大阪市立科学館研究報告 25, 63 - 68 (2015) 展示物解説と補助教材の作成 ―博物館実習報告①― 橋 本 野 村 杏 樹 美 月 *1) *4) , 和 田 , 正 木 充 央 綾 乃 *2) *5) , 山 口 , 川 端 仁 志 *3) 理 恵 子 *6) 概 要 平 成 26 年 度 の博 物 館 実 習 では、実 習 生が展 示場において来 館者にとって分かりにくいと感じた展 示 物に関 して各 自 補 助 教 材 等 を作 成 し、展 示物 の解説 を行った。本稿 では各 実習 生 の実 践・考察 につい て報告する。 1.はじめに 2.「香り」の解説(橋本) 1-1.目的 2-1.目的 博 物 館 学 芸 員 実 習 の課 題 として、来 館 者 に対 して、 「香り」というものは、非 常に身 近 な存 在でありながら、 各自がテーマ決 定 をした展 示 物 の解 説 を行った。その 何 からできているか、何 で香 りを感 じるのかというような 目 的 は、展 示 解 説 による 来 館 者 の 反 応 ・ 質 問 等 を 参 ことは想 像 されにくい。それに加 えて、香 りの展 示 があ 考 に、身 を以 て展 示 の改 善 ・実 践 を経 験 することであ る3階 奥の場所は、手前にエスカレーターがあるために る。 足を止めていただき難いため、展示の存在に気づかな 1-2.テーマ設定 及び解 説 方 法 い方が多く見られた。 実 習 の前 半 に館 内 見 学 を行 い、実 習 生 が自 身 の したがって、まず展 示 に興 味 を持 っていただくこと 、 得 意 分 野 の展 示 等 から、来 館 者 から見 て分 かりにくい そして香 りの正 体 と香 りを感 じるメカニズムについて解 と感じた展示物を選 択 し、テーマ設 定を行った。 説し、香りとはどういうものかということを実感していただ 各 自テーマを決 めると、来 館 者 に対 して解 説を行い、 補助教材の作成・改 善を行 った。 くこととを目的とした。 2-2.実践と結果 1-3.展示解説とその担 当 者 私 が 紹 介 した 展 示 は 、 「 自 然 が つく る に おい・ 人 が 以 下 表 1に解 説 を行 った展 示 物 及 びその担 当 者 を つくるにおい・におい食 堂 」の実 際 に 香 りを嗅 ぐことが 示 した。各 章 においてその実 践 内 容 につい て報 告 す できる展 示 と、大 きな L-メントールの結 晶 の展 示 物 で る。 ある。これらの展 示 物 の手 前 にはエスカレーターがあり、 表1 展 示 解 説 と各 担 当 者 実習生名 テーマ 展 示 物 を見 ずに下 の階 へ降 りてしまう方 が多 く見 られ 各章 た。一 方 、他の展 示 物をじっくりご覧になっていた方は、 橋本杏樹 香り 2章 香 りの 展 示 もじっくりとご覧 になる傾 向 が 見 られたが、 和田充央 磁 石の力 3章 机 の下 のボトルを押 して香 りを嗅ぐ展 示 物 の仕 組 みが 山口仁志 平 面 鏡と合わせ鏡 4章 ありなが ら、直 接 鼻 を 近 づ けて嗅 ぐ 方 が 多 かった 。展 野村美月 X 線 天 文 衛 星 てんま 5章 示 物 には、使 い方 が写 真 付 きで示されているので、暫 正木綾乃 鉱物 6章 くして正しい使い方をする方もいた。 古 代の科 学 7章 川端理恵子 そこで、他 の展 示 パネルをじっくりご覧 になっていた 方を中心にお声掛けをして、展示を紹介した。 * 大 阪 市 立 科 学 館 平 成 26 年 度 博 物 館 実 習 生 近 畿 大 学 農 学 部 2) 愛 知 教 育 大 学 教 育 学 部 3) 京 都 産 業 大 学 理 学 部 4) 愛 媛 大 学 理 学 部 5) 龍 谷 大 学 理 工 学 部 6) 同 志 社 大 学 文 化 情 報 学 部 1) 紹介の方法としては、まず展示物の使い方を説明し、 次 に自 然 がつくるにおいと人 がつくるにおいの違 いを 解 説 した。