第19回日本疫学会学術総会 健康政策策定における 疫学の役割 (3) 柳 川 洋 特徴3 たばこ対策の重視 これまでの疫学研究の結果、 生活習慣病予防における、最 も重視すべき危険因子 たばこの健康影響 • • • • あらゆる生活環境要因の中で最も高いリスク 世界中の疫学研究で一致した結果 病理学、臨床医学と整合性あり 長期喫煙者の半数はたばこが原因で死亡(そ のうち半数は働き盛りの中年期に死亡) 主な死因:肺がん、他のがん、虚血性心疾患、 慢性気管支炎、肺気腫、結核 計画策定検討会の目標(案) 未成年の喫煙をなくする 成人喫煙率を全体として 男女とも半減 国民一人あたりの たばこ消費量を半減 目標達成のための具体的な戦略を提示 例 健康教育(特に学校、妊婦、母親) 分煙の徹底、禁煙支援プログラム、など 政治の圧力、業界の反発により 厚生省は3つの代替案作成 代替案1、代替案2 • 成人喫煙率を全体として半減 案1 • 未成年の喫煙をなくする • すべての禁煙、節煙を希望する者 が、禁煙支援プログラムを活用で きるようにする 案2 代替案3→企画検討会の最終案に • 喫煙が及ぼす健康影響 についての十分な知識の普及 • 未成年者の喫煙をなくす • 公共の場や職場での分煙の徹底及び効果の 高い分煙についての知識の普及 • 禁煙・節煙を希望者する者に対する禁煙支援 プログラムをすべての市町村で受け入れられ るようにする 最終の企画検討会の結果 半減目標: yes 7人、no 24人(案3を支持) 喫煙率半減目標を入れるかどうか。主な意見 ○喫煙は長寿阻害要因、柱として入れる ○削除されたら現場は困る、入れる ○目標を掲げ、国を挙げて展開する、入れる ○半減目標を入れ、具体的な戦略(案3)を示す ×生涯学習を支援するキャンペーンなので不要 ×教育、知識の普及が含まれている(案3)ので不 要 ×具体的な介入方法を示している(案3)ので不要 ×国民運動として定着するには、半減目標は不要 2000.2.17(夕刊)、2.18(朝刊より) 43 「論座」に経緯を説明して、 喫煙率半減の必要性を主張 パブリックコメント、公聴会におけるたばこ関係団 体による組織的な反対意見 自民党政務調査会の4委員会(たばこ・塩産業特 別委員会、葉たばこ科学検討小委員会、総合農 政調査会、農林部会)から厚生大臣宛の決議文 厚生労働省からの代替案提示 最終委員会の経緯 喫煙の健康影響を支持する科学的根拠 世界的なたばこ抑制対策の趨勢 WHOによる「たばこ対策に関する枠組み条約」 喫煙は個人の嗜好ではない。依存性の高い薬物 中毒 喫煙を取り巻くその後の環境変化 健康増進法(2003年8月施行) 受動喫煙の防止 多数の者が利用する施設(学校、病院、官公庁、ほ か) → 管理者は受動喫煙防止の努力 たばこ規制に関するWHO枠組み条約 (わが国では2005年2月発効) 受動喫煙防止措置、たばこ包装の誤解防止・健康警 告表示、スポンサーシップの禁止、未成年者に対する 販売禁止措置 喫煙率の低下が見えてきた JT調査 男 女 2000 53.5% 13.7% 2008 39.5% (-26.2%) 12.8% ( -6.6%) メタボリック・シンドローム メタボリックシンドローム 8学会合同の基準(2005) 内臓脂肪(ウエスト 男85cm+,女90cm+)に加えて、 脂質、血圧、血糖のいずれか2項目以上 脂質 中性脂肪150mg+/dl or HDLコレステロール<40mg/dl or コレステロールを下げる薬剤服用 血圧 収縮期130mmHg+ or 拡張期85mmHg+ or 降圧剤服用 血糖 空腹時110mg+ or HbA1c5.5%+ or 薬剤使用(インスリン注射 or 血糖を下げる薬剤服用) 特定保健指導対象者の選定(階層化) ◎積極的支援、○動機付け支援、×支援なし 肥満 腹囲 BMI Yes 男85cm+ 女90cm+ Yes/No No No Yes BMI 25+ No 追加リスク数 脂質 血圧 血糖 年齢 40-64歳 65-74歳 2、3 ◎ ○ 1 (喫煙あり) ◎ ○ 1 (喫煙なし) ○ ○ 0 × × 3 ◎ ○ 2 (喫煙あり) ◎ ○ 2 (喫煙なし) ○ ○ 1 ○ ○ 0 × × 0、1、2、3 × × 14 メタボリック・シンドローム 2007(男) 該当者 予備軍 100 該当者(強い疑い) 80 (腹囲85+and 2項目+) 40歳以上 30.3% 予備軍 (腹囲85+and 1項目) 25.9% % 60 40 20 0 40-49 50-59 60-69 年齢 70+ 15 メタボリック・シンドローム 2007(女) 該当者 予備軍 100 該当者(強い疑い) 80 (腹囲90+and 2項目+) 40歳以上 11.0% 予備軍 (腹囲90+and 1項目) 8.2% % 60 40 20 0 40-49 50-59 60-69 年齢 70+ 16 メタボリックシンドローム診断基準の問題点 危険因子数と循環器病による死亡のリスク 相対危険(0項目)=1 4 3 2 危険因子 ①肥満(BMIによる) ②高血糖 ③高血圧 ④高中性脂肪 ⑤低HDLコレステロール 1 0 0 1 2 3 項目数 4 5 NIPPON DATA90より(門田、上島ら) 肥満がなくても、危険因子の数が多くなるとリスクは上がる 17 メタボリックシンドローム診断基準の問題点 相対危険(BMI<25/0項目)=1 3.0 2.5 2.0 (肥満を必修条件にして良いか?) 