PowerPoint プレゼンテーション

障害者雇用支援総合データベースの開発
春名由一郎
独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構 障害者職業総合センター
はじめに
• 「難病」患者を含む多くの慢性疾患患者が、医療の進歩により、治療の継続と並行
して職業生活を目指している。
• WHOが2001年に承認した国際生活機能分類(ICF)において、職業生活場面を含む
活動制限や参加制約が、健康問題と位置付けられ、環境改善を含む包括的な対策
が求められている。
• 障害や慢性疾患等がある人が仕事に就き継続するためには、事業主や上司、同僚
等が必要な環境整備や配慮、支援について十分な理解をすることが不可欠な場合
が多い。
• しかし、職業生活上の活動制限や参加制約は、多種多様な疾患種類の類型や程度
だけでなく、就く職種や職場環境、また、利用可能な支援方法などの社会資源に
よっても影響され、簡便なガイドラインを提供しにくい。
目的
• 事業主等の職場関係者が、難病を含む多様な疾患や障害によって、職業上どのよ
うな問題が起こりうるかを理解し、必要な支援を見出すことを支援するための体系
的なデータベースを構築すること
方法
• ICFを用いて、障害・疾患による機能障害や活動制限、各職種の活動要件、様々な
環境整備方法についてデータベースのプロトタイプを開発した。
*ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)とは
• WHOが開発し提供している、健康状況と健康関連状況を記述するための、統一
的で標準的な言語と概念枠組み。2001年に発行。
• 健康に関連して起こる様々な状況についての情報を記述し、ICD-10(国際疾病
分類)の死亡率に関する情報を補完する。
健康状態
心身機能・
身体構造
環境因子
障害とは
活動
参加
個人因子
図.ICFの構成要素間の相互作用
社会適応
の手段
社会保障
の課題
医学モデル
社会モデル
異常
個性
リハビリによる
社会側の改善による
福祉、保健
人権問題
ICF=普遍的/統合的/相互作用モデル
図.医学モデルと社会モデルの統合としてのICF
方法
①障害・疾患による機能障害や活動制限のデータベース化
健康状態
(ICD-10)
重症度、病型等
による関係性の
修飾
• ICD-10コード(一) 対 ICF bコード(多)
G35
(多発性硬化症)
軽度
活動
心身機能
(ICF bコード)
環境因子
(ICF eコード)
関係性
の修飾
参加
(ICF dコード)
個人因子
(コード未開発)
修飾条件
(重症度、病型等)
optional
[email protected] (前腕の協調運動、軽度)
[email protected] (手指の協調運動、軽度)
b2100.2 (視力、中程度)
b21021.2 (色覚、中程度)
b21023.2 (画像的視覚の質、中程度)
b270.2 (温度等の刺激の感受、中程度)
b320.1 (構音機能、軽度)
b620.1 (膀胱機能、軽度)
b3300.1 (発話の流暢性、軽度)
b455.1 (運動耐用能、軽度)
b525.1 (直腸機能、軽度)
• ICF bコード(一) 対 ICF dコード(多)
• ICD-10コード(一) 対 ICF dコード(多)
b1471.1
(協調運動、軽度)
G35
(多発性硬化症)
軽度
修飾条件
(重症度、病型等)
環境因子による修飾
(職場での配慮、医療サービス等)
d2302.2 (日課の達成、中程度)
d2401.3 (ストレスへの対処、重度)
d2402.2 (危機への対処、中程度)
b2100.2
(視力、中程度)
「疾患管理上、過労やストレスを
避ける必要がある。」
環境因子による修飾
(支援機器、職場での
配慮等)
d210.2 (単一課題遂行、中程度)
d220.2 (複数課題遂行、中程度)
d44.2 (上腕を使う、中程度)
d475.2 (乗り物の操作、中程度)
d110.2 (注意して視ること、中程度)
d130.2 (模倣、中程度)
d155.2 (技能習得、中程度)
d166.2 (情報を読む、中程度)
d170.2 (文章を書く、中程度)
d175.2 (問題時に対処する、中程度)
d210.2 (単一課題の遂行、中程度)
方法
②各職種の活動要件等のデータベース化
健康状態
(ICD-10)
心身機能
(ICF bコード)
活動
環境因子
(ICF eコード)
労働者
労働者の能力
や障害状況:
ICFにより記
述
各職種
参加
(ICF dコード)
