スライド 1

2014年1月20日最終講義
森岡孝二
働き方から見た日本経済の半世紀
-学生時代からの自分史に重ねて-
はじめに
1 就職率過去最高の年に大学入学(60年代前半)
2 関大着任時は日本経済の転換点(70年代半ば)
3 バブル経済のピークで過労死問題に関与(80年代後半)
4 株主オンブズマンの企業監視活動に参加(90年代後半)
5 まともな働き方の実現をめざして(00年代後半から)
おわりに
1 就職率過去最高の年に大学入学
1962年度 香川大学経済学部入学
62年3月の就職率は86.6%で過去最高 年率10%の経済成長期
過去最悪は2003年3月の55.1%、 2013年3月は67.3%
最近では2割が「就職も進学もしていない」と「一時的な仕事」
表1 1962-2010 進学率の比較
大学
短大
男女
男性
女性
男女
男性
女性
1962年
10.0
16.5
3.3
2.8
1.6
4.1
2010年
51.0
56.0
45.8
5.7
1.2
10.4
(出所)文科省「学校基本調査」時系列データ
(注)2011年度をピークに減少へ 2013年度 大学は49.9%
図1 就職率などの推移
文科省「平成学校基本調査」2013年度
図2 戦後日本の経済成長率
14
14
%
%
12
12
10
10
88
66
44
22
00
-2
-2
-4
-4
-6
-6
2010
2008
2006
2004
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
1988
1986
1984
1982
1980
1978
1976
1974
1972
1970
1970
1968
1968
1966
1966
1964
1964
1962
1962
1960
1960
1958
1958
1956
1956
(出所)内閣府「国民経済計算」時系列データ
2 関大着任時は日本経済の転換点
<私の初期の教員生活>
1969年10月-74年3月 大阪外国語大学に勤務
1974年4月 関西大学経済学部に。以後、勤続40年
1976年度 教員組合書記長 (久井理事長時代、
当時の職組委員長は現在の池内理事長)
<70年代前半の日本経済>
1971年 ニクソンショック(変動相場制へ)
1973年 オイルショック、原油価格は72年の1バレル2.5ドル
から74年の11ドルに、激しいインフレ、最初のマイナス成長へ
スタグフレーション、「省資源」「減量経営」
(わが家の洗剤不足で慌ててパチンコ)
労働組合運動の高揚と衰退
1970年代半ばまでのストライキの増加
1972年 春闘初の交通ゼネスト (臨時休業参照)
1975年 スト件数、過去最高に
1970代半ばを境とするストライキの減少
オイルショック不況を境に資本による労働の押さえ込みが強まる
労働組合の企業主義的統合・再編が進む
「ストレス社会」への移行
【朝日新聞歌壇より】
過労死と過労自殺が増えてきたストもできない仕組みのなかで(13/7/16 観
正一)
「過労死」という用語の最初の使用例 1975年(細川汀医師)
余談:「私語よりはましでしょ」というゼミ生の指はスマホの画面離れず(14/1/13 安藤勝志) 、
80年代以降の情報化、グローバル化で新しい「働きすぎの時代」へ
新自由主義・市場個人主義の浸透、労働組合の弱体化でブレーキレスに
参考資料:交通機関のストライキ・台風等に伴う臨時休業
(昨年10月8日のWeb情報)
1 交通機関のストライキ、台風等の場合の休業は、ストライキが終了または暴風
警報が解除された時刻により、次のとおりとします。
・ 6時までに終了・解除されたときは、平常どおり。
・ 10時までに終了・解除されたときは、第3時限から授業を行う。
・ 13時までに終了・解除されたときは、第6時限から授業を行う。
・ 13時を過ぎて終了・解除のときは、休業。
2 交通機関のストライキによる休業は、次のとおりとします。
(1) 千里山キャンパス・高槻ミューズキャンパス
ア 阪急電鉄の運行が停止しているとき。
イ JR西日本および大阪市営交通の両者の運行が停止しているとき。
(2) 高槻キャンパス
ア 阪急電鉄の運行が停止しているとき。
イ JR西日本および大阪市営交通の両者の運行が停止しているとき。
ウ 高槻市営バスの運行が停止しているとき。
(3) 堺キャンパス
ア 南海電鉄の運行が停止しているとき。
イ JR西日本および大阪市営交通の両者の運行が停止しているとき。
図3 組合組織率とストライキ件数の推移
6,000
50
半日以上の
ストライキ件数
件
45
5,000
40
35
4,000
30
組織率
3,000
25
20
2,000
15
10
1,000
5
0
0
1950 55
60
65
70
75
80
厚労省「労働争議統計調査」時系列データ
85
90
95 2000 05 2010 年
3 バブル経済下で過労死問題に関与