小 学 生 や小 さ いお子 様 には、実 際 の 用 途 橋本 杏樹,和田 充央,山口 仁志,野村 美月,正木 綾乃,川端 理恵子 を 身 近 な例 で紹 介 した 。バニラエッ センス や 、お菓 子 磁石の不思議を理解してもらうことが目的である。 の香 料 として使 われている例 を出 すと、小 学 生 や小 さ 3-2.展示 なお子 様に興 味を持 っていただけた。大 人 の方 には、 この展示は磁石に対して5種類の金 属があり、このう 香りの解析や合成の話 もすると、驚いていただけた。 ち磁 石 にくっつくものは何かを実 際 に確 認 し体 験 的 に 2-3.考察 理解してもらうものである(5種類の金属のうち磁石に引 お客 様 は、考 えていた以 上 に化 学 を難 しいものとし てとらえていた。また、香りを化 学 だと捉えている方も少 き寄せられるのは鉄のみである)。 また、鉄のピンが入った透 明 なケースを近づけること なかったことにも驚 いた。話 を聞 くと、化 学 は 中 学 生 ・ で、磁力線を確認することもできるようになっている。 高校生以来だという大 人の方が多かった。 3-3.実践 最 初 は、お客 様 に化 学 に対 する相 応 の知 識 がある まずは来 館 者 に対 し、「磁 石 にくっつくものは何 でし ものとして解 説 をしていたが 、上 記 の 事 に 気 が 付 いて ょうか?」とクイズ形 式にして質 問を投 げかけるという形 からは、ごく簡 単 な事 から丁 寧 に解 説 を行 うことにした。 をとった。こうすることにより、あらかじめこの展示の意図 お客 様 は、知 っていることから話 されることで、化 学 を する部分を意識させることができた。 身 近 に感 じることができ、それに続 く少 し難 しい話 にも 興味を持って聞いていただけるようになったと感じた。 ほとんどの方 は、日 常 的 な経 験 から「 鉄 は磁 石 にく っつく」と回 答 したが、磁 石 にくっつかないアルミニウム 実 践 を通 して、自 分 が興 味 の有 ることに対 して相 手 や銅をくっつくと回 答する人 もいた。しかしアルミニウム も興 味 があるとは限 らないということを強 く感 じた。単な や銅が磁石にくっつかないということは実際に体験して る興 味 の押 し付 けにならないように、探 り探 りではあっ もらうと一目 瞭 然である。くっつくのではないかと答えた たが、話 す相 手 に 科 学 の 楽 しい世 界 を 伝 える 方 法 の 人 にその根 拠 を聞 くと、「くっつきそうに見 えた」と答 え 糸口をつかめたように思う。 た人 が 多 く 、物 質 の 色 や質 感 か ら判 断 していることが 分 かった。そのため、金属だからといって何でも磁石に くっつくわけではないことを強調した。 また、こ の 磁 石 にくっ つく 性 質 を 利 用 して物 質 を 区 別することができますよと促 し、隣 に展 示されている『じ しゃくにくっつく?』で再び確認してもらうことも実践した。 ここでもどんなことが起こるのかを考えてもらってから展 示物を触ってもらうことがよいと感じ、実践した。 図2-1 実 践の様 子 2-4.参考資料 日 本 香 料 工 業 会 http://www.jffma-jp.org/course/ 参 照 日:2014/9/22 3.「磁石 の力 」 の 解 説 ( 和 田 ) 3-1.目的 科 学 館 4階 にあ る 科 学 の 原 理 ・ 法 則 を 知 っ ても らう 展示では、来館 者 自 身 が動 かして確 認 するといった体 験型の展示がほとんどである。