PowerPoint プレゼンテーション

平成19年5月27日
第23回広友会総会にて
血友病の基礎と最近の知見
-特にインヒビターについて-
奈良県立医科大学
小児科
嶋 緑倫
血友病A治療製剤の純度向上
製剤
承認 第Ⅷ因子活性 比活性
(u/ml)
(u/mg)
血漿
クリオ製剤
1970
濃縮製剤
1979
加熱濃縮製剤
1985
モノクローナル抗体製剤
1988
遺伝子組み換え型製剤
1993
アルブミン無添加組み換え型製剤 2001
1
2
25
25
25、50、100
100
100、200、400
0.012-0.015
0.25
0.41-0.86
0.52-1.015
2.5、5,10
12.8
4753
安全な製剤のために実施されている操作
1.原料血漿や最終製品の核酸増幅検査(NAT)
2.加熱処理
3.有機溶媒/界面活性剤(S/D)処理
4. ウイルス除去膜ろ過(ナノフィルトレーション)
5.イムノアフィニティークロマトグラフィー
6. イオン交換クロマトグラフィー
血友病のインヒビターとは?
製剤中の第VIII因子あるいは第IX因子を非自己として認識して出
現する抗体
インヒビター
第VIII因子
製剤
第Ⅷ因子
Bリンパ球
血液
インヒビター陽性
血友病インヒビター
種類:
抗Ⅷ因子同種抗体、Ⅸ因子同種抗体
抗Ⅷ因子自己抗体(後天性血友病A)
免疫学的特性:
IgG(IgG4中心)
フェノタイプ:
Low responder <5 BU/ml
High responder ≥5 BU/ml
一過性
Anamnestic response
タイプ1、タイプ2
インヒビターが疑われるとき
第VIII因子製剤や第IX因子製剤による
補充療法の止血効果が悪くなってきたとき
製剤の回収率の低下
凝固因子活性の半減期の低下
インヒビターの測定
第VIII因子製剤(50単位/kg)
第VIII因子活性
(%)
100
50
25
0 30分
12時間
24時間
インヒビターの定義
ベセスダ法
正常血漿1ml中の第VIII因子あるいは第IX因子
活性を50%不活性化する抗体を1ベセスダ
単位/mlと定義する
インヒビター陽性 >0.5~0.6 ベセスダ単位/ml
インヒビター力価
第VIII因子活性
第VIII因子製剤
1000
100
100
5
0
5
7
第VIII因子製剤投与後日数
14
血友病Aインヒビターの発生率と保有
率
発生率(incidence)
15~52%(血友病A<2%)
保有率(prevalence)
8~10%
インヒビター発生と投与日数
10日(中央値)
血友病Bインヒビターの発生率と特徴
1.発生率(incidence)
血友病Aインヒビターより低い 1.5~3%
2.投与日数
中央値:9~11投与日数
3. アレルギー症状、アナフィラキシー症状多い
インヒビターの発生要因
1.患者由来
血友病重症度
遺伝子異常の種類
人種
インヒビターの家族歴
治療開始年齢
2.治療由来
製剤:血漿由来, 遺伝子組み換え型製剤
FVIII/VWF製剤
製剤の製法、ウイルス不活化工程
輸血、免疫賦活化(感染、予防接種)
他の薬物療法(インターフェロン)
インヒビター発生率に関する議論
インヒビターの発生と投与開始年齢
早く補充療法を開始するとインヒビターは
発生しやすいか?
1)Lorenzo et al. Br J Haematol 2001
62例のPUPs(<2%)における初回投与年齢と
インヒビター発生率:
0-6か月(41%), 6か月-1.0歳 (29%), >1 (12%)
2)van der Bom et al. Thromb Haemost 2003
81例の重症血友病A患者100投与日でのインヒビ
ター発生率と初回
投与年齢:
0-6か月(34%), 6か月-1.0歳 (20%), >1歳-1歳6
か月 (13%)
3)Goudemand J et al. Blood 2006
62例のPUPs,6か月以内に初回投与した群のイン
ヒビター発生率は高い
3)Santagostino E et al. Blood ( ASH 2004)
102例の重症血友病Aにおけるインヒビター発現リ
スク:
インヒビター発現率と輸注開始年齢に関連なし
4)Kreutz W et al. Blood (ASH 2004)
血友病A176例、血友病B 30例のPUPsにおける
インヒビター発現率:
インヒビター発現率と輸注開始年齢に関連なし、
primary prophylaxis<on demand補充療法
インヒビター発生率に関する議論
インヒビターの発生率と製剤
インヒビターの発生率は遺伝子組み換え型製
剤と血漿由来製剤で違うか?
