大阪樟蔭07 その2 (2)行動分析学の基礎 科学的枠組み(三項随伴性) と基本思想(行動する機会の 保証) 望月昭 [email protected] HP: http://www.ritsumei.ac.jp/kic/~mochi/ ブログ http://d.hatena.ne.jp/marumo55/ 1 基本的枠組み 1. オペラント行動とは? 2. オペラント行動を成立させる随伴性関係 の「恣意性(arbitrary)」とは? 3.そのような行動の(恣意的)特性を確認 することは、対人援助作業をする上で、どの ような意味を持つか? 2 行動をどういう単位として扱うか 先行事象(刺激) 古い行動主義 認知心理学 反応 後続事象(刺激) S → R S→ O→ R SD ・・・ R ・・・ RFT(強化) 3点セットで「行動」(オペラント) 行動を、先行刺激(弁別刺激)と後続刺激(強化)と いう2つの事象との「機能的関係」で表現する =三項(強化)随伴性とよぶ (Three Term Contingency) 3 三項随伴性 SD ・・・ R ・・・ RFT どのような反応群が特定の結果を生むかどうか、 また、どのような先行刺激が当該の反応を生み 出すかどうかという機能も、後続事象(強化刺 激)が決定する(結果が「機能」を決定)。 反応とその後続事象の関係は、必ずしも物理的 必然性を持たなくてもよい。 (dependency vs. contingency) 行動(オペラント)の恣意性(arbitrary) 4 随伴性(反応と結果の関係)の種類 自然的随伴性 背伸びをすると(R)遠くが見える(RFT) これは、物理的必然性あり 社会的随伴性 日本語を話すと(R)日本人は理解する (RFT) そもそもは物理的必然性なし 偶発的随伴性 左足から外へ出ると(R)良いことあり (RFT) 必然性なし 行動(オペラント)とは、きわめて脆い危い存在 「行動は風」(東正) ← 「 言葉は波 」(ソシュール) 5 社会的な生活を営む人間の行動: → その大部分が社会的随伴性のもとに 支配されていると考えられる。 「恣意的」な随伴性で維持されている事 が多い もともと「危い」ものが多い どんな行動が維持されるか:習慣・文化による 6 SD ・・・ R ・・・ RFT 方法としての行動分析の特徴 ●行動の形成・般化・維持の原因を「環境」の中に 見いだそうとする。 ●文化(社会)の中での、もともと“恣意的”な 随伴性の配置によって、成立・不成立(維持か消 去)は、実にあやうい(脆い)ものである。 対象となる被援助者の行動だけが 問題になるのではない(!) 「対人援助」の実践・研究を行うわれわ 7 れの行動も同じ原理で常にふりかえれ! 援助・実践・研究をする側の行動も 同じ原理で考えることになる。 ★行動を強化する(治療・教育などの場面で)その 行動自体もその時点での強化の随伴性に従う。 ★行動を記述・分析する行動も、三項随伴性によ る。 → 「障害」「遅滞」「発達」といった概念を使 用することも、一つのオペラント行動(言語行動) であり、同様の社会的随伴性に影響をうけるもので ある。 8 例題: ・「障害」という言葉の持つ意味は時代 によって変化している。それはどのよ うな社会的随伴性の変化によるものと 考えられるか? ・心理学は大学でしか教えないのはなぜ かについて、大学運営の中の教育行動 に関する随伴性という見方で解釈せよ。 9 「対人援助」の思想としての 行動分析学 B.F. Skinner Not be punitive! 行動分析学の創始者 10 課題 1)応用行動分析学が、あらゆる課題の対 処において目標とする内容は何か? 2)応用行動分析学からみた「障害」とは 何か? 3)障害を解消するための応用行動分析学 的な方法にはどんなものがあるか? 11 「人を援助する際の倫理」 (The ethics of helping people) Skinner, 1978 ①“物を与える事ではなく、彼らが物を得るとい うことに「生活の質」の目標をおくこと” Given Get 自発的に「行動できる」ということが基本12 ②罰やそれを背景とした「負の強化」でコ ントロールされるのではなく、「正の強 化」でなされるように環境設定を整える。 (Skinner,1990.「罰なき社会」→秘密資料) 「自発的に行動できる」というのは、周 囲の環境と無関係に振る舞えるというこ とではない。 ●「自由」=「正の強化」で行動が維持 されているときの状態をさす。 Skinner, “Beyond Freedom and Dignity” 13 対人援助全般の作業における 行動分析的表現による一般的な目標設定 「正の強化」で維持される行動の機会を持ち、 その機会が拡大していくように援助すること [正の強化]:本人にとって、好ましい 結果事象を随伴させることによって、行 動が成立・維持させる操作 [負の強化]:嫌悪的な刺激事象がなく なるという随伴性によって行動を成立・ 維持させる操作(いやいや行わせる) 14 「障害」と「行動分析」 「障害」の軽減や解消に向けての対人援助 のツールとして、行動分析学の「枠組み」 や「思想」は、どう貢献できるのだろう? 15 「障害」 ある個人における、正の強化で維持さ れる「行動」の不足あるいは不成立 「行動」:先行および結果事象の配置に よって(一定に)恣意的(人為的)に成 立の可否が決まる 本人の属性的表現(impairment) ではない点を特徴とする 16 ノーマライゼーションの思想(方向性) 社会が、障害を持つ人を、生まれながらの権 利としてそして個人差のままに受け入れるこ とを要請する・・・ (Nirje, in Shaddock & Zigler, 1991) 個人差のままに受け入れる (?) 行動的な翻訳することで具体的課題となる 個体的(反応形態的)差異によらず、社会の中で 行動(正の強化で維持される)の成立を保証する 17 障害のある人への支援・サービスのありかた 統合 平等派 同化 異化 差異派 排除 石川准(2000) 18 行動の成立の保障(1)教授・治療: これまでの主流 個人の側の「能力」(ability)をあげて、あるいは 「差異」を縮めて、現実社会の中で「行動」と して成立するようにする。 「能力のボトムアップ」(いわゆる「教授・治療」) 行動分析的方法:Wolfensbergerも推薦していた。 様々な行動修正的な技法(shapingなど)を用いての 反応の形成 問題点:障害が重いと能力向上に時間がかかりすぎ る(今、社会の中で受け入れることにならない) 般化模倣、刺激等価手続きなど、様々な行動獲得の為 の「短縮方法」は開発されている。 19 行動の成立の保障(2):援助 現状の「能力」(ability)のままで、あるいは「差 異」のあるまま、オペラントとしての「行動」を成立さ せるべく新しい環境の設定や強化基準の変更を行 う(いわゆる「援助」)。 行動分析的方法:「差異」(反応形態)の違いを前提 とした行動成立(機能)の表現とアピール 問題点:環境の変更を要請(→援護)する必要 がある。 「行動」の成立を環境のタームで表現することで、従来の 福祉的作業(環境・制度改善)へ繋げることが可能 20 行動成立の保障(3):援護 個人から社会へ、連続的に個別の行動成立に必要 な環境設定を要請していく。「援護」 そのための共通言語としての「行動」 個人(ミクロ) 社会・制度(マクロ) ミクロとマクロの「分担」 21 随伴性を辿って「連携」(→行動福祉→対人援助学) 課題:「ミクロからマクロまで随伴性を 辿っていく」 行動の原因(あるいは行動成立の対処)は 外へ外へと押し出されていくかのようにみ える。 これは素朴な環境主義か? 社会福祉政策があれば個別の対処はいらな い? ということにはならないか? 22 何を優先すべきか? 援助-援護-教授 治療・教授 個人の行動(反応)形成 援助 行動成立のための 新たな環境設定 援護 援助設定の定着のため の要請 23
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