企業法Ⅰ講義レジュメ No.02 一 二 会社の分類 株式会社序説 テキスト参照ページ:21~33p 1 一 会社の分類 • 総説 会社には4種類(株式会社と持分会 社3種)があることは講義レジュメ のNo.01で説明したが、この種類と は別に、いくつかの観点から分類 されることがある。 • 旧商法からの変更点に注意するこ と。 2 人的会社と物的会社 • 社員の人的信用や社員間の人的信頼が重視さ れる会社(人的会社)と社員の人的な信用よ りも会社財産(=物)の充実・維持が重要で ある会社(物的会社)との区別。会社債権者 にとって極めて重要な意味を持つ。 人的会社:合名会社、合資会社=誰が社員 (=出資者)であるかが重要 物的会社:株式会社=会社にどれだけ財産 (=資本)があるかが重要 • 合同会社は両者の性質を併せ持つ 3 公開会社と閉鎖会社 ①証券市場との関係における区別(株式会社の中 での分類:会社法上の定義とは異なる) 「公開会社」:会社の株式が証券取引所に上場 し、または店頭登録され、証券市場に流通して いる株式会社(上場会社、店頭登録会社)→金 商法の規制を受ける 「閉鎖会社」:株式を上場していない会社(非 公開会社とも) ② 一般的特質による区別(株式会社と有限会社の異同) 「株式会社」:公開会社→社員の地位(株式)に自由譲渡性と 無記名証券性が認められ、証券市場の利用可能性がある (127) 「有限会社」:閉鎖会社→社員の地位(持分)は社員間では譲 渡自由だが、社員以外の者への譲渡には社員総会の承認が必要 (旧有19Ⅱ)、指図式または無記名式の証券の発行が禁止され 4 る(旧有21Ⅱ) 公開会社と非公開会社(会社法) ③譲渡制限会社かどうかによる区別 ・公開会社:全部または一部の株式につき譲渡 制限の定めを設けていない会社(2⑤) ・非公開会社:全部の株式につき譲渡制限の定 め(2⑰):「譲渡による株式の取得には当該 株式会社の承認を要する旨の定め」を設けてい る会社(条文上:公開会社でない会社) ・譲渡制限株式:譲渡制限の定めがある会社の株 式または種類株式(2⑰、107Ⅰ① 、108Ⅰ④) ※会社法上の公開会社が、すべて上場会社の意味におけ る公開会社とは限らない 5 公開会社 2⑤ 全部の株式の内容と して譲渡制限の定め がない会社 当該譲渡制限のあ る株式は種類株式 (108Ⅰ④) 一部の株式の内容と して譲渡制限の定め がある種類株式発行 会社 非公開会社 =株式譲渡制限会社 全ての株式に譲渡制限 の定めがある会社(107 Ⅰ①、108 Ⅰ④ ) 6 大会社 ① 大会社:「最終事業年度にかかる貸借対照表 に計上された資本金が5億円以上」または 「最終事業年度にかかる貸借対照表の負債の 部に計上した金額の合計額が200億円以 上」の株式会社(2⑥) →会計監査人の設置が義務付けられる(328) ② 商法特例法上のみなし大会社、小会社の区別 は廃止された(参考:旧商特1の2Ⅰ、Ⅱ) 7 親会社と子会社 • 支配・従属関係にある会社を一般に親会社・子会社と いう。 1.会社法上の用語(2③④) 「子会社」会社がその総株主の議決権の過半数を有す る株式会社その他の当該会社がその経営を支配してい る法人として法務省令で定める会社 「親会社」他の株式会社を子会社とする会社その他の 当該株式会社の経営を支配している法人として法務省 令で定める会社 ※議決権基準だけでなく、「実質支配基準」が導入さ れた 2.会社法施行規則(3) 他の会社等の財務および事業の方針の決定を支配して いる会社を「親会社」、支配されている他の会社等を 「子会社」といい、議決権数という形式的基準ではな 8 く「実質支配基準」を採用 親子会社関係と外国会社 • 会社法の規定により設立された4種の会社(2①) ではなく、外国の法令に準拠して設立された法人 その他の外国の団体であって、会社と同種のもの または会社に類似するものを「外国会社」という(2 ②) • 会社法上の子会社には、外国会社も含まれる(旧 商法上は含まれていなかった)。そのため、社外取 締役・社外監査役の要件、監査役の兼任禁止の範 囲、定款・計算書類等の閲覧権者の範囲等に影響 9 二 I 株式会社序説 株式会社の意義と特色 1. 2. 3. 4. 5. 株式会社の概念 株式 有限責任 資本制度 所有と経営の分離 II 株式会社の経済的機能 10 1 株式会社の概念 • 株式会社とは、社員の地位が株式という 細分化された(均一な)割合的単位の形を とり、その社員(株主)が会社に対し各自 の有する株式の引受価額を限度とする出 資義務(104)を負うだけで、会社債権 者に対しては直接には責任を負わない (間接有限責任)会社 • 「株式」と「有限責任」が特徴(これに より相互に人的関係のない多数の投資者 が会社に出資する基礎が作られる) 11 2 株式 • 株式会社における社員の地位は、株式と呼ばれる細分 化された割合的単位の形をとる • 株式は投資単位を小口化・細分化・定型化して多数の 出資者と会社・出資者相互間の法律関係を簡明に処理 する技術的制度 →持株数を基準に会社と株主の法律関係が形成される (持株割合に応じた剰余金等の分配と資本多数決:原 則) • 持分の譲渡が容易となる(換金性が高まり、広く投資 者を求められる:株式を株券という有価証券に表章す ることでさらに流通性を増すこともできる) 12 3 有限責任 • 株主は会社債権者に対して法的には何の 責任も負わない。