システム制御基礎論 システム工学科2年後期 I. 概論 講義内容の予定 システムの表現(状態空間表現) 微分方程式の復習(初期値問題の解・安定性) 座標変換, 可制御・可観測性, 安定性 可制御標準形・可観測標準形 極配置, オブザーバ Laplace変換の復習 もうひとつのシステム表現(伝達関数表現)および状態空間表現との関連 ブロック線図, 伝達関数の合成, フィードバック結合 伝達関数の安定性 周波数応答, Bode線図 Nyquistの安定判別法 定常偏差, PID制御 システムの表現 制御で扱うシステムは「動的システム」 例: 常微分方程式で表される系 差分方程式で表される系 偏微分方程式で表される系, など... 「系」…「システム」に対する 日本語 常微分方程式で表されるシステム: x f ( x, u), y h( x, u) 系の状態: x, 系への入力: u, 系からの出力: y (これらは通常はベクトル) 「系の状態」というものがあるのが「動的システム」(dynamical system) 動的システムでは、現在の系の出力は現在の入力だけで一意に決まる ものではない。過去のシステムの動きの蓄積によって、未来の動きが変 わる。 メカニカルシステムの例 連立2階常微分方程式で表されたメカニカルシステム M (q)q c(q, q ) g (q) u q: 一般化位置ベクトル, u: 制御入力 (外部からのトルク・力) M(q): 慣性行列, c( ): 遠心力・コリオリ力・摩擦力の項, g( ): 重力項 連立1階常微分方程式系: (まとめてベクトルで表す) q d q dt q M (q){c(q, q ) g (q) u} 状態を定義: q x q 状態方程式: x f ( x, u) x で始まる式 → 状態方程式 線形状態方程式の導出(1)…偏差系 ある入力 u = u0 のとき、x = x0に静止 「静止している」ということより、微分は0 x f ( x, u) 0 f ( x0 , u0 ) 偏差を定義: z = x – x0 v = u – u0 偏差系: z F ( z, v) f ( x0 z, u0 v) 状態の目標値 x0 と、それを維持するため の入力 u0 を考え、それからの偏差を用いて 偏差系を考える。 明らかに、 F(0, 0) = f(x0, u0) = 0 v = 0 のとき、z = 0 は「平衡点」 線形状態方程式の導出(2) …線形近似 線形近似…テーラー級数展開を一次までで打ち切り 線形近似: F F z (0,0) z (0,0) v O((z, v) 2 ) z v Az Bv F(0,0) = 0 なので0次項は無い 線形近似系: 2次以上の項→無視 線形系のほとんどは線形 “近似系” z Az Bv 線形近似 = 接線 z と v が小さい時だけ近似が有効 離れると 誤差が大きくなる 0 の近傍では誤差が小さい 2. 微分方程式の解 1階線形微分方程式の解 1階同次線形微分方程式 x ax 1階線形微分方程式 x ax b(t ) 初期値問題の解: x(t ) x(0)eat 初期値問題の解: t x(t ) x(0)e e a (t )b( )d at 0 ○ 代入して確認すること。 ○ 初期状態を満たすこと、つまり t = 0 のときに式がなりたつこ とを確認すること。 1階同次線形微分方程式の安定性 解: x(t) = x(0)eat a<0 1 a>0 1.6 0.9 1.4 0.8 1.2 0.7 1 x x 0.6 0.5 0.4 0.8 0.6 0.3 0.4 0.2 0.2 0.1 0 0 1 2 3 Time 4 5 0 0 1 a が負 … 0に収束 (漸近安定) a が正 … 発散 (不安定) a が 0 … 一定値を取り続ける (安定限界) 2 Time 3 4 5 収束の速さ 1 1 0.9 0.9 0.8 0.8 0.7 0.7 0.6 0.6 0.5 0.5 x x x ax の解: x(t) = x(0)eat の収束の速さと、a との関係 a = 1 a = 4 0.4 0.4 0.3 0.3 0.2 0.2 0.1 0.1 0 0 0 1 2 3 Time 4 5 0 1 2 Time 3 a が小さいほうが(負で絶対値が大きいほうが) 収束が速い。 4 5 2階線形微分方程式 2 階同次線形微分方程式: x ax b 0 特性方程式: l2 + al + b = 0 一般解: 特性方程式が2つの実解 l1, l2 を持つ場合 x(t ) C1el1t C2el2t 特性方程式が重根 l1 を持つ場合 x(t ) C1tel1t C2el1t 特性方程式が虚数解 p qj を持つ場合 ( j は虚数単位) x(t ) C1e pt cos(qt) C2e pt sin(qt) C1, C2 は定数。x と x の初期値を、一般解および一般解の両辺を微分し た式に代入して、 C1, C2 を決定する。 2階線形微分方程式の解の挙動 微分方程式: x 2 x kx 0 赤: k = 0.75 (異なる実根), 緑: k = 1 (重根), 青: k = 3.1622… (虚数解) x(0) 1, x (0) 0 1 0.8 ○ 全ての特性方程式の解の実部 が負であることが、0に収束する ための必要十分条件。 ○ 特性方程式が虚数解を持てば、 挙動は振動的になる。その虚数 部は振動の角周波数となる。 0.6 x 0.4 0.2 0 -0.2 -0.4 0 2 4 6 Time 8 10 行列指数関数 通常の指数関数 e at 1 at 1 2 2 1 33 a t a t 2! 3! を行列に拡張 行列指数関数: t2 2 t3 3 e I tA A A 2! 