医事法 東京大学法学部 22番教室 [email protected] 樋口範雄・児玉安司 第3回2008年10月15日(水)15:00ー16:40 1)倫理委員会とは。そこでの法律家の役割は何か。 2)臨床研究のうち治験と自主臨床試験はどのように 異なるか。 3)臨床研究においてインフォームド・コンセントはなぜ 必要か。倫理委員会の機能とは何か。 参照→http://ocw.u-tokyo.ac.jp/ 1 3つの事例 1 「ある金曜の午後4時半、300ベッドの病院の顧問弁護士で あるあなたのもとに電話が入った。電話をかけてきたのはス ミス医師で、あなたの助言を求めてきたのである。医師は ジョーンズさんという37歳の患者を診てきた。患者は、肺癌 の末期にあり、すでに骨に転移が生じていた。余命はせいぜ いで1ヶ月というのが現在の状況であり、治療はもっぱら進 行を遅らせるための化学療法と疼痛緩和に向けられていた。 また、ジョーンズさんには心臓ペースメーカーも装着されてい る。 さて、そのジョーンズ氏がもう化学療法もやめて、ペースメー カーも止めてくれと言ってきた。この要請は繰り返しなされて おり、医師は患者が明確な意識のもとで一貫した意思を表 明していると判断している。そこで医師はどうすべきかを相談 してきたというのである」。 2 2008年10月8日朝日新聞朝刊第3社会面 NHKニュース10月7日篠田記者 「倫理的には問題ない」 難病患者の呼吸器外し 千葉の病院倫理委見解 千葉県鴨川市の亀田総合病院(亀田信介院長)の倫理問題検討委員会 が、周囲の人と意思疎通できなくなったら人工呼吸器を外してほしいとい う筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症(ALS)患者の要望に対し、「倫理的に は問題はない」などとする見解をまとめた。症状が進んだALS患者の呼 吸器を外すことは生命を左右しかねない。患者団体によると、ALS患者 のこうした要望に医療機関の倫理委が見解を示すのは珍しい。 ただ、倫理委は「呼吸器を外した人が刑事訴追される可能性がある」と して、要望への対応は明言していない。 患者は県内の男性(68)。91年に難病のALSと診断され、翌年に呼吸 困難になり、気管を切開して呼吸器をつけた。寝たきりだが、右ほおが数 ミリ動くことを利用して、パソコンで文章を書き、家族らと意思疎通する。 家族によると、男性は「家族や友人、医療スタッフらとの意思疎通が あってこそ、人間らしく生きられる」と考え、それができなくなったら「呼吸 器を外してほしい」と願っているという。 NHKニュースは「議論と調査が必要」「呼吸器外しを認める法律はない」 板倉教授の見解「嘱託殺人に当たる可能性」 3 3つの事例 2 A医師は、ある大学病院の脳神経外科の医師である。臨床経験の中で 次のようなアイデアを得た。すでに新薬として承認され保険適用もされて いるBという薬が、ある種の重篤な脳梗塞の患者によい効果をもたらし ているのではないかということである。これを確認することには大きな意 義がある。そこで、臨床試験を実施しようと考えた。 そのためにはインフォームド・コンセントと倫理委員会の承認が重要 だといわれたが、それは何を意味しているのかがわからない。知り合い の弁護士に聞いたところ、その方面は疎いからといわれた。どのように 考えるべきか、基本的な考え方についてご教示を請う。 3 R医師は小さな田舎町の家庭医である。今回、骨関節症に対する新しい 非ステロイド性の抗炎症薬(NSAID)の治験に参加するよう、治験業務 受託機関(CRO)から働きかけ。彼女は、患者を治験登録すると、その数 に応じてお金を受け取ることになる。CROは、この治験に必要とされるす べての承認を得ており、もちろん倫理委員会の承認も得ていると保証し ている。R医師は、これまで治験に参加したことがないが、とくに特別な 対価も得られることで気をよくしている。そこで、彼女は、その治験の科 学的、倫理的側面についてさらに問い合わせることなく、参加を承諾した。 4 3つの課題への対処 第1の問題 アメリカのケースブック この事例では、弁護士が倫理委員会に問題を出し てみたらと助言する。そして、スミス医師は、倫理委 員会や顧問弁護士が時間をかけてこのような倫理 的課題に立ち向かってくれるという環境にある点で 幸運だったと評されている。たとえスミス医師が一人 で決断を下す結果と同じ結論が導かれたとしても、 このようなプロセス自体が倫理的に見て意味のある 違いを生む(make a moral difference)という言葉で 結ばれている。 5 3つの事例への対処 第2の試験問題への対処 2つのアプローチ 1)自主臨床試験の意義、インフォームド・コンセン トと倫理委員会の意義の説明 2)相談を受けた弁護士がA医師にどのような助言 をするか →法的助言の機能・役割 ともすると過剰な抑制(脅し)に →「事なかれ」 6 自主臨床試験と治験の区別 なぜ区別があるのか 今後も区別はあるべきか どのような違いがあるか 7 臨床試験(研究)におけるインフォー ムド・コンセントの役割 インフォームド・コンセントとは何か なぜ必要か 何を説明するべきか 生命倫理4原則に照らすと・・・ 8 倫理委員会 誰が委員か どのような役割が期待されているか 臨床についての倫理審査 研究についての倫理審査 生命倫理4原則に照らすと・・・ 法律家はどんな役割を果たすことができるか 9 第3の事例への対処 ◎一方で、開業医の臨床研究参加の奨励 ◎他方で「世界医師会マニュアルに示され た懸念」 なぜか?何を懸念しているか? 10
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