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集団主義の「タイプ」に見る
日米差
ー 記憶課題実験による検討 ー
竹村幸祐 ・ 結城雅樹
[北海道大学]
[グローバルCOE「心の社会性に関する教育研究拠点」]
William W. Maddux
大坪庸介
[INSEAD]
[神戸大学]
概要

目的: 集団主義/集団過程の「タイプ」の日米差を検討

仮説: 東アジア人は内集団内部の関係に関心を払い、
北米人は内集団と外集団の間の関係に関心を払って
いる

実験: 記憶再生課題を用いた日米比較実験

結論: 仮説支持
2
背景: 集団主義に文化差なし?

北米人も集団主義的
 従来、「北米人は東アジア人ほど集団主義的ではない」と
いう見解が主流(e.g., Triandis, 1995)
しかし…
et al. (2002) のメタ分析: アメリカ人は東アジ
ア人と変わらないほどに集団主義的
 Oyserman

ただし、集団主義の「タイプ」が北米と東アジアで異
なるという主張あり
(Brewer & Yuki, 2007; Yuki, 2003; see also Brewer & Chen, 2007)
3
背景: 2種類の集団主義(Yuki, 2003)

東アジア: 集団内関係志向型

北米: 集団間比較志向型
self
self
外集団
内集団
内集団

「個人間ネットワークの集合体」
として集団を表象

等質的な「一枚岩」として集団
を表象

内集団内部の互酬的/協力的
関係に関心

集団間関係(特に、内外集団間
の優劣関係)に関心
cf. 相互協調的自己観
(Markus & Kitayama, 1991)
cf. 社会的アイデンティティ理論
(Tajfel & Turner, 1979)
背景: 2種類の集団主義(Yuki, 2003)

東アジア: 集団内関係志向型

北米: 集団間比較志向型
self
self
外集団
内集団
内集団

「個人間ネットワークの集合体」
として集団を表象

等質的な「一枚岩」として集団
を表象

内集団内部の互酬的/協力的
関係に関心

集団間関係(特に、内外集団間
の優劣関係)に関心
cf. 相互協調的自己観
(Markus & Kitayama, 1991)
cf. 社会的アイデンティティ理論
(Tajfel & Turner, 1979)
背景: 竹村・結城・Maddux (2004) の先行研
究

日本とアメリカで質問紙調査

集団状況における2種類の関心を自己評価尺度で
測定
 集団内関係志向:
内集団内部の関係構造と各メンバーの
協力性に対する関心
(e.g. 「自分のグループ内部がうまくいっているかどうかが、気になる
ことがよくある」)
 集団間比較志向:
外集団との比較における内集団の相
対的地位への関心
(e.g. 「自分のグループが他のグループと比べて、どれだけ優秀か、
気になることがよくある」)
6
背景: 竹村・結城・Maddux (2004) の先行研
究
6.00
日本
US
5.00

竹村他(2004)の結果の一部
(大規模集団の結果)

文化×志向:
F(1, 364) = 74.43, p < .001
4.00
集団内関係
集団間比較
相対的に、日本人は集団内関係により関心を払い、
アメリカ人は集団間比較により高い関心を払っていた
7
背景: 先行研究の限界

竹村他(2004)の知見は、自己評価尺度にのみ依拠

比較文化研究で自己評価尺度にのみ頼るのは問題
あり
 反応様式の文化差(Chen et al., 1995; 山岸他, 1996)
 準拠集団効果(Heine et al., 2002; Takemura et al., 2007)
 回答者自身も気づいていない、潜在的な文化特定的心理
プロセスや行動パタン(Kitayama, 2002)

本研究では、以上の問題を克服するため、記憶再生
課題を用いた比較文化実験を実施
8
方法 (1/4)

参加者:

日本: 奈良大学学生77名(女性54名、男性23名)

US: ノースウェスタン大学学生36名(女性20名、男性16名)

デザイン: 2(文化)×2(情報タイプ: 参加者内配置)

概要: 内集団内部の関係と集団間比較に関する情報を
含むシナリオを読み、事前の予告なしに、シナリオ内容
について記憶再生

従属変数: 内集団内部の関係および集団間比較に関す
る情報の再生率
9
方法 (2/4)

シナリオ:

「印象形成課題」として

3シナリオ

時間制限: 各シナリオに3分

各シナリオ直後に、2分で回答する質問項目群(フィラー項目)
シナリオ1
Filler Qs
シナリオ2
シナリオ3
課題の流れ
Filler Qs
Filler Qs
記憶再生課題
10
方法 (3/4)

シナリオ(続):

各シナリオに、

集団間比較情報:
仮想の3集団(内集団 1と外集団2)の優劣関係に関する情報
(e.g. 内集団および外集団は、それぞれどれくらい高く評価されているか)

集団内関係情報:

内集団内部の関係に関する情報
e.g. メンバーAはメンバーBを好きか嫌いか

各メンバーの内集団に対する貢献度
e.g. メンバーAは内集団にどれだけ貢献したか

例: 大学シナリオ
11
大学シナリオ
あなたが下記に登場する明邦大学に通っているところを想像しながら読んでいって
下さい。
ある地域に明邦大学と南海大学と真山大学という三つの大学があります。あなたは
この中の明邦大学に通っています。明邦大学の学生は優秀ですが、この大学は構
内設備の老朽化が進んでいることで有名です。明邦大学の近くにある真山大学も学
生が優秀なことで有名ですが、それに加えて構内設備が立派であることでも知られ
ています。また、明邦大学と真山大学の近くにある南海大学の学生はこの三つの大
学の中で一番優秀ですが、この大学の教授陣の研究業績は並のレベルです。一方、
明邦大学と真山大学は、それぞれの分野で最も優れた業績を持つ教授陣を揃えて
います。各大学の卒業後の就職率は南海大学が最も良く、ほかの二つの大学の就
職率は同じくらいです。
松本麻衣さん、斉藤和也さん、加藤恵さんは、あなたと同じく明邦大学に通う学生で、
あなたはこの三人のことをよく知っています。三人の中で、松本麻衣さんは斉藤和也
さんにとても好感を持っています。斉藤和也さんも松本麻衣さんのことを好ましく思っ
ています。しかし、松本麻衣さんは加藤恵さんのことをあまり好ましく思っていません。
ですが、加藤恵さんは松本麻衣さんのことをとても好ましく思っています。斉藤和也さ
んと加藤恵さんはお互いのことを好ましく思っています。
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大学シナリオ
あなたが下記に登場する明邦大学に通っているところを想像しながら読んでいって
下さい。
ある地域に明邦大学と南海大学と真山大学という三つの大学があります。あなたは
この中の明邦大学に通っています。明邦大学の学生は優秀ですが、この大学は構
内設備の老朽化が進んでいることで有名です。明邦大学の近くにある真山大学も学
生が優秀なことで有名ですが、それに加えて構内設備が立派であることでも知られ
ています。また、明邦大学と真山大学の近くにある南海大学の学生はこの三つの大
学の中で一番優秀ですが、この大学の教授陣の研究業績は並のレベルです。一方、
明邦大学と真山大学は、それぞれの分野で最も優れた業績を持つ教授陣を揃えて
います。各大学の卒業後の就職率は南海大学が最も良く、ほかの二つの大学の就
職率は同じくらいです。
松本麻衣さん、斉藤和也さん、加藤恵さんは、あなたと同じく明邦大学に通う学生で、
あなたはこの三人のことをよく知っています。三人の中で、松本麻衣さんは斉藤和也
さんにとても好感を持っています。斉藤和也さんも松本麻衣さんのことを好ましく思っ
ています。しかし、松本麻衣さんは加藤恵さんのことをあまり好ましく思っていません。
ですが、加藤恵さんは松本麻衣さんのことをとても好ましく思っています。斉藤和也さ
んと加藤恵さんはお互いのことを好ましく思っています。
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大学シナリオ(続き)
明邦大学では学内新聞が発行されており、学生の間で広く読まれています。この新
聞は学内のことから社会一般のことまで掲載しており、松本麻衣さんと加藤恵さんは
この仕事にかかわっています。また、この大学では学内に高速コンピューターネット
ワークを作るプロジェクトがあり、松本麻衣さんはこのプロジェクトにも参加しています。
最近になって明邦大学は、来年度から授業料を30%値上げすることを突然発表しま
した。この発表は学生と教授陣を巻き込んだ大規模な抗議集会やデモを引き起こし
ました。松本麻衣さんは、この抗議行動に熱心に参加しました。斉藤和也さんも、あ
まり熱心ではありませんでしたが、抗議行動に参加しました。加藤恵さんは、この抗
議行動が成功して授業料の値上げが撤回されることを期待していましたが、自分は
抗議行動に全く参加しませんでした。
ある日、斉藤和也さんがある有名な賞を受賞したことを学内新聞が報じました。彼は、
明邦大学の社会的イメージ向上に貢献したと認められ、学長から賞状をもらいました。
注意: 集団間比較情報と集団内関係情報の順序はカウンターバランス
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方法 (4/4)