しかし、展 示 物 を少し触 るだけでは展 示 物 が表 現 している科 学 法 則 の意 味 な 図3-1 実践の様子 3-4.考察 どが来 館 者 に伝 わっていないと思 われる部 分 があった 実習期間 中、様々な年齢層 の来館者に対して解説 (というのも、体験型 の展 示 であるにも関 わらず、その展 を行った。多くの場 合、磁 石 にくっつくものとそうでない 示物に対してかける時 間 がとても少 ない場 合 が見受 け ものがあり、それは見た目だけでは判 断できませんとい られたため)。そこで今 回 私 は、補 足 的 な説 明 を加える った非常に大雑 把なことを伝えるだけになってしまった ことでより理 解を深 めてもらうことができるだろうと考 え、 が、今 振 り返 るとそれが必 要 十 分 だったのではないか 磁 石 についての展 示 『磁 石 の力 』に関 して解 説 を行 う とも思える。というのも、磁石 にくっつく金属を正確に知 ことにした。 っている人はほとんどおらず、また聞き手が要 求 してい 磁 石 は我 々の身 近 に存 在 し、日 常 生 活 の中 で大 き ないことまでも説明し退屈にさせてしまったかなと思うこ な役 割 を果 たしている。そのことに興 味 を持 ってもらい、 とがあったためである。もう少 し注 意 深く来 館 者 の反 応 展示物解説と補助教材の作成 ―博物館実習報告①― を 見 て、話 し 方 や 内 容 を 変 え ていくこと が 必 要 であ っ た。 館 内 では 大 まかな分 野 ごと に展 示 物 が 配 置 されて いるため、近 くにある展 示 物 同 士 は関 連 していることも 多 い。そのため館 内 の導 線 をはっきりと示 すことによっ て、より効果的に学べるのではないかと考えた。 ごく僅 かではあるが、「磁 石 にくっつくものとそうでな いものの性 質の違 いは何 か?」や「そもそも磁 石とは何 なのか?」といった磁 性の本 質 に迫るような質 問を受け た。これに対 しては自 分 の知 っている知 識 を話 すことし かできず、分かりやすく伝 えることの難 しさを痛 感した。 このような質 問 に対 して、うまく回 答 すること、そして理 解してもらうことはこれからの自 分の課 題 である。 また、普 段 このように科 学 館 側 の立 場 から来 館 者 と 接 するといった機 会 がほとんどないため、今 回 実 習 生 として様 々な人 と 話 すことが できたことはとても 貴 重 な 経験となった。 4.「 平面 鏡と合 わ せ 鏡 」 の 解 説 ( 山 口 ) 4-1.現状 2階 「 おやこ で 科 学 」 に は 、約 40 種 類 の 体 験 ・ 実 験 型展示がある。そのなかの「鏡」コーナーでは平 面鏡を はじめ、様 々な形 状 の鏡 で自 分 の姿 を見 ることができ る。とりわけ歪 んだ 鏡 に 興 味 を示 すお 客 様 は 多 い。し かし、平 面 鏡と合 わせ鏡 のコーナーはそれほど観察せ ずに通り過ぎるお客 様が少 なくないと見 受けられた。 4-2.目的 次の3点を伝えることを通 して「当たり前に潜む発 見」と「科学を楽しみながら、能 動 的に考 える機 会」を 提供しようとした。 ①「合わせ鏡の角 度」と「鏡 像と実 体の総 数」の関係に 着目してもらう。 ②現実の人と同じ挙 動をするように見える像に注目し てもらう。(90度と30度の合わせ鏡) ③鏡が「反転」するのは「鏡 面に対 して垂 直 方 向」であ ることを理解してもらう。 4 -3 .方 法 ①鏡像と実体の総 数を数えてもらう。360度を合わせ 鏡の角度で割った値 が、先 程の数に等 しくなること を確認してもらう。 ②90度(または30度)の合 わせ鏡の前 に立ってもらう。 鏡像と握手しようとしてみると、(90度の鏡 の場合)左 右の自分とは出 来ないが、奥の自 分とは出 来そうで あるということを確 認してもらう。 ③紙に書いた時計を裏 側から見たものと1枚の平面鏡 に映る時計が同 じであること確 認 してもらうことで、1 枚の平面鏡は前 後(鏡に対 して垂 直 方 向)を反転し ていることを意識してもらう。 図4-1 紙に書いた時計(左が表、右が裏) 4-4.実践・題点 実際に解説するなかで出てきた問題点を列挙する。 A) 話の展開にまとまりがなく、わかりにくい。 B) 解説の度に流れが異なり、言葉に詰まる。 C) 時 間 の 余 裕 が ない お 客 様 に 十 分 な 解 説 を 行 え な い。 D) 様々な理由で解説を聴いてもらえないことがある。 E) 表現によっては意図と異なる理解に導く事がある。 F) 複数のことを一度に伝えようとすると伝わらない。 G) 話が冗長だと飽きられる、疲れさせる。 H) 話すだけでは能動的に考える機会を提供しにくい。 4-5.改善・考察 A) 解説のポイントをおさえる。 まず①②③それぞれの解 説 のポイントを整 理 し、大 体 の 解 説 の 流 れを頭 の 中 で考 え、実 践 を繰 り返 す中 で解説のパターンのようなものを確立していった。 B) 場数を踏む。 慣 れの要 素 が大 きいと考 え、場 数 を踏 むことに努 め た。実際、解説を繰り返すことで自然 と改善された。 ここで最 も 大 事 な点 は場 数 を踏 むことで巧 くいかな かったパターンをより多 く知 ることができる点 にある。そ の度 に次 はどうするかを考 え、それを更 に次 の実 践 に 活かす。その繰り返しが解説の上達に役立った。 C) 遊び方を伝えるに留める。 小 学 校 の遠 足 で来 られた児 童は時 間 の制 約 がある ため、次 へ次 へという様 な展 示 の見 方 にならざるを得 ない。そういう場 合 は最 低 限 、展 示 物 の正 しい使 い方 を 伝 える に 留 めた。なぜなら、急 いでいる 人 に 解 説 を する 意 味 は 薄 いし、それより も 楽 しん でいただくことが 大事であると考えたからである。 閉 館 時 刻 間際のお客様も同様に対応した。 D) 楽しんでいただくことを第一に考える。 お客 様 の 事 情 は 様 々であり 、年 齢 層 もバックグ ラウ ンドも異 なる。すべての人 に同 じ解 説 を行うことは困 難 であるし、その意味も薄い。また皆が解説を聴きたい訳 ではない。 以 上を考 慮 しつつとった行 動は、お客 様 によって解 説 の内 容 と程 度 を変 える、解 説 を無 理 強 いしない、嫌 橋本 杏樹,和田 充央,山口 仁志,野村 美月,正木 綾乃,川端 理恵子 そうな顔をされたら潔く退 く、などである。話が巧 い人は 5.「X 線天文衛 星てんま」の解説 (野村) 適 度 に雑 談 で場 を和 ませながら自 然 と解 説 に誘 導 す 5-1.現状 るという 方 法 も あるだ ろう 。し かし自 分 に は そのた めの 「てんま」の展 示は「日 本の科 学 衛 星 」の展 示の近く 技 量や経 験、その他 の要 素 が不 足 していたためか、な に図 5-1のように 天 井 か ら吊 り 下 げられた 状 態 になっ かなかそのように出 来 なかった。 ている。これは「てんま」以 外 の展 示 にも共 通 して言 え 科 学 館の使 命 は「科 学 を楽 しむ文 化 の振 興 」である。 ることだが、来 館 者は基 本 的 に吊り下 げ式の展示を意 楽 しんでいただくことが第 一 なのである(考 えてわかる 識しておらず、こちらから展 示に気 付いたかどうか質 問 感動を体験していただくためのお手 伝 いまで出来けれ したところ、言われて初めて気づいたという来館 者が多 ば良 いが、なかなか難 しい…)。