遺伝子組み換え型第VIII因子製剤の国際臨床
研究では発生率は24-33%と血漿由来製剤の率
より高い。
従来の調査では検出できなかった一過性の
インヒビターや補充療法が続行できる低力価の
インヒビターが検出されたため。
治療抵抗性のインヒビターの発生率は変わらない
Influence of the type of factor VIII concentrate on the incidence of factor VIII
inhibitors in previously untreated patients with severe hemophilia
A:further clarifications on the cohorts’ followup.
Goudemand J, Rothschild C, Demiguel V, et al. Blood. 2006; 107: 46-51.
重症血友病APUPs 62例を対象にフォンヴィレブランド因子
(von Willebrand因子:VWF)含有血漿由来製剤
(FVIII/VWF)と遺伝子組み換え型製剤(rFVIII)の
後ろ向き調査報告
3つのグループ
all inhibitor (インヒビター力価>0.6BU)
high inhibitor (インヒビター力価>5BU)
high inhibitor and/or ITI
結果
1.インヒビター発生率 rFVIII>FVIII/VWF:
all inhibitor、high inhibitor/ITI
2.インヒビター発生率 rFVIII=FVIII/VWF
high inhibitor
注意:本調査は遺伝子組み換え型第VIII因子
製剤とvon Willebrand因子含有製剤との比較
であり、von Willebrand因子を含有しない血漿
由来第VIII因子製剤は調査対象になっていない。
表1 インヒビター保有血友病に対する治療
● 急性出血時もしくは手術時の止血療法
・ バイパス止血療法
・ インヒビター中和療法
● インヒビター消失を目的とした治療
・ 免疫寛容導入(Immune Tolerance
Induction; ITI)療法
治療法
バイパス
止血療法
インヒビター
中和療法
種 類
製 剤 名
製造/販売会社名
規格(溶解液量)
血漿由来活性型
プロトロンビン複合体製剤
(aPCC)
ファイバ®
バクスター
500単位(10 ml)
1,000単位(20 ml)
遺伝子組換え活性型
第VII因子(FVIIa)製剤
ノボセブン®
ノボノルディスク
ファーマ
1.2 mg(2.2 ml)
4.8 mg(8.5 ml)
血漿由来第VIII因子製剤
クロスエイトM®
日本赤十字社
250単位(10 ml)
500単位(10 ml)
1,000単位(10 ml)
遺伝子組換え型
第VIII因子製剤
コージネイト®FS
バイオセット
バイエル薬品
250単位(2.5 ml)
500単位(2.5 ml)
1,000単位(2.5 ml)
バクスター
250単位(5 ml)
500単位(5 ml)
1,000単位(5 ml)
コンファクト®F
化血研/藤沢薬品
250単位(10 ml)
500単位(20 ml)
1,000単位(40 ml)
クリスマシン®-M
ベネシス/
三菱ウェルファーマ
400単位(4 ml)
1,000単位(10 ml)
化血研/藤沢薬品
250単位(5 ml)
500単位(10 ml)
1,000単位(20 ml)
アドベイト®
血漿由来
第VIII因子/VWF
複合体製剤
血漿由来
第Ⅸ因子製剤
ノバクト®M
バイパス製剤の使用方法
製 剤
推奨される用法・用量
コ メ ン ト
1 1日最大投与量は200単位/kgを超えない。
2 血友病Bインヒビターのみならず、血友病Aインヒビターの一
aPCC
50-100 単位/kg
8-12時間毎1-3回/日
部では輸注後にインヒビターが上昇することがある。
3 重篤な出血や手術時は8-12時間毎の投与が1-2週間程度必
要であるが、わが国では保険診療上、原則として連続3日以
内の使用と定められている。
4 トラネキサム酸との同時使用は避けるべきである。
1 小児では半減期が短いため、2時間毎の投与間隔が推奨さ
れる。
2 出血後可及的早期の投与がより有効である。
rFVIIa
製剤
90-120 μg/kg
2-3時間毎1-3回/日
3 重篤な出血や手術時は2時間毎の投与を1-2日間行い、以後
は徐々に投与間隔を延ばしながら1-2週間投与する。
4 急性出血時や手術、抜歯時にはトラネキサム酸との併用*が
有効であるが、腎尿路出血では併用しない。
∗
トラネキサム酸25mg/kgを8時間毎の経口投与もしくは10mg/kgを8時間毎の静注
aPCC:活性型プロトロンビン複合体製剤、rFVIIa:遺伝子組換え活性型第VII因子
APCCとrFVIIaの長所短所
APCC
rFVIIa
遺伝子組み換え型
長所
作用時間 長い
インヒビターへの影響 なし
投与回数 少ない
血栓症発症リスク 少ない
手術の止血療法
血友病Bアナフィラキシー例 使用可
血漿由来
作用時間 短い(半減期は2.5h)
インヒビターの影響あり
投与回数 多い
短所
インヒビター治療の問題点
1.全国多施設で実施
5000人の患者が1000以上の施設で治療
