GPS/GNSSシンポジウム 東京海洋大学 Nov. 4-6, 2010 補強信号L1-SAIFについて 電子航法研究所 坂井 丈泰 Nov. 2010 - Slide 1 はじめに • 準天頂衛星システム(QZSS): – 準天頂衛星軌道上の測位衛星による測位サービス。 – GPS補完信号(測位衛星として動作)に加え、補強信号(付加的な情報を提供して全体 の性能向上を図る)を放送。補強信号:L1-SAIF、LEXの2種類。 – 7つの研究開発機関が参加して技術実証実験を実施する。 – 初号機「みちびき」を9月11日に打ち上げ、所定の軌道に投入。 • L1-SAIF実験局: – 国土交通省の委託を受け、電子航法研究所が開発を担当。 – L1-SAIF信号に乗せて放送する補強情報を生成し、JAXA地上局に伝送する。 – 電子航法研究所(東京都調布市)実験室内に整備、各種試験を完了。 • 内容:(1) 準天頂衛星システムとL1-SAIF補強信号 (2) (3) (4) (5) L1-SAIF信号の設計 L1-SAIF実験局の開発 リアルタイム動作試験 試験信号の受信 Nov. 2010 - Slide 2 (1) 準天頂衛星システム Nov. 2010 - Slide 3 準天頂衛星打上げ 2010年9月11日 20:17 準天頂衛星「みちびき」を打上げ • H-IIA 18号機により種子島宇宙センター から打ち上げられた。 • 打上げから28分27秒後、「みちびき」を正 常に分離。 第2段ロケット から分離された 「みちびき」 (c) 三菱重工業 (c) JAXA/三菱重工業 Nov. 2010 - Slide 4 準天頂衛星のメリット 準天頂衛星(QZS) 緯度(度) GPSや静止衛星 経度(度) 東経135度を中心に配置 離心率0.1 軌道傾斜角45度 • 高仰角からサービスを提供可能。 • 山間部や都市部における測位・放送ミッシ ョンに有利。 Nov. 2010 - Slide 5 準天頂衛星「みちびき」 質量 Approx. 4,000kg (NAV Payload:Approx. 320kg) 発生電力 Approx. 5.3 kW (EOL) (NAV Payload: Approx. 1.9kW) 設計寿命 10 years Radiation Cooled TWT TWSTFT Antenna C-band TTC Antenna Laser Reflector L1-SAIF Antenna L-band Helical Array Antenna (図:JAXA QZSS PT) Nov. 2010 - Slide 6 全体構成 QZSS衛星 測位信号 L1CA/L1C/L1-SAIF: 1575.42 MHz L2C: 1227.60 MHz L5: 1176.45 MHz LEX: 1278.75 MHz GPS衛星 双方向時刻同期信号 測位信号 Up: 4.43453GHz Down: 12.30669GHz L1CA/L1C*: 1575.42 MHz L2C: 1227.60 MHz L5*: 1176.45 MHz 衛星レーザ測距 (SLR) *今後対応予定 TT&C / NAV Message Uplink SLR局 モニタ局ネットワーク 時刻同期 管理局 主統制局 (MCS:Master Control Station) TT&C・航法メッセ ージアップリンク局 ユーザ受信機 GEONET (国土地理院) 関係機関が実験を実施 時刻管理系:NICT 広域DGPS補正:ENRI など (JAXA QZSS PT提供の図より) Nov. 2010 - Slide 7 準天頂衛星の機能 • GPS補完機能: – GPS補完信号として、GPSと互換性のある測位信号を放送。 – 天頂付近の高仰角から測位信号を提供することで、都市部や山岳地域などで衛星 数の不足を補い、いつでも位置情報が得られるようにする。 – 宇宙航空研究開発機構(JAXA)が技術実証実験を実施。 – 準天頂衛星の正確な位置の計算などのため、国内・アジア地域にモニタ局を展開。 – ユーザ受信機は、ソフトウェアの改修程度で対応できる。 • GPS補強機能: – すべてのGPS衛星を対象として、距離測定精度を改善するディファレンシャル補正 情報や信頼性改善のための情報を、補強信号に乗せて放送する。 – L1-SAIF信号:移動体測位用。国際標準規格SBASと互換性のある信号形式で、ソ フトウェアの改修程度で対応できる。 – 電子航法研究所では、国土交通省からの委託によりL1-SAIF補強信号の開発を実 施。衛星打上げ後に技術実証実験を実施する予定。 