第4章.材料の破壊と破壊力学 材料の破壊事例(1) 脆性破壊 阪神大震災で鋼構造物の脆性破壊による発生した落橋状況 材料の破壊事例(2) 延性破壊 平成14年度 浜岡原子力発電所における配管破断事故 材料の破壊事例(3) 疲労破壊 インデューサ羽根 の疲労破面 1999年11月 H-2ロケット8号機打ち上げ失敗事件 材料の破壊事例(4) クリ-プ破壊 RFCC/セパレーター塔壁の溶接部の流体の漏出事故 4.1 破壊の分類 4.1.1 塑性変形の大小による分類 垂直破壊 カップアンドコーン 型破壊 せん断破壊 (すべり面分離) 延性破壊 脆性破壊 塑性変形 小 チゼルポイント 型破壊 図4.1 巨視的に見た時の破面形態 塑性変形 大 4.1.2 金属組織学的基準による分類 結晶粒界破壊 脆性破壊 粒界に沿って破壊が起こる ・ マルテンサイト鋼における焼戻し脆化 ・ 応力腐食割れ ・ 水素脆化割れ など 結晶粒内破壊 延性破壊 粒内で破壊が起こる 図4.2 結晶粒界破壊と結晶粒内破壊 ・ 粒内における微小空洞が原因 ・ 破面が特徴的 (ディンプル) ・ クリープ破壊 4.1.3 結晶学的基準による分類 σ へき開面 σ (a) へき開破壊 τ すべり面 τ (b) せん断破壊 4.1.4 荷重および環境による分類 衝撃破壊 静的、環境破壊 腐食・破裂等 3% 遅れ破壊、 応力腐食割れ σ 静的破壊 13% 5% 11% 熱疲労 腐食疲労 転動疲労 単純疲労 60% 8% 疲労破壊 t 荷重の種類と破壊 低サイクル疲労 破壊の原因別分類 破壊の約80%の原因は 疲労破壊 4.2 延性破壊 4.2.1 理論的せん断破壊強度(1) 欠陥を全く含まない完全結晶について X X=O における弾性線 τ τ a すべり面 O 2πX τ=τmax sin b X b τ (τmax : 原子間に作用するせん断応力) 図4.4 せん断破壊における理想的破壊強度の推定 式については次へ 4.2.1 理論的せん断破壊強度(2) X=O における弾性線 τ (4.3)式から得られる値は、転位のような 欠陥がない完全結晶が示す降伏強度 O X ◎ 通常の材料 この値の 1/10 ~ 1/100 程度 …(式 4.1) (X=0 におけるτ) 2πX 2πX τ = τmax sin ≒τmax b b (θ小さい ⇒ X τ = Gγ = G a sin θ≒θ) …(式 4.2) G 1 b τmax = G ≒ 10 2π a …(式 4.3) 4.2.2 微小空洞の発生と成長 ボイド(void) : 介在物やもろい析出粒子が起点との界面剥離により発生 せん断は 45度で最大 (a) (b) (c) 図4.5 引張破壊過程(カップアンドコーン型破壊) (d) 4.3 脆性破壊(1) σ X 脆性破壊 破壊までに吸収されるエネルギー 小 へき開面 a0 材料中に蓄えられたエネルギーが き裂成長に費やされる σ X=0における弾性線 き裂が急速に成長 ⇒ 瞬時に破断 応力 σ a 0 σmax λ/2 平衡位置 変位 X 図4.6 へき開破壊における理想的破壊強度の推定 4.3 脆性破壊(2) X=0における弾性線 a0 a0 :原子間距離 応力 σ σmax ◎ ウィスカー 転位欠陥のない材料 ⇒ 近い値 ◎ 高張力鋼など λ/2 一桁からそれ以上の違いあり 変位 X 平衡位置 (正弦関数で近似) …(式 4.4) 2πX 2πX σ = σmax sin ≒ σmax λ λ (θ小さい ⇒ sin θ≒θ) (X=0における応力‐ひずみ関係の勾配から) X σ = Eε = E a0 …(式 4.5) λ E σmax = 2π a 0 …(式 4.6) 4.3 脆性破壊(3) X=0における弾性線 原子の引き離しに使われた仕事 a0 応力 σ σmax 新しい自由表面を作るために消費 (グラフの正弦波と横軸とに囲まれた面積に相当) λ/2 平衡位置 変位 X λ E σmax = 2π a 0 …(式 4.6) λ 2 0 γ: 断面の単位面積表面エネルギー λσmax 2πX σmax sin dX = = 2γ π λ …(式 4.7) 新しい面が2つ Eγ 12 E ≒ σmax = 10 a0 …(式 4.8、式 4.9) オイルタンカーの脆性破壊事故 Fig. An oil barge that fractured in a brittle manner by crack propagation around its girth (The New York Times) 4.5 クリープ破壊Ⅰ 4.5.1 クリープ現象 クリープ現象 ある温度下で一定の応力が作用した時、 時間と共に塑性変形が進行し続けること。 