GPS/GNSSシンポジウム2005 東京海洋大学 Nov. 16, 2005 GPS/GNSSシンポジウム2005 チュートリアル GPS/GNSSの基礎知識 電子航法研究所 坂井 丈泰 Nov. 2005 Sakai, ENRI Introduction SLIDE 1 • GPSは衛星航法システムの代名詞。 – 位置測定手段のデファクトスタンダード:小型、ローコスト。 – カーナビをはじめ、生活インフラとして定着しつつある。 – 時刻同期など、見えないところでも利用されている。 • 本チュートリアルでは、応用上必要な知識を解説: (1)GPSの仕組み(GPSの構成、GPS衛星) (2)位置測定の仕組み(測距信号、位置計算、航法メッセー ジ) (3)測位精度の向上(2周波、DGPS、RTK-GPS) (4)補強システム(DGPSビーコン、ICAO SBAS/GBAS) (5)将来動向(GPS近代化など) Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 2 (1)GPSの仕組み • GPSの構成 • スペースセグメント • コントロールセグメント Nov. 2005 Sakai, ENRI GPS/GNSSとは SLIDE 3 GPS(Global Positioning System;全(汎)地球測位システム) • 米国が運用している衛星航法システム • 1978年より構築開始、1995年フル運用宣言(FOC) • 元来は軍用:比較的初期から民間でも利用 GNSS(Global Navigation Satellite System;全世界的航法衛星 システム) • ICAO(国際民間航空機関)の定義:民間航空航法に使用可能 な性能を持つ衛星航法システム – 具体的には GPS/GLONASS+SBAS/GBAS • 一般には、GPS/GLONASS/Galileo/各種補強システムの総称 Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 4 GPS衛星の姿 GPS Block I GPS Block IIR GPS Block II/IIA GPS Block IIF Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 5 GPSの構成 スペースセグメント • 測距信号生成・放送 • 衛星間測距 ICD (Interface Control Document)でインター フェースを規定 コントロールセグメント ユーザセグメント • ユーザ受信機 • 衛星運用・状態監視 • モニタ局データ収集 • 航法メッセージ作成・アップロード Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 6 スペースセグメント • 24衛星(6軌道面、高度約2万km) – 実際は29衛星が稼動中 – 軌道傾斜角55度、周期11:58 • 標準測位サービス(SPS):軍民共用 – L1(1575.42MHz):C/Aコード (1.023Mcps) • 精密測位サービス(PPS):軍用 – L2(1227.6MHz):P/Yコード(10.23Mcps) • スペクトラム拡散:CDMA、測距 – 衛星のPRN番号(1~37):拡散コード (FAA HP) • 航法メッセージ(50bps):軌道情報 • 1978~ Block I プロトタイプ 1989~ Block II/IIA 実用型(SA機能あり) 1997~ Block IIR 衛星間リンク、Autonav Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 7 コントロールセグメント COLORADO SPRINGS GAITHERSBURG HAWAII CAPE CANAVERAL ASCENSION DIEGO GARCIA KWAJALEIN MCS (Garrett, USAFより) • MCS 1局+バックアップMCS: 全体制御、航法メッセージ生成 • Monitor Station(MS) 6局(うち1局はMCS内): L1/L2測距、航法メッセージ受信 • Ground Antenna(GA) 4局: コマンド・データ送信用 Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 8 (2)位置測定の仕組み • 距離の測定 • 位置計算 • 座標系 • 航法メッセージ Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 9 距離測定の原理 同期した時計が双方にあれば、 時間差から距離がわかる • あらかじめ決められたタイミングで衛星が信号を放送し、受信側は受信した信号の 時刻情報と自分の持っている時計を比べて時間差を算出する。 (課題1) 同期した時計が送・受信側双方に必要 (課題2) 受信タイミングを正確に測定しなければならない • 10-9秒(1ns=0.3mに相当)以上の精度で時間差を測定したい。 Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 10 GPSの測距信号 航法メッセージ (50bps) ×20460 20ms(5996km) PNコード (1.023Mcps) ×1540 978ns(293m) 搬送波 (1575.42MHz) 位相反転 0.635ns(19.03cm) 送信波 = 航法メッセージ(±1)×PNコード(±1)×搬送波 Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 11 距離の測定 この遅延時間を 測りたい 送信波のPNコード 受信波 T 受信機が生成する レプリカ信号 積分 時間差t Narrow Correlator Wide Correlator t=0となるように レプリカ信号のタイミングを調整する t -3T -2T -T 0 T 2T 3T →受信タイミングを正確に測定できる Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 12 受信タイミングの測定 受信信号 相関 演算 比較 + - 相関 演算 カウンタ 擬似距離 Early 信号 レプリカ信号生成 数値制御発振器(NCO) Late 信号 1チップ Early 信号 Plain 信号 Late 信号 0.5 0.5 ちょうど良い 遅い→早める 早い→遅くする Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 13 測位の原理 衛星の位置は既知 r2 真距離 r2 r3 r1 r3 r1 r4 擬似距離 (x, y, z) • 受信機の時計は正確ではない: 擬似距離(r) = 真距離(r) + クロック誤差(s) • 1点で交わるように s を調節する s s クロック誤差s s 1点で交わらない Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 14 位置の計算 • N個の球面の交点を求める計算は非線形:近似解(x, y, z, s)のまわりで線形化: -sinAZ1•cosEL1 -cosAZ1•cosEL1 -sinAZ2•cosEL2 -cosAZ2•cosEL2 : : -sinAZN•cosELN -cosAZN•cosELN -sinEL1 1 -sinEL2 1 : -sinELN 1 x y •d z = d s G • dx = dr dx = G-1 • dr 衛星の幾何学的配置を表す行列 収束するまで繰り返して解く(ニュートン法;数回程度で収束する)。 • N>4 の場合は最小二乗法を利用: dx = (GT G)-1 GT • dr • 重みをつける場合は: 重み行列 W は: W= dx = (GT W G)-1 GT W • dr 1/s12 1/s22 0 0 が最適 1/sN2 r1 r2 : rN Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 15 測位精度とDOP • 擬似距離 r に含まれる誤差が解 x に及ぼす影響を共分散行列で評価: dx = G-1 • dr Cov(x) = sxx2 syx2 szx2 ssx2 sxy2 syy2 szy2 ssy2 sxz2 syz2 szz2 ssz2 sxs2 sys2 szs2 sss2 Cov(r) = s112 s122 … s1N2 s212 s222 s2N2 = s2 IN : sN12 sN22 sNN2 Cov(x) = G-1 cov(r) (G-1)T = s2 (GT G)-1 = s2 C 測距精度 衛星の幾何学的配置による影響 • 衛星の配置による影響を C= (GT G)-1 の係数で代表させる(DOP=Dilution of Precision): GDOP PDOP HDOP VDOP = (C11+C22+C33+C44)1/2 = (C11+C22+C33)1/2 = (C11+C22)1/2 = C331/2 G: Geometry P: Position H: Horizontal V: Vertical DOP に測距精度 s を乗じると、おおよその測位精度の見積りとなる。 Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 16 測位誤差の要因 衛星クロック誤差 太陽光線 衛星軌道情報の誤差 電離層 電離層遅延(~100m) 周波数に依存 高度250~400km程度 対流圏遅延(~20m) 対流圏 マルチパス 高度7km程度まで Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 17 測位誤差の例 東西, m -20 -20 0 20 測位誤差(東方向), m 東京都調布市 2001年10月19日 南北, m 0 高度, m 測位誤差 測位誤差(北方向), m 20 10 5 0 -5 -10 15 10 5 0 -5 20 10 0 -10 1 2 3 経過時間, h 4 5 Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 18 衛星の配置による影響 N 測位誤差(北方向), m 20 0o 30o 29 14 60o 0 -20 -20 W 25 05 90o E 30 21 18 0 20 測位誤差(東方向), m S 仰角の低い衛星が悪影響を及ぼしている 09 06 23 Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 19 測距精度の仰角依存性 • 測距精度は、衛星の仰角が低くなると 悪化する。 40 対策(1):低仰角の衛星は使わない(仰 角マスク)。 対策(2):仰角に依存して重みをつけて 測位に使用する(衛星数>4の 場合)。 測距誤差, m 30 20 • 仰角マスクは、測量等では15度以上、 移動体航法では5~10度程度が普通。 • 仰角マスクを超える衛星について、重 みをつけて計算するのが一般的。 10 0 0 30 60 90 衛星仰角, deg 仰角 Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 20 ユーザ測位誤差 • DOP:各衛星の測距誤差が一様と仮定。 測距誤差が si とわかっていれば、より詳しくユーザ測位誤差を評価できる。 Cov(x) = sxx2 syx2 szx2 ssx2 sxy2 syy2 szy2 ssy2 sxz2 syz2 szz2 ssz2 sxs2 sys2 szs2 sss2 s12 Cov(r) = s22 0 0 = W-1 sN2 • 重みつきの演算を仮定: dx = (GT W G)-1 GT W • dr Cov(x) = (GT W G)-1 = C* Cov(x) の対角要素より測位精度がわかる。 UNE(User Navigation Error) あるいは FOM(Figure of Merit)などという。 HUNE = (C*11+C*22)1/2 VUNE = C*331/2 H: Horizontal V: Vertical • ただし、DOP については、常に先の定義を用いて計算する。 Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 21 測位精度の見積り 測位誤差モデルの例(やや控えめ) 誤差要因 衛星軌道 衛星クロック 電離層遅延 対流圏遅延 マルチパス 受信機・その他 測距誤差 バイアス成分(m) 2.1 2.0 4.0 0.5 1.0 0.5 ランダム成分(m) 0.0 0.7 0.5 0.5 1.0 0.2 5.1 水平測位誤差(HDOP=2.0) 垂直測位誤差(VDOP=2.5) 1.4 合計(m) 2.1 2.1 4.0 0.7 1.4 0.5 5.3 10.6 13.3 米軍による規定(民間用標準測位サービス) 全世界平均(95%) 最悪(95%) 水平方向 13 m 36 m 垂直方向 22 m 77 m Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 22 航法メッセージ 300ビット = 6秒 5サブフレームで 1フレーム (1500ビット=30秒) サブフレーム #1 衛星の状態・クロック補正 サブフレーム #2 軌道情報(エフェメリス) サブフレーム #3 軌道情報(エフェメリス) サブフレーム #4 電離層補正・UTC・アルマナック サブフレーム #5 軌道情報(アルマナック) • 航法メッセージは全部で1500ビット(50bps→30秒)。繰り返し放送される。 • サブフレーム#1~3は、放送している衛星自身のクロック・軌道情報(エフェメリス情 報)。30秒毎に同じ内容が繰り返される。 • サブフレーム#4~5は、他のGPS衛星のおおまかなクロック・軌道情報(アルマナッ ク情報)や、電離層補正情報など。全体では25ページが順番に放送されるので、 全衛星の情報を得るには12.5分かかる。 Nov. 2005 Sakai, ENRI 測地系 SLIDE 23 • 在来の測地系:各国毎に固有の測地系が規定されていた。 – 我が国では、日本測地系(~2002)を利用。 – 経緯度原点の座標値を法令で規定。 – 各国内ではつじつまが合っている。 – 国境では同じ地点でも経緯度(および標高)が異なる。 • GPSは世界測地系(WGS)-84を採用。 – グローバルに全世界で利用可能でなければならない。 – 国境でも経緯度が連続。 – 衛星軌道などもWGS-84で表現。 • 我が国でも世界測地系を採用(2002年4月~)。 – 地図上で500m程度の変化。 Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 24 (3)測位精度の向上 • 2周波受信機 • ディファレンシャルGPS • 搬送波位相の利用 • RTK-GPS • VRS-RTK • 広域ディファレンシャルGPS Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 25 2周波受信機 民間用L1波(1575.42MHz) 軍用L2波(1227.6MHz) • GPS衛星は、民間用L1波に加え、軍用にL2波も放送している。 名称 周波数(MHz) L1 1575.42 L2 1227.6 コード C/Aコード P/Yコード P/Yコード コード速度(Mcps) 1.023 10.23 10.23 用途 民間用 軍用 軍用 • PコードのメッセージはYコードで暗号化されているが、Pコード自体は知られ ており、Pコードにより距離を測定することができる。 • 2周波数を利用することで電離層遅延補正が良好にできるようになり、測位精 度(特に垂直方向)が向上する。 Nov. 2005 Sakai, ENRI 2周波の利用による効果 SLIDE 26 20 測位誤差(北方向), m 1周波受信機 • L2波に乗せられているP/Yコードは民間 用のC/Aコードよりもチップ速度が速いた め、測距精度が良くなる。 0 -20 -20 • ところが、L2波はL1より6dBだけ電力が 小さく、結局精度はそれほど変わらない。 2周波受信機 0 測位誤差(東方向), m 20 • 2周波数の利用により、電離層遅延誤差 をうまく補正できる効果が大きい。 Nov. 2005 Sakai, ENRI ディファレンシャルGPS SLIDE 27 • GPSの誤差要因の多くは空間的な相関 があるから、離れた地点間でも測距誤差 は似ている。 • 位置がわかっている基準局で測距誤差 を求め、この誤差情報を移動局に送信、 移動局側で補正する。 基準局と同じ 測定誤差 移動局 測定誤差 基準局から誤差情報を送信 誤差要因 衛星軌道 衛星クロック 電離層遅延 対流圏遅延 マルチパス 受信機雑音 • ディファレンシャル補正の精度は移動局 ー基準局間の距離(基線長)に依存。 基準局 補正の可否 ○ ◎ ○ △ × × • 基準局受信機に加え、無線リンクなどが 必要。 備考 長基線では精度低下 よく補正できる 活動が激しいと精度低下 高度差に注意 むしろ増加 むしろ増加 Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 28 ディファレンシャルGPSの効果 20 測位誤差(北方向), m 測位誤差(北方向), m 20 0 -20 -20 0 測位誤差(東方向), m 1周波・2周波受信機による測位結果例 20 0 -20 -20 0 20 測位誤差(東方向), m ディファレンシャル処理した結果(1周波) Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 29 搬送波位相の利用 0.635ns(19.03cm) • 受信機に入ってくる搬送波の位相を測定することでも距離を測定できる。 – ドップラ効果:接近時は周波数が高く、離れる際には周波数が低くなる – 測定値の単位は波数:波長を単位として距離(の変化)に換算できる – アンビギュイティ:位相の整数部分(搬送波波形のどの山か)はわからない • 位置を求めるには、測定値に含まれるアンビギュイティを解く必要がある。 – たとえば、時間の経過による衛星位置の変化を利用し、矛盾のないアンビ ギュイティを求める – 衛星数が多いほど、周波数が多いほど、高速かつ確実に解ける • 高精度な測位が可能:測量用途では干渉測位などと呼ばれる(精度cmオーダ)。 • 基準局設備は必須。 Nov. 2005 Sakai, ENRI RTK-GPS SLIDE 30 • RTK-GPS(Realtime Kinematic GPS):基本的には搬送波位相による干渉測位 法であるが、アンビギュイティについてリアルタイムに解くようにしたもの。 – 初期化中であっても、移動局は移動していてかまわない – 衛星数が多いほど、周波数が多いほど、高速かつ確実に解ける – 一般には受信機に内蔵されたソフトウェアが実行する – 比較的高速の無線リンクが必要(最低でも2.4k~9.6kbps) • ディファレンシャルGPSの標準フォーマットRTCM-104でもサポートあり。 • 問題点: – 初期化に数分程度を要し、初期化に必要な時間や初期化の精度(アンビギ ュイティが正しく求められているか?)