記憶再生課題:

集団内関係について36項目


例: 松本麻衣さんは加藤恵さんのことをどう思っていますか?
集団間比較について18項目

例: 明邦大学と真山大学では、どちらの学生がより優秀ですか?

各項目に3選択肢(ランダムに回答しても正答率は.33)

事前の予告なし

時間制限なし
15
結果
正答率
.90
日本
US
.80
.70
.60
集団内関係
集団間比較
16
結果
正答率
.90
日本
US

文化×情報タイプ:
F(1, 111) = 3.98, p < .05

日本人のパタンに比べて、アメリ
カ人は集団間比較情報に比重を
置いたパタン
.80
.70
.60
集団内関係
集団間比較
17
考察

自己評価尺度だけでなく、記憶再生課題でも仮説を支持

反応様式etcの問題を克服

「単に自己評価が文化間で異なるだけ」という批判を排除
日本
集団内関係
集団間比較
竹村他(2004)

US
集団内関係
集団間比較
本研究
相対的に、日本人は内集団内部の関係に関心を払う傾向があるの
に対し、アメリカ人は内外集団間の優劣関係に関心を持っている
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考察

集団主義の「タイプ」に文化差あり: 日本の集団内関係志
向 & USの集団間比較志向
self
内集団

self
外集団
内集団
将来の展望: なぜ、このような文化差が存在するのか?

日米それぞれの社会・生態学的環境の下で、集団内関係志向
と集団間比較志向は、それぞれどのような機能を果たしている
のか?
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集団主義の「タイプ」に見る
日米差
ー 記憶課題実験による検討 ー
竹村幸祐 ・ 結城雅樹
William W. Maddux
大坪庸介
[北海道大学]
[INSEAD]
[神戸大学]
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引用文献
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conceptual clarification of individualism and collectivism. Psychological Review, 114, 133151.
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Handbook of cultural psychology. Guilford Press.
Buchan, N.R., Croson, R., & Johnson, E.J. (2003). Let’s get personal: An international
examination of the influence of communication, culture, and social distance on trust and
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Chen, C., Lee, S-y., & Stevenson, H. W. (1995). Response style and cross-cultural comparisons
of rating scales among East Asian and North American students. Psychological Science, 6,
170-175.
Frank, R.H. & Cook, P.J. (1995). The Winner-take-all society: How more and more Americans
compete for ever fewer and bigger prizes, encouraging economic waste, income inequality,
and an impoverished cultural life. New York : Free Press.
Heine, S.J., & Lehman, D.R. (1997). The cultural construction of self-enhancement: An
examination of group-serving biases. Journal of Personality and Social Psychology, 72,
1268-1283.
21
引用文献
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引用文献
Takemura, K., Yuki, M., Kashima, E. S., & Halloran, M. (2007). A cross-cultural comparison of
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Psychological, social, and cultural perspectives (pp. 105-121). Seoul, Korea: KyoyookKwahak-Sa.
竹村幸祐・結城雅樹・William W. Maddux (2004). 集団間比較志向と集団内関係志向: 2
つの集団主義の日米比較 日本心理学会第68回大会発表論文集, 240.
Triandis, H.C. (1995). Individualism & collectivism. Boulder: Westview Press.
Yuki, M. (2003). Intergroup comparison versus intragroup relationships: A cross-cultural
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Social Psychology Quarterly, 66, 166-183.
Yuki, M., Maddux, W.W., Brewer, M.B., & Takemura, K. (2005). Cross-cultural differences in
relationship- and group-based trust. Personality and Social Psychology Bulletin, 31, 48-62.
23