個人因子
(コード未開発)
プ
ロ
フ
ィ
ー
ル
比
較
職種
各職種の要
件:
O*NETデータ
をICFに翻案
図.職種毎の要件によって問題領域
は限定される。(職種と個人の組合せ
による問題領域の予測。)
心身機能
/活動
労働要件
基本的スキル
機能横断的スキル
一般的知識
学歴
労働者特質
職業経験
訓練
経験
免許・資格
個人因子
職業要件
一般労働能力
仕事内容
組織内容
O*NET
能力
興味や職業価値
働き方
職業特質
具体的情報
職業知識
職業スキル
課業
機械、道具等
労働市場情報
職業内容
賃金
図.職業データベースO*NETのICFへの翻
案 :米国の1,166職種の職務分析結果のデータ
ベースをICFに翻案し、データベースに暫定的に
統合:平成17年移行に日本版に入れ替える予定。
方法


③様々な環境整備方法についてのデータベース化
支援情報は環境因子でコーディング
支援(環境因子)は機能障害(又は疾患)と活動と組合せて登録(関係性について
は、障害者雇用1611事業所調査データ*による数値で表現)
視覚機能の障害
職務課題遂行での生産性の発揮
161人
大問題発生率
問題
必要な整備の実行状況によって、当該領域の問題
環境整 環境整 発生率
発生に有意な差が生じる環境整備項目
備なし 備あり の比
冷房・暖房・湿度調節・空気清浄の設備を整えた
33.3%
4.2%
8.0
ストレスや責任への対処
本人の体力や集中力に合わせて職務を割り当てた
50.0%
3.4%
14.8
従業員から積極的に対話を心がけたり、声かけをす
るようにしている
障害者の能力を活かせるように職務内容を組み立
てた
通院や治療、服薬に便宜をはかっている
50.0%
3.7%
13.5
33.3%
3.8%
8.7
50.0%
6.4%
7.8
口頭・文書・表示などによる意思交換・ 業務計画や作業環境の改善に障害者の意見を取り
情報伝達
入れた
ゆっくりと時間をかけたコミュニケーションを心がけて
いる
従業員から積極的に対話を心がけたり、声かけをす
るようにしている
通院や治療、服薬に便宜をはかっている
37.5%
1.8%
20.6
28.6%
2.5%
11.4
50.0%
5.6%
9.0
50.0%
6.7%
7.5
健康管理や身辺管理(清潔、衣食、排 冷房・暖房・湿度調節・空気清浄の設備を整えた
泄など)
通院や治療、服薬に便宜をはかっている
50.0%
1.9%
26.5
50.0%
1.9%
26.0
危険性のある作業を行わせない
25.0%
1.3%
19.3
従業員から積極的に対話を心がけたり、声かけをす
るようにしている
冷房・暖房・湿度調節・空気清浄の設備を整えた
33.3%
1.6%
21.3
33.3%
1.8%
18.7
本人の体力や集中力に合わせて職務を割り当てた
20.0%
1.5%
13.6
危険性のある作業を行わせない
25.0%
2.4%
10.4
職業関連活動の領域
職場内の対人関係
下肢機能の障害
724人
問題
必要な整備の実行状況によって、当該領域の問題
環境整 環境整 発生率
発生に有意な差が生じる環境整備項目
備なし 備あり の比
同僚や上司が、必要に応じて作業補助している
11.1%
1.1% 10.3
大問題発生率
職業関連活動の領域
理解や知識の応用
職務課題遂行での生産性の発揮
業務計画や作業環境の改善に障害者の意見を取り
入れた
規則正しい勤務(欠勤・遅刻や早退が 医師などによる健康相談を実施している
少ないこと)
通院や治療、服薬に便宜をはかっている
12.9%
1.6%
7.9
15.4%
0.9%
17.2
14.3%
2.5%
5.7
機器を操作したり、物体を取り扱うこと
10.5%
2.2%
4.7
10.0%
0.4%
27.3
20.0%
2.8%
7.3
10.0%
2.0%
5.1
ストレスや責任への対処
階段/廊下等に手すりをつけたり、開閉が軽いド
ア・自動ドアを設置した
同僚や上司が、必要に応じて作業補助している
通勤での交通機関利用(自家用車、電 従業員から積極的に対話を心がけたり、声かけをす
車、バスなど)
るようにしている
顔色や作業態度によって毎日の健康状態をチェッ
クしている
体幹機能の障害
134人
問題
必要な整備の実行状況によって、当該領域の問題
環境整 環境整 発生率
発生に有意な差が生じる環境整備項目
備なし 備あり の比
同僚や上司が、必要に応じて作業補助している
100.0%
1.4% 69.0
大問題発生率
職業関連活動の領域
理解や知識の応用
立ち姿勢や座位姿勢の維持、姿勢の
変化
機器を操作したり、物体を取り扱うこと
