肥満の心理学 〜人はなぜ食べすぎるのか〜 演者:今田純雄(広島修道大学) 座長:徳永勝人 先生(市立伊丹病院内科) 第25回 日本肥満学会:Japan Society for the Study of Obesity(JASSO) 健康日本21推進セミナー(花王) 2004年9月30日 13:00〜15:00 大阪:リーガロイヤルホテル・山楽の間②:第5会場 肥満者は急激に増加している ・米国では大きな社会問題となっている. 医療費の増大,ダイエット産業の攻勢 肥満治療:450億ドル/ 年,肥満が原因による 失業補償:230億ドル/ 年,減量サービス・商 品:330億ドル/ 年,肥満が死因と想定される 死者数:30万人/ 年 e.g., Wolf(1990) 肥満者増加の現状(米国・英国) 英国の場合 米国の場合 Increase in Prevalence (%) of Overweight (BMI > 25), Obesity (BMI > 30) and Severe Obesity (BMI > 40) Among U.S. Adults. Overweight (BMI > 25) Obesity (BMI > 30) Severe Obesity (BMI > 40) 1999 to 2000 64.5 30.5 4.7 1988 to 1994 1976 to 1980 56 23 2.9 46 14.4 No Data Source: CDC, National Center for Health Statistics, National Health and Nutrition Examination Survey. Health, United States, 2002. Flegal et. al. JAMA. 2002;288:1723-7. NIH, National Heart, Lung, and Blood Institute, Clinical Guidelines on the Identification, Evaluation and Treatment of Overweight and Obesity in Adults, 1998. From a website of American Obesity Association: http://www.obesity.org/subs/fastfacts/obesity_US.shtml From Prentice & Jebb(1995) •% BMI •France: •USA: >= 25 39% 61% (Drewnowski et al., 1996) 肥満者増加の現状(日本) H13国民栄養調査の結果:BMIの分布(今田作成) 15歳以上の男女 BMI 〜19 19〜24 24〜29 29〜34 34〜 男 8.2% 54.1% 33.1% 4.4% 0.3% 女 15.6% 56.8% 23.5% 4.6% 0.4% % BMI ≧ 25 % BMI ≧ 30 37.8% 28.5% 4.7% 5.0% USA 64.5% France: 39% 30.5% 男 女 なぜ肥満者が急激に増加したのか? ・遺伝子の突然変異? ・食生活の変化? ・生活スタイルの変化? 脂肪の摂取量(摂取比)が増 加した. Prentice and Jebb( 1995)より 家庭での食事が減っ た.(外食・中食が増 えた) Prentice and Jebb( 1995)より 生活スタイルの変化: 自動車による移動が増 え,テレビを見る時間が 増えた. Prentice and Jebb( 1995)より 日本の場合: (Kcal) ( g) (%) 2300 70 60 2200 50 2100 40 熱量(Kca l) 2000 30 脂質(g) 20 1900 10 国民栄養調査(厚生省,厚生労働省)ならびに 食の外部化率:外食産業総合調査研究センターweb pageより http://www.gaishokusoken.jp/3622003tokeishiryoshu/3629005.pdf 2000 1995 1990 1985 1980 1975 1970 1965 1960 1955 0 1950 1800 砂糖の年間一人あたりの消費量 1970年 戻る 1970年 日本の場合: (Kcal) ( g) (%) 2300 70 60 2200 50 2100 40 熱量(Kca l) 2000 30 脂質(g) 20 1900 10 国民栄養調査(厚生省,厚生労働省)ならびに 