食物アレルギーの基礎知識 群馬県教育委員会 平成25年9月 (1)食物アレルギーの基礎知識 (2)アナフィラキシーの概要 (3)エピペンの使用法 食物アレルギー 1) 原因食物を食べたときに、体を守る免疫のシステムが 過敏に働き、アレルギー症状が起こること 2) 頻度は、乳児が約10%、3歳児で約5%、学童期以降で 1.3~2.6%、全年齢で約1~2%程度 3) 最も多い症状は皮膚症状だが、ショックなどの重篤な 症状を起こす場合もある 4) アレルギーを起こす食物は、低年齢では鶏卵、乳製品、 小麦だが年齢とともに変化する 食物アレルギーの分類 臨床型 発症年齢 頻度の高い食物 耐性の獲得 アナフィラキ シーショック の可能性 新生児・乳児消化管 アレルギー 新生児期 乳児期 牛乳(育児用粉乳) 多くは寛解 (±) 食物アレルギーの関与する乳児 アトピー性皮膚炎* 乳児期 鶏卵、牛乳、小麦、大豆など 多くは寛解 (+) 鶏卵、牛乳、小麦、 大豆など 多くは寛解 その他の多く は寛解しにくい (++) 乳児~幼児: 鶏卵、牛乳、小麦、そば、 魚類、ピーナッツ など 学童~成人: 甲殻類、魚類、小麦、 果物類、そば、ピーナ ッツなど 即時型症状 (蕁麻疹、アナフィラキシーなど) 乳児期~成 人期 食物依存性運動誘発アナ フィラキシー (FEIAn/FDEIA) 学童期~成 人期 小麦、エビ、カニなど 寛解しにくい (+++) 口腔アレルギー症候群 (OAS) 幼児期~成 人期 果物・野菜など 寛解しにくい (±) 特 殊 型 *慢性の下痢などの消化器症状、低タンパク血症を合併する例もある。 すべての乳児アトピー性皮膚炎に食物が関与しているわけではない。 「食物アレルギーの診療の手引2011」より転載 年齢別原因食品 年齢群 0歳 1歳 2,3歳 4~6歳 7~19歳 20歳以上 合計 第1位 鶏卵 62.1% 鶏卵 44.6% 鶏卵 30.1% 鶏卵 23.3% 甲殻類 16.0% 甲殻類 18.0% 鶏卵 38.3% 第2位 牛乳 20.1% 牛乳 15.9% 牛乳 19.7% 牛乳 18.5% 鶏卵 15.2% 小麦 14.8% 牛乳 15.9% 第3位 小麦 7.1% 小麦 7.0% 小麦 7.7% 甲殻類 9.0% ソバ 10.8% 果物類 12.8% 小麦 8.0% 魚卵 6.7% ピーナッツ 5.2% 果物類 8.8% 小麦 9.6% 魚類 11.2% 甲殻類 6.2% ピーナッツ 6.2% 果物類 9.0% ソバ 7.1% 果物類 6.0% ソバ 5.9% 牛乳 8.2% 鶏卵 6.6% ソバ 4.6% 小麦 5.3% 魚類 7.4% 第4位 第5位 第6位 第7位 甲殻類 果物類 5.1% 魚類 4.4% 各年齢群で5%以上占めるものを記載している 食物アレルギーの症状 皮膚粘膜症状 皮膚症状:そう痒感(かゆみ)、じん麻疹、血管運動性浮腫、発赤疹、 湿疹 粘膜症状:眼粘膜充血、そう痒感(かゆみ)、流涙(涙が流れ出る)、眼瞼 浮腫(まぶたがむくむ) 消化器症状 悪心(気分が悪くむかむかした感じ)、疝痛発作(おへそを中心に しておなかがいたくなる)、嘔吐、下痢、慢性の下痢による蛋白漏出・体重 増加不良、血便 上気道症状 口粘膜や咽頭のそう痒感、違和感(イガイガしたいつもと違う感じ)、腫脹 (はれる)、咽頭喉頭浮腫(のど、のどの奥の方のむくみ)、 くしゃみ、鼻水、鼻閉(鼻がつまる) 下気道症状 