破断 ひずみ ε (例) 熱を加える W (促進させるため) 高温下 三次(加速) クリープ 二次(定常) クリープ 一次(遷移) クリープ 変形 ~ 応力だけでなく、時間も関係 加工硬化 相殺 回復(軟化) 一定荷重でも時間とともに変形 (重視) 火力発電用ボイラ鋼管 など 加工硬化優先 回復優先 時間 t 図4.7クリープ曲線 4.5.2 クリープ曲線とクリープ強度 二次(定常)クリープの段階のクリープ速度 ひずみ ε 破断 クリープ速度 二次段階のクリープ速度が小さい 許容最大ひずみに達するまでの時間 使用期間が長い (グラフの勾配) クリープ強さ (例) 100MPaの一定応力 二次(定常) クリープ 103 時間 0.01%のひずみ (クリープ) 0.01% / 103 h のクリープ強さ 時間 t 図4.7 クリープ曲線 と表現 4.6 フラクトグラフィ (Fractography) フラフトグラフィ とは、 破面に残された 破壊の進行状況、その履歴を観察・解析する方法 き裂の発生 き裂の成長 最終破断 破面 それぞれ破壊機構に対応した特有の特徴を示す 破断に至る過程が刻まれている 例. マクロ(巨視的)フラクトグラフィ 肉眼 破面の角度 ・ 色彩 ルーペ 破面の模様 ・ 粗さ マイクロ(微視的)フラクトグラフィ 光学顕微鏡 脆性破壊後の微視的破面の特徴 (リバーパターンのSEM写真) 電子顕微鏡 微視的な破面の特徴 4.6.1 巨視的破面の特徴Ⅰ(延性破壊) 破面の形状は応力状態に起因 引張型破面 平面ひずみ条件(丸棒、厚板の中央部)の時 垂直型(引張型)破面を形成しやすい 平面応力条件(薄板、薄肉パイプ)の時 せん断型破面 傾斜型(せん断型)破面を形成しやすい 破壊面例. カップアンドコーン破面 巨視的 ~ 引張型 ・ せん断型破面の違い 破面の色彩 : 鈍い灰色 微視的 ~ 共にディンプル形成による破壊 せん断破壊 (すべり面分離) チゼルポイント 型破壊 (微視的破面の特徴) 後述 4.6.1 巨視的破面の特徴Ⅱ(脆性破壊) 破面の形状 全ての形状の試験片の破面全体 垂直型(引張型)破面を形成 ねじりによる断面の場合 傾斜型(せん断型)破面を形成 初期人工切欠き 疲労き裂 山形模様 シャリップ 図.脆性破面のマクロ・パターン例 巨視的破面の特徴Ⅲ(疲労破壊①) 延性材料 ・応力振幅の低い繰返しを受ける厚板 垂直型(引張型)破面を形成 ・応力振幅の高い繰返しを受ける薄板 傾斜型(せん断型)破面を形成 図.荷重変動により形成されたビーチマーク 起点 脆性材料 (脆性的な疲労破面 ⇒ 金属光沢) 繰返し応力レベルが変化する場合 ビーチマーク 最終破壊 (延性) ◎ 破面の色彩 : 鈍い灰色の光沢 疲労破壊 ほとんどが 垂直型破面 巨視的破面の特徴Ⅳ(疲労破壊②) 疲労破壊 微視組織の影響 大 結晶粒ごとに き裂の進展方向が変化 組織の痕跡が破面上に残る 1mm ※ 脆性破面も巨視的には類似 微視的な特徴(破壊機構)が異なる 破面の色彩 図.