1.看護・医事法入門

2.法と社会
医の倫理と患者の人権尊重
個人情報の保護
担当 柳川 洋
医の倫理の基本
• 原則: 基本的人権の尊重
個人の尊重、幸福追求権(憲法13条)
法の下の平等(憲法14条)
自由権(憲法18条~22条)
生存権(憲法25条)
財産権(憲法29条)
など
患者の人権尊重に関する宣言(1)
ヒポクラテスの誓い
患者の利益優先(能力と判断の及ぶ限り)
危害や不正目的の治療の排除
致死薬不投与
堕胎禁止
情欲の禁止
守秘義務
ナイチンゲールの誓い
有毒物、有害物の排除
守秘義務
患者の人権尊重に関する宣言(2)
ニュールンベルグ綱領(1948)
ドイツ・ナチスの「生物医学実験を裁いたニュールンベルグ
裁判の判決の一部」
– 綱領の内容
1.被験者の自発的同意が絶対的要件
(今日のインフォームド・コンセントに相当)
2.社会的に利益をもたらす実験
3.疾病の自然史、動物実験に関する知識に基づくもの
4.不必要な負担の除去
5.死や障害のおそれがある場合は中止
6.リスクへの同意(問題が解決する範囲内)
7.対象保護のための適切な措置
8.能力のある研究者
9.撤退する被験者の権利
10.障害発生の可能性がある場合は中止
患者の人権尊重に関する宣言(3)
ヘルシンキ宣言(1948)
世界医師会が採択、医師のためのものだが、
すべての医療領域に適用可能
すべての医学研究における基本原則
1.生命、健康、プライバシー、尊厳を保護する義務
2.既存の知識に基づく実施
3.環境、実験動物への配慮
4.倫理委員会で承認(倫理に関する明確な記述)
5.質の保証された研究者による実施
6~9.利益とリスクのバランス
10.自由意志による参加と十分な情報提供
11.人権の尊重、プライバシー保護、負担の最小化
12.いつでも参加を取り消す権利、インフォームド・コン
セントがとれない場合の配慮
13.公表の責任、著者と出版社の倫理的義務
倫理的問題をはらむ医療
不妊治療
胎児診断
遺伝子医療
臓器移植
死の判定
安楽死・尊厳死
不妊治療
 不妊の現状
わが国では10組に1組の夫婦は不妊
 人工授精
1949年 わが国の人工授精第1号
現在まで1万人以上出生
問題点 冷凍保存精子・受精卵の死後の使用
 体外受精
1983年 わが国の体外受精第1号
2002年まで10万人の出生(うち顕微受精31,000人)(全出生の1.2%)
問題点 第3者の精子・卵子、死後の使用
 代理母
不妊の妻を持つ夫の精子を第三者に人工授精(Surrogate mother)
夫婦間の体外受精卵を第三者に移植(Host mother)
問題点 出生児の親権、営利の代理母斡旋
 減胎(減数)手術
排卵誘発剤、体外受精により3胎以上の場合実施
(人為的に生命を作り、人為的に破壊する)
胎児(出生前)診断
• 診断の目的
出生後の治療の準備
障害(先天異常)を発見したときの人工妊娠中絶
• 診断方法
超音波診断、絨毛検査、羊水検査、胎児組織検査
• 遺伝子診断
保険加入、就職の場合の差別扱い
• 問題点
障害者差別の助長(障害者の生存権)
第1子が遺伝病の場合の親の心情
女性の自己決定権と医療現場の判断に任せていいか
母体血清マーカー試験の普及により、ダウン症児の出生減
着床前診断の可能性(生育の安全性、確実性が不確定)
遺伝子医療
 個人遺伝情報の特質
個人情報と家族、・血縁者情報との共通性
インフォームド・コンセントの原則
患者のプライバシー権
 疾病概念の変容
 診断と治療の乖離
治療・予防のできない疾病の診断
 未成年者に対する発症前診断
誰が決めるか、いつ検査するか
 遺伝的資質に対するスティグマ
社会生活での偏見、差別、不利益
 個人の遺伝情報に対する第三者のアクセス
個人情報の保護
臓器移植
問題点を考えましょう
生体からの移植
死体からの移植
2007.4.10
毎日新聞
死の判定
脳死状態(脳幹を含む全脳の機能が不可
逆的に停止したと判定)をヒトの死と考え
ていいか
安楽死、尊厳死
 尊厳死
