宇宙からの放射線を追う 2003年2月10日 理化学研究所 宇宙放射線研究室 主任研究員 牧島一夫 宇宙からの放射線(宇宙線)の発見 箔検電器 + + + + + + 三陸大気球実験場 (宇宙科学研究 所) + 「放射線が空気を電離し、 検電器に貯えられた電荷 を中和してしまう」 「放射線は地中から来る だろうから、上空に上が れば放射能は減るはず」 1910年、ヘスは検電器を 携えて気球に搭乗。 上空ほど放射能が強い! →大気圏外から未 知の放 射線すなわち「宇宙線」 が来ている。 どこで宇宙線が作られて いるか、100年ごしの謎。 放射線の種類と透過力 薄いア ルミ板 紙1枚 厚い鉛 や鉄 水やコン クリート (財)エネルギー総合工学研究所HPより 放射線=透過力の高い高速の粒子(電子、陽子、原子核、 光子、ニュートリノなど)の総称 1895年、レントゲンがX線を発見。人工放射線の最初。 1896年、ベクレルは、ウラン鉱石が写真乾板を感光させることを 発見。天然放射線が認識された最初。 1898年、キューリー夫人が、放射線を放つ新元素ラジウムを分離 することに成功。放射線を出す能力を「放射能」と名付けた。 長岡 半太郎 (1865〜 1950) 本多光太郎 (1870〜1954;金属材料、KS鋼)、 鈴木梅太郎 (1874〜1943;ビタミンB1の分離) とともに「理研の三太郎」と呼ばれた。 1903年、長岡は原子の「土星型モデル」を提唱。 重い「核」の周囲を、軽い粒子が回っているとした。 1911年、ラザフォードが原子核の存在を実験で証明。 1913年にN. ボーア (デンマーク) が量子の考えを組み 込んだ、現在の認識に近い原子モデルを提唱。 1917年、長岡半太郎は理研の主任研究員に。 1931年、大阪大学の初代総長に就任、理学部を設立、 後の湯川・朝永の素粒子グループを育成。 1937年、本多光太郎とともに第1回の文化勲章受章。 原子が電子や原子核などに分解して、放射線ができる 仁科 芳雄 (1890〜 1951) 1920年代、ボ−ア研究所で実験の手腕を発 揮、ボーアの原子モデルの実証に貢献。 1931年、理研で仁科研究室を主宰。素粒 子、原子核、宇宙線などの研究を確立。 仁科記念財団ホームページ http://www.nishina-mf.or.jp/ 1930年代後半、理研に日本初の粒子加速 器サイクロトロンを建造。 戦後、GHQにより2台のサイクロトロンは 東京湾に投棄されてしまう。 1946年、戦後初の文化勲章を受賞。湯川 秀樹、朝永振一郎ら多数の研究者を育成。 理研の実験核物理学の源流 現在の宇宙放射線研究室の源流 戦後日本の宇宙線研究 理研・宇宙線研究室 大阪市大、京大、甲南大、名大、信州大、 埼玉大、青学大など、全国各地の大学 地上からの観測、高山(乗鞍、アンデス) での観測、気球実験、飛行機による測定 東京大学宇宙線観測所(1953), 1976年より同宇宙線研究所 東京大学宇宙航空研究所 (現・宇宙科学研究所) 有馬朗人 (理研の前理事長)-- “宇宙線は天啓である” 小柴昌俊 -- “宇宙線は貧乏人の加速器” 宇宙線は電荷をもつので、宇宙の磁場に曲げられ、直進 できない。そのため発生源が特定できない。 宇宙から強いX線が来ている! 1962年、アメリカの宇宙線研究者たちが、観測ロケット により発見。のちにブラックホール、中性子星、超新星 残骸など、多数の宇宙X線源が登場。 宇宙線と一緒に生まれるX線 やガンマ線は、電荷をもたな いので、磁場中も直進でき、 発生源が突き止められる。 理研・宇宙線研究室は、和田 雅美・前々主任から松岡勝・ 前主任にかけ、X線観測に重 点を移し、宇宙放射線研究室 と改名。 