「生」と「死」を考える -- 臨床工学の視点から -情報サイエンス学科 臨床工学コース 小林郁夫 生命維持装置を知っていますか? 救急車で 患者が到着 心肺停止状態だったが 蘇生に成功? 心肺機能が 回復しない 心肺機能の 代行 治療機器 / 生命維持装置 人工呼吸器 自発呼吸がなくても、機械が酸素化した空気を送ってくる。 除細動器 電気ショックで止まっている心臓を動かす機械 血液浄化装置 腎機能が悪くなっても、血液中の老廃物を除去してくれる。 体外循環装置 心臓が止まっても大丈夫!!? こうした機械の適用分野は・・・ 心臓外科手術のように、「一時的」な使用であ ることがわかっている場合 血液透析やペースメーカのように、治療で日常 生活が維持できる場合 「急性期」を過ぎれば回復の見込みがある患者 とにかく、急場をしのぎたい。 場合によってはこんなことも・・・ 回復の見込みはないが、家族が到着するまで心臓を動か しておきたい でも 暖かい体に触れると、「機械は外して欲しくない」と思う。 ある病院のある事例 高齢の元会社役員 会社に貢献した人だったため、会社は本人に感謝するため「生きている限り、毎月 1千万円(仮)を支払う」契約を締結した。 やがて持病が悪化し、意識がなくなった。 「生命維持装置」だけで生きている状態となった。 普通なら、ここで「生命維持装置」を外す判断 家族が「生命維持装置」を外すことを拒否 「生命維持」に毎月200万円かかっても、「収入」がある。 数年間、この状態が続いた。 第一の質問 深く考えずに、 5秒以内に答えを出して YES / NOを答えて下さい。 (正解のある質問ではありません) 家族が望むなら、 意識がなくなって 機械によって生かされて いるだけの状態でも、 人は生きているべきだ。 第二の質問 これも深く考えずに、 5秒以内に答えを出して YES / NOを答えて下さい。 (正解のある質問ではありません) 恋人が植物状態になった。 話しかけても返事はない。 元に戻る希望もない。 でも、ぬくもりはある。 ずっとこのまま生かしておきたい。 ちょっと話は逸れますが・・・ 石ノ森章太郎という漫画家を知っていますか? 代表作は?(というより、有名なのは?) 仮面ライダー サイボーグ009 サイボーグって何? サイボーグ(cyborg)は、サイバネティック・オーガニズム (Cybernetic Organism)の略 広義の意味では生命体(organ)と自動制御系の技術 (cybernetic)を融合させたものを指す。 具体例として、人工臓器等の人工物を身体に埋め込む等、 身体の機能を電子機器をはじめとした人工物に代替させた ものがある。 国内では『サイボーグ009』の出版以降、一般に知られるよう になったため、人間や動物が身体機能の補助や強化を行っ た場合を言うことが多い。 人工臓器って何? 人工腎臓(人工透析) 人工視覚、人工聴覚、人工網膜 人工血管、人工骨、人工皮膚、人工乳房 人工心臓、人工肺、人工膵臓、人工肝臓 経皮的心肺補助装置(PCPS) 人工肺/体外循環装置 心臓外科手術(人工大動脈弁) 人工腎臓(人工透析) 人工骨/人工皮膚/人工乳房 (臨床工学の守備範囲外) 人工骨 http://d.hatena.ne.jp/uttlounge/20070913/p1 人工皮膚の手と握手 人工乳房 義手/義足(臨床工学の守備範囲外) 義手(人工の上肢) 義足(人工の下肢) http://blog.livedoor.jp/orimo2005/archives/cat _50022812.html 人工視覚 http://www.io.mei.titech.ac.jp/research/retina/device-j.html 人工血管 機械にどこまで出来る? 脳以外は、全部置き換えが可能 なんて訳、ないじゃない。当然でしょ! 少なくとも、今は無理 じゃあ、将来可能になったらやってもいいの? 「機械の体をタダでもらえる星を目指して旅をする」のが・・・ 人工臓器にはQOLの要素もある。 QOLって何? Quaolity Of Life 「人」をどうやって生かしておくのか 人の手による世話 介護、ケア (シモの世話、食事の世話、清拭など) 余談だが、栄養チューブによる点滴だけなら、導尿すると大便は出ないため 扱いやすくなる!? 人工臓器 前述した、「生命維持装置」を使う。 持病の薬を飲み続ける。 免疫抑制剤 高血圧の薬、etc 第三の質問 これも深く考えずに、 5秒以内に答えを出して YES / NOを答えて下さい。 (正解のある質問ではありません) 私の病気を抑えるためには、毎日 2000円分の薬を飲み続けることが必 要だ。毎月6万円の出費だが、 先進国だからできる。 先進国に生まれたから私は生きてい ける。途上国なら死んでいた。 でも私は何も間違ってはいない。 「命」の重さは違う!? 