個人主義者の作る集団: 北米の集団間比較志向と個人間比較志向 竹村幸祐1,2 結城雅樹1・William W. Maddux3 (1北海道大学大学院文学研究科, 2日本学術振興会, 3Northwestern University [現所属: INSEAD] ) 概要 問い: 北米人は、内外集団間の優劣関係を 重視する傾向(集団間比較志向)が強い。 なぜか? 仮説: 北米社会は「ひとり勝ち市場」の構造 を持つ。そこでは、「競争に勝つための連 合」として集団が機能し、内外集団間の優 劣関係に注意を払うことが適応的。 2 背景(1/3) 北米人も集団主義的 従来、「北米人は東アジア人ほど集団主義的で はない」という見解が主流(e.g., Triandis, 1995)。 しかし… Oyserman et al. (2002) のメタ分析: アメリカ人 は東アジア人と変わらないほどに集団主義的 ただし、集団主義の「タイプ」が北米と東アジ アで異なるという主張あり(Brewer & Yuki, in press; Yuki, 2003) 3 背景(2/3) 2種類の集団主義 本研究では こちらに注目 (Brewer & Yuki, in press; Yuki, 2003) 東アジア: 集団内関係志向型 北米: 集団間比較志向型 「個人間ネットワークの集合体」 として集団を表象 等質的な「一枚岩」として集 団を表象 内集団内メンバー間の互酬的 関係に関心 集団間関係(特に、内外集団 間の優劣関係)に関心 内集団 自 自 外集団 4 背景(3/3) 先行研究 本研究の問い: 竹村・結城・Maddux(2004): なぜ、集団間比較志向型の集団主義 が北米で優勢なのか? 日米で質問紙調査 内外集団間の優劣関係に対する関心(集団間比較志向) 個人の行動・心理傾向を社会環境に対する適応と と、内集団メンバー間の互酬的関係に対する関心(集団 して捉える視座 (e.g. 山岸, 1998)から仮説提出 内関係志向)を測定 6.0 日本 US 5.0 竹村他(2004)の結果 (評価対象集団: 大規模集団) 4.0 3.0 5 集団内関係 集団間比較 仮説 資源を獲得するための「連合」としての集団 現代アメリカ社会: 「ひとり勝ち市場」構造(Frank & Cook, 1995) パフォーマンスの絶対的良し悪しより、他者との比較における 相対的良し悪しが問題 少数のトップパフォーマーに資源集中 「勝者」と「敗者」の得 る利得の差が大 資源獲得のための競争が激化 自他間の格差を拡げようとする競争的性質が適応的 さらに、競争的な個人達が「連合」を形成し(Probst et al., 1999)、集団単位での資源獲得競争へ 内外集団間の 優劣関係に対する注意(i.e. 集団間比較志向)を促進 6 本研究の概要 Initial Test 集団間比較志向 + 個人間相互作用での競争性(個 人間比較志向)を日米で測定 仮説が正しければ、 個人間比較志向と集団間比較志向は正相関 集団間比較志向に対する国の効果を個人間比 較志向が媒介 7 方法(1/3) 参加者 日本: 北海道大学の学生60名(男性35名・女性25名) US: ノースウェスタン大学の学生54名(男性23名・女性 31名) 質問紙 集団内関係志向尺度 (竹村他(2004)の知見を再確認するため) 集団間比較志向尺度 個人間比較志向尺度 それぞれ7件法(1: αs > .70 全く当てはまらない~7: 非常に当てはまる) 8 方法(2/3) 集団内関係志向と集団間比較志向(竹村他(2004)と同じ尺度) 現実に所属する集団や社会的カテゴリ全般について回答 集団内関係志向尺度 内集団メンバー間の仲の良し悪しや互酬的関係に対する関心を 測定 項目例: 「自分のグループ内部がうまくいっているかどうかが、気 になることがよくある」(全6項目) 集団間比較志向尺度(Brown et al., 1992) 外集団に対して内集団が優位な立場にあるか否かに対する関心 を測定 項目例: 「自分のグループが他のグループと比べて、どれだけ優 9 秀か、気になることがよくある」(全5項目) 方法(3/3) 個人間比較志向尺度 他者に対して自分が優位な立場にあるか否かに対する関心 を測定 集団間比較志向尺度をもとに作成: 「自分のグループ」 「他のグループ」 「自分」 「他の人」 項目例: 「自分が他の人と比べて、どれだけ優秀か、気にな ることがよくある」(全5項目) 10 結果(1): 平均の日米比較 竹村他(2004)の結果を再現 個人間比較志向: US>日本 集団内関係志向: 日本≧US 集団間比較志向: US>日本 6.00 p = .089 日本 US p < .0001 p = .006 5.00 4.00 3.00 集団内関係 集団間比較 個人間比較 11 結果(2): 媒介過程 個人間比較 志向 国 (0=日本, 1=US) .64*** 集団間比較 志向 個人間比較志向と集団間比較志向は正の関係 12 注: 数値はβ 結果(2): 媒介過程 個人間比較 志向 国 (0=日本, 1=US) .39*** 集団間比較 志向 13 注: 数値はβ 結果(2): 媒介過程 .26** 個人間比較 志向 国 (0=日本, 1=US) (.39*** ) .24** (.64*** ).57*** 集団間比較 志向 Sobel test: z = 2.64, p = .008 集団間比較志向の日米差を、 個人間比較志向の日米差が(部分的に)媒介 注: 数値はβ 14 考察 各志向の日米比較: 竹村他(2004)の結果を再現 集団内関係志向: 日本≧US 集団間比較志向: US>日本 アメリカ人は、集団間比較志向が高いだけでなく、 個人間比較志向も高い アメリカ人が集団主義的でかつ個人主義的であることを 示したOyserman et al. (2002) のメタ分析結果と一貫 個人間比較志向は集団間比較志向と正の関係を示 し、集団間比較志向の日米差を部分的に説明 北米社会での集団 = 「競争に勝つ」ための道具 15 残された課題 勝つために、誰が協力する? 本研究では、集団間比較志向を質問紙尺度で測定したのみ 外集団に「勝って」資源を獲得するためには、誰かが個人的 コストを払って内集団に協力する必要あり かつ、勝利によってもたらされる利益は公共財 社会的ジ レンマ問題 問い: 「ひとり勝ち市場」社会で協力行動にインセンティブを与 えているものは何か? 問い: そもそも、本当に、集団間比較志向の高い個人は、集 団間競争状況で内集団に対して協力的に行動するのか? 