増井 俊彦 - 京都大学外科交流センター

残胃の形態から見た幽門側胃切除後
のRoux stasis syndromeの検討
増井俊彦1、久保田豊成1 、中西保貴1 、青木恵子2 、杉本真一3 、
高村通生3 、武田啓志3 、橋本幸直3 、徳家敦夫3
1)京都大学医学部附属病院 外科
2)京都市立病院 外科3)島根県立中央病院 外科
Roux stasisと器質的原因の有無
Roux stasisは器質的狭窄がないにもかかわらず摂
食が不可能となった状態である。
内視鏡上狭窄所見が指摘できなかったにもかかわらず、強
い屈曲のために摂食の開始が遅れたRoux stasisの症例を
経験した。
平成24年度京都大学外科冬季研究会
背景
幽門側胃切除後の再建においてRoux-en Y法によ
る再建はBillroth-1法や2法に比べて1)残胃炎や逆
流性食道炎、2)残胃癌、3)縫合不全、の発生率の
低さが有利な点とされている。
一方、Roux stasis syndromeとよばれる特有の胃
内容鬱滞が認められ、10%から67%まで様々な報
告がある。
原因として、挙上空腸の神経障害、血流障害などが
推定されているが、これまでに吻合部形態から検討
した報告は見られない。
平成24年度京都大学外科冬季研究会
目的
今回我々は、術後透視による形態から吻合
時の胃空腸吻合方向を想定しRoux stasisの
頻度を検討した。
平成24年度京都大学外科冬季研究会
対象
2007年11月から2010年10月までの3年間に当
院において胃癌に対して幽門側胃切除術を施
行し、Roux-en Y法にて再建された101症例
検討項目
腫瘍の位置、腫瘍の深達度、手術時間、出血
量、結腸前・後再建、術後4日目の胃透視にお
ける吻合方向
平成24年度京都大学外科冬季研究会
Roux stasisの定義
Roux stasisの定義は、腹痛、腹満感により術後7日以上
の固形物摂取不可、あるいは再絶食を要した症例、かつ
内視鏡的に狭窄を認めないもの、とした。
さらに、術後絶食期間および再絶食期間にて以下のグ
レードに分類した。
Roux
stasis
grade
mild
固形物摂取開始
再絶食期間 嘔吐
時期
術後補助化
全身状態 学療法の延
期の必要性
POD7-POD10
3日以内
+-
良好
なし
moderate POD11-POD17
4日~9日
+
おおむね
良好
なし
10日以上
+
不良
あり
severe
POD18以降
平成24年度京都大学外科冬季研究会
残胃吻合部形態の分類
全例端端吻合、手縫い(Gambee一層)で胃空腸吻合を施行。
POD4時の造影時に脊椎から想定された垂直線に対する造影
剤流出角度で以下の三形態に分類
18%
62%
30°以上
4%
-30°以上
平成24年度京都大学外科冬季研究会
Stasis発生症例における造影例
Type I
POD4
stasis改善時
平成24年度京都大学外科冬季研究会
Roux stasisとの関連因子
stasis
Number
性別
年齢
手術時間(min)
出血量(g)
腫瘍深達度
腫瘍部位
再建方法
Type
男性
女性
平均
mean
mean
m/sm
mp<
A
M
antecolic
retrocolic
I
II
III
stasisなし
84
55
29
70.2
269.9
387.5
40
43
37
47
50
34
18
62
4
stasisあり
17
14
3
67.4
269.2
369.3
10
8
12
5
13
4
11
6
0
平成24年度京都大学外科冬季研究会
計
101
69
32
69.7
269.8
384.6
50
51
49
52
63
38
29
68
4
p
n.a.
0.2543
0.2894
0.7199
0.8154
0.7566
0.0458
0.2734
0.0014
重症度との相関
stasisなし mild mod. severe
Number
腫瘍部位
Type
計
p
n.a.
84
3
5
9
101
A
37
1
4
7
49
M
47
2
1
2
52
I
18
1
4
6
29
II
62
2
1
3
68
III
4
0
0
0
4
0.1107
0.0187
Type Iにて有意にRoux stasis syndromeの
重症度が高い。
平成24年度京都大学外科冬季研究会
吻合方向とRoux stasis
TypeI
TypeII or III
stasisなし stasisあり
Type
計
I
18
11
29
II+III
66
6
72
p
0.0003
透視上、造影剤が30°以上十二指腸方向へ流れる
ものは有意にRoux stasisをきたしやすい。
平成24年度京都大学外科冬季研究会
Roux stasis症例
Type
grade
年齢
Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ
Ⅱ
Ⅱ
Ⅱ
Ⅱ
Ⅱ
Ⅱ
mild
moderate
moderate
moderate
moderate
severe
severe
severe
severe
severe
severe
mild
mild
moderate
severe
severe
severe
66
53
66
76
80
46
82
74
69
53
76
83
53
70
71
66
62
平均
stasis発生
POD(日)
14
13
21
11
13
11
8
7
8
13
9
15
14
11
13
11
8
11.8日
回復POD(日) stasis期間(日)
16
20
30
20
18
25
25
18
25
66
21
18
18
17
27
24
22
24.1日
2
7
9
9
5
14
17
11
17
53
12
3
4
6
14
13
14
12.4日
結果
Roux stasisと腫瘍の深達度、手術時間、出
血量とは関連が認められなかった。
腫瘍が前庭部にある症例にstasisが多く認
められた。
TypeII, TypeIII症例と比較してTypeI症例は
有意にRoux stasisが高頻度で、重症例が多
く認められた。
Roux stasisは術後平均12日目で発生、約2
週間で改善していた。
平成24年度京都大学外科冬季研究会
結語
Roux stasisは食事摂取量とのバランス、挙
上空腸の蠕動不良といった要因に加えて、吻
合方向の設定が関係していることが示唆され
た。
少なくとも垂直方向から右方向に30°以上屈
曲することを防止することでRoux stasis症例
が減少する可能性がある。
平成24年度京都大学外科冬季研究会