ロケット、人工衛星、ブラックホール 東京大学 理学系研究科 物理学専攻(本) 理化学研究所 宇宙放射線研究室(兼) 牧島一夫 2004/12/3 第6回理学部公開講演会 1. 自己紹介 1949年生まれ 宇宙X線の観測的研究 8機の科学衛星計画に参加 2004/12/3 第6回理学部公開講演会 2. なぜ宇宙に行きたいか 1. 「その場」で宇宙空間にじかに触れたい。電離層や地球磁気 圏の研究。 そこに宇宙があるから 2. 遠くへ行きたい。惑星探査 → 佐々木先生。 3. 大気に邪魔されずに宇宙を眺めたい。さまざまな天体物理学、 とくに大気に吸収されてしまう、赤外線、紫外線、X線、ガンマ 線などの観測。 4. 高い場所から地球を見渡したい。気象観測、通信・放送、測量、 資源探査、監視、… 5. 無重力の世界に行きたい。材料合成、生物学研究、一般相対 論の検証… 6. などなど…。 2004/12/3 第6回理学部公開講演会 宇宙線(宇宙からの放射線)の発見 「放射線が空気を電離し、わずかな 導電性が生じるため、電荷が逃げて しまうのだろう」 箔検電器 + + + + + + 2004/12/3 + 「放射線は地中から来ているのるだ ろうから、上空に上がれば影響は減 るはず」 1910年、ヘスは検電器を携えて気球 に搭乗。 上空ほど放射能が強い!→大気圏 外から未 知の放射線すなわち「宇宙 線」が来ている。 どこで宇宙線が作られているか、100 年ごしの謎。 第6回理学部公開講演会 気球に乗るヘス博士 (1912) 2004/12/3 第6回理学部公開講演会 3. 日本の宇宙開発体制 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 航 空 宇 宙 技 術 研 究 所 2003.10 宇宙科学研究所 (ISAS) 宇宙開発事業団 文科省 2002.1 科学衛星 (NASDA) 実用衛星 液体ロケット 種子が島 1969 トップダウン 固体ロケット 内之浦 宇宙航空研 1964 東京大学 1952 文部省 科学技術庁 2004/12/3 ボトムアップ 第6回理学部公開講演会 1981 生 産 研 内之浦はどこ? 1970年2月11日、ラムダ4Sロ ケット5号機で、日本初の人工衛 星「おおすみ」打上げ。 QuickTimeý Dz GIF êLí£ÉvÉçÉOÉâÉÄ Ç™Ç±ÇÃÉsÉNÉ`ÉÉǾå©ÇÈÇ …ÇÕïKóvÇÇ• ÅB 鹿児島県 肝属(きもつき)郡 内之浦町 2004/12/3 第6回理学部公開講演会 ミューロケットによる科学衛星の打上げ さきがけ 宇宙科学研究所、鹿児島県内之浦 すいせい たんせい2 たいよう CORSA はくちょう たんせい しんせい でんぱ たんせい4 ひのとり てんま おおぞら たんせい3 きょっこう じきけん ぎんが あけぼの ひてん ようこう あすか はるか のぞみ ASTRO-E はやぶさ 3段目 おおすみ 2段目 80年代 前半 1970年代 80年代 後半 〜90年 代前半 L-4S M-4S M-3C M-3H M-3S M-3SII M-5 2004/12/3 衛星 第6回理学部公開講演会 1段目 実用衛星の打上げロケット 宇宙開発事業団→JAXA N-I 1975 2004/12/3 N-II 1981 H-II H-I 1986 第6回理学部公開講演会 1994 H-IIA 2000 4. 宇宙から強いX線が来ている! 1962年、アメリカの宇宙線研究者たちが観測ロケットにより、さそり 座にある強いX線源を発見。のちに、ブラックホール、中性子星、超 新星残骸など、多数の宇宙X線源が登場。 X線は人体を透過できるが、 地球大気は透過できない。 よって地上では、宇宙からのX 線は観測できない。 小田稔 (1923〜2001) 東大名誉教授、 元・宇宙科学研究所長、 文化勲章受賞 2004/12/3 R.ジャコーニ 小柴博士らとともに、 2002年ノーベル物理学 賞受賞) 第6回理学部公開講演会 宇宙航空研究所・小田研究室 1975年ごろ、伊豆の小 田先生の別荘にて 1971年、小田先生は世界で初めて「は くちょう座にあるX線星 “はくちょう座X1” はブラックホールと恒星の連星らし い」と提唱 。 