ぎたら積極的に蛋白補充 (最低1g/kg/日、可能ならば1g/kg/日×スト レス係数) • 蛋白、糖(炭水化物)、脂質は、それぞれ蛋白 1g=4kcal、糖1g=4(3.4)kcal、脂質1g=9kcalの 熱量が得られる⇒最終的には『蛋白10~20%、 糖質60~70%、脂質10~20%』の比率を目指 す 経腸栄養のメリット • 腸管粘膜の維持(腸管粘膜萎縮の予防) • 免疫能の維持、バクテリアルトランスロケーションの 回避 • 代謝反応の亢進抑制(侵襲からの早期回復) • 胆汁うっ滞の回避 • 消化管の生理機能の維持(腸管蠕動運動、消化管 ホルモン分泌) • TPN(total parenteral nutrition)に比較して合併症が 少ない • 長期管理が容易 • 安価 Take Home Message~輸液編~ ① 救急外来には「元気そうなショック」も.バイタルサイ ン、身体所見からルール・イン! ② hypovolemic shockへの初期輸液は絶対暗記!細胞 外液は“3:1の法則” ③ クリティカル・ケアでは4つの相(蘇生期、安定期、利 尿期、栄養期)に分けてアプローチ ④ 輸液の目的は『水とNaの補充』とシンプルに考える ⑤ どこを狙って輸液をするか?細胞外ならNaの多い輸 液、細胞内脱水や高Na血症の補正なら5%ブドウ糖液 ⑥ 循環動態のコントロールがつかなくなったらサードス ペースを意識.改善みられないときは「新しいイベント が起こっている?!」 ⑦ 低Na血症へのアプローチは必須!鑑別も出来るよう にしておきましょう ⑧ 忘れないでね“M”gと“P” Take Home Message~栄養編~ ① 患者に害のない栄養療法を組む“Do no harm !”:蘇生期は 栄養投与を行わず、急性期は“Permissive underfeeding” ② 高血糖状態は作らず、目標は150mg/dL ③ 低栄養状態でブドウ糖を投与する場合は注意深い経過観 察が必要。常にRefeeding症候群を疑わせるような臨床症 状、検査所見がないかを確認する ④ 低栄養状態にブドウ糖を投与する際には 1.十分量のビタミンB群を投与(特にビタミンB1) 2.電解質フォロー:カリウム、マグネシウム、リン 3.体重測定とともに、In-Outバランスに中止を払う ⑤徐々にカロリーアップ:“Permissive underfeeding” ⑥カロリー摂取を目指すよりも、まずは蛋白投与を意識する。 最低1g/kg/日をクリアできるように ⑦可能な限り最初の一週間は、連日『体液量』と『電解質』の フォロー ⑧少量でもいいから可能な限り腸管を使う
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