咳嗽(せき)、喘鳴(ゼーゼーして息が苦しくなる)、呼吸困難 全身性症状 アナフィラキシー症状:頻脈(脈が早くなること)、血圧低下、 活動性低下(ぐったりする)、意識障害など 即時型食物アレルギーの誘発症状 症状 (%) 食物依存性運動誘発アナフィラキシー 原因食物を摂取後、多くは2時間以内に運動することで 惹起されるアナフィラキシー 間接的誘因として、NSAID(非ステロイド系抗炎症薬)、 花粉症、月経などがある 原因食品の特異的IgE抗体が陽性 原因食品を摂取しただけでは症状は発現しない 原因食品は小麦、甲殻類、果物などがよく知られている 学童・生徒の有病率は 0.0085%程度 食物依存性運動誘発アナフィラキシー の原因食物と発症時の運動 A.原因食物 B.発症時の運動 口腔アレルギー症候群(OAS) 新鮮な果物や野菜などの食品が、口腔粘膜へ接触 することよりアレルギー反応を起こす病態 特定の果物や野菜などを食べた後、15分以内に、 唇や舌、のどといった口腔内にかゆみや腫れを生 じる。まれに、顔や体がかゆくなったり、喘息 (ぜんそく)やショック症状が出る場合もある。 欧米で、シラカンバの自生地域に多く認められて いたことから、シラカンバの花粉との交叉反応性 が指摘され、花粉と果物や野菜に含まれる植物共 通の抗原が原因と考えられている。 花粉と交差反応性が報告されている 果物・野菜 花粉 果物・野菜 シラカンバ バラ科(リンゴ、西洋ナシ、サクランボ、モモ、スモモ、ア ンズ、アーモンド)、セリ科(セロリ、ニンジン)、ナス科(ポ テト)、マタタビ科(キウイ)、ウルシ科(マンゴー)、 スギ ナス科(トマト) ヨモギ セリ科(セロリ、ニンジン)、ウルシ科(マンゴー)等 カモガヤ等 ウリ科(メロン、スイカ)、ナス科(トマト、ポテト)、マタタビ 科(キウイ)、ミカン科(オレンジ)、豆科(ピーナッツ)、等 ブタクサ ウリ科(メロン、スイカ、ズッキーニ、キュウリ)、バショウ 科(バナナ)、等 セロリ以外の果物・野菜は、加熱すると摂取出来る場合がある (1)食物アレルギーの基礎知識 (2)アナフィラキシーの概要 (3)エピペンの使用法 アナフィラキシーの代表的な症状 ハチに刺されたり、食物を摂取した後、数分から数十分後に体の様々な症状が 現れます。その症状は急激に変化し、はじめの症状が出現してから数分後にショッ ク状態に至ることもあります。 代表的な症状 食事をと った後 蜂に刺さ れた後 薬を飲ん だ後 アナフィラキシー症状 血圧低下、 めまい、 ショック 呼吸困難、 ゼーゼー・ヒューヒューとした呼吸音 意識障害・けいれん 自覚症状 他覚症状 全身症状 不安感、無力感 冷汗 循環器症状 動悸、胸が苦しくなる 血圧低下、脈拍が弱くなる、チアノーゼ、 ショック 呼吸器症状 鼻がつまる、のどや胸がしめつけられる くしゃみ、咳発作、呼吸困難、呼吸音が ゼーゼー、ヒューヒューとなる 消化器症状 吐き気、腹痛、口の中に違和感を感じる、便意 や尿意をもよおす、お腹がゴロゴロする 嘔吐、下痢、便失禁、尿失禁 粘膜・皮膚症 状 皮膚のかゆみ 皮膚が白あるいは赤くなる、じんま疹、ま ぶたの腫れ、口の中の腫れ 神経症状 唇のしびれ感、手足のしびれ感、耳鳴り、めま い、目の前が暗くなる けいれん、意識障害 13 冨岡玖夫:アナフィラキシー、臨床アレルギー学(宮本昭正監修)、改訂第2版,P274、1998南江堂 アナフィラキシー発現から心停止までの時間 対象: 方法: 0 英国立統計局に1992~1998年までに登録された死亡を含むアナフィラ キシー患者124例 致死的アナフィラキシー発現症例のアナフィラキシー発現から心停止までの 時間などを調査した。 