土井隆雄 宇宙飛行士 2004/12/3 第6回理学部公開講演会 大気球を飛ばす 厚みわずか数μ のプラスチック 袋にヘリウムを 詰め、高度約 45 kmに上昇し、直 径〜100mに膨ら む 放電を防ぐため高電圧部分は樹脂で埋 める(ポッティング)。 米国チャンドラ衛 上空では-30℃ぐらいに冷えるので装置 星で得られた「か の防寒が不可欠。 に星雲」の X線像 (2000)着地するさいの衝撃吸収機構。 ゆれるゴンドラから、いかに望遠鏡の姿 勢を精度よく決めるか。 1’ QuickTimeý Dz ÉtÉHÉg - JPEG êLí£ÉvÉçÉOÉâÉÄ Ç™Ç±ÇÃÉsÉNÉ`ÉÉǾ å©ÇÈÇ…ÇÕïKóvÇ Ç• ÅB 1tクラスの観 測装置 気球観測で得られ た「かに星雲」の硬 X線画像 (1978) パラシュート 2004/12/3 第6回理学部公開講演会 5. 人工衛星を作る 地球を回る人工衛星 近地球周回衛星:秒速7.9 kmで 1日に地球を15周 静止衛星: 1日に地球を1周 9 1 13 5 3 2004/12/3 第6回理学部公開講演会 鹿児島からの交 信可能な範囲。近 地球周回衛星の 場合、交信できる のは毎日、10分 ×5回のみ。 衛星の技術的な難しさ 故障しても修理にゆけない!故障しないように作る、一部が故障しても 代替機能が働くようにする、冗長度をもたせる。 衛星も搭載装置も、ロケット打ち上げ時の振動や衝撃に耐えねばなら ない。 徹底した低電力、軽量化、小型化が必要。重量1トンの衛星の全体を、 電子レンジ1台+冷蔵庫1台ぶんぐらいの電力でまかなう! 真空中であり、対流が無いため、電子回路の発熱が問題となる。パソ コンなど、すぐに熱暴走して壊れる! 地上との交信が限られているので、データ量の制限が厳しい。 1日平 均すると、ブロードバンドインターネットよりずっと遅い。 バッテリーは、1日に15回も充放電! 電子部品は、放射線に対する耐久性をもつものを使う。 2004/12/3 第6回理学部公開講演会 日本の宇宙X線衛星 はくちょう (1979) 回転すだれコリメー タで多くのX線バース ト源を発見。 ぎんが (1987) 日英協力で高感度 の装置を開発し、遠 方のクエーサーな どを観測。世界に データ提供。 2004/12/3 Astro-E2 (2005年の夏 に打ち上げ予定) てんま (1983) 新しい検出器を自主開発し、 宇宙高温プラズマの研究を推 進。 あすか (1993) 改良された反射鏡と 高エネルギーX線で世界初の CCDカメラ 極限の分光能力をもつ 反射鏡 (米;名大)。 カロリメータ 世界初のX線CCDカメラ (米, より高エネルギーで最 阪大, 京大, 宇宙研)。 自主開発の広視野X線 カメラ 高感度をねらう硬X線検 出器。 (東大、都立大)。 第6回理学部公開講演会 「あすか」衛星(1993.2.20〜2001.3.2) 4台のX線カメラのうち2台は、 理学系研究科が本郷キャン パスで開発 2004/12/3 第6回理学部公開講演会 6. ブラックホールに迫る 小田ら (1971); 「ウフル」衛星で速 いX線変動を発見。「すだれコリ メータ」を用いた気球観測でX線 の位置を決定。 その位置に、9等級の青い超巨 はくちょう座X-1の模式図 X線 降着円盤 星 HDE226868があった。この巨 星は見えない相手に5.6日の周期 で 振り回されている。 その質量は太陽の6倍以上で、ブ ラックホールと考えられる。 ガスはブラックホールに落ちこむ さい、回転円盤を作り、そこからX 線を出すらしい。 2004/12/3 大質量の星 HDE226868 第6回理学部公開講演会 ブラック ホール さまざまなブラックホール 〜1995以前 108 質 量 6 10 ( 太 陽 比104 ) 〜1995以後 銀河中心の 銀河中心の巨大BH 巨大BH (数百〜数千個) 中質量BH (数十個) 102 100 宇宙には、さまざ まな質量のブラッ クホールがあり、 それらは宇宙の 進化に重大な役 割を果しているら しい。 恒星質量BH 恒星質量BH(数十個) ガンマ線 バースト 初 源 BH ? 