2003(日本語Pdfファイル) - 石油エネルギー技術センター

水素インフラに関する安全技術開発の概要
(新エネルギー・産業技術総合開発機構委託)
PEC 新燃料部 水素利用推進室
1.研究開発の目的
水素エネルギーの導入は、CO2 削減などの環境問題や供給の安全保障の観点から、重要
な課題となっており、その一環として燃料電池の普及拡大が期待されている。特に燃料電
池自動車については、2010 年度までに 5 万台、2020 年までに 500 万台を導入する政府目
標が掲げられている。燃料電池自動車は高圧水素を燃料として搭載するが、それを供給す
る水素スタンドは、現在のところ様々な規制により設置が制約を受けている。燃料電池自
動車を普及するためには、水素供給インフラの整備が不可欠であり、その設置を促進する
ためには各種規制の緩和が必要である。
このような中で、平成 14 年 10 月に政府は 2005 年を目処に「燃料電池の実用化にむけ
た包括的な規制の再点検の実施」を決定し、規制再点検を行う事となった。規制再点検項
目は 28 項目あり、自動車
11 件、インフラ
12 件
、定置式燃料電池
5件となってお
り、燃料電池の普及を促進するために幅広い内容となっている。
この規制見直しを推進するため、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では、
「水素安全利用等基盤技術開発事業」を平成 15 年度より実施し、規制再点検に向けた安
全技術の研究開発を開始した。同事業では安全技術関連の項目として、①車両関連、②水
素インフラ、③水素物性、④材料物性を掲げて検討を進めている。
PEC ではこの事業に参画し、「水素インフラに関する安全技術」として水素スタンドの
安全技術に関する研究開発を開始した。本研究開発では、現行法規制の再点検に資するた
め、水素スタンドに関わる安全性を検証するとともに、安全性を担保する技術基準の策定
を行っていく。
2.水素スタンドに関わる規制内容
水素スタンドの設置は、現在各種法律で規制されており、その中で水素スタンドの普及
を図るために見直しの対象となる主な規制を表1にまとめた。また、高圧ガス保安法にお
ける保安距離に関する規制見直しのイメージを図1に示す。水素スタンドの市中設置ある
いはサービスステーション(SS)との併設に係わる高圧ガス保安法、消防法および建築基
準法の各法体系について、圧縮天然ガススタンドと比較しつつ検討した。規制緩和の観点
から、次の項目が重要である。
・高圧ガス保安法:高圧ガス設備の保安距離、保安要員、検査周期の延長
・建築基準法:高圧設備関係の建築物の用途地域制限、貯蔵量
・消防法:SS 内での高圧ガス設備設置、改質装置の併設と保有空地、夜間無人運転
以上のように、高圧ガス保安法の関連では、施設の保安距離の短縮がポイントであり、
現行の規制下では水素スタンドを設置するために広い敷地が必要となる。また、消防法の
関係では、(SS)との併設が認められていないため、SS インフラを活用できないという制
約がある。一方、建築基準法では高圧ガス設備を設置できる地域は、工業専用地域等に限
定されており、商業地や準住居地域では水素スタンドが建設できない。
表1
水素スタンドに関わる規制内容
関係法令
規制見直し内容
高圧ガス保安法
【一般則第6条第1項 二号、三号】
水素供給スタンド設置に関する保安距離について、圧縮天然ガススタンド並みの保
安距離への見直し
(第一種設備距離 17m ⇒ 6m の離隔間隔、火気施設との距離 8m ⇒
4m)
高圧ガス保安法
【一般則第64条】
水素供給スタンドにおける保安統括者等の選任、常駐義務について、圧縮天然
ガススタンド並みへの見直し
(保安統括者、保安係員(常駐が必要)の選任⇒保安監督者の選任(常駐は不
要))
高圧ガス保安法
【一般則第7条第3項 二号】
水素供給スタンドの漏れ検知手段について、付臭剤以外の漏れ検知装置等によ
る代替手段の採用
(付臭剤の開発又は代替案を立案)
高圧ガス保安法
【容器則第22条】
液化ガス輸送容器の充填率の上限の欧米並みへの見直し
(液化ガス輸送容器の充填率の増加 90% ⇒ 95%)
高圧ガス保安法
【一般則第79条第2項】
水素供給スタンドのメンテナンスコストを低減するため保安検査周期を延長
(水素供給スタンドの保安検査周期の延長)
建築基準法
