第1章 電気工学の基礎

第5章 伝送理論と伝送技術
5.1 電気通信設備の概要
5.2 アナログ伝送方式
5.3 ディジタル伝送方式
5.4 データ伝送方式
5.5 伝送線路
5.6 漏話・雑音など
5.2 アナログ伝送方式
5.2.1
5.2.2
5.2.3
変調方式
多重化方式
変調器と復調器
5.2.1 変調方式
(1)変調の目的
① 信号の同時伝送
音声信号を伝送媒体が持つ周波数帯域の範囲内で移動することで,
重複することなしに周波数帯域を複数の音声信号に割り当てることで,
利用可能な帯域幅を有効に利用する。
② 放射の容易さ
伝送すべき信号の周波数が高いほど,
より短い放射アンテナで効率的に電波を放射することができる。
用語
①ベースバンド伝送 : 信号そのものを直接伝送媒体を通して伝送すること
②搬送波(carrier) : 音声信号を乗せるための高周波の波
③信号波
: 搬送波に乗せる信号(電話の場合音声信号)
④変調
: 信号波を搬送波に乗せること。
⑤多重化
: 複数の信号を1本の伝送路で送信すること
(2)振幅変調(AM:Amplitude Modulation)
① 一定振幅の高周波で原発振器を発振させ,信号波に従って搬送波の振幅を
変化させる。
②受信するには,同調回路で搬送波の周波数に同調させてその周波数だけを
拾い出して検波する。(単側帯波振幅変調では,片側を加えてから検波す
る)
③ 図の上半分または下半分を切り取り,高周波成分をフィルタにかけてカット
することで信号波を取り出す。
④ 信号波を電圧増幅,電力増幅して人間の耳に聞こえる音声に変換する。
⑤電話だけでなく,ラジオ等にも使われる変調方式である。
振幅
実線:変調波形
点線:信号波形
時間
上側と下側に波が現れる。これを両側帯波振幅変調といい,
上側を上部側帯波,下側を下部側帯波という。
DSBとSSB
両側帯波変調DSB(Double Slide Band)
単側帯波変調SSB(Single Slide Band)
①上部側帯波と下部側帯波は同じ波形なので,どちらか一方を送信すれば構
わない。これを単側帯波振幅変調(SSB)という。
② 低周波成分まで送出する必要があるFAX,テレビ等では,削除する片方の
側帯波の一部と他方の側帯波を送出する残留側帯波方式(VSB:Vestigial
Side Band)という方式が使われる。DSBほど帯域は広がらない。
振幅
周波数
時間
ω-0.3kHz
ω+4.3kHz
ω+0.3kHz
ω:搬送波周波数
ω+4.3kHz
振幅変調における振幅
搬送
波:
a  A cos(t   )
信号
波:
v  V cos( pt   )
 V

