日本会計研究学会統一論題報告 コストマネジメントの 新旧思考を統合する ドメイン・オブジェクト・モデルの提唱 2004年9月9日於中央大学 一橋大学 尾畑 裕 コストマネジメントにおける 旧思考と新思考 いちがいには旧思考・新思考にわけられないが 本報告では、次のように考える 旧思考 ⇒ 結果重視のコストマネジメント思考 新思考 ⇒ プロセス思考のコストマネジメント思考 米国の管理会計の立場からみた理念型 本日の報告内容 ① 結果重視のコストマネジメント思考とプロセス重視 のマネジメント思考の特徴 ② 伝統的原価計算構造の問題点 ③ 原価計算構造の工夫による結果重視思考とプロ セス重視思考の統合 ④ オブジェクト指向コストモデルの提案 ⑤ オブジェクト指向コストモデルに基づく原価計算の 標準仕様化 結果重視のコストマネジメント思考と プロセス重視のマネジメント思考 (1) MBM(Management by Means)と MBR(Management by Results)の対比 (2) TOCにおける3つの行動指標 (3) BSCにおける結果指標と先行指標 (1) MBM(Management by Means) MBR(Management by Results)の対比 Johnson & Bröms, Profit beyond measure (河田信訳「トヨタはなぜ強いのか」 日本経済新聞社、2002) (2) TOCにおける3つの行動指標 結果指標(利益・キャッシュフロー)と 行動指標(スループット、在庫、オペレーティン グ・コスト)の明確な分離 (3) BSCにおける結果指標と先行指標 • 財務の視点以外に、顧客の視点、内部プロセ スの視点、学習と成長の視点を重視 • それぞれにパーフォーマンスドライバを設定 伝統的な原価計算構造 (インプット・アウトプット関係の 連鎖の呪縛) (1) インプットの消費を生成されたアウトプットと の関係で表現するしくみ (2) 強引なインプット・アウトプット関係の連鎖 (3)プロセスのアウトプットとプロセスインプット利 用の間の断絶 設備能力の利用の例 • 設備能力の準備プロセス アウトプットは、設備能力を形成し維持する事 インプットは、減価償却費、動力、保全等 • 設備能力利用プロセス インプットは、設備能力の一定時間の占有 能力準備プロセスのアウトプット ≠能力利用プロセスのインプット 結果重視思考とプロセス重視思考 のシステム的統合 • プロセス重視思考-----------必ずしも結果をフォローしない場合あり • 結果重視思考----------------短期的な視野に陥り、正しいことができない プロセスと結果は当然、両方重視すべき 必要な条件の違い プロセス重視のための情報 ------現場への頻繁なフィードバック情報 例)原単位情報等のディテール情報 結果重視のための情報 ---------コストや利益といった 高度に要約的情報 プロセス管理の情報と 経営のための結果指標とのリンク • 現場用情報と経営用情報をシステム的に連 結することが望ましい。 • しかし、特定の工程のディテール情報は、製 品軸で集計しにくい ⇒この解決の手段としてオブジェクト指向原価 計算が使える オブジェクト指向コストモデル の原価概念 原価を1つの要約数字とは見ない コスト情報利用者が、コスト情報を引き出 すための出発点となる起点となるもの その起点から、芋づる式に、個別のデー タ、さまざまな視点からのディテールや要 約データを引き出す オブジェクト指向コストモデルの基本構造 ●アウトプットの生成とインプットの消費との関 連およびプロセス間の関連 ●インプットの消費量およびアウトプットの生成 量 ●インプットの価値 を、別々のオブジェクトとして管理 諸関係・初期条件の構築と アドホックに行われる計算操作 • 諸関係・初期条件を登録 • 情報利用時に要約数字を作る オブジェクト指向原価計算の 基本単位(基本プロセス) 消費 生成 インプット ⇒ 基本プロセス ⇒ アウトプット ここでアウトプットとは、実体のある品目、設備や労 働力の能力提供、サービス提供体制の形成維持、 製造環境の向上等、無形のものも含まれる。 基本プロセス間の関係パターン 1)直接的消費関係(自製部品消費) 2)先行関係 3)ボトルネック能力利用関係(設備、作業者に より用意された能力の利用) 4)非ボトルネック能力利用関係 5)サービス利用関係 6)直接的受益関係 7)間接的受益関係 現象としては認識されていた • この種のパターンがあることは現象としては 認識されていた。 • しかし、それらの現象を十分に反映した原価 計算モデルが構築に限界があった 参考:ドイツ原価計算における諸原則 直接材料 (原価発生原因原則 Verursachungsprinzip) 潜在要素(設備、労働力等)(資源要求原則 Beanspruchungsprinzip) 直接因果関係のない間接費配賦(原価作用 原則Kosteneinwirkungsprinzip) 製品に結びつけることを前提にした原則 オブジェクト指向原価計算の特色 1)条件をかえてのシミュレーション 2)要約数字から内訳へのドリルダウン 3)原価計算対象階層の視点と プロセス階層の視点の随時切り替え 4)生産現場へのフィードバック情報と 整合性をもったマネジメント層への マクロ的情報の提供 (続き) 5)GUIナビゲータによる対話型原価計算 ⇒原価計算プロセスの体感 原価計算をブラックボックス化しない 関連の糸をたどったオブジェクト間の渡り歩き 計算仮定は、情報利用者が対話的に決定 対話的決定(イメージ) 製品A原価 アウトプット量 100個 直接材料 650,000円 [プロセスごとに展開] [材料種類グループごとに展開] ボトルネック設備サービスの利用時間 1時間 金額未定 [ボトルネック設備の状況] 非ボトルネック設備の利用時間 3時間 金額未定 [非ボトルネック設備の状況] サービス利用コスト 金額未定 [各種活動の状況] 直接受益サービス負担 金額未定 [製造環境の状況] 間接受益サービス負担 金額未定 [製造環境の状況] 生産ライン滞留時間 22時間 [詳細情報] [各種物量情報のリスト] 経営者がオブジェクトコストモデルを 操作する意義 • 私作るひと、私見るひとではいけない。 • 経営者自身が、コストのなりたちを体感するこ とが重要で、オブジェクト指向コストモデルが 必要。 (続き) 6)工程間のオブジェクト振替 すべての情報へのリンクをもった オブジェクトとして次工程へ引き渡す 7)プロセス間の多様な関係パターンを 考慮することができる オブジェクト指向原価計算の 適用分野 ①各種シミュレーション ②分社化された工程の連結原価計算 ③生産現場の情報とマネジメントへの情 報の有機的結合 具体例 (半導体産業前工程のあるべき 原価計算システムの開発) 大口径化と微細化によるコストダウンの限界 ⇒半導体不況 半導体製造プロセスの効率化が必要 ⇒ブラックボックス化した装置から情報を引き出すり 装置情報の自動収集 EES(Equipment Engineering System) ⇒装置メーカ、半導体メーカの技術者のための情報 EESにより出力される膨大な技術データをコスト情報 へ変換できないか ⇒現場情報とマネジメント情報のリンク 原価計算分野の ドメイン・オブジェクト・モデル PSLX(Planning and Scheduling Language on XML specification) におけるドメイン・オブジェクト・モデル スケジューリングを中心として生産管理関係のドメイ ン・オブジェクト・モデル ⇒原価計算用ドメイン・オブジェクト・モデルとしても 参考になる PSLXコンソーシアムのページ http://www.pslx.org/jp/ PSLXの拡張 APS(Advanced Planning and Scheduling)に作られた ドメイン・オブジェクト・モデル ⇒原価計算には不足する部分がある ⇒拡張 PSLXのドメイン・オブジェクト・モデル の基本形 作業が中心となって、作業が品目を消 費し、作業が品目を生成すると考える。 そして、作業には、資源(設備および 作業者)が割り当てられる。 ※生成されるのは、具体的な品目であり、 段取作業のように、なにも生成しない作業 もある PSLXのドメインオブジェクト(中心部分) アクションが数 量情報をもつ (在庫を増減さ せるという意味) オブジェクト指向原価計算の立場から のドメインオブジェクトモデル • 基本プロセスは、インプットを消費し、アウトプットを 生成する • あるプロセスのアウトプットとインプットをつなぐのが、 直接的消費関係、先行関係、ボトルネック能力利用 関係、非ボトルネック能力利用関係、サービス利用 関係、直接的受益関係、間接的受益関係といった 関係を定義するオブジェクト(プロセス間関係クラス のサブクラスとして定義) • プロセス間関係パターンにより表示方法を変えるこ とができる。 品目のクラス階層抜粋(UMLによる) (カラー部分が原価計算用に拡張) サービス利用を表現するオブジェクト図 標準仕様設定の意義 原価計算のドメイン・オブジェクト・モデルは、原価 計算システムを実装するさいの普遍的な構造を示 す ⇒システム開発工数の削減、システム間データ連携の 実現 ⇒PSLXのドメインオブジェクトとの関連をたもつことに より、生産管理系のシステムとの連携も容易になる。 標準仕様の利用法 • 原価計算基準が、その法的背景をもとに当時 の先進的原価計算思考の普及をはかった ⇒標準仕様により同様の効果 • オブジェクト指向原価計算で実現できること は、すでに企業独自のシステムで実現できて いる場合もある ⇒標準仕様化により中小企業も利用できる PSLXコンソーシアム • 興味深い活動 • 原価計算研究者もPSLXの動きに協力するこ とは社会的意義がある 今後の計画 • PSLXを拡張した原価計算用のドメインオブ ジェクトモデルを完成させる。 • ロジックを組み込んだ原価管理エイジェントモ デルを作成 まとめ オブジェクト指向原価計算には、さまざまな 適用法が考えられる。 本報告では、プロセス重視のコストマネジメン ト思考と結果重視のコストマネジメント思考を 統合するためのツールのひとつとして、オブ ジェクト指向原価計算を位置づけた。
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