粗大結晶粒をもつ二相ステンレス鋼 (25% Cr-5% Ni鋼) 4.6.2 微視的破面の特徴(延性破壊①) 延性破面の微視的破面の特徴 ディンプル(dimple) … 多数のくぼみを形性 リップル 波形模様 25μm (a) 25μm (b) 25μm (c) 25μm (d) 図4.9 二相ステンレス鋼(28% Cr-9% Ni鋼 )の引張延性破面 (延性(絞り); (a) < (b) < (c) < (d)) 4.6.2 微視的破面の特徴(延性破壊②) σ1 σ1 σ1 (a) 等軸ディンプル ττ σ2 σ2 ττ σ1 (b) 伸長ディンプル (せん断荷重下) M M (c) 伸長ディンプル (引裂荷重下) 図4.10 延性破壊におけるボイドの成長と合体に及ぼす負荷条件の影響 4.6.2 微視的破面の特徴(脆性破壊①) 脆性破面の微視的破面の特徴 ① リバーパターン(川状模様) … 川の支流が合流し、 本流が作られる形態 図4.11 リバーパターン き裂が転位の多く存在する へき開面を移動する際に形成 ◎ 微視的き裂の発生点は結晶粒界 ◎ リバーパターンの方向 = 微視的き裂の進行方向 図4.12 結晶粒界破壊 4.6.2 微視的破面の特徴(脆性破壊②) 脆性破面の微視的破面の特徴 ② タング(tongue)(舌状模様) … 双晶変形が関与 τ τ 20μm 双晶 境界 境界 図4.13 高Crフェライト鋼の引張破面 タング (475℃時効材) 4.6.2 微視的破面の特徴(疲労破壊) 疲労破面の微視的破面の特徴 ストライエーション(縞状模様) 微視的な破面形態 荷重条件、破面の場所により変化 疲労き裂の成長の各段階で 破壊機構が異なる 疲労き裂が発生した後の 各段階で微視的特徴が変化する 2μm 図4.14 疲労破壊上に出現する ストライエーション (25% Cr-5% Ni鋼) 疲労破壊過程の全ての段階で 形成されるわけではない 4.7 破壊力学の基礎 4.7.1 応力集中(1) 破壊 …新たな自由表面をつくる 破壊力学 力 材料 環境 ◎ き裂先端の駆動力を正確に 発生 ◎ 材料自身の抵抗を知り、 設計で活かす 成長 応力集中 ◎ 切欠き … 断面の形状が急変する個所 P P 応力線 応力線の迂回が起こる 応力線が密 P P 応力集中 4.7.1 応力集中(2) 一様応力σ∞を受ける 長径 2a 、短径 2bの楕円孔を持つ無限板 楕円孔による応力集中係数 a σ =σ 1+2 b σ∞=1 y 応力集中係数 (楕円孔の場合) Kt = σmax a a = 1+2 = 1 2 σ b ρ (式 4.11) 円孔の場合を確認 無限板 円孔であれば、a = ρであるので 図4.15 楕円孔を有する板の引張り Kt = 1 2 a = 1+2 = 3 ρ 応力集中係数 応力集中係数 Kt = 切欠底の最大応力 σmax = 最小断面の公称応力 σn (式 4.12) 4.7.1 応力集中(3) 応用例 σ∞ 楕円であるとみなして、 (a = 10、ρ=1) y ρ=1 応力集中係数 2 10 2a = 20 図4.17 等価楕円 x 無限板 Kt = 1 2 a = 1 2 10 = 7.32 ρ 応力集中係数 (一般に) A K t = 1 2 ρ ただし、 A = 切欠長径 2 応力集中係数 … (形状係数) 4.7.1 応力集中(4) 応力集中係数 応力集中係数 Kt = 切欠底の最大応力 σmax = 最小断面の公称応力 σn (式 4.12) P=2(b-a)σn σ∞=1 σy 3 (半径2a) 2a σn a (半径a) x Kt=3 無限板 有限板 図4.18 円孔の応力集中 図4.16 円孔を有する板の引張り 基準の応力として最小断面部の 公称応力σnをとること 半径aの時でも半径2aの時でも Kt = 3は同じ 4.7.2 き裂先端の応力場(1) き裂(crack)を持つ部材は、外力を受けると変形する。 z z z x y き裂 x y き裂 x y (a)モードⅠ (b)モードⅡ (c)モードⅢ 開口形 面内せん断形 面外せん断形 図4.19 き裂材の変形様式 き裂 4.7.2 き裂先端の応力場(2) σ∞ 無限板 y r σx = KⅠ θ θ 3θ cos 1 sin sin 2 2 2 2πr σy = KⅠ θ θ 3θ cos 1 sin sin 2 2 2 2πr τxy = KⅠ θ θ 3θ cos sin sin 2 2 2 2πr θ x 2a き裂先端近傍の点(r,θ)での応力 E,ι σy τxy x,y方向変位 平面ひずみ τxy v u σx 図4.20 き裂先端部の応力と変位 平面応力 3 ν 1 ν 3 4ν