循環器病による死亡のリスクの比較 危険因子 ①高血糖 BMI <25 ②高血圧 ③高中性脂肪 ④低HDLコレステロール BMI 25+ 1.5 1.0 0.5 0.0 0 1 2 3+ 1 2 3+ 項目数 NIPPON DATA90より(門田、上島ら) 18 腹囲による肥満有無別BMIによる 肥満の不一致率 2005 100 100 男 80 腹囲(+) 腹囲(-) 60 腹囲(+)の者は高年齢に なるとBMI(-)になる 腹囲(+)の者は高年齢で BMI(-)になる % % 80 腹囲(+) 腹囲(-) 60 40 女 40 20 20 0 0 30-39 40-49 50-59 年齢 60-69 70+ 30-39 40-49 50-59 年齢 60-69 70+ 19 BMIによる肥満有無別腹囲による 肥満の不一致率 2005 100 100 男 80 BMI(+) BMI(-) 60 BMI(-)の者は高年齢になる と腹囲(+)になる BMI(+)の者は若年齢で 腹囲(-)になる % % 80 BMI(+) BMI(-) 60 40 女 40 20 20 0 0 30-39 40-49 50-59 年齢 60-69 70+ 30-39 40-49 50-59 年齢 60-69 70+ 20 リスク要因としての肥満に関する外国文献の例 BMI: Body Mass Index WC: West Circumference WHR: West Hip Ratio Sue X (JAMA, 2008) 60歳以上の者2600人の12年間追跡 BMI, WCは死亡のリスク因子、ただし、最大運動量を含めると、最大運動量 のみ死亡のリスク要因 Koning L (Europ Heart J, 2007) 15件の論文のmeta regression analysis WC, WHRの両者ともCVDのリスク要因 Pischon T (New Eng J Med, 2008) 350000人を9.7年追跡(ヨーロッパ9か国共同研究) BMIは死亡のリスク因子。BMI調整後のWC,WHRも死亡のリスク要因 (特にBMIの低い者) Hu G (Arch Intern Med, 2007) 25-74歳のフィンランド人50000人を19.5年追跡 BMIは男女とも、WCとWHRは男のみ虚血性脳血管疾患のリスク要因 標準的な健診・保健指導プログラム[暫定版] に対する日本公衆衛生学会の見解(2007.3) • 「健康日本21」に掲げた対策と評価を今後も継続し て、実施すること • メタボリックシンドロームの有無にかかわらず、 – 禁煙指導を実施すること – 高血圧、糖尿病、高コレステロール血症等の確立した危険 因子に対する保健指導を実施すること • 高齢者のBMI、LDL-Cについては、下限値を設定し た指導を実施すること • 健診結果のみから薬物治療を行わないこと • 集団の特質を考慮すること 22 日本版メタボリックシンドロームによる ハイリスク者選定の有効性 これからのデータ収集による評価が必要 リスク要因としての肥満の判定(BMI, WC, WHR) 高危険者選別のsensitivity, specificity 判定値(どこで区切るか)の妥当性 二段階選別の有効性 WC (BMI, WHRについても) 空腹時血糖(WHOの基準) 一段階選別の有効性 各項目を同じレベルで評価 国レベルのコホート研究によるエビデンスの集積が 必要 23 さいごに ・・・・・ 疫学研究者への期待 まとめ 疫学研究の意義 健康政策策定のための基礎科学 疫学のみが科学的根拠を明確にす ることができる 疫学者の責任 政治、マスコミの圧力に対して、 毅然たる態度で自信を持って エビデンスに関する情報発信 市民への啓発 抄録に記載した内容の詳細は下記をウエブ をご覧ください。 「公衆衛生ねっと」 ①役に立つ情報(一覧から探す) ↓ http://www.koshu-eisei.net/ ②地域医療のための疫学手法 (12) 疫学と健康政策 3つのPDFファイルに掲載 スライドの要約もすでに掲示しました。
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