天の川銀河 近傍銀河 2004/12/3 遠方宇宙 第6回理学部公開講演会 初期宇宙 銀河系外の中質量ブラックホール 光(左)とX線(右)で見た 南天の銀河M83 赤い点は右図のX線源を示す。 2004/12/3 熱いガスの放射する広がったX線と、多 数の点状のX線源が見える。それらのう ち最も明るい10個ほどは、 中質量ブ ラックホールと思われる。 第6回理学部公開講演会 7. 道は平坦ではない 「あすか」(ASTRO-D)の後継機 ASTRO-E を6年がかりで開発、そ して2000年1月… コンテナから取り出さ れる衛星 相模原から陸路、鹿児 島に輸送された衛星 2004/12/3 第6回理学部公開講演会 衛星をロケット3段 目に組付ける 2004/12/3 運命の2000年2月10日未明、ロ ケット整備塔の大扉が開く 第6回理学部公開講演会 発射! 2004/12/3 第6回理学部公開講演会 発射40秒後(左)と70秒後(右) 打ち上げ直後、1段目の噴射口が破損し、55秒〜75秒にかけ 飛行姿勢が乱れた。2段目と3段目は完璧に動作したが、衛 星の最終速度が5%ほど不足し、衛星は地球を約1/3周して大 気圏に突入し、燃え尽きた。 2004/12/3 第6回理学部公開講演会 10年ちかい歳月をかけて開発してきた 我々の装置「硬X線検出器」も、 衛星と ともに失われてしまった…。 2004/12/3 第6回理学部公開講演会 8. ガンマ線バーストを追う HETE-2 バーストが発生すると、その 位置を自動で決定 広い視野でガンマ 線バーストを監視 理化学研究所、アメリカ、フラ ンスの共同で作られたガンマ 線バースト専用衛星。2000年 10月9日、ペガサスロケットに より飛行機から打ち上げられ た。 世界の望遠鏡(ロ ボット望遠鏡など) が反応 バースト位置をイ ンターネットで世 界に通報 地上局 2004/12/3 第6回理学部公開講演会 2003年3月29日の大ガンマ線バースト HETE-2が特大のガンマ線バーストを検出! 理研、東工大、京大などを含め、世界各地の小型ロボット望遠鏡で、 可視残光がキャッチされた。 数日かけて残光が暗くなる様子を、大望遠鏡が追跡したところ、1週 間後に、光スペクトルに極超新星の特徴が出現。 35年来の謎だったガンマ線バーストは、大質量の星が超新星爆発し、 ブラックホールができる瞬間に発生 理研(埼玉県和光市)の屋上に、鳥居 研一研究員が設置したロボット望遠 鏡群。一番乗りを果した。 2004/12/3 第6回理学部公開講演会 9.再起を賭けて ASTRO-E/Astro-E2 硬X線検出器 開発チーム/2004.6 東大、理研、宇宙研、埼玉大、広島大、メーカー3社 2004/12/3 第6回理学部公開講演会 Astro-E2 の建造 (JAXAにて、2004年) 検出器 2004/12/3 第6回理学部公開講演会 電子回路 2004/10/27 JAXA 報道発表文(一部省略) JAXAとしては、H-IIAロケット6号機打上げ失敗の原因となった固体ロケット ブースター(SRB-A)の改良に十分な取り組みを 行う必要があるが、SRB-Aの 改良とM-5ロケットによる第23号科学衛星(Astro-E2 )の打上げ準備作業に係 わる人員に共通するところがあり、両方を並行して進めることが困難であると 判断した。 このため、SRB-Aの改良にJAXAおよび企業の人的資源を集中させて万全 の体制を整え、打上げ再開に向け準備を進めることとした。これによりAstroE2/M-5ロケット6号機の打上げ時期を17年度に延期し、再設定する必要が生 じている。 M-5ロケット6号機に搭載するX線天文衛星Astro-E2は、平成12年2月に打上 げに失敗したASTRO-Eの代替衛星であり、ASTRO-Eの担っていた科学的な 目標を達成するため、国内外の科学者より早期の打上げが強く望まれている。 JAXAとしても早期打上げの実現が重要と認識しており、17年度に可能な限り 早期の打上げを目指すこととしたい。 2004/12/3 第6回理学部公開講演会
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