2.経験と独自の治療方針
施設間格差
3.検査およびモニタリングの困難性
4.医療連携の不備
バイパス止血療法の動向
ファイバに起因する血栓症発症
16 血栓性エピソード/3.95x105 回の投与
DIC, 心筋梗塞が多い
13/16(81%)血栓症発症リスク有り
・過剰投与 8/16(50%)
>400U/kg (2), >300(3), >200(3)
2/16 (12%)
・肥満
・aPCC投与直前にVIIa製剤の投与
・冠状動脈疾患
・カテーテル
Ehrlich HJ et al: Haemophilia (2002)
バイパス止血療法の動向
ノボセブンに起因する血栓症の発症
1.Lusher J et al:Blood Coagulation and Fibrinolysis(1998)
1488出血エピソード、8000回の投与から
DIC 2症例(APCC投与後、広範な壊死と細菌感染症)
狭心症 2症例(SLE, FXI インヒビター症例)
2.Peerlinck K et al: Thromb Haemost(1999)
急性心筋梗塞 72歳 抜糸時の持続輸注療法時
3.Rosenfeld SB et al:Thromb Haemost (2002)
肺塞栓症 22歳 aPCC製剤とrFVIIaの長期反復投与後
4.Van Der Planken MG et al: Blood Coagul Fibrinolysis (2002)
深部静脈血栓症 38歳 感染症と肛門周囲潰瘍、長期投与
(1ヶ月)
新しいバイパス療法
1.rFVIIa高用量療法
2.バイパス製剤の予防的投与
3.新たなバイパス療法製剤の開発
MC710(化血研):VIIa +X製剤
アナログrFVIIa(ノボ):rFVIIa変異体
高用量ノボセブン投与の有効性
Kavakli K, et al. Thromb Haemost 2006;95:600-5
90 g/kg x 3 → 270 g/kg x 1 →
270 g/kg x 1
90 g/kg x 3
n=11
n = 10
Total
n=21
90 g/kg x 3
有効
無効
7 (64%)
4 (36%)
7 (78%)
2 (22%)
14 (70%)
6 (30%)
有効
無効
6 (60%)
4 (40%)
7 (70%)
3 (30%)
13 (65%)
7 (35%)
標準量3回のほうが
有効
両者とも同様
高用量単回のほうが
有効
2 (20%)
2 (22%)
4 (21%)
6 (60%)
2 (20%)
5 (56%)
2 (22%)
11(58%)
4 (21%)
270 g/kg ×1
b
ノボセブン高用量単回投与試験の結論
1.ノボセブン 270 g/kgの単回ボーラス投与は、止血
効果、関節可動域拡大、疼痛コントロールの点で、標
準投与3回と同等の結果が期待できる。
2.インヒビター保有患者において、ノボセブンの標準投
与法並びに高用量投与法のいずれにおいても安全性
に問題は認められなかった。
3.ノボセブンの単回高用量ボーラス投与は、止血に必
要な注射の回数を減らす可能性がある。
バイパス療法の予防的治療
予防治療の原理
止血に必要な製剤投与量>予防に必要な投与量
〔例〕定期補充療法 >1%で予防効果あり
バイパス療法でも可能か?
血友病インヒビター陽性例の治療目標
インヒビターを除去して通常の血友病に戻る
免疫寛容療法
(Immune tolerance induction:ITI)
ITIの最初の報告
Brackmannら(Lancet 1979)
20歳の血友病Aインヒビター例
FVIII 100U/kg+APCC製剤60U/kg
3か月後インヒビター 1BU/ml
7か月後 インヒビター消失
代表的なITIプロトコール
1.Bonn(高用量法)
100-200 U/kg 2x/日(HR), 50-100 U/kg/日、隔日(LR)
2.Mälmo
protein Aカラムで抗体吸着(<10BU)
FVIII:C>30%に維持,γ-globulin, cyclophosphamide
3.Mauser-Bunschoten(低用量法)
25-50 U/kg 隔日または3回/週
奈良医大小児科ITIプロト
コール
◆対象:インヒビター力価<5BU/ml
◆製剤:血漿由来, 遺伝子組み換え型VIII製剤
◆投与量:50-100単位/kg
連日2週、以後3-3.5回/週
100単位/kg
連日
インヒビター力価
( BU/ml )
100
単位/kg 70単位/kg
週3回 週3回
pdFVIII製剤
50単位/kg
週3回
25単位/kg
週3回
出血回数
(回/年)
20
1,000
100
10
10
1
’94 ’95 ’96 ’97 ’98
’99
’00 ’01 ’02 ’03
ITI 開始前後のインヒビターの推移と出血頻度(症例1)
50単位/kg
連日
rFVIII製剤
50単位/kg 50単位/kg
週3回
週4回
インヒビター力価
( BU/ml )
出血回数
20単位/kg
週3回
(回/年)
100
1,000
100
50
10
1
’96
’97
’98
’99
’00
’01
’02
’03
ITI開始前後のインヒビターの推移と出血頻度(症例2)
ITI成功因子は?