その趣 旨 に反 しないよ くいた。更に気づいていたという来館者もパネル等での う、注意深く相手の反 応を伺 いつつ解 説を行った。 説明がないために少し見て立ち去る人が殆どだった。 E) 的確に伝えるための言 葉 の選 定 人 工 衛 星 と言 えば「はやぶさ」というイメージが定 着 解 説をしていて特 に難 しさを感 じたのは、できるだけ しているが、「はやぶさ」以 外 にも日 本 は多 くの人 工 衛 平 易 な言 葉 で、なおかつ自 分 の意 図 する内 容 を的 確 星 を打 ち上 げ、科 学 的 成 果 を得 ていることを知 って頂 に 伝 え る 言 葉 選 び であ っ た 。電 子 辞 書 を 携 帯 して 逐 くきっかけになると思 い、今 回 「てんま」の解 説 を行 うこ 一 言 葉 の定 義 を確 認 したり、お客 様 の反 応 を見 たり、 とにした。 時 には直 接 感 想 をお聴 きして、常 により良 い表 現 はな いかと模索し続けた。 F) 一度に伝えることは一つに絞 る。 複 数 のことを同 時 に伝 えようとするとまず伝 わらない 。 一度に伝えることは一 つに絞 り、伝 えたいことが複数あ る場合は段階を踏 まなければならない。そうしなければ、 聴く側の理解が追いつかなくなる。 実 際 、最 後 の 発 表 会 に お いて「 1 枚 の 平 面 鏡 が 前 後 方 向 を反 転 していること」と「左 右 を反 転 していない こと」を同 時 に伝 える形 になり、うまく伝 えられなかった。 経験が蓄積されてから解 説 を書き出 してみて改めて考 えるのも良いかもしれない。 時 計 を裏 返 すときの軸 を「上 下 方 向 」と「左 右 方 向」 にしたときで比 較 してみると、「1枚 の平 面 鏡 は左 右 を 図5-1 てんまの展示の様子 5-2.目的 来館者を展示に注目させ、「てんま」について知って 反転していない」ことをより伝 えられたかもしれない。 もらうことをきっかけに、日 本 の人 工 衛 星 の歴 史 、功 績 G) 簡潔な解説を心がける。 についても知ってもらうことを目的とした。 H) 三択問題「目の前の鏡は上 下・前 後・左 右 のどの 5-3.方法 方 向 を反 転 しているか(※反 転 =向 きが逆 になる)」に 下 調 べと して来 館 者 が 「 てんま」 の 展 示 に ついてど 答 えていただいた後 、補 助 教 材 を使 った解 説 とともに のような認識を持っているのか知るために、解説を聞い 考 えていくスタイルをとった。話 をただ聴 くよりも考 える てもらった来館者に「てんま」の展示の存在について気 姿 勢 を引 き出 せたと感 じた。また、会 話 のきっかけにも 付 いていたか質 問 を行った。結 果 、「てんま」の展 示 に なった。 気 付 か なかっ たと いう 方 が 多 く 、気 付 いていた 方 も 展 4-6.感想 示 パネルが何 もなかったために大 多 数 がオブジェのよ 「伝える」うえで特 に求 められる素 養 は、①伝 えること うなものだと認識していた。 に貪 欲 であること、②対 象 についての深 い理 解 、③自 以上のことから、まず「てんま」の展示近くに立ち、順 分 にとっての当 然 を疑 う姿 勢 、であると感 じた。他 の実 路 に 沿 って展 示 の 近 づいてきた来 館 者 に 「てんま」の 習 生 や学 芸 員 の方 の 解 説 は、内 容 、手 法 ともに非 常 展 示 に注 目 してもらい、「これは何 かの実 物 大 の模 型 に参考になったし、聴 いていて純 粋 に楽しかった。 なのですが 、何 の 模 型 だと思 いますか?」