小田稔 (1923〜2001) 元・宇宙科学研究所長、 先々代の理研理事長 R.ジャコーニ(2002年 ノーベル物理学賞受 賞) 内之浦にて、1975年頃 1977年頃、小田先生の伊豆の別荘にて 小田克郎 牧島 村上 田原 小田夫人 関(鈴木)悦子 小田先生 解明が進む宇宙線の起源 1995年、京大の小山勝二らは、 「あすか」衛星を用い、いく つかの超新星の残骸から、宇 宙線の出す特徴的なX線の検 出に成功。 超新星残骸が宇宙線の加速源 の1つであることが明らかに。 長年の課題が解明に向かう。 より高エネルギーの宇宙線の 発生源は、謎のまま。 続々と登場するブラックホール候補天体 〜1995以前 108 質 量 6 ( 10 太 陽 4 比 10 ) 102 100 〜1995以後 銀河中心の巨大BH 銀河中心の巨大BH (数百〜数千個) (数百〜数千個) 中質量BH (数十個) ガンマ線 ガンマ線 バースト? 恒星質量BH(数十個) 恒星質量BH バースト 天の川銀河 近傍銀河 X線で見た銀河の例。 明るく光る点の多 くはBH候補天体。 遠方宇宙 初期宇宙 超新星、パルサーなどと並んで、ブラックホール が宇宙線の生まれ故郷の1つでは? 謎の大爆発、ガンマ線バースト 1960年、アメリカは衛星を用い上空から、ソ連の核実験に ともなうガンマ線を監視していた。 地上ではなく天空から、1日1回ぐらい、強烈なガンマ線 の津波が到来。時刻や方角は、まったくでたらめ。 ガンマ線は1秒〜1分ぐらいで消えてしまうので、発生源 の位置がきわめて決めにくかった。 位置が決まったものを、後から地上の望遠鏡で見ても、何 も怪しい天体は発見できず。 1990年代後半、バーストの数時間後に光で「残光」が見つ かり、それが消えた後には、宇宙の果ての原始銀河が居 た! ガンマ線バーストは宇宙の果ての銀河で発生する大爆発で、 たとえば星が潰れてブラックホールになる瞬間に発生し、 そのさい最高エネルギーの宇宙線が作られるのでは? ガンマ線バーストを追う HETE-2 衛星 バーストが発生すると、 その位置を自動で決定 広い視野でガンマ 線バーストを監視 理研、アメリカ、フランス の共同で作られたガンマ線 バースト専用衛星。2000年 10月9日、ペガサスロケット により飛行機から打ち上げ られた。 世界の望遠鏡 (ロボット望遠 鏡など)が反応 バースト位置を インターネット で世界に通報 地上局 2002年10月4日のガンマ線バースト 発生後わずか50秒で HETE-2はバーストの 位置を世界中に通報。 満月よりやや小さい 領域。 バースト以 前の写真に は見えない。 10分後にパロ マー山天文台の 自動望遠鏡が反 応、15等の明る い残光をキャッ チ。 バースト源の 距離は、100億 光年以上と 推定される。 広大な宇宙空間で静かに進む加 速? 1 ° (400万光年) 可視光 X線 かみのけ座銀河団 (距離4億光年) 質量の内訳 85% 暗黒物質 10% 超高温ガス 5% 星 銀河がガスの中を動き回る時、 電磁誘導により、宇宙線が加 速されるのでは? 世界最高の性能 をもつ高エネル ギーX線検出器 HXD-IIを宇宙研 のAstro-E2衛星 に搭載、2005年 に打ち上げ予定。 まとめ 宇宙放射線研究室では、先人の偉業を受 け継ぎ、さらにX線という新しい手法を 用いて、宇宙線の生まれ故郷の探査を続 行中。 超新星残骸、ガンマ線バースト、銀河団 など、さまざまな発生源がありそう。 国際的な研究の中心地の1つに。
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