1985年度 ロンドン遊学
前後の84年と88年に心臓弁膜症で二度の手術
バブル経済下で男性の残業時間が異常に増加
男性の4人に1人は週60時間以上(残業月80時間以上)
1988年 過労死110番がスタート
1989年4月 大阪過労死問題連絡会総会で「働きすぎ社会
を考える」と題して講演
<過労死問題の最初の拙稿>
「過労死-働きすぎ社会の告発」『経済科学通信』第60号、89年7月
別図 労働時間の二極分化 1975-90
女性
男性
40
%
37.1
35
40
1975年
35
1990年
30
30
25.6
25
26.5
21.0
22.1
20
5
22.5
1975年
1990年
28.0
27.9
25.9
25
26.5
20
17.5
17.9
15
10
37.5
%
13.4
7.5
15
13.5
13.0
10
6.4
5.1
5
0
5.0
0
1~34
35~42
43~48
49~59
男性は長時間労働者が増加
(出所)総務省「労働力調査」
60~ 時間
1~34
35~42 43~48 49~59
女性は短時間労働者が増加
60~ 時間
図4 労働時間の推移
2800
50
時間
2600
図5パート労働者の推移
%
男性
40
女性
2400
男女計
30
男女計
2200
女性
20
2000
男性
10
1800
0
1600
55 60 65 70 75 80 85 90 95 00 05 10 年
(出所)総務省「労働力調査」
55 60 65 70 75 80 85 90 95 00 05 10
表2 フルタイム労働時間の国際比較
日 本
アメリカ
イギリス
ドイツ
フランス
2001
2006
2011
男性
50.9
52.5
53.1
女性
42.9
44.9
44.1
男性
43.0
42.9
42.5
女性
40.3
40.3
40.2
男性
45.1
43.8
43.6
女性
40.2
39.6
39.6
男性
40.3
40.6
40.9
女性
38.6
38.5
38.6
男性
39.1
40.1
40.3
女性
37.4
37.7
38.2
(出所)日本「社会生活基本調査」、OECD. Average usual weekly hours, 2012
図6 過労死・過労自殺の推移
1400
1272
件
1200
1136
過労死
(脳・心臓疾患)
1000
816
819
869
617
690
842
802
524
447
400
212
過労自殺
(精神障害)
341
200
898
767
656
493
1257
927
931 889
819
742
800
600
938 952
1181
265
155
0
99
00
01
02
03
04
05
06
07
08
(出所)厚労省「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」
(注)死亡事案以外を含む
09
10
11
12年
図7 若年層に多発する過労自殺
1600
1477
件
1400
1246
1200
過労死
1199
過労自殺
951
1000
859
850
800
650
600
358
400
200
0
0
40
19歳以下
152
90
20~29歳
30~39歳
40~49歳
50~59歳
(出所)厚生労働省「脳・心臓疾患及び精神障害等に係る労災補償状況」。
(注)数字は2008~2011年度の労災申請件数。死亡事案以外を含む。
60歳以上
諸悪の根源は超長時間労働
労働時間の長短二極分化と性別二重構造
日本的雇用システム--「男は残業、女はパート」の
性別役割分業
 働き方の男性正社員モデル

中核的正社員=家事労働をほとんどせず、サービス残業も拒
まず、過労死の不安と背中合わせに働く男性

恒常的長時間残業とサービス残業の蔓延

三六協定による超長時間労働の制度的温存
4 株主オンブズマンの企業監視活動に参加
1990年代 バブル崩壊から日本経済は長期不況に
<90年代後半>
 バブル後遺症で企業不祥事が多発
 不良債権問題から金融危機が発生
 バブル期のずさん融資と公的資金による銀行救済に批判が高まる
→ とくに住専問題

1996年株主オンブズマン設立 「社長になった大学教授」読売の顔欄
市民株主の立場から、企業の違法行為を是正し、健全な企業活動を推
奨する目的で設立。弁護士・公認会計士・学者などの専門家と個人株主
によって構成される。株主総会改革、役員報酬開示、株主代表訴訟、株
主提案、企業政治献金の差し止めなどを提起。上場企業に対する種々
の調査活動と提言。 2003年6月よりNPO
株主オンブズマン活動のいくつかの成果