と質 問 を 投 4-7.参考文献 げかけた。少し考えてもらってから「てんま」の説明に入 「対称性とはなにか 自 然 ・宇 宙 のしくみを対 称 性の破 り、そこから続けて図5-1 右 側にある日本の科学 衛 星 れによって理解する」(サイエンス・アイ新 書) の歴史についてのパネルの説明へと移行した。 5-4.結果・考察 結果として多くの来館者に「てんま」に注目してもらう 展示物解説と補助教材の作成 ―博物館実習報告①― ことができ、「てんま」の解 説 を聞 いた来 館 者 の半 数 以 後 は解 説 する方 に合 わせて、興 味 があるようであれば 上 の方に他 の人 工 衛 星 についても興 味 を持 ってもらう 長 めの 解 説 を、時 間 が 無 いようであれば、これは 知 っ こともできた。しか し学 芸 員 の 方 から指 摘 されたように て帰って頂きたいと思 う鉱物 を軽く解 説するといった方 「てんま」の展 示の「実 物 大 の模 型 である」という最大の 法 で行 った。主 に、ラブラドライド・オケナイト・磁 鉄 鉱・ 特 徴 を 上 手 く 活 か すことが でき ていなかった 。自 分 の 水晶などを中心に解説を行った。 知 識 を話 すことは展 示 品 を使 わなくてもできることであ り、科 学 館 で展 示 物 を 前 に して展 示 物 を 活 かす解 説 があまりできていなかったのは反 省 しなければならず、 改善すべき課題であると認 識することができた。 来 館 者 の多 くは「はやぶさ」のミッションや成 果 につ いて知っていたが、それ以 外 の衛 星 については大きな 成果を得ていないものと思っていたり、そうでなくても日 本がパネルに載っているものを含めて 100 以 上の人工 衛 星 を打 ち上 げていることを知 って 驚 いていた。日 本 の科 学 報 道 は 劇 的 な成 果 を上 げたもの 、または 困 難 図6-1 様々な鉱物 6-4.結果・考察 を乗 り越 えたものが取 り上 げられがちであり、「きずな」 見 学 者 が 少 ないコ ーナーでも声 をか けることによっ や「みちびき」などの生 活 に役 立 っている衛 星 などにつ て、見 て行 って下 さるお客 さんの数 は増 加 した。 実 際 いてはほとんど取 り 上 げられ ない。これは人 工 衛 星 に に解 説を行ってみると課 題 が多 く、単 調 な説 明 では聞 限った話ではなく、生 物 学 や化 学 などの他 分 野につい いている側 も楽 しくない。そこで、館 内 にある展 示 パネ ても普段特にサイエンスの世 界に興 味を持たない一般 ルの簡単な解 説をしてから、鉱物の展 示をじっくり見て 市 民 が 研 究 に つ いて知 る 機 会 は 研 究 者 や 研 究 機 関 いただいたり、天 井 に吊 り下 げられている結 晶 の構 造 がノーベル賞 などの大 きな賞 を受 賞 した際 に限 られて 模 型 を交 えて解 説 を行ったりした。だが、これらすべて いる。そのような理 由 から上 のような衛 星 に関 する勘 違 が順 番に並 んでいるわけではなく、視 線があちらこちら いが生まれていると考えられる。 に泳いでしまうことが問題であった。そこで、お客さんの しかし近 年はやぶさブームをきっかけに人 工 衛 星 に 興 味 に合 わせながら・ポイントを押 さえて解 説 すること 多 くの人 の目 が向 けられるようになった。この機 会 を活 が重 要 だと感 じた。また全 てを解 説 するのではなく、そ かし、より多 くの人 に人 工 衛 星 について知 ってもらえる の場 その場 で解 説 した鉱 物 の種 類 に合 わせて、説 明 よう勉強を重ねていきたい。 方 法 を 微 妙 に 変 えること を行 った。