【建築基準法第48条別表第2】
水素供給スタンド等の可燃性ガスの製造を行う建築物は、工業地域、工業専用地
域以外には建設できない。CNGスタンド並への見直し
建築基準法
【建築基準法施行令第116条、
第130条の9】
用途地域毎に水素貯蔵量の制限があり、市街地にスタンドを建設する場合小規
模にならざるを得ない。制限数量の増加見直し(商業地域等の水素貯蔵量を工
業地域並に緩和する)
消防法
水素供給スタンド等を設置する場合、ガソリンスタンドとの併設は認められていない。
【危険物の規制に関する政令第17条】 圧縮天然ガススタンドと同等にガソリンスタンドとの併設を可能とする。
高圧ガス設備
(圧縮機、蓄圧器、等)
H2
火気取扱施設
8m
11.3m
17m
第2種保安物件(民家等)
第1種保安物件
(学校、病院等)
H2
火気取扱施設
図1
4m
6m
敷地境界
(障壁の設置により6m未満可)
高圧ガス保安法の保安距離に関する規制見直しのイメージ
こ れ ら の 多 岐 に わ た る 規 制 を 見 直 す た め 、本 研 究 開 発 で は 水 素 ス タ ン ド の 安 全 性
を 検 証 し 、安 全 性 を 担 保 す る 技 術 基 準 案 を 作 成 す る 。当 初 は 、現 行 の 35MPa燃 料 電
池 自 動 車 に 対 応 で き る ス タ ン ド の 安 全 検 証 を 行 い 、そ の 後 、高 圧( 70MPa)燃 料 電
池自動車に対応できるスタンドの安全性についても検証する予定である。
2.研究開発の体制と内容
本研究開発では、PEC を代表委託者としてそれぞれ担当分野毎に、4企業、1団体(三
菱重工業、日本産業ガス協会、タツノメカトロニクス、岩谷産業、日本製鋼所)からなる
コンソーシアム体制により推進していく。体制図と主要な研究項目を図2にまとめる。
<三菱重工業㈱>
水素ガス等の拡散・燃焼・爆発実験
水素ガス等のシミュレーション技術
<石油産業活性化センター>
<日本産業ガス協会>
*プロジェクトの統括
水素スタンド構成機器の信頼性検証
・水素スタンドの安全性評価
・安全対策検討と技術基準の策定
・水素製造改質器の安全性評価
<㈱タツノメカトロニクス>
水素ディスペンサーの安全検証
・SS 併設 水素ス タン ドの最 適化
検討
<岩谷産業㈱>
液体水素関連技術
<㈱日本製鋼所>
金属材料の評価
高圧水素圧縮機の安全検証
図2
研究開発の体制と主要な研究項目
PEC ではそれぞれの担当分野から得られるデータを用いて、水素スタンドの安全検証を
行うとともに必要な安全対策を検討し、安全性を担保する技術基準を策定していく。また、
改質機周りの安全検証等を実施していく。また、各社においては安全検証試験を行ってい
くが、主な内容は次のものが挙げられる。
・ 水素物性に関わる安全性検証(水素ガスの拡散状況、爆発燃焼状況の把握)
・ スタンド機器設備の安全性検証(高圧水素下での機器設備の作動や性能試験)
・ 金属材料の評価(高圧水素下での材料の劣化や疲労検証)
3.検討の進め方
水素スタンドは、高圧(40MPa)の可燃性ガスを取扱う施設であることから、規制の見
直しにあたっては、安全性にかかわる検討を十分行い事故を起こさないことが必要である。
安全検討を進める上では、水素スタンドに係る様々な知見・データが必要になってくる
が、水素スタンドの建設実績は限られており、またそれらの運転実績も少ないのが現状で
ある。
そこで、本事業では水素スタンドに関する事項をあらゆる角度から多数想定し、その危
険度を評価(リスク評価)して、その事故の影響を無くすような安全対策を策定していく。
危険度の評価に当たっては、水素の拡散や燃焼爆発などのデータや、使用機器の信頼性を
試験して、それを基に安全性を調べていく。検討のフローを図3に示す。
事故事例調査
・高圧ガス、スタンド事
水素スタンドモデル作成
・装置フロー
海外の水素スタンド
関係法規動向調査
事故要因、想定事故リストアップ
機器、材料の安全検証と安全対策検討
水素の燃焼/爆発の影響度評価
・事故の発生を防止するための安全対策
・拡散/燃焼/爆発に係る実験、シミュレー
・機器の安全検証、金属材料等の評価
ション、防護措置(障壁)の検討
リスク評価
・水素スタンド全体システムの安全検証
・想定事故毎に、安全対策が十分であるかを評価する
No
安全対策は充分?