食の外部化率:外食産業総合調査研究センターweb pageより http://www.gaishokusoken.jp/3622003tokeishiryoshu/3629005.pdf 2000 1995 1990 1985 1980 1975 1970 1965 1960 1955 0 1950 1800 食の外部化率 今田(2004)より 食環境の変化と食行動の変化:共振増幅の時代 飽食の時代:1970年以降 “豊”食→ “飽”食→ “呆”食→ “崩”食→ 1960s 1970s 1980s 1990s なぜ肥満者が急激に増加したのか? ・遺伝子の突然変異? ・食生活の変化? ・生活スタイルの変化? 食行動の変化 (過剰適応) 体型(太め,やせ)の変化 食環境の変化 20歳男女の体型:経年変化 女子 痩身化 男子 太め化 70s 80s 90s 適正範囲:17〜24 ? 20〜25 ? 現代社会は,若年女子の痩身化に向けて,目には見えない”圧力”をかける. なぜ人は食べるのか? :食行動の理論 設定値説( Grossman, 1967; Oatley, 1967) 安定値説( Wirtshafter & Davis, 1977) 動機づけの等斜褶(しゅう)曲説( McFarland & Sibly, 1975) 誘因説( Booth, 1977, 1980) 誘因動機づけ説( Bindra, 1976, 1978, 1979) 報酬の神経生理学説( Coons and White, 1977) (体重の)設定値説 (the set-point theory of body weight) (体重の)安定値説 (the settling-point theory of body weight) 設定値説と安定値説の相違: 設定値説 体重 食行動 環境変化に 適応する人 生物としてのヒト 今田(1989)より ? ? 安定値説 体重 ? 食行動 ? 生物としてのヒト 環境変化に 適応する人 ? Pinel(2003)の水漏れ樽モデル:体重の安定値説 1. 食物 2.食物の誘因価 3. 摂取エネル ギー量 4. 身体脂肪:代謝 の個人差あり 5. 消費エネル ギー量:個人差大 6. 満腹信号: 個人差大 Figure 水漏れ樽モデル 改訂水漏れ樽モデル:食行動科学の観点 タ ン ク 1. 食物 2.食物の誘因価 3. 摂取エネル ギー量 4. 身体脂肪:代謝 の個人差あり 5. 消費エネル ギー量:個人差大 6. 満腹信号: 個人差大 Figure 水漏れ樽モデルの発展 外発的摂食:外的刺激への”過剰”反 応 先行負荷/ 味評定実験パラダイム(今田,1989より) 人は,”目で食べ”,”鼻で食べ”,”口で食べ”る.いつでも,ど こでも,おいしいものが容易に入手できる環境下では,つい つい食べ過ぎてしまう. 抑制的摂食(摂食抑制):脱抑制による過食 Herman and Mack, 1975: Restraint Scale Van Strien et al., 1986: Dutch Eating Behaviour Questionnaire(DEBQ) Stunkard and Messick, 1985: Three Factor Eating Questionnaire(TFEQ) 低カロリーの先行負荷 →摂取量は増える 高カロリーの先行負荷 高カロリーの先 行負荷 →摂取量は減少する →摂取量が増 える 摂食抑制者は抑制が”はずれる”と,過食にはしる! 脱抑制(disinhibitoin)→過食 情動的摂食:負の感情は摂食を促進する 感情と空腹感・食欲との関係(積率相関係数) N=246, ***p<.001, **p<.005, *p<.01, Imada(unpublished) 空腹感 食欲 怒り 0.213*** 0.215*** 恐怖 0.133* 0.120 悲しみ 0.261*** 0.259*** 緊張感 0.122 0.182** 喜び 0.105 0.157* 安心感 -0.039 -0.034 抑制的摂食と情動的摂食の関連: 痩身体型への願望 日常的なダイエット 自制:self-control 身体的 心理的 慢性的な欲求不満 ネガティブな感情 ストレス 外部ストレス 再自制の予期 摂食欲求の充足 促進 過食 促進 過食の怖さ: ダイエット 過食 体重の変動 健康障害 排出行動 食障害 自尊感情の低下 食事療法は有効か? どうすればいいのだろうか? 1. 刺激から遠ざかる→外発性摂食の出現抑制 2. 