シャンシャン総会の是正前進
総会屋事件などの株主代表訴訟の和解で、再発防止の企業
改革を迫る
株主提案では
雪印 安全監視体制構築のための社外取締役選任(2002年)
ソニー 女性社外取締役の選任(2003年)
トヨタ 株主総会の準集中日開催の変更(2004年)
大林組 談合防止の定款新設(2007年)
2010年、企業情報開示の内閣府令改正で報酬1億円以上の
取締役の実名開示が実現--KOの株主提案が先鞭をつける
5 まともな働き方の実現をめざして

2006年9月 ストップ・エグゼンプションの運動のなか
で「働き方ネット大阪」がスタート
派遣労働、パート雇用、ワーキングプア、不況、生活
保護、ブラック企業などの問題に取り組む
「働き方エッセイ」を連載中(現在245回)
2013年7月 NPO「働き方ASU-NET」に移行
南森町駅近に事務所を開設

2011~2014 過労死防止基本法の制定に高まる期待

退職後しばらくはASU-NETで学生・若者支援のボラン
ティア




表3 若年層の非正規労働者化
労働者
正規
非正規
総数
労働者
労働者
① 1988年2月
617
512
106
17.2
② 1994年2月
751
584
167
22.2
③2013年1-3月
445
221
224
50.3
-172
-291
118
33.1
調査年月
増減(③-①)
(出所)表1に同じ。
(注)若年労働者は15~24歳の役員を除く雇用者。
比率
図8 若者の2人に1人は非正規労働者
90
%
80
70
60
50
40
30
20
10
0
正規労働者
非正規労働者
88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 1213
(出所)表2に同じ。
(注)若者は15~24歳の年齢階級。
年
過労死防止基本法の制定に高まる期待
<法案骨子>
1 過労死はあってはならないことを、国が宣言すること
2 過労死をなくすための、国・自治体・事業主の責務を明確にすること
3 国は、過労死に関する調査・研究を行うとともに、総合的な対策を行うこと

労基法に魂を入れる → 連続11時間休息制度の導入や三六協定の抜本的見直
しに向けてのステップ
<これまでの経過>
 2011年11月18日 院内集会で制定実行委員会の発足総会
 前年の準備集会を含め8回の院内集会
 100万人署名運動 2013年11月末に52万筆を提出
 地方議会における意見書採択 現在75自治体
 2013年6月18日 超党派・全主要政党参加の議連世話人会の発足
 2013年12月4日 野党共同案「過労死等防止基本法案」を衆院提出、
 この通常国会で成立か
(私の修士論文-「アメリカにおける1946年雇用法の成立過程」)
おわりに-〈まともな働き方〉の条件
<ILOの唱える「ディーセントワーク」>
日本政府の訳「働きがいのある人間的な仕事」 -「まともな仕事」「まともな
働き方」のこと
①まともな労働時間、②まともな雇用、③まともな賃金、④まともな社会保障
<まともな労働時間を実現するには>
◇過労死防止基本法で労基法を実質化
◇ブラック企業を根絶
◇残業の上限規制を導入
EU諸国では週48時間が上限 最低11時間の休息時間の確保
◇サービス残業の解消
◇年次有給休暇の完全消化と連続休暇の確保
<意見を言おう、声を上げよう>
例1 「ブラック企業」に込められた学生の現状への疑問と批判
例2 世論に押されて政府もブラック企業対策に乗り出す
例3 フクシマから原発ゼロの世論と行動が広がる
主要著作リスト











『独占資本主義の解明―予備的研究』、1979年11月(増補新版、1987年)、
新評論
『現代資本主義分析と独占理論』、1982年10月、青木書店
『企業中心社会の時間構造―生活摩擦の経済学』、1995年1月、青木書店
『粉飾決算』、2000年1月、岩波書店、ブックレット
『日本経済の選択―企業のあり方を問う』、2000年9月、桜井書店
『働きすぎの時代』、2005年8月、岩波新書
『貧困化するホワイトカラー』、2009年5月、ちくま新書
『強欲資本主義の時代とその終焉』、2010年4月、桜井書店
『就職とは何か―〈まともな働き方〉の条件』、2011年11月、岩波新書
『過労死は何を告発しているか―現代日本の企業と労働』、2013年8月、
岩波現代文庫
『教職みちくさ道中記』桜井書店、2014年3月刊行予定
ご聴講ありがとうございました。