Yes
技術基準案
図3
検討のフロー
4 . 平 成 15 年 度 の 研 究 開 発 成 果 の 概 要
4.1
水素スタンドに関する安全性評価と安全対策検討
本 検 討 の ベ ー ス と な る 水 素 ス タ ン ド モ デ ル を 明 確 化 す る た め に 、オ ン サ イ ト 改 質
型 、オ フ サ イ ト 高 圧 水 素 貯 蔵 型 、オ フ サ イ ト 液 体 水 素 貯 蔵 型 の 各 タ イ プ 別 に 設 備 仕
様 を 設 定 す る と と も に フ ロ ー 図 ( P&ID) を 作 成 し た 。 ま た 、 圧 縮 天 然 ガ ス ス タ ン
ド お よ び 水 素 を 取 扱 う 一 般 高 圧 ガ ス 設 備 で の 過 去 の 事 故 事 例 調 査 、並 び に 前 記 ス タ
ン ド モ デ ル を 基 に 、 事 故 想 定 の 手 法 ( HAZOP 、 FMEA ) を 適 用 し て 危 険 事 象 の 抽
出 を 網 羅 的 に 行 い 、想 定 事 故 の リ ス ト ア ッ プ を 行 っ た 。さ ら に 、想 定 事 故 あ る い は
安 全 対 策 に 対 す る リ ス ク 評 価 手 法 を 検 討 し 、評 価 基 準 と な る リ ス ク マ ト リ ク ス を 確
定した。表2にリスクマトリクス表、表3にリスクランクと対応をそれぞれ示す。
表2
リスクマトリクス表
可能性
影響度
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
Ⅴ
極めて重大な災害
重大な災害
中規模災害
小規模災害
軽微な災害
A
ほとんど起
こり得ない
H
M
M
L
L
表3
リスクランク
H ( High)
高い
M( Medium) 中 程 度
L ( Low)
4.2
低い
B
起こりにく
い
H
H
M
L
L
C
可能性があ
る
H
H
H
M
L
D
十分起こり
得る
H
H
H
H
M
リスクランクと対応
取るべき措置
許容できない。更なる安全対策を講じなければならな
い。
原則として許容できない。更なる安全対策が可能かど
うかを検討し、現実的な対策が見つからない場合に限
ってこれを許容する。
許容できる。更なる安全対策は必ずしも必要でない。
水素の拡散、着火、爆発の挙動確認と安全性の評価(別途報告)
高 圧 水 素 ガ ス お よ び 低 圧 液 体 水 素 の 拡 散 挙 動 を 把 握 す る た め に 、野 外 拡 散 実 験 あ
る い は 数 値 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン を 実 施 し た 。 40MPaま で の 高 圧 水 素 ガ ス に 関 し て は 、
ピンホールを想定した連続漏洩として漏洩口径等を変化させたときの水素濃度分
布 、ま た 充 て ん ホ ー ス 破 断 を 想 定 し た 瞬 時 漏 洩 と し て 水 素 量 等 を 変 化 さ せ た と き の
水 素 濃 度 の 時 間 変 化 を 計 測 し た 。一 方 、液 体 水 素 に 関 し て は 、充 て ん ホ ー ス 破 断 や
液 体 水 素 ロ ー リ ー 継 手 の 漏 洩 を 想 定 し た 漏 洩 水 素 濃 度 分 布 を 計 測 し た 。さ ら に 、数
値 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン に よ り 、こ れ ら 実 験 結 果 の 解 析 、並 び に 次 年 度 に 予 定 し て い る
爆発実験評価の準備等を行った。
4.3