F (t )  A1  cos( pt   ) cos(t   )
 A

V
 A cos(t   )  cos( pt   ) cos(t   )
A
1
ここで cos   cos   cos(    )  cos(    ) だから
2
F (t )  A cos( t   ) 
なお, m 
mA
cos (  p)t       cos (  p)t     
2
V
を変調度という。 m  1 のとき100%変調
A
m  0 のとき無変調
(3)周波数変調(FM:Frequency Modulation)
① 信号波の振幅に比例して搬送波の周波数を変動させる方式。
② FM放送やTV放送等で使われている。
③ 受信するには,周波数差に比例して電圧が発生する周波数弁別器
(frequency discriminator)を介して元の信号を取り出す。
④ 一般には,振幅を一定にする。振幅一定が原則なので,受信部の振幅リミタ
で外部雑音を切り取ることが可能である。
⑤ 雑音に強い伝送方式であるが,再生に必要な周波数帯域が広いので,
帯域有効利用には不向きである.
振幅
実線:変調波形
振幅は一定で,
時間
周波数が変わる
(4)位相変調(PM:Phase Modulation)
① 信号波の振幅に比例して搬送波の位相を変動させる方式。
② 位相が変わる部分で周波数が変わることになるので,
アナログ伝送にこの変調方式を使うかぎり,
位相差検出の原理は周波数変調と変わらない。
③ 4相(2ビット)や8相(3ビット)など多値符号化に一般によく使われる。
振
幅
実線:変調波形
振幅は一定で,
時間
位相が変わる
5.2.2 多重化方式
(1)多重化(Multiplexing)とは
① 複数のデータを,1本の高速通信回線で同時に送信すること。
②ひとつの通信のデータを複数の通信回線や伝送チャネルに分割して、並列伝
送することを逆多重化という。
③多重化を行う装置を多重化装置(Multiplexer)またはマルチプレクサという。
④アナログ伝送における多重化では,周波数分割多重(FDM:Frequency
Division Multiplexing,またはFDMA:Frequency Division Multiple Access )
が主に用いられる。
⑤周波数分割多重とは,伝送周波数帯を更に細かい複数の狭い帯域チャネルに
分割し、それぞれのチャネルを独立した通信チャネルとして使う方法。
(2)音声信号の多重化
単側帯波方式(SSB:Single Side Band)
①音声信号(0.3~3.4kHz)に4kHzの周波数帯域が割当てられることを利用し、伝
送周波数帯が12~24kHzのとき、周波数分割多重を行う例を示す。
②図では、音声信号の各信号の上部側帯波だけを、4kHz毎の12~16kHz、16~
20kHz、20~24kHzに分割・変調して合成している。
CH1
0.3
変調
3.4
変調
CH2
0.3
3.4
CH3
0.3
3.4
変調
合成波
12 kHz
16 kHz 20 kHz
24 kHz
両側帯波方式(DSB:Double Side Band)
両側帯波を送信。
CH1
0.3
CH2
変調
3.4
変調
合成波
12 kHz
16 kHz 20 kHz
24 kHz
残留側帯波方式(VSB:Vestigial Side Band)
下の例は,下部側帯波の一部と上部側帯波を送信。
振幅
通過特性
(3)多重化のハイアラーキ
一度に多数の通話路を積み上げると,多数のフィルタが必要となるので,
段階的に多重度をあげるのが一般的。
これを多重化のハイアラーキ(階層)という。
チャネル1
チャネル2
チャネル3
チャネル4
チャネル5
チャネル6
伝送路
多重化
分離
チャネル11
チャネル12
チャネル13
チャネル21
チャネル22
チャネル23
上記では 6 種類のフィルタが必要だが,以下では 3 種類だけでよい
チャネル11
チャネル12
チャネル13
多重化
1
チャネル21
チャネル22
チャネル23
多重化
2
多重化
5.2.3 変調器と復調器
(1)リング変調器(SSB用)
出力 e - f に DSB-AM 波が現れるので,
帯域ろ波器(BPF)で下部側帯波を取り除くと,SSB波が得られる
下部側帯波
上部側帯波
fc1
入力
a
T2
T1
g
e
B
P
F
3.4
0.3
信号波 b
f
c
d
fc1:搬送波
fc1+0.3
h
BPF:帯域ろ波器
(Band Path Filter)
fc1+3.4
(2)復調器(SSB用)
変調時と同じ周波数 c で変調すると p の帯域と p+2c の帯域に変更される。
ここで下部側帯波をとり,低域フィルタにかけると元の信号が取り出される。
a
T2
c
入力信号 B
p+c P
F
b
T1
d
p+2c
e
L
P
F
出力信号
p
f
搬送波c
BPF:帯域ろ波器
(Band Path Filter)
LPF:低域フィルタ
(Low Path Filter)
(3)トランジスタ変調器
[リング変調器の欠点]
① 両方向性を有し,不要側帯波成分が終端インピーダンスに影響するので,
入力インピーダンス制御が難しく,不要側帯波成分抑圧用ろ波器の損失補
償設計が困難である。
② 搬送波で反転動作するスイッチと考えられるが,ダイオードには,その逆方
向の微小交流インピーダンスを持っているため,理想的なスイッチとはなら
ない。そのため,ひずみ率,搬送波漏洩,搬送波レベルの変動による変換
損失等が大きい。
スイッチング素子としてトランジスタを用いる。
トランジスタ変調器の回路
搬送波信号電圧により2個のトランジスタを交互にON,OFF出力を得る。
a
入力信号
出力信号
b
T1
T2
搬送波