日本の原子力損害賠償制度 ー現状と課題ー

日・韓の原子力損害賠償制度
松山大学経済学部
張 貞旭(ジャン・ジォンウック)
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日・韓の原発
1.日本→ 稼働2基+停止48基 +建設中3基
廃炉中7基、 <但し、もんじゅを除く>
(1)東海原発(1966年7月~1998年3月)
(2)BWR26基+PWR24基
2.韓国→ 稼働15基+停止8基 +建設中5基
(1)古里1号機(1978年4月~)
(2)PWR19基+重水炉(Candu)4基
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韓国の原発所在地
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古里原発1号機
から半径30km以内に322万名
1)釜山市役所まで25km(人口:350万名)
2)蔚山市役所まで24km(人口:110万名)
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1.原子力損害賠償制度の導入背景
(1)米国の原子力法(1954年)
・原子力の平和利用(民間産業の参加)
・ノーチラス号(1953年)⇒建設保険+第三者賠償責任保険
(2)Price-Anderson Actの制定(1957年)
・WASH-740(予想被害の試算に関する報告書、1957年)
⇒財産被害2兆1000億、死亡者(早期3,400人)、障害者
(早期43,000人)
⇒保険会社の引受受けの拒否
・原子力損害に対する民間企業の懸念
(3)日米原子力(細目)協定の締結(1956年11月)
・濃縮ウラン(19.5~20%→2kg)の引き渡し後の免責条項
・米国の供給者および製造者の免責要求
・日英原子力協定(1958年6月)でも免責条項
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2.原子力損害の賠償に関する法律
(1)原子力委員会「原子力災害補償専門部会」
⇒「原子力災害補償制度の確立について」
(2)原子力産業会議の被害試算(1960年)
⇒財産被害3兆7000億、死亡者(早期540人)、
障害者 (早期2,900人)
(3)原賠法の制定(1961年)
⇒韓国の原賠法の制定(1969年)
⇒民法の特例法でかつ賠償処理について国家の
介入を規定する行政法
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3.原賠法の目的と基本原則
(1)目的
「被害者の救済」と「原子力事業の発展」
⇒前者の導入に対する反対意見(大蔵省)
(2)基本原則
・無過失責任(Liability without fault)
・賠償責任の集中
・賠償措置の強制(原子力責任保険契約の締
結もしくは供託+補償契約)
・国の措置⇒援助・補償
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1.事業者の無過失責任
(1)導入背景⇒情報の偏在・先端技術の理解困難
・鉱業法、水洗炭業法、独占禁止法、大気汚染防止法、
水質汚濁防止法、労働災害補償法、
「製造物責任法の適用外」(日1994年、韓2000年)
(2)無過失責任主義の経済的意味
1)注意水準と活動水準
加害者(効率的)⇔被害者(非効率的)
2)取引費用の増減
訴訟費用の低減とただ乗りの排除費用
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2.事業者への賠償責任の集中
(1)加害者の明確化⇒被害者保護
・訴訟費用の低減
(2)原子力関連産業のリスクの排除
・原子力関連産業の参入促進と拡大
⇒投資に関わる不確実性の除去
(3)原子力責任保険の累積化の回避
・保険の引受能力の限界
★被害者の救済でなく原子力事業の発展に重点
★「1-F事故と国家賠償法の適用」
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求 償 権
(1)日本⇒「故意」
*JCO事故⇒告知・通知義務の違反・過失の競合
・金額が少ないために「出再の対象」ではなかった
*1971年の1次改正で「過失」が削除
(2)韓国⇒「故意」と「重大な過失」
【その他】
A.KEDOのタービン発電機⇒GEから東芝へ変更
B.インドの原賠法(有限責任)→Bopal事故の影響
*玉虫色の解釈
⇒「IAEAの国際慣習(責任集中)を認定しつつ、
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国内法では責任集中を否定」
3.賠償責任の強制
(1)賠償責任の限度
1)日本⇒無限責任(ドイツ・スイス)
*71年の改正⇒「有限責任」の論議あり
2)韓国⇒有限責任(3億SDR)。原子力事業者
の故意の場合、「無限責任」
*2011年12月までは「無限責任」