さ らに 身 近 な具 体 例 ( アク セサリーに 使 われ ていること 等 )を 出 して解 説 6.「鉱物」の解説 (正 木) することにより、興 味を持っていただくことができ、「これ 6-1.現状 は何でこんな形をしているの?」「日本でも採れることが 4階から3階へ向かうエスカレーターを降りると、右側 できるの?」と質問が返って来ることもあった。 に鉱 物 の展 示 がある。これはエスカレーターの方 向 か 実 際に解 説を行ってみて、考えていた解 説文を言う らすると、少 々引 き返 さなければならない位 置 にあり、 ことに意 識 が入 ってしまったり、なかなか終 わるタイミン 一 部 の人 は見 学 していかれるのだが、多 くは流 し見 も グがつかめなかったりすることがあり、何度も実践するこ しくは素通りして行ってしまうのが現 状 である。 とで馴 れることがまず大 切 だと実 感 した。また、様 々な 6-2.目的 方 法を試 行 錯 誤 してみると、お客さんの反 応も千 差 万 鉱 物 は普 段 あまり見 かけることのないものである。近 別 であり、臨 機 応 変 に対 応 することを求 められることが 年 ではストーンショップなどで加 工 されたものを目 にす 経験出来たよい機会であった。 ることがあるが、科 学 館 にあるような大 きくあまり加 工 さ 6-5.参考 れていないものを目 にする機 会 は少 ない。このことから、 「鉱物図鑑:フィールド版」松原聰著 丸 善 出 版 目 にしたことのある鉱 物 ・珍 しい鉱 物 の 面 白 い特 徴 を 知ってもらうことで、興 味 関 心 を持 っていただくことを目 7.「古代の科学」の解説(川端) 的とした。 7-1.現状 6-3.方法 4階の展示ではサイエンスタイムトンネルというコーナ まず、お客 さん に お 声 掛 け する ことか ら始 め 、日 常 ーで、科 学 の進 歩 の歴 史 を学 ぶことができる。しかし、 会話を交えながら解 説 し、どの年 齢 層 の人 がどの種 類 多 く の 利 用 者 の 方 は 体 験 型 の 展 示 に 注 目 しており 、 の鉱 物 に 興 味 を 持 つのか 簡 単 な調 査 を 行 った。その 壁側にある展示物に注目する方は少ない。 橋本 杏樹,和田 充央,山口 仁志,野村 美月,正木 綾乃,川端 理恵子 特 に古 代 の科 学 のコーナーの内 、銅 鐸 や青 銅 製 の もらうことで、力のかかりかたが軽くなることを体験しても 剣などは歴 史 的な印 象 が強 いのか、他 の資 料 よりも通 らったところ、実 感 してもらえた様 子 であった。また、一 り過ぎていく方が多く見られた。 人 で来 ていらっしゃる人 は、他 のコーナーの解 説 を頼 7-2.目的 まれることも多かった。 主 には、体 験 型 の 展 示 だけでなく壁 側 の展 示 物 に も関心を抱いてもらうことを目 的とした。 具体 的な場所 については、サイエンスタイムトンネル 7-5.課題 クイズについては、スケッチブックやパネルなどを用 意 した方 がより分 かりやすくなるのではないかと思 った。 の入 り口 を選 択 した。私 は大 学 で文 化 情 報 学 の勉 強 また、合 金 や金 属 に ついて細 か い質 問 をされることも をしており 、考 古 学 の 発 掘 調 査 や 資 料 保 存 に ついて 多 かったので、もっと事 前 に知 識 を蓄 積 させていくこと 学 んだ経 験 がある。そこで、銅 や青 銅 を使 った道 具 に が必要だと感じた。 ついて説 明 することで、金 属 や合 金 の歴 史 の始 まりに 7-6.まとめ ついて解 説 することにした。