従業員から積極的に対話を心がけたり、声かけをす 100.0%
るようにしている
障害者の能力を活かせるように職務内容を組み立
16.7%
てた
同僚や上司が、必要に応じて作業補助している
50.0%
1.9%
54.0
1.7%
10.0
3.2%
15.8
従業員から積極的に対話を心がけたり、声かけをす 100.0%
るようにしている
自家用車通勤を許可している
50.0%
7.4%
13.5
4.0%
12.5
専用の駐車スペースを設置している
33.3%
2.7%
12.3
障害者の能力を活かせるように職務内容を組み立
33.3%
てた
従業員から積極的に対話を心がけたり、声かけをす 100.0%
るようにしている
同僚や上司が、必要に応じて作業補助している
50.0%
3.7%
9.0
9.4%
10.6
階段/廊下等に手すりをつけたり、開閉が軽いド
ア・自動ドアを設置した
通勤での交通機関利用(自家用車、電 専用の駐車スペースを設置している
車、バスなど)
職場内の対人関係
自家用車通勤を許可している
レクリエーションや懇親会、クラブ活動、点字・手話
サークル等で親睦をはかっている
心臓機能の障害
6.1%
8.3
21.4%
2.6%
8.1
33.3%
2.3%
14.7
50.0%
1.7%
30.0
25.0%
2.4%
10.3
理解や知識の応用
266人
問題
必要な整備の実行状況によって、当該領域の問題
環境整 環境整 発生率
発生に有意な差が生じる環境整備項目
備なし 備あり の比
医師などによる健康相談を実施している
16.7%
1.1% 15.2
職務課題遂行での生産性の発揮
危険性のある作業を行わせない
大問題発生率
職業関連活動の領域
50.0%
0.9%
53.5
規則正しい勤務(欠勤・遅刻や早退が 本人の体力や集中力に合わせて職務を割り当てた
少ないこと)
医師などによる健康相談を実施している
20.0%
1.5%
13.1
28.6%
2.2%
13.0
通勤での交通機関利用(自家用車、電 顔色や作業態度によって毎日の健康状態をチェッ
車、バスなど)
クしている
10.0%
1.0%
9.8
(全て、危険率α=0.05で統計的に有意な差)
出典:障害者職業総合センター資料シリーズNo.27
成績
『ユニバーサル・ワークDB』ウェブサイトでの活用
障害者雇用支援の体系的な情報源:障害・疾患/職業/支援
わが国初の障害者雇用支援に関わる総合的なデータベース。
国際生活機能分類(ICF)に準拠:「職業的視点からみた障害」について分かり
やすく情報提供。障害をもつ人と事業主等の様々な視点を公平に統合。
支援の根拠(有効性、負担感、満足度等)についての情報提供。
情報ニーズに応じて、最小限のステップで必要な情報を一括検索。
多様な最新の情報を統合
的かつ的確に活用可能
障害・疾患情報
職業情報
支 援 情 報
支
援
機
器
社
会
資
源
職
場
環
境
整
備
各
種
研
究
成績
サービスマネジメント支援ツール(WorkNET)での活用
個別就労支援マネジメントに必要な
全ての情報を一体的、階層的に管理
ICF(国際生活機能分
類)による、障害状況
の総合的評価を簡便
化
•障害や疾患の種類に応じ
た必要最小限のチェックリ
ストを自動生成
•施設や機関に共通な評価
項目による連携の促進
職業上の要件からの
個別的支援課題の
特定と、必要な支援
方法の提示
•個別化された支援課題の明確
化による、効果的なマネジメント
•的確な支援方法の一括検索
•支援のエビデンス情報の提供
考察
• ICFによるデータベース構築の可能性
– ICFにより、障害や疾患がある人の職業生活を個別的に支援するのに必要な情
報を体系的にデータベース化できる可能性がある。
• ICFによるデータベース構築の有用性
– 疾患別の障害情報をICFにより分析しデータベース化することによって、これまで
障害者雇用支援で蓄積されてきた支援方法を新規事例に応用することができる
可能性がある。
• データベースの活用可能性
– ICFによる体系的なデータベースを活用することにより、障害や疾患がある人や
事業主のニーズにあった情報を一括で簡便にもれなく検索し、関係者の合意形
成に役立つ情報利用ができる可能性がある。
– 医療、保健、福祉、教育、雇用等の関係者の個別支援ネットワークにおける情報
共有や連携に役立つ、情報利用ができる可能性がある。
結論
• ICFを活用した体系的なデータベースの有効活用により、障害や疾
患がある人の職業生活な個別的支援や、必要な環境整備について、
関係者の合意形成を促進できる可能性がある。