*改正ウィーン条約への加入を備えて
(2)賠償資力の確保手段
1)「原子力責任保険契約」もしくは「供託」
2)政府の「原子力損害賠償補償契約」
⇒日韓のみの制度
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(3)賠償措置額⇒熱出力と事業内容によって
1)日本⇒50億円→60億円→100億円→300億円→
600億円(2000年)→ 1,200億円(2010年)
2)韓国⇒15億won(69年)→30億won(75年)→90億
won(86年)→500億won(02年)
*無限責任の時でも「大統領令の特例額が適用」
*韓国保険業界の引受能力3~4億ドル
★特例額⇒2000年の改正(日本)
・5%以上の濃縮ウラン加工工場
10億円⇒120億円へ(現在、240億円)
・JCO⇒合意6,983件・訴訟11件→154.0億円
★原子力船⇒360億円の有限責任
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4.国の措置(援助)
1.賠償措置額(超え)~有限・無限責任の「間」
⇒大蔵省(主計局・銀行局)・法制局の国家補
償への反対
日韓の援助 ⇔ 欧米は国家補償
【援助手段】
・補助金、低利融資、利子補給、金融の斡旋等
2.「国会の議決」が必要で、義務的ではない。
*韓国は1975年から「国会の議決」を採択
*日韓とも⇒
政府の裁量
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国の措置(補償)⇒事業者の免責
1.日本
1)異常に巨大な天災地変
⇒歴史上余り例のない大地震・大噴火・大風水災害
関東大地震の「45倍⇔3倍以上」、制度への不信
2)社会的動乱
2.韓国
1)天災地変(1969年当時)
2)甚大な天災地変、戦争・事変(1975年)
3)武力衝突、敵対行為、内乱・反乱
⇒改正ウィーン条約に合わせて(2002年から)
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日本の責任保険と補償契約
賠償主体
国
補償契約
補填事由 異常に ・正常運転
巨大な ・地震・噴火・津波
天災地 による損害
変又は ・事故から10年経
社会的
過後の請求
動乱
・原子力船の特例
責任保険
国と補償契
約の担保
対象では
ない全ての
損害
事業者の 免 責 ・原子力事業者の賠償責任
賠償責任
・賠償措置額を超える場合、政府
の援助
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原賠法の相違
日 本
事 項
韓 国
無限
責任限度
有限
1,200億円
賠償措置額
500億Won
故意
求償権
故意・重大な過失
民法20年
除斥期間
人的被害30年
物的被害10年
天災地変・動乱
免 責
天災地変は排除
適用(79年より) 従業員への適用
排除
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課題と改善策
1.賠償「補償契約」の存在と補償料の低さ
⇒2-Fの1,200億円の支払いはおかしい!
2.賠償限度額の低さと配分方法
3.因果関係の立証責任の転換
4.除斥期間の廃止または長期化
5.責任保険の強化
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1.補償契約の廃止
1.低い補償料:10000分の3(2010年)へ
600億円×0.0005=3000万円
1200億円×0.0003⇒3600万円)
「引き下げの理由」→安全神話⇔原発の増大と老朽化
最新の知見、保険市場のリスク評価、契約実績、事務
費の相対的な低減
しかし、10000分の20(2012年)へ
【韓国の補償料】
・500億won×0.0005=2500万won
・地震の場合、・「風水災および地震危険担保特別約
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款」と補償契約の二重補填⇒【保険優先】
2.事故抑止へのインセンティブなし
(1)「故意」のみ免責⇒免責なしへ
(2)幅広い補填範囲
⇔ 注意水準の低下(Moral Hazard)
・正常運転⇒未完成の技術
・10年後請求⇒保険会社への配慮
晩発性被害の判別困難
・その他、政令で決める損害⇒津波以外も
「地震」⇒再保険の不在による。対策として、相互
扶助制度または積立基金
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2.賠償措置額の少なさと賠償順位
(1)責任保険金の低さ
⇒相互扶助制度の導入と積立基金
・日本は世界一規模の保険市場
・財産保険の縮小⇔責任保険の拡大
*韓国の保険業の引受能力⇒3億ドル程度
(2)事前的な配分方法⇒賠償基準も(1-Fの問題)
⇒配分の優先順位(人的・物的)の未確定
<有限責任または事故収束が早かった場合>
(3)日本の「原子力損害」の定義?