無理をしない→情動性摂食の出現抑制 3. “適度にふとめ”のよさをイメージングする →抑制的摂食(脱抑制過食)の出現抑制 4. おいしく食べる,楽しく食べる →満腹感の心理:心理的満足感 5. 食生活のリズムをつくる →日常(ケ)と非日常(ハレ)の区別 満腹感(心理的満足感) 満足感 経験 (心理要因) P. Rozinの実験 見る 感性満腹感(sensory specific satiety): Rolls et al., 1981; 今田,1992 満腹感 匂う 味わう ふれる (聞く) 食 物 栄養 食行動 おいしさの諸相: 1.からだで食べるおいしさ 膨満感・満腹感 2.目で食べるおいしさ 3.鼻で食べるおいしさ 感性満腹感 4.口で食べるおいしさ 5.頭で食べるおいしさ 心理的満足感 6.気持ちで食べるおいしさ 7.つくって食べるおいしさ 8.一緒に食べるおいしさ 社会的満足感 9.感謝して食べるおいしさ 満足感(真の満腹感) どうすればいいのだろうか? 1. 刺激から遠ざかる→外発性摂食の出現抑制 2. 無理をしない→情動性摂食の出現抑制 3. “適度にふとめ”のよさをイメージングする →抑制的摂食(脱抑制過食)の出現抑制 4. おいしく食べる,楽しく食べる →満腹感の心理 5. 食生活のリズムをつくる →日常(ケ)と非日常(ハレ)の区別 毎日がハレの食生活 朝食:家族の一人一人が食べたいものを 食べる. 昼食:今日はマクドか吉野家か. 夕食:中食総菜の食卓. ケの消滅? → ハレとケの区別が不明瞭 ケの復活が必要では? :安定的,固定的(単調,退屈)な日々の食事 安定的,固定的(単調,退屈)な日々の食事! 環境の力はあなどれない! Globalization of Food Business: in the Case of McDonald in Japan (1/10 billion) (NUMBER) Annual sales Number of shops years 重量 熱量 熱量(fat) 脂質量 Double Quarter Pounder® with Cheese+ 280g 770Kcal 430Kcal 47g Large French Fries 171g 520Kcal 230Kcal 25g Chocolate Triple Thick® Shake (32 fl oz cup) 888ml 1150Kcal 300Kcal 33g 2440 Kcal ! ダブルマックグラン 285g 735Kcal 46.4g マックフライポテト(L) 170g 529Kcal 27.9g マックシェイクチョコレート 262g 299Kcal 1.6g 1613 Kcal ! BMI BMI>=30(25) 摂取熱量 摂取脂質量 血中コレストロール値 心臓疾患 フランス 24.4 (2002) 7.4 (39) % やや低い? 高い 高い アメリカ 26.6 (1988-1994) 22.3 (61) % やや高い? 低い 低い 低い 高い フレンチ・パラドックス Rozin et al.(2001)より Supermarket food portions ITEM Carrefour Acme Yogurt (modal) 125g 227g Fresh fruit 431g 553g 330ml 500ml (mean,4 types) Coca cola (modal) Appeared in Appetite(1999) FOOD ATTITUDE: Rozin, Fischler, Imada et al., 1999( 1995頃の調査) 改訂水漏れ樽モデルと外部環境: 食の外部依存 食環境の 急激な変化 外食・中食 油脂分摂取の増大 個食 ストレス社会? 食物の過剰供給 飽食社会 タ タ ン ン ク ク 1. 食物 2.食物の誘 因価 3. 摂取エネ ルギー量 4. 身体脂 肪:代謝の 個人差あり 5. 消費エネ ルギー量:個 人差大 6. 満腹信 号:個人差 大 痩身を理想化 する社会 Figure 水漏れ樽モデルの発展 エネルギー消 費量の低下 クルマ社会 コンピューター社会 遊びの変化 まとめ ・現代人は急激な食環境の変化にとまどっている. ・変化する食環境への過剰適応(適応不全)が,体型の 肥満化(痩身化)の一因となっている. ・肥満解消には,食行動の変容が必須. ・特に,強調される点は: 心理的満足に方向付けられた満腹感 安定した日常の食(ケ)の確立 環境の力をあなどらないこと おしまい
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