こうしてそれぞれの道 具 に 来館者の方には「これからは壁側の展示にも注目す ついて説 明することで、金 属 の起 こりを身 近 に感じても る」と言ってもらえることが多かったので、当初の目的で らい、周りの体験 型 の展 示 についても歴 史 的 な背 景を あった壁 側 展 示 への注 意 喚 起 についてはある程 度 達 感じてもらうことを目 的とした。 成できたのではないかと思う。 7-3.解説の方法 選 択 した古 代 の科 学 の展 示 については、通 路 中 央 8.総 括 にあるモーメントの体 験 型 展 示 に人 が集 まる傾 向 が見 本 課 題 に 取 り 組 むに あ た っ ては 、一 つの 展 示 物 を られた。またそのモーメントの展 示 は、二 人 一 組 で行 う 解 説 するために、知 識 は 勿 論 のこと、コミュニケーショ ものであった。そこで一 人 で来 館 された利 用 者 の方 に ン力や表現力等が必要とされた。 対 して、体 験のお手 伝 いを申 し出 ることで、声 をかける きっかけを作るようにした。 自 分 が興 味 ある分 野 ・物 事 に対 して、必 ずしも相 手 も同 様 に興 味 があるとは限 らない。相 手 の立 場 に立 っ 具 体 的 には、一 人 で来 館 された方 にモーメントの展 てみて考えること、分かりやすい説 明、また相 手が何 を 示 の体 験 を誘 い、その後 モーメントの力 の発 見 を利 用 求 めているか読 み取 ることに苦 戦 した。深 い解 説 を求 して、古代の建 築 などが栄 えたという歴 史 を紹 介 した。 めているのか、軽 い会 話 程 度 で良いのかといった雰 囲 そして物 理 的 な側 面 を伝 え た一 方 で、化 学 的 な側 面 気 をつかんだりすること、話 の構 成 の仕 方 も他 の実 習 を伝えるべく壁 側 の展 示 へ誘 導 した。そこで火 の発 見 生 の良 いところを真 似 たり、改 善 すべき部 分 は意 見 を や金 属 の使 用 について紹 介 し、展 示 物 を具 体 的 に見 出 し合 うことで協 力 して課 題 改 良 に取 り組 んだ。また、 せながら古代の科 学 について解 説 した。金 属 について 来館者の方から学ばせていただくことも多く、自身の知 の解 説 では3択 のクイズを出 題 し、利 用 者 の人 にも興 識 不 足 を実 感 した者 も少 なくはなかった。様 々な方 向 味 を持 ってもらえるような工 夫 をした。また、3階 にある から物 事 を捉 えること 、感 じることの大 切 さに気 付 かさ 金 属 のコーナーへの誘 導 も入 れることで、3階 の 展 示 れた課題であった。 物とも関わりを持たせた。 いつもの来 館 者 側 の視 点 と、解 説 者 側 での視 点 の 違 いを双 方 から見 ることで、どこを見 ているのか、解 説 者 として何 を最 も伝 えたいのか、微 妙 に行 き違 いが生 じていたりする ことが 分 かった。少 しでも 多 くの 人 に 解 説 することでその点 を解 決 でき、興 味 を持 って知 識 を 増 やして帰 っていただけたらと感 じた。 展 示 解 説 の 実 践 ・試 行 錯 誤 を行 うことで非 常 に貴 重 な体 験 ができた と思う。 9.謝辞 多くの方の協 力があって本 実習・課 題 共に終えられ 図7-1 実 践の様 子 7-4.結果 モーメントの解 説 では、車 輪 が大きくなる側を持って ました。科 学 館 学芸 員の方、スタッフさん、ボランティア の方 々 、また 来 館 者 の 皆 さ んに感 謝 いたします。 この 貴 重 な経 験 か ら学 ん だこと を次 に 生 か していきた いと 思います。本当にありがとうございました。
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