環境経済論 第12回目 市場は地球環境を救えるか その3: 規制手段の比較 1 規制手段の比較 2 直接規制とは 1.排出基準(排出禁止措置、濃度 規制など) 2.排出割り当て(総量規制など) 3.行政指導、届出、許可制度など 3 経済的手段とは 1. 2. 3. 4. 環境税(課徴金、料金を含む) 補助金 排出権取引(取引可能許可証) デポジット制度 4 非規制的手段とは 1. 「促進法」=制度的に望ましい方向に誘導 する・・・ 容器包装リサイクル法、地球温 暖化防止法など 2. 技術基準・・・エコラベルなどの品質表示、I SO14000シリーズなどの品質基準 3. 自主的取り組み • • 企業の取り組み・・・経団連の温暖化防止行動 計画など、「地球にやさしい」商品の開発など 消費者の取り組み・・・廃品の集団回収、環境 NGO、環境ファンドなど 5 保護手段の選択基準 (OECDによる) 1. 有効性:環境保護の目的実現に有効か 2. 効率性:負担は大きすぎないか、経済的効 率性と実施コスト 3. 公平性:汚染者負担の原則、所得分配への 影響 4. 実施の容易さ:強制力、監視力は充分か 5. 受容性:政策の政治的受け入れられやすさ 6 環境税の長所 1. 選択の自由=企業は排出削減、納税の いずれか費用の小さいほうを選択できる 2. PPPの原則に合致=汚染者(企業、消 費者)が費用を負担する。 3. 技術革新を誘引 4. 財政収入の増加 7 環境税は直接規制 (排出割り当て)より効率的 等量の排出量を削減する二つの ケースを比較する • 一律規制=1社当たりQ0の削減 • 環境税=t*の税を課す(その結果 各社の削減量は Q1+Q2=2Q0 ) 環境税の場合高コスト企業の削減量 は減り、低コスト企業の削減量が 増えるが、差し引き図の赤い部分 の費用が節減される 8 環境税の短所 1. 2. 3. 4. 大衆課税(生活必需品への課税となる場合、 負担率は低所得者に重くなる) デフレ効果(実質増税となると成長を抑制) 国際競争力低下(炭素税の場合、エネル ギー依存度の高い製品の国際競争力に悪 影響) 不確実性(税をかけても汚染が減るとは限 らない) 9 環境補助金 1. 排出削減報奨金=汚染排出削減量に応 じた補助金 2.租税特別措置=税の軽減(tax break)、 法人税等の一部控除、処理設備に対する 加速減価償却など 3.低利融資=優遇金利の資金提供 10 税と補助金のインセンティブ 機能は同じ • 同率の税と補助金 例:1トン当たり2万円の環境税と排出削減報奨金 3トンの排出を削減したとする – 税の場合 納税額が6万円減る(費用減) – 補助金の場合 補助金を6万円受け取る(収入増) 11 環境補助金の長所 1. 中小企業など脆弱な産業に対しては、 助成措置がないと一方的に規制を実 施するのは困難 2. 比較的即効性が高い 3. 官僚は補助金を好む(行政指導力の 源泉) 12 わが国では補助金が 重視されている • 「国は、(中略)環境負荷活動を行うものにそのものの経 済的な状況等を勘案しつつ必要かつ適正な経済的な助 成を行うために必要な措置を講ずるように努めるものと する」 (1993年制定、環境基本法第22条第1項) • 「地球温暖化問題への対応の政策手法としては、現段階 において数量規制による手法(いわゆる排出権売買を含 む)または税・課徴金の導入を決断しうる状況にはなく、 当面は助成的手法(低利融資、租税特別措置、補助金 等)を活用しながら総合的な対応を行っていくことが重要 である。」(通産省、地球再生14の提言) 13 環境補助金の短所 1. 汚染者負担の原則に違反=汚染者を補助 2. 財源が必要 3. そのため汚染型産業への参入が起こり、 結果として汚染の増大を招く 4. 国際市場では輸出補助金とみなされる 14 デポジット制度 (預託金制度) • 販売するときにあらかじめ容器に対する預 託金(デポジット)を上乗せし、返却した際 に払い戻す • 欧米で広く採用、散乱する空き缶一掃に 大きな効果(ホームレスの収入源) • 日本でもビール瓶などで実質的に運用さ れてきた 15 デポジット制度には税と 補助金の二つの側面がある • 消費者にとっては、実 質価格が上昇するた め、消費を量的に抑 制する • 税と同じ効果=濫用 抑制効果 16 デポジット制度には税と 補助金の二つの側面がある • 回収に協力した消費 者にとっては、回収に 対する報奨金が与え られる • 補助金と同じ効果= リサイクル促進効果 17 デポジット制度には税と 補助金の二つの側面がある R(リサイクル量) p+d p D(缶入り飲料水の需要) 0 Nr 返還金による回収促進 N2 N1 缶の個数 価格上昇による需要減 18 環境税: 企業負担(生産者負担) か消費者負担か? 19 環境税の帰着 • 税金は企業負担か消費者負担か? 炭素税の例 – 石油等の輸入業者が納税する=企業負担? – 納税分は価格に転嫁=消費者負担? • 税を納めるのは生産者の企業であっても、価格 に転嫁するため実際に払うのは消費者 • しかし、実質価格が高騰し需要が減退するため、 生産者も負担を負う 20 環境税の帰着 • 結局、消費者も事業者も応分の負担があ るということ 税の賦課 売れ行きの減少 価格に反映 生産者の負担 消費者の負担 21 生産者と消費者の負担配分 課税分を価格に転嫁すると • 限界費用曲線(供給曲線)は S→S’にシフト • 市場均衡はAからBへ移動 • 消費者余剰の縮小=a+c • 生産者余剰の縮小=b+d • 政府への移転=c+d • 厚生の損失(または死重量、 dead-weight loss) =a+b 22 生産者と消費者の負担配分 生産者、消費者それぞ れの負担の大きさは需要 曲線、供給曲線の傾きに よる • 需要曲線の傾きが急 =価格が上がっても需要 はあまり減らない →消費者負担は大きい – つまり、米、水などの必需度 が高いもの(生活必需品)ほ ど消費者に負担が大きいこ とになる • 供給曲線の傾きが緩やか →生産者負担は小さい 23 生産者と消費者の負担配分 逆に、 • 需要曲線の傾きが緩や か = 価格変化にフレ キシブルに対応できる →消費者の相対的負担 は小さい • 供給曲線の傾きが急 = 農産物などのように 作り置きができないもの →生産者負担は大きい 24 12回目終わり 25
© Copyright 2024 ExpyDoc