T3-2 - 名古屋大学

飛翔体実験におけるものづくり
古澤彰浩 (Ux 研究室)
概要
X 線は大気による吸収のため、地上で観測することが出来ない。したがって、ロケットや気球、人工衛
星などの飛翔体を用いた観測となる。1970 年に打ち上げられたウフル衛星によって多くの X 線天体が発見
され、X 線観測が新たな天体観測の手段として認知されるようになり、1979 年打ち上げのアインシュタイ
ン衛星に初めて搭載された X 線望遠鏡によって「天文学」の仲間入りを果たした。以降、X 線望遠鏡の発
達によって X 線天文学は発展してきた。現在では X 線観測の対象となる天体は多岐に渡り、天文学・宇宙
物理学の研究において欠かせない重要な分野となっている。
日本も、1979 年の「はくちょう」衛星打ち上げからコンスタントに X 線天文衛星を軌道に送り、X 線天
文学の発展に寄与して来た。特に、わが国 4 番目の X 線天文衛星「あすか」には日米共同で開発された X
線望遠鏡が搭載された。この望遠鏡は従来の望遠鏡では集光結像できなかった波長 0.4 ∼ 0.12 nm の X 線
の撮像観測を世界で初めて可能にし、「あすか」によって世界の X 線天文学をリードするに到った。現在、
5 番目の衛星である「すざく」が軌道上にあり、世界中の研究者に利用されている。
名古屋大学 U 研究室は衛星以前の時代から気球実験やロケット実験を行ない、日本の X 線天文学をリー
ドして来た。特に「あすか」衛星に搭載された X 線望遠鏡は NASA ゴダード宇宙飛行センター、名古屋大
学、宇宙科学研究所 (現 宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部) によって共同で開発されたものであり、
名古屋大学は非常に重要な役割を果たした。
そして現在、6 番目の衛星として 2013 年度末に打ち上げが予定されている ASTRO-H 衛星には、U 研
がこれまで気球実験を通して開発して来た多層膜スーパーミラーを用いた硬 X 線望遠鏡が搭載される予定
であり、その製作を名古屋大学が担当する。
人工衛星に搭載する機器は、厳しい打上げ環境、軌道上環境に耐え、確実に性能を発揮できなければな
らない。したがって、非常に高い信頼性が要求される。硬 X 線望遠鏡を衛星に搭載するには、まずその性
能と実用性を実証する必要があった。そこで我々はアメリカとの国際共同気球実験 InFOCµS に搭載する
硬 X 線望遠鏡の反射鏡製作担当として参加し、2001 年から飛行実験を行なってきた。そして、2004 年 9 月
の飛行で X 線パルサーの硬 X 線撮像観測に成功し、硬 X 線望遠鏡の実用性を実証することが出来た。
さらに性能向上を図った硬 X 線望遠鏡を用いた科学観測実験を継続して行なうことを目指して、2003
年から名古屋大学、大阪大学、宇宙科学研究本部の共同気球実験 SUMIT を実施した。この気球実験にお
いて、名古屋大学は硬 X 線望遠鏡の製作だけでなく、検出器、ゴンドラ構造体、姿勢検出・制御システム
の開発を担当した。2006 年にブラジルで行なった初飛行においてゴンドラが回収出来なかったため継続的
な実験という目的は果たせなかったが、この開発の過程や飛行における成功や失敗を通して、技術だけでは
なく、「飛翔体実験におけるもの作り」において数々の重要な教訓も得ることができた。
現在、硬 X 線望遠鏡を搭載する衛星計画が日本の ASTRO-H 計画の他に幾つも提案されており、今後
の X 線天文学が硬 X 線領域の撮像観測を志向していることを示している。そのような中で、我々は気球実
験を通して世界に先んじて確立した硬 X 線望遠鏡製作技術を用い、ASTRO-H 衛星搭載硬 X 線望遠鏡の製
作を始めている。気球実験を通して得られた技術と飛翔体実験の教訓を活かし、ASTRO-H、そしてさらに
その先を目指す。