会社に対して自己が引 受けた株式の引受価額を限度とする出資 義務を負担するのみ(104) • 全額払込制(34Ⅰ、63Ⅰ、208)を取っ ているので厳密にはこの義務は株式引受 人の義務→定款によっても株主の責任を 加重すること(引受価額以上の追加出資 義務を負わせる)はできない。 13 有限責任② • この有限責任原則により、社会に存在する広 範な小規模の資金を集中し、大規模な企業経 営が可能となる。この意味で、株主有限責任 は株式会社制度の本質的要素であり、定款や 株主総会決議によっても例外を設けることは できない(強行規定) ※株式会社の株主有限責任は、直接会社債権者 に責任を負う合資会社の有限責任社員と異な る(会社に対する有限の出資義務→間接責任) ・他方、合同会社の社員の責任は株式会社と同 14 じ間接有限責任 株式譲渡自由の原則 • 有限責任の原則により、会社債権者の引当財産 は、会社の資産のみとなる • 安易な会社の資産流出を防ぐために資本の制度 が導入される→会社財産の維持のため、出資の 払戻し(退社)は認められず(認めると会社か ら持分の払戻がされてしまう=会社財産の減少 となる) • 社員の個性は問題にならない→株主の投下資本 回収の唯一の手段として株式の譲渡が認められ る →株式譲渡自由の原則(127) 15 4 資本金制度①資本金の概念 • 定義:「会社の存続中、会社が充実維持すべき 会社財産の基準としての一定の計算上の数額 (金額)」 →有限責任原則の結果、会社債権者の引当財産(債権 の担保として期待できる財産)は会社財産だけとなる ので、会社債権者を保護し、会社の信用を維持するた めに一定の数額を公示(定款記載事項ではないが、登 記および貸借対照表によって公示)して、少なくとも その数額に相当する会社財産が現実に会社に拠出され、 常に維持されることを確保する制度 ※詳細な計算に関する規定と広範な開示規定がこれを補完 →資本金は、会社債権者のために会社に保有される財産の目安 となる金額の形で表示される数字である。会社が常に現金その 他の財産の形で保持しているわけではない。 16 4 資本金制度(2) ① 資本の額:原則として、設立または株式の発行に際 して株主となる者が払込んだ財産の額(払込価額) が資本となる(445Ⅰ) 例:払込価額1株5万円で200株発行した場合→資本=100 0万円(原則) ただし、払込価額の1/2を超えない額を資本に計上しな いことができ(445Ⅱ)、それらは払込剰余金として資本準備金 に入れられる(445Ⅲ)。 例:1株7万円で200株発行し、1株当たり2万円分は資 本に計上しないとした場合→資本=1000万円、資本準備 金400万円 ② 準備金:資本のまわりのクッションとして法が積立 を強制する金額(446①ニ):資本準備金(445ⅡⅢ) 17 と利益準備金(445Ⅳ)がある 4 資本金制度(3) • 資本の三原則 ①資本充実・維持の原則:資本の額に相当する 財産が株主の出資によって現実に拠出され、か つ会社に維持されねばならない ②資本不変の原則:いったん確定された資本の 額は任意に減少することはできない(増加を抑 える理由はない) ③資本確定の原則:会社の設立又は資本の増加 には、定款所定の資本の額に相当する株式全部 の引受がなされることを要する⇒現在最も大き 18 く変容されている ①資本充実・維持の原則 • 資本充実=出資が確実に履行されること:引 受・払込担保責任(旧商192)の廃止⇒定款で 定める設立時最低出資財産額(27④)をみたし ていればよく、払込をしない者は株主となる権 利を失う(36Ⅲ、63Ⅲなど:失権制度)。現物 出資についてのみ価額填補責任(52Ⅰ)→過失 責任 • 資本維持=資本金額に相当する財産が会社に現 実に維持されること:剰余金配当の財源規制 (461)、違法配当に関する賠償責任(462Ⅰ)、 期末の填補責任(465Ⅰ)など 19 ②資本不変の原則 • 自由に資本減少ができると資本充実・維持の 原則が無意味になる →資本金の減少を絶対的に禁ずるものではな く、債権者保護手続を含む厳重な手続(原則 として株主総会の特別決議(309Ⅱ⑨))をふ めばその減少が認められる(447、449)。 • 会社成立後に減少する資本金の額については 制限がなくなった(0円とすることも可) • 資本金を減少し準備金に計上することが認め られた(旧商法では認められていなかった) 20 ③資本確定の原則 • 資本制度に本質的なものではなく、設立・増 資の健全性を確保するための政策的要請。