発展途上国と、先進国とで「命」の重さが違う? 「生きている価値」も違うのか? 例えば透析患者には、概算で毎月40万円がかかる。 http://www.nmckk.jp/pdf.php?mode=magsample&category=JJCD&vol=26&no=8 コストは年々減少はしているものの、人数は増加 本人負担は1万円 国民が透析患者の命を支えている!? 第四の質問 これも深く考えずに、 5秒以内に答えを出して YES / NOを答えて下さい。 (正解のある質問ではありません) 私は病気のため仕事の種類が限ら れ、毎月の収入は、薬代を差し引くと 生活費がかろうじて残るだけである。 薬のために仕事をしていると言っても 過言ではないが、それでも私には生 きている価値がある。 第五の質問 これも深く考えずに、 5秒以内に答えを出して YES / NOを答えて下さい。 (正解のある質問ではありません) 植物状態になった恋人を 私が費用負担して生かしてい る。元に戻る希望はないが 私には、大切な存在である。 恋人も、生きていて嬉しいと思 うだろう。 第四の質問と第五の質問は・・・ 本質的に同じ・・・だろうか? 違うとしたら、どこが違う? 本人に決定権がある、という問題 救急医療では、意識のない患者が搬送されるケースが少 なくない。 意識のない患者でも、医療従事者は治療する。 生と死を分ける状況下では、本人の意向に無関係に救急措置を施す。 頼んでもいないのに勝手に助けやがって、俺は治療費は払わん・・・ 「救急」ではない場合は、どうなのか? この話題は、一旦保留にしておきます。 第六の質問 (今度はじっくり考えて下さい。) 持病の薬を飲み続けるのと、機械を 体に埋め込むのとを比べてみて・・ 両方とも「アリ」ですか? 片方だけ「アリ」ですか? 両方とも「ナシ」ですか? 持病の薬を飲み続けるのと、機械を体に埋め 込むのとを比べてみて・・・ どちらも、自然に行って構わない医療行為だ。 薬は昔からあるので自然だけれど、機械は自然じゃないからダメ 体の外で使う機械と、体の中に埋め込む機械は同じ。これだけ色々な 機器があるのだから、機械だって自然 どちらも、なんだか、本当はやってはいけない行為のような気がする。 (両方ナシ) 「主体」によって答えは違うか? 「自分」が、という問いの場合は、Yesが多数ではないか。 「家族が」「恋人が」という問いにすると、答えが分かれる? 問題となるのは「意識」の有無、だろうか・・・ 「生」とは「意識」があること? 生きていて「意味」があるか、という問いに、意識の有無は重要な要素 となっている。 だとしたら、「生きている」とは「意識がある」ことだと言ってしまって構 わないだろうか? 違うとしたら、どこがどう違うのだろうか。 先進国と途上国の「生」の重みの違い 「命」の価値は、世界中どこでも同じはず。 それなのに、「先進国なら生きられて、途上国だと助からない」ケース は少なくない。 「生かしておく」技術(臨床工学の機械も、薬も含めて)は 「命」の価値に「差」をつけているのだろうか? 第七(最後)の質問 10秒程度で最初に何を思い 浮かべるか、それを答えとし て下さい。 (正解のある質問ではありません) 自分にとって、「生きていてよ かった」と思えたことに、 どんなことがあったか。 その中での、一番というのは 何だっただろうか。 この質問(第7回)への回答に・・・ 発展途上国だから「答えがない」とか、先進 国だから「答えがある」ということがあるだろ うか? よくわからない人は、是非「青年海外協力隊」 へ! http://www.jica.go.jp/volunteer/ ここから先のスライドの内容は・・ 講師自身の考えによります。 ここから先のスライドの内容は・・。 「生」と「死」 自分としての「意識」を持っていて、誰かに働き かけることができる、ということは「生」を構成 する重要な要素ではないだろうか。 → 自分の「生」の価値は、自分だけで決めら れる問題ではない。 途上国、先進国に限らず、与えられた環境を 受け入れ、活用することが大切だと、考える べきではないか。 →与えられた環境で、何を主体的に行動するか を「価値」とするならば、条件はどちらも同じ →つまり、「命」の価値も同じ 「生」と「死」 簡単に答えが出る問題ではありません。 (古来、どれほど多くの人が悩み、考 え続けて来たか) ただ、簡単に答えを出そうとせずに、 仕事を通じて考え続けることには、意 味があるはず。(たぶん) 医療職として 自分の行為が相手(患者様/お客様)の 「生死」に直結する可能性は、 忘れないで欲しい。 相手(患者様/お客様)は、 自分の「生死」に関わる問題を 解決するために自分(あなた)の ところに来ていることも、 忘れないで欲しい。
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