最終的な回復の見込みのない患者に対して、生命維持医療
(人工呼吸、経管栄養)を断念または中止し、人間としての品位
(尊厳)を保たせながら死を迎えさせる行為
 安楽死
死期が切迫している患者の耐え難い肉体的苦痛を緩和また
は除去して、患者に安らかな死を迎えさせる行為
 純粋型 苦痛除去・緩和の治療で死期に影響を及ばさない
 間接型 苦痛除去・緩和の治療の副作用により生命の短縮
を伴う
 消極的 延命医療を実施しない、中断することにより、死期
が早まる
 積極的 耐え難い苦痛の除去を目的として、致死性の薬剤
を投与し、患者の死期を早める
患者の人権と
インフォームド・コンセント
• 原則: 権利の尊重と主体的な医療参加
これから行う医療行為についての説明
患者の納得と同意
患者の自覚的な医療への参加
医療者と患者の相互尊重
共同意志決定
医療父権主義(Medical Paternalism)
↓
患者主権主義(Patient Sovereignty)
インフォームド・コンセントの内容
• 言葉の由来
Informed(知らされた)+consent(同意)の合成語
説明義務と同意が一体に
自律の尊重と個人の福利の増進という倫理的基盤
その根底には人格の尊厳性がある
• 患者の有効な同意を得るための説明
説明不足(説明義務違反)による同意は価値がない
• 治療行為の内容としての説明
病状の理解、治療・療養上の注意事項
• 転医勧告としての説明
適切な医療水準が保てない場合の対応
• 遺族等に対する死亡についての説明
当事者でない遺族への説明
事情により死因解明義務
インフォームド・コンセント
における説明義務
• 対象となる医療行為
• 説明すべき事項の内容
• 遺族等に対する死亡についての説明
当事者でない遺族への説明
事情により死因解明義務
インフォームド・コンセント
対象となる医療行為
 基本
医学的侵襲を伴う医療行為
生命、身体に影響を及ぼす可能性のある医療行
為
患者の自己決定にゆだねることに相当するか
 緊急の場合
救命のため説明と同意の時間的余裕がない
緊急の程度によっては最小限の説明と同意が必
要
 法律に規定がある場合
危険、判断能力、社会防衛
インフォームド・コンセント
説明すべき事項の内容
•
•
•
•
診断
実施しようとする医療行為の目的(必要性)
医療行為の必要な期間
付随する危険
重大な結果発生の可能性、副作用、合併症、
ショック死
• 予後
• 代替可能な医療行為
• 実施しなかった場合の予後
プライバシーの権利と個人情報保護
• プライバシーの概念
基本的人権の1つ
憲法13条の幸福追求権の内容の1つ
すべて国民は個人として尊重される。生命、自
由および幸福追求に対する国民の権利につ
いては、公共の福祉に反しない限り、立法そ
の他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
世界人権宣言第12条
何人も、その私生活、家庭、住居、通信に対して
恣意的な干渉を受けたり、名誉と信用に対 して
攻撃を受けたりすることはない。
OECDの8原則
• 1980年OECD理事会勧告の8原則
• 個人情報: 識別されうる個人に関するすべての情報
• 8原則
1.収集制限の原則
収集には制限をつける
適法、公正な手段、同意を得て収集
2.データ質の原則
利用目的に沿った範囲で、正確、完全、最新なデータ
3.目的明確化の原則
使用目的を明確にして収集
収集の目的達成に限定した使用
4.利用制限の原則
目的以外に使用しない(例外: 同意、法律の規定)
OECDの8原則(つづき)
5.安全保護の原則
紛失、不当アクセス、破壊、修正などに対する
合理的な安全保護措置
6.公開の原則
データの存在、内容、利用目的、データ管理者などの公開
7.個人参加の原則
[個人の権利]
データ存在の確認、データを知らしめること、
データに対する異議申し立ての権利
→それに対して、消去、修正、完全化、補正
8.責任の原則
1-7の原則を実施する責任(データ管理者)