平成16年度 商法Ⅰ 講義レジュメNo.6 商法20条と営業の同一性 最(1小)判昭50・7・10裁判所時報 670号1頁 判例百選32~33p参照 テキスト参照ページ:新商法講義 56~68p プライマリー 47~59p 1 1 商号とは何か? 商号の意義 →商人が営業上自己を表 す名称(判例) 2 ①商号は名称である • 氏名と同じように文字で表示できて、発音で きるものでなければならない • 図形、紋様、記号は、商標とはなりえても商 号にはなりえない • 商号は登記できるものでなければならない →従来、外国文字による登記はできなかった ため、商号は日本文字で表示されねばならな いと解されていた (例:NTT西日本株式会社→エヌティー ティー西日本株式会社) 3 外国文字による商号の登記 • 平成14年11月1日施行の改正商業登記規則51 条の2により、ローマ字その他の符号を商号の 登記について使用できることとなった。 • 追加された商号に使える文字その他の符号 1 ローマ字 2 アラビヤ数字 3 アンパサンド,アポストロフィー,コンマ, ハイフン,ピリオド及び中点 4 ②商人の営業上の名称である • 商人でない者が営業上用いる名称は 商号ではない 例: ・会社以外の法人の名称(相互保険 会社、協同組合など) ・小商人(8条)が営業上用いる名 称→商号、商業登記、商業帳簿に関 する規定が適用されないため 5 Ⅱ.商号自由の原則(16条) • 商人は原則として自己の商号を自由 に選定できる ・営業の内容と関係のない商号の使 用も可能である(屋号の伝統) ・個人商人であれば、商号を用いな いこともできる 6 商号選定に関する制限 (商法上および特別法上の制限) • 商号単一の原則「1個の営業については、 商号は1個でなければならない」 (通説・判例)→1個の商号で複数の営 業を営むことは許される ※会社の場合は複数の営業を営む場合で あっても、商号は必ず1個(~支店とい う文字を付加することは差し支えない) 7 会社の商号に関する制限 • 会社はその種類に従い、合名会社、合資会社、 株式会社、有限会社という文字を用いなけれ ばならない(17条、有限会社法3条1項) • 【趣旨】 会社の種類によって組織や社員の責任が違 うため、取引相手保護のためにこれを明らか に示す必要がある。会社でない者は、商号中 に会社であることを示すような文字を使って はならない(18条1項、有3条2項。罰則 有り)。 →会社でない者が会社から営業の譲渡を受け た場合でも同様 8 登記された他の商人の商号と同 一・類似の商号に関する制限 • 商法19条および商法20条が 該当する。これらについては 事例研究の中で解説する。 9 不正の目的による商号の使用禁止 (21条)① • 不正の目的:ある名称を自己の商号として使 用することにより、一般人をして、自己の営 業をその名称によって表示される他人の営業 であると誤認させようとする意図 →不正競争の目的(20条)より広い(多数 説) 少数説:他人の営業と誤認させる目的がなく ても、不正の目的があればよい(判例) • 「他人」:商人でなくてもよい(有名人の名 前)など 10 不正の目的による商号の使用禁止 (21条)② • 「使用」:法律行為(契約など)に関する使用 と事実上の使用(看板に記載など)を含む。 「商号」として使用する場合に限る。 【効果】 • 商号の使用禁止(1項):違反した場合→差止 請求および損害賠償請求(2項) • 使用差止請求には「登記抹消請求」も含む(判 例) 11 Ⅵ.商号権:商人がその商号に ついて有する権利 • 商号使用権:他人の妨害を受けずに商号 を使用する権利→商号の登記の有無を問 わずに認められる • 商号専用権:他人が同一または類似の商 号を不正に使用することを排斥する権利 →商号の登記の有無を問わずに認められ る(通説的見解)が、登記すれば効力が 強化される 12 事実の概要 • Xは、昼間を主たる営業時間とする西洋料理 店株式会社「マルベニ」(商号登記済み)を経 営していた。 • Yは、そこから徒歩10分のところに、夜間の 営業を主とする割烹「有限会社中洲まるべ に」を開店して、看板等には単に「まるべに」 とだけ表示していた。 • XはYに「まるべに」の商号使用の差止を請求 した。 13 登記商号「株式会社マル ベニ」(西洋料理店) X ①昼間の営業 を主とする西 洋料理店を経 営 Y ②「有限会社まるべに」 をXの店舗から徒歩10 分の場所に開店(夜間 の営業を主) 自分が登記している商号と類似の商号を 同種の営業に使用することはやめろ(20条) 商号使用の差止請求 14 商法19条(同一商号の登記の排斥)の 趣旨 • 他人が登記した商号と同一の商号は、同市 町村内で同一の営業のために登記すること ができない。 • 同一の商号:全く同一の商号に限らず、判然 区別することができない商号を含む(商登27 条)。 • 市:東京都の特別区および政令指定都市で は、区(京都:北区、大阪:淀川区) 15 商法20条(同一または類似の商号の使 用の排斥)の趣旨 • 商号の登記をした者は、不正の競争の目的 をもって同一または類似の商号を使用する 者に対して、その使用の差し止め及び損害 賠償請求ができる(20条1項) • 同市町村内で同一の営業のために他人の 登記した商号を使用する者は、不正の競争 の目的をもって使用するものと推定される (20条2項) • 違反した者→罰則(22条) 16 原告Xの主張 「マルベニ」と「まるべに」は類似商号である。 Yは不正競争の目的を有している →20条2項により推定される よって、①Yは「まるべに」という商号を使用しては ならない。 ②Yは「有限会社中洲まるべに」という商号の登記 を変更せよ。 ③その他、看板の撤去、損害賠償を求める。 ※商法20条1項および2項参照。 18 被告Yの主張 Yの経営する飲食店は午後5時以後を営業時 間とする純和風の割烹店であるのに反し、Xの 経営する飲食店は洋風のレストラン・パーラー であるので、「不正の競争の目的」はない。 XとYの営業は上記のように同一の営業ではな いので、20条2項による「不正の競争の目的」 の推定は適用されない。 19 本件の争点 • 商法20条における「営業の同一性」の判 断基準 • 営業の同一性とは「現実に営む営業種目 のみを対比する」のか、「双方の営業目的 を対比し、あるいは営業目的自体を取引社 会の常識に立って対比する」のか? 不正の競争の目的を推定させうるに足りる 営業の同一性とは? 20 20条における営業の同一性につ いての学説 • 多数説:当事者双方の現実に営む営業種目のみ を対比して決定するのではなく、双方の営業目的 (定款等に記載される)を対比して決定すべき。 →双方の営業が完全に一致していなくても、一方 の営業目的が他方のそれを包含し、その主要部分 において同一である限り営業は同一であると解す べき。 • 少数説:両当事者の現に営んでいる営業との同一 性で判断すべき。 21 原審(福岡高裁)の判断 • 少数説の立場に立ち、Yの営業は夜 間営業のために純和風の割烹店で あるのに対し、Xの営業は洋風のレ ストラン・パーラーであることから、 両者の現に営む営業は同一ではな いとして、Xの請求を棄却 22 本件判旨 • 多数説の立場に立ち、「Xの営業目的の 主要部分が料理店という飲食店業の経 営にあるとすれば、両者に洋風と和風の 差異があっても、料理店という飲食店業 としての営業は同一であると解すべき」と 判断。 Xの請求を棄却した高裁の判決を破棄し、差戻した 23 本件判決の評価 商法20条は、実体取引において取引主 体の混同や誤認が認められるほど実質 的に商号が同一または類似していると 認められるか、という問題である。 社会一般の人々が営業主体が同一であ ると判断する場合に不正競争の目的が 推認されるのであるから、多数説の判断 基準が妥当である。 24
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