年齢
インヒビター出現-ITI開始期間
過去のインヒビター力価
ITI開始時のインヒビター力価
ITI中のインヒビター力価
製剤投与量
製剤の種類
ITI開始後 インヒビター
インヒビター ITI開始時
インヒビター
インヒビター
ITI開始 出現からITI インヒビター
インヒビター 消失までの
過去の最高値
症 例
出現時年齢
時年齢 までの期間 値(BU/ml) 最高値(BU/ml) 期間
(BU/ml)
転 帰
1
1歳6か月
75
6歳
4.5年
<0.5
0.9
3か月
成功
2
1歳9か月
346
17歳
15年
0.75
34
12か月
成功
3
3歳8か月
532
14歳
10年
0.9
0.9
1か月
成功
4
1歳1か月
5
9歳
8年
2.0
102
ー
成功
5*
1歳11か月
62
8歳
7年
3.9
17
24か月
成功
6*
1歳10か月
30
5歳
4年
<0.5
<0.5
0か月
成功
7
11か月
67
3歳
2年
3.0
390
12か月
成功
8
1歳3か月
12
7歳
6年
0.5
1.4
3か月
成功
9
1歳3か月
24
2歳
1年5月
6.5
100
10
6歳11か月
76
13歳
7年
6.0
2,700
ー
中止
11
10か月
80
2歳
1年
4.1
204
ー
中止
2BU
ITI開始後抗体が減少したがなかなか消失
しないとき
中止すべきか
続行すべきか
100単位/kg
連日
rFVIII製剤
100単位/kg
週4回
インヒビター力価
( BU/ml )
出血回数
100単位/kg
週3.5回
(回/年)
40
1,000
100
20
10
1
’96
’97
’98
’99
’00
’01
’02
’03
ITI開始前後のインヒビターの推移と出血頻度
9
血友病治療の将来
長時間作用型製剤
遺伝子治療
細胞補充療法
肝(細胞)移植
長時間作用型製剤の開発
凝固因子の修飾による方法
1)PEG(ポリエチレングリコール)化製剤
例:PEG インターフェロン
2)PEG化リポソーム製剤
例:PEGLip-FVIII
3)ポリシアル化
4)安定型活性型第VIII因子
(1)プロテインC抵抗性FVIII
(2)A2-A3架橋FVIII
PEG 2000
80-110 nm
リン脂質
FVIII
脂質二重層
ポリエチレングリコール-リポソーム(PEG-Lip)膜で
安定化されたFVIIIの模式図
血友病遺伝子治療
1)ウイルスベクターを用いる方法
(1)Avigenトライアル
筋肉
FIX発現
アデノ関連ウイルス(AAV)- FIX遺伝子
(2)Chironトライアル
肝臓
脾臓
末梢静脈
レトロウイルスーBDDFVIII
(3)新たなウイルスベクター
レンチウイルスベクター
FVIII発現
血友病遺伝子治療
2)遺伝子導入細胞補充
(1)TKTトライアル
BDDFVIII遺伝
子
FVIII発現
皮膚から採取した
繊維芽細胞
増殖
(2)新たな方法
幹細胞、骨髄巨核球、肝細胞、ES細胞に遺伝子導入
1. 肝移植
脳死移植
生体肝移植
2.肝細胞移植
移植
ヒト肝細胞
移植
uPA/SCIDマウス
患者から採取した
肝細胞
血友病マウス
第VIII因子遺伝子
第IX因子遺伝子
患者
マウス腎被膜下に移植した
マウス肝細胞組織
Ohashi et al Hepatology Vol41,132-140,2005
9
血友病遺伝子異常を修復する治療
Zinc (亜鉛) finger DNA protein:
1つの亜鉛イオンから細長いアミノ酸配列が突き出したような形
をしている。これをヒトの細胞に挿入すると、間違った遺伝子情報
を持つDNA構造部分に自動的に結合して、体の先天的な
修復メカニズムを刺激し、問題のある部分を正しい塩基配列に
直させる(Nature 2005)。