Nov. 2010 - Slide 8 放送信号 信号名 周波数 帯域幅 最低受信電力 L1CD 24 MHz –163.0 dBW L1CP 24 MHz – 158.25 dBW QZS-L1-C/A 24 MHz – 158.5 dBW QZS-L1-SAIF 24 MHz – 161.0 dBW 24 MHz – 160.0 dBW 25 MHz – 157.9 dBW 25 MHz – 157.9 dBW 42 MHz – 155.7 dBW QZS-L1C 1575.42 MHz 補完信号 (JAXA) QZS-L2C 1227.6 MHz L5I 補強信号 (ENRI) QZS-L5 L5Q QZS-LEX 補強信号 (JAXA/GSI) 1176.45 MHz 1278.75 MHz • 補完系:L1C/A、L2C、L5はGPSとほぼ互換(PRN193) • 補強系:L1-SAIFはGPS/SBASとほぼ互換(PRN183)、LEXは独自仕様 • 詳細はIS-QZSSに規定あり Nov. 2010 - Slide 9 (2) L1-SAIF信号の設計 Nov. 2010 - Slide 10 L1-SAIF補強信号 準天頂衛星 補強信号 (補完機能) 補強信号 (誤差補正) 補強信号 (信頼性付与) • 一つの補強信号により、3つの機能を提供:補完機能 (距離測定)・誤差補正(目標精度=1m)・信頼性付与。 • ユーザ受信機は、1つのGPS用アンテナによりGPSと L1-SAIFの両方を受信:受信機の負担軽減。 • 情報の伝送はメッセージ単位:メッセージ順序・内容は 可変=フレキシブルな情報提供。 SAIF: Submeter Augmentation with Integrity Function GPS衛星群 測位信号 ユーザ (GPS受信機) Nov. 2010 - Slide 11 サブメータ級補強の仕組み 準天頂衛星 GPS衛星 クロック誤差 軌道誤差 • さまざまな誤差を補正 • 信頼性の情報 補強情報 電離層 測距機能 対流圏 高仰角 ユーザ(1周波GPSアンテナ) Nov. 2010 - Slide 12 L1-SAIFメッセージ形式 • 航空用補強システムSBASと同一のフォーマット: – GPS L1 C/Aコード、PRN183で送信。毎秒1個のメッセージ。 – メッセージの内容はメッセージタイプで識別。送信順序は任意=フレキシブル。 – SBAS用ソフトウェアを流用可能:受信機ソフトウェアの開発負担を軽減。 – サブメータ級の測位精度は達成可能。 • 補強メッセージの内容: – 日本全国で利用可能な広域ディファレンシャル補正情報:衛星軌道・クロック・電離 層遅延・対流圏遅延をそれぞれ別々に補正。 – 補強対象:GPS・準天頂衛星自身・(GLONASS)・(ガリレオ) – 基本的な補強情報はSBAS互換メッセージで、高度な補強処理については拡張メッ セージで対応。 プリアンブル 8ビット メッセージタイプ 6ビット データ領域 212ビット CRCコード 24ビット 250ビット/1秒 Nov. 2010 - Slide 13 GPS/L1-SAIFシミュレータ • GPS/L1-SAIFシミュレータ: – GPS L1 C/A信号および QZSS L1-SAIF信号を発生。 – あらかじめ与えられているGPS衛星およびQZSS衛星の軌道情報および信号仕様に 従ってRF信号を生成。 – Spirent社製GPS/SBASシミュレータ GSS7700を改造。 • 実験用に付加した機能: – L1-SAIFメッセージをLANポートから TCP/IP接続により入力するための コマンドを追加。 – L1-SAIFメッセージは、このコマンドに よるか、あるいはシミュレータ内部で 生成されたSBASメッセージが流用 される。 GPS/L1-SAIF シミュレータ GPS/L1-SAIF 受信機 Nov. 2010 - Slide 14 GPS/L1-SAIF受信機 • プロトタイプGPS/L1-SAIF受信機: – GPS L1 C/A信号およびQZSS L1-SAIF信号を受信。 – IS-QZSSの規定に従い、L1-SAIFメッセージを復調・適用する。 – 古野電気製。 • 実験用に付加した機能: – L1-SAIFメッセージをLANポートから TCP/IP接続にて入力できる。 – L1-SAIFおよびSBAS信号を同時に 処理し、複数の測位結果を出力可能。 – 持ち運び可能なサイズ・重量。 GPS/L1-SAIF 受信機 Nov. 2010 - Slide 15 RF信号互換性試験 電子航法研究所(調布市) 古野電気 Spirent シナリオ GPS/L1-SAIF シミュレータ L1-SAIF信号 RFケーブル GPS/L1-SAIF 受信機 TCP/IP L1-SAIFメッセージ 復調済みメッセージ 比較・照合 • 測距機能:L1-SAIFシミュレータが生成したRF信号を使用して、正常にユーザ位置が得られ ることを確認。 • メッセージ復調:シミュレータにLANポートから入力したL1-SAIFメッセージと、受信機が出力 した復調済みメッセージが一致することを確認。シミュレータには送信時刻の2秒以上前にメ ッセージを入力する必要がある。 • 2009年2月まで断続的に実施・完了。 