は、衛星の配置に依存する – 基線長は一般に10km程度以下でないと使えない →ネットワークRTK-GPS – 信号の中断に弱く、信号環境の影響が大きい – 測位精度の検証例が少ない Nov. 2005 Sakai, ENRI ネットワークRTK(VRS-RTK) SLIDE 31 • RTK-GPSの基線長が10km程度以下に制限される問題を解消するため、複数の 基準局をネットワーク化して利用するもの。 – 基本的には補正量を線形補間。ネットワークの内側で有効に作用する。 – ネットワークRTKにより、基線長(基準局からの距離)を数10km~100kmオ ーダに拡張できるとの報告がある。 – 補正に使用するデータ量が大きい。 基準局#1 • VRS(virtual reference station)方式: 基準局#2 – 移動局位置に仮想的な基準局を考える。 – 基準局ネットワークの観測データから、 移動局 仮想基準局における補正量を計算して ユーザに伝送する。 – データ量はRTK-GPSと同じままで、 基線長を延ばすことができる。 – ただし、ユーザごとに補正データを 基準局#3 作成・伝送する必要がある。 Nov. 2005 Sakai, ENRI 広域ディファレンシャルGPS SLIDE 32 • 以上のディファレンシャルGPS(あるいはRTK-GPSやネットワークRTK)方式は、 いずれもすべての測距誤差をまとめてひとつの補正値をつくる。 – 基準局から遠く離れると補正値が役に立たなくなる。 – ネットワーク化しても、線形補間ではうまくいかない場合がある。 • 地理的に広い範囲で有効な補正情報とするには、誤差要因別にすればよい。 – 誤差要因:衛星クロック誤差、衛星軌道誤差、電離層伝搬遅延、対流圏伝搬 遅延。マルチパスは対象外。 – 誤差要因別に補正値をつくり、それぞれ適切な関数で補間する。 – 大陸規模の広い範囲で有効。 • 広域ディファレンシャルGPS(Wide-Area Differential GPS:WADGPS)方式: – サービスエリア内では、単一の補正情報でどこでも補正が可能。 – 所要データレートは、100~数100bps程度。 – 地上基準局は、数100~1000km程度の間隔で配置する。 – 静止衛星やインターネットで配信すると効果的。 – 具体例:SBAS(静止衛星による補強システム:米国WAASや日本MSAS) Nov. 2005 Sakai, ENRI 広域ディファレンシャルGPS SLIDE 33 衛星クロック誤差 電離層遅延(~100m) • ユーザ位置の関数 • 垂直構造は薄膜で近似 など 電離層 • ユーザ位置の関数ではない • すべてのユーザに対して 同じ寄与 • SA ONなら速い変動 衛星軌道情報の誤差 • ユーザ位置の関数ではない • 寄与の程度はユーザ位置による (視線方向成分が問題) • 変動の周期は数10分以上 対流圏遅延(~20m) 対流圏 • ユーザ位置(特に高度)の関数 • モデルによる補正が有効 Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 34 (4)補強システム • DGPSビーコン • FM多重DGPS • SBAS/WAAS/MSAS • GBAS • インテグリティ Nov. 2005 Sakai, ENRI 補強システム SLIDE 35 • コアシステム(GPS/GLONASS)のみではアプリケーションが必要と する測位精度あるいは信頼性を得られない場合に、補強システム (augmentation system)を追加してこれを補う。 • 補うのは、測位精度あるいは信頼性。 • 一般的な構成は: (1) 地上基地局で測距精度や信頼性を監視 (2) 補強情報を作成してユーザに伝送 (3) ユーザ受信機で処理、測位精度や信頼性を向上させる • ディファレンシャルGPSによる補強はすでに普及 – ディファレンシャルGPS基準局+無線データリンク – 公共サービス:中波ビーコン、FM多重放送など Nov. 2005 Sakai, ENRI 中波ビーコンDGPS SLIDE 36 (海上保安庁) • 既存の中波ビーコンにDGPS補正データを重畳して放送する。 • 放送データはRTCM-SC104フォーマットで、ITU-R M.823-1として規格化され ている。 • 世界中で使用されている、もっとも普及しているDGPSシステム。 • 米国や韓国では内陸部にもNDGPS(Nationwide DGPS)として整備中。 Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 37 日本の整備状況 • • • • • • 世界各国の沿岸に整備中 日本では27局が運用中、沿岸をカバー 中波なので電波が届きやすい 24時間放送、無料 ビーコン一体型受信機も市販 インテグリティ情報は少ない(未対応の 受信機もある) 伝送速度 送信出力 有効範囲 伝送フォーマット 200 bps 75 W 200 km以内の海上 ITU-R M.823-1 (RTCM SC-104) メッセージタイプ Type 3, 5, 6, 7, 9 (海上保安庁HPより) Nov. 2005 Sakai, ENRI FM多重DGPS SLIDE 38 • FMラジオ放送のサブキャリアを使用してデ ータを多重化し、放送。 • 国内では衛星測位情報センター(GPex)が 1997年より運用中。7基準局、放送局は JFN系列他41局。 • 主にカーナビ用。精度は数m。 • DARC方式の多重データの一部に補正情 報を入れてある。5秒で1フレーム。数回に 一度の受信でもOK。 • 利用料金は対応受信機の価格に含まれる。 • TV放送のFM音声信号や垂直ブランキング も利用できる。国内でも実験例あり。 (衛星測位情報センター) Nov. 2005 Sakai, ENRI WAAS/SBASとは SLIDE 39 • ICAO(国際民間航空機関)が規格化した広域ディファレンシャル GPS方式による補強システム – 補正(補強)情報は静止衛星から放送。 – 大陸規模の広い地域で有効な補正情報。 – GPSと同一のアンテナ・受信回路でディファレンシャル補正情報 が得られる。 • 開発/運用中のSBAS: – 米国WAAS – 欧州EGNOS – 日本MSAS – カナダCWAAS – インドGAGAN 2003年7月より運用中。 2005年7月より試験運用中。 MTSAT-1Rを使用して試験中。 WAASをカナダにも拡張中。 開発中。 Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 40 WAASの概念 静止衛星 GPS衛星 ユーザ モニタ局ネットワーク アップリンク局 Nov. 2005 Sakai, ENRI 開発/運用中のSBAS SLIDE 41 CWAAS GAGAN (R. Fuller, Stanford Univ.) Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 42 ICAO GNSS GPS GLONASS WAAS GBAS ICAO GNSS 地上基地局 MSAS EGNOS ABAS 機上装置によるインテグリティ確保 あるいはハイブリッド航法 SBAS SBAS: Satellite-Based Augmentation System 静止衛星による広域補強システム GBAS: Ground-Based Augmentation System 地上基地局による狭域補強システム ABAS: Airborne-Based Augmentation System 機上装置による補強システム Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 43 GBASとは (FAA) • 航空機の精密進入・着陸用の狭域補強システム。 • VHF帯のディジタルデータリンクにより31.5kbpsで送信。インテグリティ情報や進 入経路情報等を含むため、データ量が多い。 • 地上局は複数の受信機・アンテナを装備。 – 冗長性+マルチパス削減 • 米国はLAASと称して開発中。 Nov. 2005 Sakai, ENRI 各SBASの状況 SLIDE 44 • 米国WAAS:2000年8月より試験運用を開始、2003年7月より 正式運用中。 – 非精密進入までは使用可能。 – 日本ではインマルサットPOR(PRN134)を受信可能。 – CWAAS(Canadian WAAS)の開発も進行中。 • 欧州EGNOS:ESTB(EGNOS System Test Bed)を構築し、 2000年春頃から試験を実施、本年7月から試験運用中。 – 日本ではインマルサットIOR(PRN131)が可視。 • 日本MSAS:1機目の静止衛星を打ち上げ、現在試験中。 – 正式運用は2機目を打ち上げた後となる予定。 • インドGAGAN:2年前に計画を発表して以来、開発中。 Nov. 2005 Sakai, ENRI SBASの機能 SLIDE 45 インテグリティ・チャネル • 航法出力のインテグリティ(完全性)を確保する機能。 • プロテクションレベル(測位誤差の上限;危険率107)を計算するための情報。実際の測位誤差がプロ テクションレベルを超える確率は 10-7 以下。 • 航法モードにより、プロテクションレベルの上限が決 まる。 ディファレンシャル補正 • 航法出力の位置情報精度を向上させる機能。 • 広域ディファレンシャル方式:GPS衛星の軌道・クロ ック誤差や電離層遅延量を補正するための情報を 放送する。 (いわゆるDGPSはこれだけ) 測距信号 • 航法システムのアベイラビリティ(有効性)を改善す る機能。 • SBAS衛星からGPSと同様の測距信号を放送する ことで、利用可能な航法衛星を増加させる。 Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 46 測位誤差の例(WAAS) 水平方向(RMS=0.730m) 垂直方向(RMS=0.827m) 2004年5月7~9日 WAAS @Goldstone (IGS gold) Nov. 2005 Sakai, ENRI インテグリティとは SLIDE 47 • 完全性(integrity):航法システムが出力する位置情報の正し さ。「GPSが出力している経緯度は果たして正しいか?」 – 実際に異常な位置を出力する例がある。 • 万が一、位置情報に誤りがあると危険な応用(safety-of-life application)がある: – 交通機関(特に航空機)の航法・測位、衝突防止。 – 精密農業等、工作機械の自動運転。 – 犯罪捜査や事故記録関係。 • GPSはインテグリティを保証していない。 – 精度や信頼性の規定はあるが、インテグリティについては規定なし。 – GPSだけでは安全性を確保できない。 – 航空分野では、国の責任でインテグリティ確保の仕組みを整備 (MSAS)。 Nov. 2005 Sakai, ENRI 異常測位の実例 SLIDE 48 • 2004年1月2日(JST)明け方にPRN23衛星が故障。位置出力で数10kmの誤差。 • 3時間後にようやくPRN23衛星が使用不可とされ、復旧した。 • 受信機によって反応が異なる:ディファレンシャル処理では補正できない。 → 正しい対処にはインテグリティ情報が必要。 Nov. 2005 Sakai, ENRI インテグリティ方式 SLIDE 49 • 第一段階:フラグ方式。 – GPS信号をモニタし、異常があればユーザに通知する。 – GPS航法メッセージにはhealth(健康状態)フラグがあり、異常衛星を 使用させない仕組みはある。 – しかし、異常発生からフラグへの反映までに数時間以上かかる例があ る:リアルタイム応用では致命的。 – 単純なON/OFFだけでは、航空機応用などで必要な精度が出せなくな る:アベイラビリティ(有効性)を確保できない。 • 第二段階:プロテクションレベル方式。 – プロテクションレベル(保護レベル)=測位誤差の上限。 – 測位誤差の上限を応用環境に照らして、危険があるならば利用をや める。 – 航空機航法の場合:危険率10-7以下を要求。 Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 50 プロテクションレベル • プロテクションレベル方式:ユーザ測位誤差の上限をプロテク ションレベルと呼び、これを計算するためのパラメータをユー ザに放送する。 • ユーザ受信機側では、与えられたパラメータから自己の位置 におけるプロテクションレベルを求めることで、測位誤差の上 限がわかる。 95%測位精度 • パラメータ:測距誤差・電離層遅延 危険率 補正残差の不確実性など • 上限を超える確率 =インテグリティリスク 測位誤差 プロテクションレベル×2 Nov. 2005 Sakai, ENRI プロテクションレベル(WAAS) SLIDE 51 水平プロテクションレベル(HPL) 水平測位誤差 垂直プロテクションレベル(VPL) 垂直測位誤差 Nov. 2005 Sakai, ENRI プロテクションレベルの使い方 航法モード 垂直誘導付進入 APV-I 垂直誘導付進入 APV-II 精密進入 CAT-I 垂直AL(VAL) 50 m 20 m → プロテクションレベル • ユーザ測位誤差の上限値(危険率10–7 )。 • 水平方向:HPL、垂直方向:VPL • PLと警報限界(Alert Limit)を比較し、 AL<PLなら利用不可とする: ユーザ測位誤差はALを超えない。 • プロテクションレベルの計算に 必要なパラメータがインテグリティ AL 情報として放送される。 インテグ リティ インテグリティOK 使用不可(警報) 正常動作 通常の 分布 インテ グリティ リスク 利用不可 利用可 HMI (危険情報) 0 0 10~15 m トライアングルチャート SLIDE 52 AL → ユーザ測位誤差 アベイラ ビリティ Nov. 2005 Sakai, ENRI WAAS試験結果の例 SLIDE 53 VAL=50m (LNAV/VNAV) (LPV) VAL=20m (APV) VAL=12m (CAT-I) (McHugh, FAA) Nov. 2005 Sakai, ENRI SLIDE 54 (5)将来動向 • GPS近代化計画 • GLONASS • Galileo • ICAO SBAS (MSAS) • 準天頂衛星システム Nov. 2005 Sakai, ENRI GPS近代化計画 • SA解除(2000年5月) • Block IIR-M(2005~):第二民間周波数(L2=1227.6MHz) – 航空用ARNSバンド外:民間航空用途には使えない – 科学観測、測量など – IOC 2008、FOC 2010 • Block IIF(2007~):第三民間周波数(L5=1176.45MHz) – Safety-of-Life ApplicationもOK(民間航空含む) – 航空用DME(960~1215MHz)との干渉あり – IOC 2012、FOC 2014 • Block III(2013~):次世代型GPS。