u= KⅠ r θ θ cos κ 1 2 sin 2 2G 2π 2 2 v= KⅠ r θ θ sin κ 1 2 cos2 2G 2π 2 2 4.7.2 き裂先端の応力場(3) 1個のき裂を有する無限板に対する応力拡大係数 σy = σy y (x → 0) σ a σ πa KⅠ = = 2x 2πx 2πx KⅠ:応力拡大係数 モードⅠにおける値 σ∞ σy = 2a KⅠ =σ πa KⅠ 2πx ※ 単位 x x 図4.21 き裂先端の応力分布 1個のき裂を有する 無限板に対する場合 [ MPa m] 4.7.3 破壊靭性(1) (破壊靭性とは) 破壊靭性とは … 塑性変形を起こすような材料にき裂が存在すると、そのき裂に 対する応力拡大係数Kが材料の限界値Kcを越える程の負荷が かかった場合、き裂の急速な伝ぱが起こり材料は破壊する。 このような、一方向静的負荷に対するき裂材の抵抗値のことを 破壊靭性という。 破壊靭性 KC 4.7.3 破壊靭性(2)(破壊靭性と板厚効果①) 平面ひずみ 破壊靭性 KⅠC 板厚 B 平面応力領域 領域(Ⅰ) き裂の 安定成長 遷移領域 領域(Ⅱ) 斜面破面 平面ひずみ領域 領域(Ⅲ) 垂直破面 シアリップ き裂の不安定成長 疲労き裂 機械加工切欠 図4.22 破壊靭性試験における板厚効果と破面形状 4.7.3 破壊靭性(3) (破壊靭性と板厚効果②) 破壊靭性 KC き裂先端の塑性域で 平面ひずみ状態 + 小規模降伏条件を満たす K B, a 2.5 ⅠC σS 平面ひずみ 破壊靭性 KⅠC 板厚 B 板厚が薄い場合 板厚が厚い場合 ・ き裂先端の塑性域では 平面応力状態が支配的 ・ き裂先端の塑性域では 平面ひずみ状態が支配的 ・ き裂の安定成長が起こり、 巨視的破面は傾斜型 ・ き裂の不安定かつ急速な伝播により、 巨視的破面は垂直型 ・ 破壊靭性はかなり高い値 ・ 破壊靭性は板厚によらず一定 2 4.7.3 破壊靭性(4)(平面ひずみ破壊靭性 KⅠC) 板厚が大きい時、KCは板厚によらず ほぼ一定の値を示す。 表4.2 室温におけるKⅠCの例 平面ひずみ破壊靭性 材料 アルミニウム合金2024-T4 7075-T651 降伏応力σ (MPa) 325 540 KIC (MPa√m) 49.5 36.3 チタン合金Ti-6Al-4V 921 78 鋼AISI 4340 A533B 1656 343 61.5 186 4.7.4 小規模降伏(1) (小規模降伏の定義) 線形弾性体 ~ き裂を持つ部材に負荷する時、き裂先端で応力は、∞ 瞬時に破壊する 実際 非線形変形、応力拡大係数 K 使用できない。 小規模降伏状態 塑性域寸法がき裂長さに比べて十分に小さければ、 塑性域の周囲の弾性変形領域では塑性変形が生じない場合と同様、 応力はき裂先端からの距離の平方根に反比例して変化する。 これを小規模降伏状態という。 塑性域 ; 塑性変形が生じた領域 応力拡大係数 使用可能 4.7.4 小規模降伏(2)(塑性域とき裂開口変位) き裂先端の塑性域 σy 降伏応力 σs a σ= y E 塑性域補正した 弾性応力分布 B A rp C K 2πr Ⅰ 1 KⅠ x= 2πσy 降伏後の応力分布 …(式 4.17) 2 1 KⅠ rp = 2πσs 2 材料は弾完全塑性体とすると、 塑性変形の前後で負荷応力は等しい rp F 弾性応力分布 φ き裂 O’ O R=2rp D x 図の2つの面積が等しくなるまで、 x 軸上の塑性域は広がる 補正後の塑性域寸法 R 2 仮想弾性き裂 図4.23 平面応力状態での小規模降伏 1 KⅠ 1 KⅠ R = 2rp = 2 = 2πσs πσs KⅠ 2 …(式4.19) 2 まとめ ※ 第四章のキーワード 垂直破壊、カップアンドコーン型破壊、せん断破壊、チゼルポイント型破壊 ボイド、フラクトグラフィ、ディンプル、リバーパターン、タング、ストライエーション 切欠き、応力集中係数(Kt)、応力拡大係数(KI)、破壊靭性、小規模降伏状態
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