Nov. 2010 - Slide 16 RF信号互換性試験(結果) 2008/9/10 00:05:00 to 06:00:00 (6 hours) GPS単独測位 L1-SAIF補強あり OK! Nov. 2010 - Slide 17 (3) L1-SAIF実験局の開発 Nov. 2010 - Slide 18 L1-SAIF実験局(L1SMS) • L1-SAIF実験局(L1SMS:L1-SAIF Master Station): – L1-SAIF補強メッセージをリアルタイムに生成し、 JAXA地上局(つくば)に送信する。 – 電子航法研究所構内(東京都調布市)に設置。 – 補強メッセージの生成に使うGPS測定データについては、国土地理院電子基準点ネット ワーク(GEONET)から取得する。 準天頂衛星 GPS衛星 ループ アンテナ 測定 データ L1-SAIF メッセージ GEONET L1SMS QZSS主制御局 国土地理院 電子航法研究所 JAXA地上局 (配信拠点=新宿) (東京都調布市) (つくば) Nov. 2010 - Slide 19 L1-SAIF実験局の外観 電子基準点データ リアルタイム 収集システム 補正情報リアルタイム 生成・配信装置 通信用ルータ装置 データ サーバ Nov. 2010 - Slide 20 JAXA-ENRIインターフェース • 地上システムICD(Interface Control Document)「G-ICD」: – JAXA QZSS主制御局(MCS)と電子航法研究所L1-SAIF実験局(L1SMS)との間 のインターフェースを規定。 – 2008年1月に初版制定。 – TCP/IP接続で授受するデータのフォーマットをビット単位で詳細に規定。 • 2本の通信回線による構成: – ISDN(64kbps)および光回線(1.5Mbps)を利用。 – ISDN(低速回線):L1-SAIFアップロードのための高信頼回線。 – 光回線(高速回線):実験局ステータスやモニタ局観測データを交換。 電子航法研究所 アップロードメッセージ ISDN ルータ L1SMS ルータ 光回線 その他データ JAXA ルータ MCS A系 ルータ MCS B系 Nov. 2010 - Slide 21 他機関と実施した試験 試験略称 実施時期 測位系間外試験(その1) 2008年11月 NEC府中 L1SMS、MCS 測位システム試験 2008年12月 NEC府中 L1SMS、MCS、NP-EM、GPSL1-SAIF受信機 ENRI調布 L1SMS、ETS-VIII端末装置 ETS-VIII利用実験 2009年2月 測位系間外試験(その2) 2010年1月 測位地上系総合試験 2010年2月 使用機材 軌道上 ENRI仙台 ETS-VIII端末装置、GPS/L1SAIF受信機 ENRI調布 L1SMS JAXAつくば MCS ENRI調布 2010年2月 L1SMS JAXAつくば MCS ENRI調布 総合検証試験 ETS-VIII L1SMS JAXAつくば MCS MELCO鎌倉 NP-PFM、GPS/L1-SAIF受信機 NP:航法ペイロード、EM:エンジニアリングモデル、PFM:プリフライトモデル Nov. 2010 - Slide 22 測位システム試験 NEC(府中市) 電子航法研究所 JAXA アップロードメッセージ L1SMS シミュレータ HUB ログ GPS/L1-SAIF 受信機 ログ LAN HUB L1-SAIF信号 RFケーブル MCS B系 航法ペイロード EM ログ 航法ペイロード • JAXA MCSとL1-SAIF実験局(L1SMS)間、航法ペ イロードとGPS/L1-SAIF受信機の間のインターフェ ース試験。 • データパケットのフォーマット検証(アップロード系の み)、ログ情報の比較・照合。 • 2008年12月に実施・完了。 受信機 L1SMS シミュレータ Nov. 2010 - Slide 23 測位系間外試験(その2) 電子航法研究所(調布市) 電子航法研究所 JAXA(つくば) アップロードメッセージ ルータ L1SMS シミュレータ JAXA ルータ MCS A系 ルータ MCS B系 ISDN ルータ その他データ 光回線 ログ ログ • 実際に使用する通信回線を利用したJAXA MCSとL1-SAIF実験局(L1SMS)の インターフェース試験。 • データパケットのフォーマット検証(全パケット)、ログ情報の比較・検証。 • 2010年1月に実施・完了。 Nov. 2010 - Slide 24 総合検証試験 電子航法研究所(調布市) 電子航法研究所 JAXA(つくば) アップロードメッセージ ルータ ルータ L1SMS シミュレータ JAXA MCS A系 ISDN ルータ その他データ ログ ルータ 追跡管制系 光回線 ログ MELCO(鎌倉) 追跡管制系 • JAXA MCS、L1-SAIF実験局(L1SMS)、航法ペイ ロード、GPS/L1-SAIF受信機をすべて接続した試験。 • データパケットのEnd-to-Endの整合性確認、ログ情 報の比較・照合。 • 2010年2月に実施・完了。 航法ペイロードPFM L1-SAIF信号 RFケーブル GPS/L1-SAIF 受信機 ログ Nov. 2010 - Slide 25 (4) リアルタイム動作試験 Nov. 2010 - Slide 26 リアルタイム動作試験 • 電子基準点940058(高山)におけるユーザ 測位誤差。 南北方向誤差(m) • モニタ局配置は、札幌・茨城・東京・神戸・福 岡・那覇の6局構成。 • 実験期間: 2008年1月19~23日 (5日間) 水平 測位誤差 垂直 測位誤差 RMS 1.45 m 2.92 m 最大 6.02 m 8.45 m RMS 0.29 m 0.39 m 最大 1.56 m 2.57 m システム GPS単独 GPS単独測位 L1-SAIF補強 L1-SAIF 補強 東西方向誤差(m) ※測量級の受信機及びアンテナを使用 Nov. 2010 - Slide 27 連続稼動試験 • L1-SAIF実験局を長期間にわたり連続運転: – ハードウェア・ソフトウェアの安定性を確かめる。 – 期間1: 2008年3月11日~2008年5月24日(74日間) – 期間2: 2008年6月10日~2008年8月28日(79日間) ※これ以上は所内停電のため不可 • 試験結果:大きなトラブルなし: – 人による介入なしに正常に連続動作。 – ユーザ測位精度にも特に目立った問題はみられない。 ユーザ測位精度の例 (単位: m) 940030 男鹿 93101 御前崎 940058 高山 940085 土佐清水 950491 佐多 水平 0.362 0.363 0.362 0.423 0.502 垂直 0.517 0.536 0.548 0.608 0.739 水平 0.460 0.440 0.347 0.416 0.552 垂直 0.657 1.236 0.678 0.699 1.371 電子基準点 期間1 期間2 ※測量級の受信機及びアンテナを使用 Nov. 2010 - Slide 28 ETS-VIIIによる実験 GPS衛星 ETS-VIII(きく8号) L1-SAIF実験局 (東京都調布市) GPS/L1-SAIF受信機 (仙台空港) • ETS-VIII衛星(きく8号)利用実験として、補強メッセージを衛星回線で伝送する実験を実施。 • 衛星回線・LANを経由して、L1-SAIFメッセージを遠隔地のGPS/L1-SAIF受信機で受信・処理 し、補強済みの測位結果を得た。 • 信号形式が異なり、またETS-VIII端末に測距機能がないことから、補完機能の試験は不可。 Nov. 2010 - Slide 29 ETS-VIIIによる実験(結果) 水平方向測位誤差(データ点数=21696) 水平方向測位誤差(データ点数=21696) 高頻度 高頻度 中心がずれている 南北方向誤差(m) 南北方向誤差(m) 2009年2月17 01:21:39~07:23:14 UTC (約6時間) 中心がずれない 低頻度 東西方向誤差(m) GPS単独測位 測位精度(水平方向) 1.221 m (垂直方向) 4.043 m 低頻度 東西方向誤差(m) L1-SAIF補強あり 測位精度(水平方向) 0.412 m (垂直方向) 0.464 m Nov. 2010 - Slide 30 (5) 試験信号の受信 Nov. 2010 - Slide 31 試験信号の受信 • 軌道上の準天頂衛星から放送されたL1-SAIF試験信号を受信。 • 2010年10月23日09:46:48~10:48:07(GPS時刻)にかけて、電子航法研究所岩沼分室(仙 台空港内)に設置してあるL1-SAIFプロトタイプ受信機(古野電気製)により受信した。 • 何らの補正も施していないため、主に受信機クロックの影響による変化がみられる。 Nov. 2010 - Slide 32 まとめ • 準天頂衛星システム(QZSS) L1-SAIF補強信号: – 準天頂衛星は、GPS補完信号に加え、補強信号を放送する。 – 補強信号: すべてのGPS衛星について、測位性能を改善するための補強情報を提 供する。 – 補強信号L1-SAIF信号については、国土交通省の委託を受け、独立行政法人電子 航法研究所が開発を担当。 • L1-SAIF実験局: – JAXAの高精度測位実験システムと連携して稼動する、L1-SAIF実験局を電子航法 研究所内に整備した。 – H21年度までに性能試験・JAXAとの連接稼動試験を完了し、技術実証実験に向け た準備を整えた。 – 当所L1-SAIF受信機により、軌道上の準天頂衛星が放送したL1-SAIF試験信号を 受信できた。初期チェックアウトの完了後、技術実証実験を実施する。
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