水素スタンド構成機器の安全性検証と性能試験
(1)蓄圧器、配管等の安全性検証
蓄圧器、配管等に関して、①水素スタンドで使用されている各機器の仕様、メーカー調
査、②水素、CNG、LNG各スタンドを対象とした設備状況、安全対策等の調査、③構成機
器の故障頻度調査、④既存設備の不具合点の調査、⑤水素スタンドモデル構成機器の安全
対策の調査、性能検証、⑥構成機器の安全対策に関する海外調査、等を実施あるいは開始
した。
(2)水素ガスディスペンサーの安全性検証
水素ガスディスペンサーを構成する充てんホース、充てんカプラ、ディスペンサー構造、
ハンドバルブ、遮断弁およびこれら機器の安全性検証を行うための高圧ガス試験設備の設
計、製作を行った。
(3)高圧水素圧縮機の安全性検証
水素スタンドに適した圧縮方式の調査を行うとともに、商用規模の高圧圧縮機の安全性
検証実施のために圧縮機設備の設計、製作、設置を行った。
(4)漏洩水素あるいは水素火炎の検知技術の調査・性能検証
付臭材に代わる検知手段としての水素漏洩検知器の技術開発動向調査と現行品の性能検
証を行った。また、無色の水素火炎を検知する手段としての水素火炎検知器の性能あるい
は安全性の調査、検証を行った。
4.4
液体水素関連の安全性検証
(1)液体水素ローリー等の充てん率上限の検証
水素物性値から液体水素容器の内圧変化等の検討、および充てん、貯蔵の実態あるいは
規制に関わる国内外の調査を行った。また、液体水素貯層の液膨張、充てん容量管理に関
する検証試験設備を設置した。
(2)液体水素ディスペンサーの安全性検証
液体水素ディスペンサー構成機器において検証試験が必要な機器類および検証項目を選
定するとともに、模擬ディスペンサーシステムおよび安全弁、緊急遮断弁等の検証試験装
置を製作した。
4.5
水素スタンド構成金属材料の評価( 別 途 報 告 )
45MPaの高圧下での金属材料の引張試験、遅れ破壊試験、疲労試験、破壊靭性試験の各
評価試験を実施するためのオートクレーブ装置および材料試験機の設置を行うとともに、
高強度クロムモリブデン鋼等の各種評価試験を開始した。また、シール材の劣化特性に関
する調査検討を行った。
4.6
保安関係の検討
(1)保安員配置の見直し
保安員配置の見直しに関する検討として、オンサイト型水素スタンドにおける作業項目、
保安上の留意点について整理し、必要な安全対策を検討した。
(2)保安検査周期の延長
保安検査周期の延長の可能性の検討として、既存の水素スタンドの保安検査結果を収集
し、配管等の腐食、劣化状況等の調査を開始した。
(3)液体水素ローリーの保安距離の短縮
液体水素ローリーの保安距離の見直しに関する検討として、液体水素ローリーに関わる
事故要因等の分析、安全対策類の検討、事故の影響評価の検討のためのデータ収集を行っ
た。
(4)改質装置の夜間無人暖機運転
改質装置の夜間無人暖機運転の可能性の検討として、実証スタンドにおける夜間での運
転方法、監視体制、緊急時対応等の調査を行った。
(5)水素スタンドの安全・保安技術の開発
安全運転支援のための人的操作モニタシステムの設計要件の基礎検討、また異常診断シ
ステム開発における亀裂検出用AE(Acoustic Emission)センサの適用性検討、さらに危
険事象対応のための水素検知システム要件の検討についてそれぞれ実施した。
4.7
改質器の調査、安全性検証
改質器周りの安全検証として、原燃料油(ナフサ、メタノール)が漏洩した場合に発生
する可燃性蒸気の蒸発速度と拡散状況(濃度分布)などを、風洞実験により確認した。ま
た、この風洞実験についてCFD(流体解析)を用いたシミュレーションを行い、実験値と
の整合性を評価した。