現 在、最も大きく変容されている • 授権資本制度の採用により、資本の額が定款 記載事項から外され、会社法では設立に際し て発行する株式の数も定款記載事項ではなく なった • 旧商法における新株発行の場合同様、設立時 も実際に引受・払込のあった数の株式以外は 失権する 21 4 資本金制度(4) • (旧商)授権資本制度⇒発行可能株式総数(37Ⅰ) 「発行可能株式総数」=会社が発行可能な株式の総 数 • 会社の資金調達の便宜のため、会社が発行すること のできる株式総数を定款(原始定款でなくてもよ い)に記載するとともに、会社設立時にはこの1/4以 上の株式を発行すれば足り、残りは会社成立後に資 金需要に応じて随時に募集株式を発行できる。 ※授権資本は、発行可能株式総数の3/4以上にはでき ない。これは、取締役会の権限を強めすぎるからで ある。もっとも、非公開会社については、この制限 はない(37Ⅲ)。 22 5 所有と経営の分離 • 本来ならば株主が会社の所有者として会社を自 由に使用・収益・処分できるはずだが、株式会 社は企業経営に関与する意思も能力もない多数 の投資者の参加を求める企業形態なので、経営 事項に関しすべて株主が決定をし、経営を担当 することは現実的でないと考えられてきた。 • 株主は株主総会で取締役その他の会社役員を選 任し、その他の基本的事項のみを決定する(旧 商230ノ10)。会社経営は経営の専門家である取 締役に委ねられる(旧商260I、254Ⅱ) 23 =所有と経営の分離 5 所有と経営の分離 • しかし、有限会社型の機関設計を株式会社に取り 込んだことから、株主総会とそれにより選任される 取締役のみ最低限必要とされ、所有者と経営者が 実質的に一致する株式会社も多く存在することが 会社法上認められた • 非公開会社→株主総会は最高かつ万能の意思決 定機関(295Ⅰ、Ⅲ)、取締役(執行役)を株 主に限ることができる(331Ⅱ但書、402Ⅴ但 書):所有と経営の一致を容認 • 公開会社→株主総会は最高の意思決定機関 (295Ⅱ、Ⅲ)、取締役(執行役)を株主に限 定できない(331Ⅱ本文、402Ⅴ本文) 24 その他の特色 1.機関の分化:株式会社では、「株主総会」「取 締役」の他、「監査役(会)」「会計参与」 「会計監査人」「検査役」等機関が分化し、相 互の抑制と均衡を図っている。 ※委員会設置会社では機関構成が異なる 2.資本多数決と会社支配:株式会社では会社と株 主の関係は持株数に応じて処理され、株主の議 決権も原則として、一株(単元)一議決権とな る(308Ⅰ)。 25 コーポレート・ガバナンス • 経営者支配:所有と経営の分離、株主総会の 形骸化は、(議案の提出は取締役であること、 委任状勧誘などとあいまって) 実質的に経営 者が自ら会社支配を有する状態を生み出す。 こうした支配株主・経営者の行為をチェック し、少数派株主の保護を図ることは株式会社 法の重要問題である。 • 内部統制システム:取締役の職務執行が法 令・定款に適合することを確保するための体 制等の整備(348Ⅲ④、362Ⅳ⑥)→大会社に は構築が義務付けられる(348Ⅳ、362Ⅴ)26 II 株式会社の経済的機能 1. メリット 1. 資本の集中:株式制度と有限責任により公衆に 散在する小額の資本までも吸収して大資本を形 成することができる。 2. 危険の分散:有限責任と、株式の引受価額が少 額化され、広く株主が分散していることは、企 業危険の分散にほかならない。 3. 永続性:所有と経営の分離、株式譲渡の自由に より、株式会社は団体として構成員の変動にか かわらず永続性を獲得する。 27 2 デメリット • 経営者・支配株主による利己的行為が生じ やすく、一般株主を害し、さらには会社債 権者を害する。 • 株式投機が生じ、泡沫会社やバブルを生む 原因となる。 • 企業の利益を優先し、消費者の利益を犠牲 にしたり、環境を汚染したりする危険があ る 28 3 企業の社会的責任(CSR) • 大企業・大規模株式会社は、株主に利益を配当すると 同時に、労働者に職場を提供し、消費者に商品を提供 し、国に対して税金を納めるというように、公共的な 機能を果たしており、これらに対して社会的責任を負 うといわれる。 →会社法の中に会社の社会的責任に関する一般規定 (例えば取締役に会社の社会的責任に対応して行動す る義務を負わせる)をおくべきか議論あり(従来、学説 の多数は懐疑的(会社法、あるいは別分野の法の制度 改善を通じて会社がその社会的責任を果たすことを期 す)であった)。 • 近時、CSR(Corporate Social Responsibility=企業 の社会的責任)として再び注目されつつある。コンプ ライアンス(倫理・法令順守)の一環でもあり、人権、 環境などへの配慮も求められている。 29
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