平成16年度 商法Ⅰ 講義レジュメNo.4 商人資格の取得時期と開業準備行為の商 行為性(自然人・会社以外の法人の場合) 最判昭47・2・24民集26巻1号172頁 参考(最判昭33・6・19民集12巻10号15 75頁:判例百選8~9p) テキスト参照ページ:新商法講義 41~48p プライマリー 26~30p 1 事実の概要 • Yは、引越し専門の運送業を営む目的で、A から大型トラックを購入したが、その際の頭 金資金100万円をXから借り入れた。XはY が運送業経営のためにトラックを購入するこ と、および借入金をその頭金として使う事情 をYから説明され、熟知した上でYに貸し付け た。 • Yから返済がなかったため、Xは弁済期から 約9年経過した時点で貸付金の返済を求め る訴えを提起した。 2 ①これから開業する 準備としてトラックの 頭金を貸して欲しい。 X ②事情を納得した上で 100万円を貸付(金銭 消費貸借契約) Aからトラックを 友人のXに事情 買って運送業を を話して頭金を 始めたいが、頭金 貸してもらお が必要だなあ。 う! Y ③100万円を頭金とす るトラックの売買契約 A 3 返済の約束期限から9年 もたったのにまだ返して くれないなんて!! 今頃になって返 せといわれて も・・・。事業もあ まり上手く行って ないし。 ①9年前に貸した100万円の返 還を請求(貸金返還請求) Y X 原告 ②商事債権は5年で消滅時効が完 成するはず(抗弁) 被告 (5年の消滅時効を援用) 4 双方の主張 原告X 被告Y 貸金の返還を請求 5年の消滅時効を援 用(商522条) 貸した時、Yは営業を 始めていなかったから 運送業を始めるため 商人ではない。よって の準備資金と説明し 民事債権の消滅時効 て借りた開業準備行 は10年だからまだ完成 為であり、商503条に していない。(民167 より付属的商行為とな 条) る。故に、商行為に よって生じた債権であ る。 5 本件の争点 • Yは開業準備のための資金としてXから 100万円を借りている。 • XはYから説明され、Yが運送業を開業し ようとしており、その準備としてトラックを 購入する資金を必要としていることを 知っていた。 相手方に営業意思を告げて行った開業準備 行為に商行為性が認められるか? 6 商人資格の取得時期について • 自然人が目的とする営業を開始する以前に行う 開業準備行為にも商法の適用があることは一 般に肯定されている。 • そのロジックとは? 目的とする営業自体を開始したときではな く、その準備行為を行った段階で商人資格 を取得し、その商人資格の取得を基礎付 けた準備行為自体もその商人の付属的商 行為として商法の適用を受ける 7 開業準備行為と付属的商行為 産大 太郎 ①個人で書店を開くため、資金を借りる ②テナントを賃貸する ③看板の製作を依頼する ④商品としての本を仕入れる ⑤従業員を雇う ⑥開店広告を出す ⑦開店 仮に、④の行為により産大太郎が商人資格を取得す ると考えると、④の行為は、産大太郎の商人資格の取 得を基礎付けた開業準備行為となり、商人「産大太 郎」にとっての付属的商行為となる。 8 いかなる開業準備行為が商人資 格を基礎付けるのか? • 学説・判例はさまざまな見解が対立して いる。 • 考え方のポイント –その行為が営業の準備行為であるのかど うかが、相手方には分からない場合があり、 消滅時効や連帯債務関係などの点で不測 の損害を与える場合がある。 9 従来の学説 1. 営業意思主観的実現説 ・営業意思が本人により主観的に実現 されればよい(従来の多数説)。 ←相手方に不測の損害を与えるおそ れがある。 2. 営業意思客観的認識可能説 ・営業意思が開業準備行為自体の性 質から客観的に認識可能であることを 要する(現在の通説といわれている)。 10 判例のながれ 1. 古くは「表白行為説」 ←商人資格の取得が遅すぎる 2. 現在は基本的に「営業意思主観的実 現説」(本レジュメの参考判例) 3. 最近、営業意思主観的実現説に「準 備行為自体の性質による営業意思 客観的認識可能説」を結合した見解 を示す。 11 判旨(裁判の要旨) • 特定の営業を開始する目的でその準備行為をした 者は、その行為により営業意思を実現したもので あって、これにより商人資格を取得する。 • その準備行為も商人がその営業のためにする行 為として商行為となる • その準備行為は、相手方はもとよりそれ以外の者 にも客観的に開業準備行為と認められうるもので あることを要する→単に金銭を借り入れる行為は、 外形からはその行為がいかなる目的でなされるも のであるか知ることができない 12 判旨(裁判の要旨)2 • もっとも、その場合においても、取引の相手 方が、この事情を知悉している場合には、 開業準備行為としてこれに商行為性を認め るのが相当 ※結論:Yの5年の消滅時効援用を認め、X の請求を棄却 (Xは100万円はもちろん、弁済期限から9 年分の遅延利息も払ってもらえない) 13 本件判決の評価 • 営業意思主観的実現説を基本としつつ、 準備行為自体の性質による営業意思客観 的認識可能説を結合する立場からは、営 業資金の借り入れという行為自体からは 営業意思が客観的に認識できないから商 人資格を取得することはないはず→商行 為性はない • しかし、本件判決の結論は商行為性を認 めた 14 本件判決の評価 • 相手方が当該行為は開業準備行為である という事情を知っている場合には、商法の 規定の適用を認めても、相手方に不測の損 害を与えるおそれがなく、相手方の保護に 欠けることはない。 • 商法の適用を求める商人の利益と相手方 の利益のバランス(利益衡量)をはかった結 論 15 最近の有力説:「段階説」 • 商人資格の取得時期を段階的・相対的に決しよ うとする考え方 1st 2nd 3rd 営業意思が主観的に実現されているに過ぎない段階 →相手方のみがその行為の商行為性を主張できる 営業意思が特定の相手方に認識され、または認識されうる段階 →行為者からも商行為性を主張できる 営業意思が一般的に認識されうる段階 →行為者の行為に付属的商行為の推定が働く(503Ⅱ) 16 結論 • 本件では、XはYが開業準備のための資金を借り ようとしていることを熟知していたことから、判例、 段階説、営業意思主観的実現説、単純な営業意 思客観的認識可能説の立場からは、5年の消滅 時効の主張が認められる。 • これに対して、準備行為自体の性質による営業意 思客観的認識可能説では、5年の消滅時効の主 張は認められない。 17 参考 大学を卒業したばかりのA君は、 A君はまだカメラマンとして営業 フリーのカメラマンになることを を始めてませんが、①、②の 決意し、親戚のBさんからカメラ 契約は商行為となるでしょうか? など商売道具を買うための資金 を借り、友人Cからこれを購入した。 A君 親戚のBさん ①金銭消費貸借契約 ②売買契約 A君の友人C 18
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