3! tA A が n n の行列ならば、eAt も n n の行列。 行列指数関数の微分 d tA t2 3 2 e A tA A AetA dt 2! 行列指数関数の積分 (A が正則のとき) tA 1 tA e dt A e 連立1階線形方程式の解 連立1階同次線形方程式: x Ax その初期値問題の解: x(t) = etAx(0) 連立1階線形方程式: x Ax b(t ) その初期値問題の解: t x(t ) etA x(0) e(t ) Ab( )d 0 代入することで、これは確かめられる。 行列指数関数の計算 逆ラプラス変換(L1{ })を用いる方法: adj(sI A) etA L1{( sI A) 1} L1 det(sI A) 対角化・ジョルダン標準形を用いる方法: たとえば、行列 A が対角化可能なとき、正則行列 T が存在して、 0 l1 TAT 1 (l1,…,ln はA の固有値) 0 ln とできる。よって、 el1t 0 1 T etA T 1etTAT T T 1 ln t 0 e 座標変換 z = Tx を 用いているのと同じ 座標変換と線形微分方程式 行列 A は対角化可能で、m 個の実数固有値 l1,…,lm と2 個の虚数の 固有値 c1 w1j,…, c wj を持つとする。 対角化を用いて行列指数関数を求める場合、虚数の扱いが面倒。 しかし、虚数の固有値は必ず共役複素数として現れるので、 少し工夫すれば、実数だけで扱える。 すなわち、正則行列 T が存在して、以下のようになる。 0 l1 lm c w 1 1 TAT 1 w1 c1 c w w c 0 よって、 1 e At T 1eTAT tT e l1t e lm t T 1 0 e c1t cosw1t e c1t sin w1t T e c1t sin w1t e c1t cosw1t e ct cosw t e ct sin w t c t c t e sin w t e cosw t 0 座標変換: z = Tx を用いると、 座標変換後のシステム: z Tx TAx TAT 1 z 座標変換後の解: 1 tTAT 1 z(t ) Tx(t ) Te x(0) Te T z(0) e tA tA z(0) zk (t ) e lk t zk (0), k 1, , m zm 2 k 1 (t ) e ck t {zm 2 k 1 (0) coswk t zm 2 k (0) sin wk t} , k 1, , ck t z m 2 k (t ) e {z m 2 k (0) coswk t zm 2 k 1 (0) sin wk t} ○ 1階常微分方程式と2階常微分方程式の解の組み合わせ ○ 虚数の固有値に対しては、振動的になり、その虚数部は振動の角周波数 をあらわす。 ○ 固有値の実部が全て負であることが、0 に収束するための必要十分条件。 ○ 固有値の実部が収束の速さを表している。 2つの特性方程式 行列 A の特性方程式: det (sI – A) = 0 d nz d n1 z 微分方程式 a n 1 n1 a1 z a 0 z 0 の特性方程式: n dt dt sn + an 1sn 1 + + a1s + a0 = 0 この2つの特性方程式は実質的に同じもの。 d nz d n1 z a n 1 n1 a1 z a 0 z 0 を連立1階方程式に変換 微分方程式 n dt dt 1 0 0 x Ax x 0 0 1 a a n 1 0 この行列 A の特性方程式は、 sn + an 1sn 1 + + a1s + a0 = 0 元の微分方程式の特性方程式と同じ 安定性の定義 自律系(外部からの入力を含まない時不変システム) x f ( x) ただし f (0) 0 の(局所的)安定性に関しては、以下の2つがある。 (リアプノフ)安定性: これは、e-d 論法で定義される。 任意の e に対して d が存在し、||x(0)|| < d ならば ||x(t)|| < e となるとき、平 衡点 x = 0 は、(リアプノフ)安定であるという。 漸近安定性: 平衡点 x = 0 の近傍から出発した軌道がすべて平衡点 x = 0 に収束し、かつリ アプノフ安定であるならば、平衡点 x = 0 は漸近安定であるという。 リアプノフ安定なシステム 漸近安定なシステム リアプノフ安定でも 漸近安定でない系 が存在する。 2つの安定性 漸近安定なシステム 中立安定な部分を含む 不安定なシステム 安定なシステム リアプノフ安定なシステム 1 1 漸近安定なシステム: (例) x x, x x, etc... 1 1 0 1 x, etc... 中立安定なシステム: (例) x 0, x 1 0 1 1 x x, x x, etc... 不安定なシステム: (例) 1 1 大域的な安定性 局所的な安定性ではなく、全ての初期値に関する安定性。 大域的(リアプノフ)安定性: 全ての初期値に対してその挙動が有界で、かつリアプノフ安定ならば、大域的(リア プノフ)安定であるという。 大域的漸近安定: 全ての初期値から出発した軌道が0に収束し、かつリアプノフ安定ならば、大域的 漸近安定であるという。 線形系では「大域的」な性質と「局所的」な性質は同じ。 x Ax A の全ての固有値の実部が負: 大域的漸近安定 A の全ての固有値の実部が非正: 大域的リアプノフ安定 (注意) 入力付きの線形系 x Ax Bu の安定性の定義は別である。 (その条件とは、入力無しシステムの漸近安定性と一致する。)
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