5 10 15 20 25 30 35 薬剤性 蜂 食物 このことを理解して早期にエピペンを使用することが重要です。 PUMPHREY RSH. Clin Exp Allergy 2000;30:1144-1150 食物によるアナフィラキシーの臨床的重症度 Grade 皮膚 消化器 呼吸器 循環器 精神神経 1 限局性瘙痒感、発 赤、じんましん、血 管性浮腫 口腔内瘙痒感、 違和感、 軽度口唇腫脹 ― ― ― 2 全身性瘙痒感、発 赤、じんましん、血 管性浮腫 上記に加え、 悪心、嘔吐 鼻閉、くしゃみ ― 活動性変化 上記に加え、 繰り返す嘔吐 鼻汁、 明らかな鼻閉、 咽頭喉頭の瘙痒 感/絞扼感 頻脈 (+15/分) 上記に加え、不 安 上記症状 上記に加え、 下痢 嗄声、犬吠様咳 嗽、嚥下困難、 呼吸困難、喘鳴、 チアノーゼ 上記に加え不 整脈、軽度血 圧低下 軽度頭痛、 死の恐怖感 上記症状 上記に加え、 腸管機能不全 呼吸停止 重度徐脈、 血圧低下、 心拍停止 意識消失 3 4 5 上記症状 すべての症状が必須ではない。症状のグレードは最もグレードの高い臓器症状 に基づいて判定する。グレード1はアナフィラキシーとはしない Sampson HA. Pediatrics 2003を改変 即時型のアレルギー症状とその対応 【症 状】 【対 応】 アレルゲンを含む食品摂取 口から出してすすぐ 口内違和感(かゆい、痛い、気持ち悪い) 嘔 吐 抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬 (ステロイドホルモン剤) かゆみ、局所的な発赤、じんま疹 時 間 経 過 を 追 っ て 症 状 が 出 現 全身性の発赤、じんま疹 喉頭浮腫→咳嗽、呼吸困難 喘鳴 鼻症状(鼻汁など) 眼症状(眼球結膜浮腫など) 腹痛 傾眠、意識障害 ショック *救急車要請も考慮する アドレナリンの自己注 射器を携帯している 場合は投与を考慮 救急車で 医療機関受診 アドレナリン自己注射器を携帯し ている場合は投与を考慮 医療機関受診 一般向けエピペン®の適応 (日本小児アレルギー学会) エピペン®が処方されている患者でアナフィラキシーショック を疑う場合、下記の症状が一つでもあれば使用すべきである。 症状 消化器症状 呼吸器症状 全身症状 具体的な症状 繰り返し吐き続ける 持続する強い(がまんで きない)おなかの痛み のどや胸が締め付けられる 声がかすれる 犬が吠えるような咳 持続する強い咳込み ゼーゼーする呼吸 息がしにくい 唇や爪が青白い 脈を触れにくい・不規則 意識がもうろうとしている ぐったりしている 尿や便を漏らす 当学会としてエピペン®の適応の患者さん・保護者の方への説明、今後作 成される保育所(園)・幼稚園・学校などのアレルギー・アナフィラキシー対応 のガイドライン、マニュアルはすべてこれに準拠することを基本とします。 (1)食物アレルギーの基礎知識 (2)アナフィラキシーの概要 (3)エピペンの使用法 エピペンの使用法 緊急の場合には ズボンの上からでもエピペンは打てます!
© Copyright 2024 ExpyDoc