16 個人主義者の作る集団: 北米の集団間比較志向と個人間比較志向 竹村幸祐1,2 [email protected] 結城雅樹1・William W. Maddux3 (1北海道大学大学院文学研究科, 2日本学術振興会, 3Northwestern University [現所属: INSEAD] ) References Brewer, M.B., & Yuki, M. (in press). Culture and social identity. In S. Kitayama & D. Cohen (Eds.), Handbook of cultural psychology. Guilford Press. Brown, R., Hinkle, S., Ely, P.G., Fox-Cardamone, D.L., Maras, P., & Taylor, L.A. (1992). Recognizing group diversity: Individualist-collectivist and autonomous-relational social orientations and their implications for intergroup processes. British Journal of Social Psychology, 31, 327-342. Buchan, N.R., Croson, R., & Johnson, E.J. (2003). Let’s get personal: An international examination of the influence of communication, culture, and social distance on trust and trustworthiness. (Working paper). University of Wisconsin, Madison. Frank, R.H. & Cook, P.J. (1995). The Winner-take-all society: How more and more Americans compete for ever fewer and bigger prizes, encouraging economic waste, income inequality, and an impoverished cultural life. New York : Free Press. (香西 泰(監訳)(1998). ウィナー・ テイク・オール: 「ひとり勝ち」社会の到来 日本経済新聞社) Heine, S.J., & Lehman, D.R. (1997). The cultural construction of self-enhancement: An examination of group-serving biases. Journal of Personality and Social Psychology, 72, 12681283. 18 References Oyserman, D., Coon, H.M., & Kemmelmeier, M. (2002). Rethinking individualism and collectivism: Evaluation of theoretical assumptions and meta-analyses. Psychological Bulletin, 128, 3-72. Probst, T.M., Carnevale, P.J., & Triandis, H.C. (1999). Cultural values in intergroup and singlegroup social dilemmas. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 77, 171-191. Snibbe, A.C., Kitayama, S., Markus, H.R., & Suzuki, T. (2003). They saw a game: A Japanese and American (football) field study. Journal of Cross-Cultural Psychology, 34, 581-595. Triandis, H.C. (1995). Individualism & collectivism. Boulder: Westview Press. (神山貴弥・藤 原武弘 (訳)(2002). 個人主義と集団主義: 2つのレンズを通して読み解く文化 北大路書房) 竹村幸祐・結城雅樹・William W. Maddux (2004). 集団間比較志向と集団内関係志向: 2つ の集団主義の日米比較 日本心理学会第68回大会発表論文集, 240. 山岸俊男 (1998). 信頼の構造: こころと社会の進化ゲーム 東京大学出版会 19 References Yuki, M. (2003). Intergroup comparison versus intragroup relationships: A cross-cultural examination of social identity theory in North American and East Asian cultural contexts. Social Psychology Quarterly, 66, 166-183. Yuki, M., Maddux, W.W., Brewer, M.B., & Takemura, K. (2005). Cross-cultural differences in relationship- and group-based trust. Personality and Social Psychology Bulletin, 31, 48-62. 20 Appendix 集団内関係志向尺度 1. 自分のグループの中で、誰と誰が友達で、誰と誰がお互いを嫌っ ているかを知っておくことは重要である。 2. 自分のグループのメンバー同士の関係が良好であるかどうかを 知っておくことは重要である。 3. 自分のグループのメンバー同士がうまくやっていることは、私に とって重要である。 4. 自分のグループのメンバー同士が協力しているかどうかは、私に とって重要なことである。 5. 自分のグループのメンバーのうち、協力的でない人は誰なのかが、 気になる。 6. 自分のグループ内部がうまくいっているかどうかが、気になること 21 がよくある。 Appendix 集団間比較志向尺度 1. 自分のグループと他のグループとを比べることは、私にとって重要 である。 2. 自分のグループが成功しているか失敗しているかは、私にとって 重要である。 3. 他のグループに対して対抗心をしばしば感じる。 4. 自分のグループの実績が他のグループと比べて、優っているか 劣っているか、気になることがよくある。 5. 自分のグループが他のグループと比べて、どれだけ優秀か、気に なることがよくある。 22 Appendix 個人間比較志向尺度 1. 自分と他の人とを比べることは、私にとって重要である。 2. 自分が成功しているか失敗しているかは、私にとって重要であ る。 3. 他の人に対して対抗心をしばしば感じる。 4. 自分の実績が他の人と比べて、優っているか劣っているか、気 になることがよくある。 5. 自分が他の人と比べて、どれだけ優秀か、気になることがよくあ る。 23
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