L1C信号を追加 • MS増設:NIMA局を利用(6局) • MCS増設:Alternate MCS(西海岸に設置) SLIDE 55 Nov. 2005 Sakai, ENRI GLONASSの動向 SLIDE 56 • 24衛星(3軌道面、高度19100km) – 現在は14機を運用中:衛星寿命3年 – 軌道傾斜角65度、周期11:15 • L1(1592~1610MHz):SPコード(0.511MHz) • L2(1239~1254MHz):HPコード(5.11MHz) • FDMA方式による衛星識別 • SAはもともとない • GLONASS-M: 民間用SPコードをL2波に追加、寿命7年。2003~ GLONASS-K: 3周波、寿命10年以上、2008~ GLONASS-KM: 2015~? • 民間用L3波(1164~1215MHz帯)の追加も検討(GLONASS-K) • 2008年までに18機体制、2010~11年頃に24機体制を計画 Nov. 2005 Sakai, ENRI Galileoの動向 SLIDE 57 • 1999年にEUが計画を発表:最初から軍用ではない • 30衛星(3軌道面、高度23600km) • ユーザに応じたサービス – OS(Open Service) GPS SPSに相当、無料 – CS(Commercial Service) 有料の商用サービス、暗号化 – SoL(Safety-of-Life Service) 民間航空など – PRS(Public Regulated Service) 政府機関向け • E1(1589.5MHz)+E2(1561MHz): OS/CS/SoL/PRS E6(1260~1300MHz): CS/PRS E5a(1176MHz)+E5b(1201.5MHz): OS/SoL/CS(E5b) • 2005打上げ開始、2008 IOV(軌道上実証)、2010 FOC(完全運用) Nov. 2005 Sakai, ENRI ICAO SBAS SLIDE 58 • 米国WAAS:運用中。 – 2003年7月より正式運用中。航空機航法に利用OK。 – 非精密進入までは使用可能。 – 2008年のFOCに向けて性能向上作業中:モニタ局増加、 静止衛星交代、補強アルゴリズム改良、など。 • 欧州EGNOS:試験運用中。 – 2005年7月より試験運用中。 – 2006年IOC、2008年FOCを計画。 • 日本MSAS:試験中。 – 1機目の静止衛星を打ち上げ、現在試験中。 – 正式運用は2機目を打ち上げた後、2007年初頭を予定。 Nov. 2005 Sakai, ENRI 準天頂衛星システム SLIDE 59 • 8の字形の軌道を利用して、地域限定の測位・放送サービス を提供する衛星。 – 3機あれば、常時いずれかが日本上空に滞空できる。 – 高仰角から放送できるので、山岳地や都市部での測位サ ービスに有利。 • 2008年の打上げを目指して開発中。 – 補完信号:GPSと互換性のあるL1C(L1C/A)信号を放送 (ただし完全にGPSと同じではない)。 – 補強信号:SBAS互換サブメータ級補強信号(L1-SAIF)、 デシメータ級・センチメータ級補強(S帯周波数) Nov. 2005 Sakai, ENRI Conclusion SLIDE 60 • GPS/GNSSについて、応用上必要な事項を解説した。 – 30機近くの人工衛星、モニタ局を含む大規模システム。 – 電子・情報工学をはじめ、宇宙技術、測地学、地球物理学、超高層大気物 理学など、多くの分野を含む総合技術。 • 衛星航法システムの利用環境は劇的に変わりつつある: – 米国はWAASを運用。GPS近代化計画も進行中。 – 欧州はGalileoを開発中。新しいグローバル衛星航法システム。 – 日本はMSASの試験を開始している。 – さらに、準天頂衛星システムを開発中。2008年に運用開始を予定。 • 「いつでも・どこでも」位置はわかる。ではその次は…? – 精度・信頼性・安全性の向上:補強システムの充実。 – 屋内などでの測位サービス:他の測位手段とのハイブリッド化。 – 航法に必要な情報通信の統合:インテリジェント航法。
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