第58回宇宙科学技術連合講演会 長崎ブリックホール Nov. 12, 2014 準天頂衛星L1-SAIF信号の 低緯度地域対応の試み 坂井 丈泰、 伊藤 憲 電子航法研究所 Nov. 2014 - Slide 1 Introduction • 準天頂衛星システム(QZSS): – 準天頂衛星軌道上の測位衛星による衛星測位サービス。 – GPS補完信号に加え、補強信号を放送。補強信号:L1-SAIF、LEXの2種類。 – 初号機「みちびき」を2010年9月に打ち上げ、技術実証実験を実施中。 • L1-SAIF補強信号による測位精度: – GPS L1 C/A信号と同一方式の信号でサブメータ級の測位精度を提供する補強信号。 – 通常時は所期の測位精度を達成。 – 電離圏活動活発期に、特に南西諸島において測位精度が劣化するため、対策を検討 している。 • 内容: (1) 準天頂衛星システムL1-SAIF補強信号 (2) 通常時の測位精度 (3) 電離圏活動活発期における測位精度 (4) 電離圏伝搬遅延の対策とその評価 Nov. 2014 - Slide 2 準天頂衛星システムの構想 準天頂衛星(QZS) GPSや静止衛星 • 高仰角からサービスを提供可能。 • 山間部や都市部における測位・放送ミッシ ョンに有利。 • 東経135度を中心に配置 • 初号機「みちびき」: 離心率0.075、軌道傾斜角43度 • 高仰角から放送する情報により、GPS衛 星の捕捉を支援できる。 Nov. 2014 - Slide 3 準天頂衛星システムの機能 • GPS補完機能: L1C/A, L2C, L5, L1C信号 – GPS補完信号として、GPS信号に似た測位信号を放送。 – 天頂付近の高仰角から測位信号を提供することで、都市部や山岳地域などで衛星 数の不足を補い、いつでも位置情報が得られるようにする。 – ユーザ側は、既存GPS受信機のソフトウェア改修程度で対応できる。 – 宇宙航空研究開発機構(JAXA)が技術実証実験を実施。 • GPS補強機能: L1-SAIF, LEX信号 – すべてのGPS衛星を対象として、ディファレンシャル補正情報等を補強信号に乗せ て放送する。 – L1-SAIF信号:移動体測位用。補強信号の国際標準SBASと同じ信号形式。 – ユーザ側は、既存SBAS対応受信機のソフトウェア改修程度で対応できる。 – 電子航法研究所がL1-SAIF補強信号の開発を担当。衛星打上げ後に技術実証実 験を行い、現在も引き続き実験を実施中。 Nov. 2014 - Slide 4 L1-SAIF補強信号 一つの信号で3つの機能 準天頂衛星 補強信号 (補完機能) ①補完機能 GPS衛星群 補強信号 (誤差補正) 補強信号 (信頼性付与) ②誤差補正機能 測位信号 ③信頼性付与機能 • 一つの補強信号で3つの機能:補完機能(レンジン グ)・誤差補正(目標精度=1m)・信頼性付与。 • ユーザ側では、1つのGPSアンテナによりGPSとL1SAIFの両信号を受信:受信機の負担軽減。 SAIF: Submeter Augmentation with Integrity Function ユーザ (GPS受信機) Nov. 2014 - Slide 5 サブメータ級補強の仕組み 準天頂衛星 GPS衛星 クロック誤差 軌道誤差 • さまざまな誤差を補正 • 信頼性の情報 補強情報 電離層 測距機能 対流圏 高仰角 ユーザ(1周波GPSアンテナ) Nov. 2014 - Slide 6 L1-SAIF実験局(L1SMS) • L1-SAIF実験局(L1SMS:L1-SAIF Master Station): – L1-SAIF補強メッセージをリアルタイムに生成し、 JAXA地上局(つくば)に送信する。 – 電子航法研究所構内(東京都調布市)に設置。 – 補強メッセージの生成に使うGPS測定データについては、国土地理院電子基準点ネット ワーク(GEONET)から取得する。 準天頂衛星 GPS衛星 ループ アンテナ 測定 データ L1-SAIF メッセージ GEONET L1SMS QZSS主制御局 国土地理院 電子航法研究所 JAXA地上局 (配信拠点=新宿) (東京都調布市) (つくば) Nov. 2014 - Slide 7 リアルタイム動作試験 • 電子基準点940058(高山)におけるユーザ 測位誤差。 南北方向誤差(m) • モニタ局配置は、札幌・茨城・東京・神戸・福 岡・那覇の6局構成。 • 実験期間: 2008年1月19~23日 (5日間) • 使用衛星:GPSのみ 水平 測位誤差 垂直 測位誤差 RMS 1.45 m 2.92 m 最大 6.02 m 8.45 m RMS 0.29 m 0.39 m 最大 1.56 m 2.57 m システム GPS単独測位 L1-SAIF補強 GPS単独 L1-SAIF 補強 東西方向誤差(m) Nov. 2014 - Slide 8 通常時の測位精度 南西諸島での例(960735 和泊) 北海道での例(950114 北見) • 2012年7月25~28日(4日間)のユーザ測位誤差(L1-SAIF補強あり)。 • 測位精度はユーザ位置によらず同様の傾向となる。 • 二周波数モードより一周波数モードのほうが、測位精度については若干良好な傾向。 Nov. 2014 - Slide 9 電離圏活動活発期の測位精度 LT 14:00 南西諸島での例(960735 和泊) 北海道での例(950114 北見) • 2013年10月23~26日(4日間、Kp指数~7+)のユーザ測位誤差(L1-SAIF補強あり) 。 • 南西諸島で測位精度が大幅に劣化する。 • 二周波数モードでは劣化は大きくない。また、北海道では一周波数モードと二周波数モー ドで同様な精度となっている。 →原因は電離圏伝搬遅延にある。 Nov. 2014 - Slide 10 最大の誤差要因:電離層伝搬遅延 電離層 遅延マップ (NASA/JPL) • 赤道異常:磁気赤道の南北にある、電子密度が高い領域。 • 常に存在するが、密度や大きさの変化を予測することは難しい。 • 特に南西諸島方面では電離層伝搬遅延を補正しきれず、誤差となってあらわれる。 Nov. 2014 - Slide 11 電離圏伝搬遅延の補正量 PRN28 PRN20 5m 南西諸島(960735 和泊) 北海道(950114 北見) • 南西諸島では、実際の遅延量に対して補正量が5m以上違ってしまっている。 • 測位精度の劣化は、電離圏伝搬遅延の補正残差に原因がある。 より正確な補正情報を生成する必要がある。 Nov. 2014 - Slide 12 L1-SAIFの電離圏伝搬遅延補正 60 Latitude, N 60 45 30 30 • 広域補強を行うL1-SAIF補強信号 では、広い範囲にわたって有効な 補正値が必要。 • 5度×5度の格子点(IGP)における 補正値を放送する。 • ユーザは、各衛星から到来する測 距信号の電離層通過点(ユーザ IPP)を求め、その位置の補正値を 内挿により求める。 • 補正精度は、モニタ局の配置に依 存する。 15 IGP IGP 0 0 120 150 Longitude, E 180 ユーザ IPP IGP Nov. 2014 - Slide 13 単層薄膜電離圏モデル Vertical Delay IPP Iv Slant Delay Ionosphere EL F(EL) • Iv Shell Height (350km) Earth • L1-SAIF補強メッセージで使用されている電離圏モデル。 • 電離圏は高度一定の単層薄膜で近似され、伝搬遅延はその上の1点で生じる。 • 垂直遅延量(Vertical Delay)は傾斜係数(Obliquity Factor) F(EL) を乗じること で衛星方向の遅延量(Slant Delay)に換算できる。 Nov. 2014 - Slide 14 傾斜係数 Obliquity Factor 6 H=100km Slant delay Vertical delay 4 H=350km Elevation Angle 2 Ionosphere Height H=1000km 0 15 30 Satellite Elevation, deg 45 Obliquity Factor = Slant / Vertical • 衛星方向の遅延量と垂直遅延量の比で、仰角の関数。 • 電離圏高度の関数でもある(L1-SAIFでは350kmと規定)。 Nov. 2014 - Slide 15 電離圏モデルによる影響の例 Observe here if H=350km 電離圏高度 H=350km, EL=25deg Observe different points if H=600km 電離圏高度 H=600km, EL=25deg • MCSでは、2つのGMS監視局は同じ位置の電離圏の影響を受けているものと想定。 • 実際の電離圏高度が350kmではない場合、異なる位置の電離圏の影響を受けている。 Nov. 2014 - Slide 16 対策の検討 • 今回は単層薄膜モデルを使用: – ユーザ受信機側の負担軽減のため、まずは現状の単層薄膜モデルによる対策を検 討する。 – 現状で電離圏遅延量の伝送に使用されているメッセージタイプ26に近いフォーマット のメッセージとする。IGP位置情報はメッセージタイプ18をそのまま利用。 メッセージタイプ26には予備スペースが7ビットある。 – 新しいメッセージのメッセージタイプ番号はとりあえず55とする。 • 方式1:電離圏高度を可変とする。 – 電離圏伝搬遅延情報に加えて、電離圏のピーク高度に関する情報を伝送する。 • 方式2:衛星別に補正情報を提供する。 – 電離圏伝搬遅延情報を、それぞれのGPS衛星について個別に生成する。 • 方式3:方向別に補正情報を提供する。 – 電離圏伝搬遅延情報を、GPS衛星の見える方向によって別々に生成する。 Nov. 2014 - Slide 17 メッセージタイプ26:電離圏遅延補正 • メッセージタイプ26:電離圏伝搬遅延量 – IGPにおける垂直遅延量を伝送。 – メッセージタイプ26のメッセージ1個で、15ヶ所のIGPにおける遅延量を伝送できる。 メッセージタイプ26:電離圏伝搬遅延量 Repeat Content Bits Range Resolution 1 IGP Band ID 4 0 to 10 1 1 IGP Block ID 4 0 to 13 1 15 IGP Vertical Delay 9 0 to 63.875 m 0.125 m GIVEI 4 (Table) — 1 IODI 2 0 to 3 1 1 Spare 7 — — Nov. 2014 - Slide 18 新メッセージの検討(1) • 方式1:電離圏高度を可変とする。 – 電離圏伝搬遅延情報に加えて、電離圏のピーク高度に関する情報を伝送する。 – MCSとユーザ受信機の双方において、IPP位置と傾斜係数の計算にあたりこのメッ セージで与えられるピーク高度を使用する。 – メッセージタイプ55:メッセージタイプ26に電離圏高度の情報を付加したもの。 Repeat Content Bits Range Resolution 1 IGP Band ID 4 0 to 10 1 1 IGP Block ID 4 0 to 13 1 15 IGP Vertical Delay 9 0 to 63.875 m 0.125 m GIVEI 4 (Table) — 1 IODI 2 0 to 3 1 1 Peak Height 2 (Table) — 1 Spare 5 — — メッセージタイプ55:拡張電離圏伝搬遅延量(その1) MT26と同じ 電離圏高度 00: 350 km 01: 250 km 10: 600 km 11: 1,000 km Nov. 2014 - Slide 19 新メッセージの検討(2) • 方式2:衛星別に補正情報を提供する。 – 電離圏伝搬遅延情報を、それぞれのGPS衛星について個別に生成する。 – メッセージタイプ55:メッセージタイプ26に衛星の識別情報を付加する。 衛星IDを与えるには8ビットが必要だが、メッセージ26の空きは7ビットしかない。 今回は実験ということで、5ビットでGPS衛星のPRN番号を与える。 – この方式では、追加の地上モニタ局が必要となる可能性があることに注意。 Repeat Content Bits Range Resolution 1 IGP Band ID 4 0 to 10 1 1 IGP Block ID 4 0 to 13 1 15 IGP Vertical Delay 9 0 to 63.875 m 0.125 m GIVEI 4 (Table) — 1 IODI 2 0 to 3 1 1 SV ID 5 1 to 32 1 1 Spare 2 — — メッセージタイプ55:拡張電離圏伝搬遅延量(その2) MT26と同じ 衛星ID (PRN-1) Nov. 2014 - Slide 20 新メッセージの検討(3) 衛星の見える方向の 分割例 • 方式3:方向別に補正情報を提供する。 010 – 電離圏伝搬遅延情報を、GPS衛星の見える方向別に生成する。 – ここでは、全天を5つの方向に分割することとする。 101 001 011 メッセージタイプ55:メッセージタイプ26に方向の識別情報を付加する。 – この方式についても、追加の地上モニタ局が必要となる可能性がある。 Repeat Content Bits Range Resolution 1 IGP Band ID 4 0 to 10 1 1 IGP Block ID 4 0 to 13 1 15 IGP Vertical Delay 9 0 to 63.875 m 0.125 m GIVEI 4 (Table) — 1 IODI 2 0 to 3 1 1 Direction 3 (Table) — 1 Spare 4 — — メッセージタイプ55:拡張電離圏伝搬遅延量(その3) 100 MT26と同じ 衛星の 見える方向 001: 天頂 010: 北 011: 東 100: 南 101: 西 Nov. 2014 - Slide 21 性能評価:全体構成 • L1-SAIF実験局(L1SMS)による実験: – メッセージタイプ55(方式1~3)に対応するようにL1-SAIF実験局を改修。 – 本実験ではオフラインモードで動作させることとして、GEONETから収集したRINEXファ イルを使用する。 – メッセージタイプ55に対応するよう改修したユーザ側ソフトウェアを使用して補強性能を 評価する。 GPS Satellites QZS ユーザ側ソフト ウェアで評価 オフラインモー ドで動作 GEONET Measurements L1SMS L1-SAIF Message QZSS MCS GSI Server ENRI JAXA TKSC (Tokyo) (Tokyo) (Tsukuba) Nov. 2014 - Slide 22 性能評価:L1-SAIF実験局 • L1-SAIF実験局(L1SMS)の改修: – メッセージタイプ55(方式1~3)に対応するようにL1-SAIF実験局を改修。 – 方式2・3でIPP観測データを増やすため、IMS(Ionosphere Monitor Station)監視局か らのデータを入力できるようにする。 – ユーザ側ソフトウェアについても、メッセージタイプ55に対応するよう改修した。 GPS Satellites GMS Data GMS+IMS Data GEONET RINEX Files GMS/IMS Measurements Clock/Orbit Corrections Ionosphere Corrections L1SMS Upgraded for MT55 L1-SAIF Message Performance Evaluation Receiver Software MT26/55 User Algorithms User Measurements Nov. 2014 - Slide 23 性能評価:モニタ局の配置 • GEONET観測データを使用。 – 30秒データ。 • 実験で使用するモニタ局: – 6つのGMS(Ground Monitor Station) 局を、MSASに近い配置とした。 • クロック/軌道補正と電離圏伝搬遅延補 正の両方に使用。 – 8つのIMS(Ionosphere Monitor Station)局を配置した。 • 方式2・3の電離圏伝搬遅延補正に使用。 • 評価用ユーザ局: – 北から南まで、5局を使用することとした (図中に(1)~(5)で表示)。 Nov. 2014 - Slide 24 現状の性能 LT 14:00 南西諸島での例(ユーザ(4)=960735 和泊) 北海道での例(ユーザ(1)=950114 北見) • 電離圏活動の激しいとき(Kp~7+)には、ディファレンシャル補正をしても特に南西諸 島においては測位精度が劣化することがある。 • 北海道地方ではそれほど大きくは劣化しないことが多い。 • 補正処理は6 GMSのみで実行。 Nov. 2014 - Slide 25 方式1:電離圏高度を可変とする LT 14:00 南西諸島での例(ユーザ(4)=960735 和泊) 北海道での例(ユーザ(1)=950114 北見) • 電離圏高度を600kmにすると、測位精度に改善がみられる。 • しかし、北海道地方(及び電離圏活動静穏期)では逆に測位精度が劣化する。 • 補正処理は6 GMSのみで実行。 Nov. 2014 - Slide 26 方式1:電離圏高度を可変とする 電離圏活動活発期(2011年10月23~26日) 電離圏活動静穏期(2012年7月22~24日) • 電離圏高度を600kmにすると、北方と南方における測位精度が近づく傾向にある。 • しかし、効果はそれほど顕著ではない。 Nov. 2014 - Slide 27 方式2:衛星別に補正 LT 14:00 南西諸島での例(ユーザ(4)=960735 和泊) 北海道での例(ユーザ(1)=950114 北見) • 南西諸島における測位誤差を40%程度改善する一方、南西諸島以外の地域にお ける測位精度は現状をおおむね維持。 • クロック/軌道補正は6 GMS、電離圏補正は6 GMS + 8 IMSで実行。 Nov. 2014 - Slide 28 方式3:方向別に補正 LT 14:00 南西諸島での例(ユーザ(4)=960735 和泊) 北海道での例(ユーザ(1)=950114 北見) • 南西諸島における測位精度を、方式2と同程度に改善。 • 南西諸島以外の地域では現状の性能を維持。 • クロック/軌道補正は6 GMS、電離圏補正は6 GMS + 8 IMSで実行。 Nov. 2014 - Slide 29 方式2・3:衛星別/方向別の補正 電離圏活動活発期(2011年10月23~26日) 電離圏活動静穏期(2012年7月22~24日) • 電離圏補正性能についてはそれほど大きな違いはない。 • 必要となるメッセージ数(現状の5倍)の観点より、方式3が優れているものといえる。 Nov. 2014 - Slide 30 Conclusion • 電子航法研究所ではL1-SAIF補強信号を開発: – 信号形式:GPS/SBASと同じL1 C/Aコード(PRN 183を使用)。 – 移動体ユーザ向けの補強情報を放送する。 • 測位精度を劣化させる主要因は電離圏擾乱: – 通常時は所期の測位精度を達成。 – 特に南西諸島において、電離圏擾乱時に測位精度が大きく劣化することがある。 – 電離圏擾乱時に測位精度を維持するために、新しいメッセージを検討した。 方式1:電離圏高度可変、方式2:衛星別の補正、方式3:方向別の補正 性能評価の結果、方式3により40%程度の測位誤差低減を期待でき、また南西諸 島以外の地域における性能劣化が少ないことがわかった。 • 今後の検討課題: – 過去の電離圏嵐の際の性能評価。 – 東南アジア諸国における性能評価。 – 電離圏伝搬遅延補正のためのさらに別の補正方式の検討。
© Copyright 2024 ExpyDoc