⇒明確化→損害緩和費用は責任保険契約の免責
(4)海外輸出と賠償条約の締結
⇒国内では「賠償責任の集中」を廃止しても
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【原子力損害賠償支援機構の一般負担金】
(1)恒久的な措置で制度化→遡及保険料
(2)定期的な物価上昇率の反映
(3)積立基金の導入
【有限責任主義の導入に備えて】⇒「国策民営」
(1)国の関与と責任の在り方
(2)免責条項の廃止→ドイツ・スイスなど
(3)懲罰的損害賠償の導入
(4)補償契約の廃止
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3.因果関係の立証責任
○事故発生と被害との因果関係の「立証責任」
(1)特例(賠償)法の制定⇒一定の期間と疾病
1)米国の「放射能汚染に対する補償法(1990年)」
(Radiation Exposure Compensation Act)
2)フランスの「被爆者補償法(2009年)」
⇒原水爆実験の被害者の救済
3)日本の「被爆者援護法」
4)1-F事故のための特別法の制定
(2)政府または加害者の「反証責任」の採択
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4.除斥期間の廃止・長期化
(1)日本→事故発生の認知から「3年」、
民法の 「20年」
*1999年改正で延長を検討したことがある。
(2)韓国→人的損害は「30年」、
物的損害は「10年」
*改正ウィーン条約の影響
*以前→事故発生の認知から3年、民法の10年
*30年と補償契約の10年後との整合性
【1-F事故の長期間収束】
・排除期間の廃止が現実的
・国際条約への加入に備えて改正(延長)
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5.原子力保険の強化
(1)早期廃炉費用の義務化(米国)⇒財産保険
・廃炉引当金の追加的財源の確保策
(2)保険料・補償料の引き上げ
・サイト主義⇔Unit主義<多数原発の同時事故>
(3)財産保険の縮小⇒営業損失の填補廃止
1)1F・2F⇒1,000億円ずつ(2009年4月)敷地別加入
保険料⇒1-F(555百万円)、2-F(437百万円)
2)韓国⇒事故当たり10億ドル、年間20億ドルで損害
80%填補する。 保険料⇒1,580万ドル 24
【出再保険の割合】⇒財産保険
・日本⇒約70%
韓国⇒約90%
・日韓の財産保険の最大額⇒約28億ドル
・2010年10月から、1-Fの財産保険の未加入
⇒保険料の相違
*除染費用は免責なし
【責任保険料】
1-F⇒311百万円
2-F⇒218百万円
・日韓の責任保険の最大額⇒約15~16億ドル
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その他
1.事前的な事故抑止のインセンティブを高める。
⇒「原子力事業の健全な発展」を削除すべき
2.1-F事故の処理でも、指定廃棄物の運搬・管理
に伴うリスク
⇒基金の新設と賠償主体の明確化
3.福島県の除染物の運搬・貯蔵に伴う「原子力
子力損害」の補填?
⇒長期間の中間貯蔵⇔「補償契約法」の改正?
4.「原賠法の改正」が再稼働に間に合えるのか
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5.中長期的な健康(晩発性)への対応(賠償)?
⇒健康被害に対する賠償制度の改正?
6.健康基金の設立と運営
茨城県の「原子力安全等推進基金(100億)」
⇒健康管理と風評被害への対応
・放射線影響調査等交付金
・ウラン加工施設事故影響対策特別交付金
⇒ハード中心の基金運用と更新費用の確保?
7.「第3条第1項ただし書き」と想定内の天災地変
政府の安全審査・保安行政の不作為問題!27
韓国の再処理とG4炉
1.乾式再処理
・Pyro-processing(高温冶金法・金属電解法)
・米韓原子力協定の交渉難航⇒2年延長
2.第4世代炉
・超高温ガス炉(VHTR)
・Na冷却高速炉(SFR)⇒ 燃焼炉
・Integrated Fast Reactor(IFR)
→高速炉+再処理+燃料加工
3.使用済み核燃料の満杯問題⇒2023年より
→乾式の中間貯蔵施設の導入?
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Pyro-processing推進
1.高いリサイクル率⇒94~96%
2.経済性⇒原発増大とウラン資源の需給逼迫
3.環境負荷の低減
⇒最終処分場(体積・管理期間の縮小)
・分離(Partitioning):グルーブ→元素→核種の分離
・変換(Transmutation):核分裂および中性子の捕獲
→日本の「Fact」計画
4.核拡散の抵抗性⇒Puの単独分離の困難さ
・MAの燃焼(消滅)
・Puの燃焼→転換率0.9のSFR
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Pyro-processingの工程
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ご静聴、有り難うございます
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