経済変動論II 2006年度前期 第6回 3.3 国家の役割 ストップ・アンド・ゴー政策 清水 耕一 www.e.okayama-u.ac.jp/~kshimizu/ (1) ケインジアン国家=経済主体としての国家 フォード主義的成長体制期の国家=ケインジアン&ビヴァレッジ国家 ケインズ『雇用・利子・貨幣の一般理論』(1936年)の有効需要の理論 不況と失業の原因は有効需要不足⇒政府が有効需要を創出⇒総需要管理政策 19世紀末から社会政策の登場(ビスマルクの社会政策)⇒ビヴァレッジ (Beveridge)報告書(1942年)へ⇒イギリスの社会保障制度(「揺篭から 墓場まで」)の基礎 ⇒ヨーロッパ型社会保障制度:国家が社会的連帯を重視し、社会的不平等の是 正をおこなう。 ケインジアン国家=経済主体としての国家 ケインズにおける政策の優先順位:金融政策⇒財政政策⇒所得再分配政策 金融政策:マネーサプライを調整して景気変動をコントロール 財政政策:政府支出を調整することによって総需要をコントロール 所得再分配政策:累進課税制度によって消費性向の低い高額所得者からよ り多くの税を徴収し、所得移転によって消費性向の高い無所得者や低所得 者の購買力を上昇させることで、社会の消費能力を高める 固定相場制と、国際的資本移動の規制のもとで、ケインジアン総需要管理 政策は有効であった。 フランス経済の主要な問題はインフレーションと対外不均衡であった。 (1) ケインジアン国家(続) =「制度化された妥協」としての国家 社会紛争の調停者(コーディネーター)としての国家 安定した社会的・経済的秩序の維持 様々な社会集団の間の利害対立の調停=妥協の仲介 大資本vs中小企業、資本vs労働・・・・・ 政治権力を握っているのは支配的な社会政治グループの連合体(「支配的 社会ブロック」)を基礎とした政治的連合( アマーブル『5つの資本主 義』) フランスのケース 全国的な団体交渉⇒労使間妥協⇒立法化・・・・・ 重大な社会問題に関しては、政府が主催する政府、経営者団体、および 「代表的」労働組合代表を構成員とする3者協議⇒妥協の追求 「代表的」労働組合とは労働法の定める全国的な組織をもつ労働組合であり、 CGT,、CFDT、CGT-FO、CFTC 、CFE-CGCの5労組である。 ただし、交渉によって妥協が成立するとは限らない。 また、フランスは直接民主主義の伝統があり、街頭闘争(デモ)によって 要求を実現する傾向がある。 金融政策:IS-LMモデル IS曲線: Y = C(Y) + I(i)+ G +(X–M) ΔC/ΔY>0, ΔI/Δi<0 LM曲線: M/p = L(Y, i) ΔL/ΔY>0, ΔL/Δi<0 E0 = (Y0、i0)において 実質マネーサプラ イ(M/p)を増加さ せるとLM曲線が下 方にシフトして LM’になり、均衡 点はE1 = (Y1、i1) になる。 LM LM’ E0 i0 E1 i 1 IS Y0 Y1 インフレーションの影響:IS-LMモデル インフレーションが発 生した場合、価格 水準pが上昇するこ とから LM曲線: M/p = L(Y, i) において実質マネーサ プライ(M/p)が減 少する。 E0 = (Y0、i0)において 実質マネーサプラ イが減少するとLM 曲線が上方にシフ トしてLM’になり、 均衡点はE1 = (Y1、 i1)になり、景気後 退が起こる。 LM’ LM E1 i1 E0 i 0 IS Y1 Y0 財政政策:IS-LMモデル IS曲線: Y = C(Y) + I(i)+ G +(X–M) LM曲線:M/p = L(Y, i) E0 = (Y0、i0)において政 府支出Gを増加させ るとIS曲線が右方向 にシフトしてIS’にな り、均衡点はE1 = (Y1、 i1)になる。 政府乗数の効果は 1 G 1 c であって、A点までYを 増加させるはずであ るが、クラウディン グ・アウトが起こる ため、均衡点はE1に なる。 LM E1 i1 A i0 E0 IS’ Y IS Y0 Y1 対外不均衡の影響:IS-LMモデル 対外不均衡は ΔNX=X–M < 0 を意味するから、 IS曲線: Y = C(Y) + I(i)+ G +(X–M) は 1 Y NX 1 c だけ左方向にシフトして IS’になり、均衡点は E0 = (Y0、i0) からE1 = (Y1、i1)になる。 よって、対外不均衡が発 生すると景気後退が 起こる。 LM A E0 i0 i1 E1 IS IS’ Y1 Y0 (2)戦後におけるフランス政府の経済政策 ストップ・アンド・ゴー政策 1948-49年:戦後インフレーションを抑制するためにデフレ政策、財政 健全化および対外不均衡是正政策 補助金削減、価格統制、賃金凍結⇒物価の安定化 財政支出の削減、金融引締め⇒財政の健全化 フラン安定化政策⇒Iドル=350フランに 1950-52年:ピネーの安定化政策(=デフレ政策) 1950年:価格と賃金を自由化(ただし物価上昇率を考慮した最低賃金 SMIGを導入)、しかし朝鮮戦争・インドシナ戦争のため再軍備⇒財政赤 字の拡大と、輸入財価格の上昇による国際収支の悪化⇒インフレーション ⇒ピネーが安定化政策を実施 金価値連動の、キャピタルゲインに非課税の国債発行⇒過剰流動性を吸収 SMIGは物価上昇率が5%を越えた場合にのみ上昇⇒賃金・物価スパイラル を打破 保護貿易政策⇒貿易収支均衡 結果:デフレ政策と保護貿易政策によって工業生産が低下、失業が増加 景気刺激策の必要 (2)戦後におけるフランス政府の経済政策 ストップ・アンド・ゴー政策:1953-57年 マンデズ・フランス内閣による景気刺激策 金融緩和、FDES資金の投入、免税措置⇒投資を刺激 生産に対する各種の税を廃止してTVAを導入⇒市場の健全化 結果:設備投資が回復して景気回復、 財政赤字の発生 FDES支出と1956年アルジェリア独立戦争勃発⇒財政赤字 インフレーションの発生:1956-58年平均で5% 戦争による労働力不足⇒賃金上昇 1956年スエズ危機(スエズ運河の閉鎖)⇒輸送コストの上昇⇒現在慮価 格の上昇 1956年の寒波⇒食料品価格の上昇 国際収支の悪化⇒外貨準備の減少 軍需品、食料品の輸入増加 スエズ危機による観光収入の減少 安定化政策が必要 (2)戦後におけるフランス政府の経済政策 ストップ・アンド・ゴー政策:1957-62年 1957年から安定化政策:保護貿易政策とインフレ対策 関税20%への引き上げ、20%の輸出奨励金⇒国際収支の均衡化 補助金廃止、公共料金の値上げ、金融引締めと財政健全化⇒インフレ抑制 対外赤字の持続⇒外貨の流出⇒経済健全化政策とフラン価値安定化政策 (1958年12月から) 通貨政策:デノミによって1ドル=4,90フランに( 1ドル=490フランから) フラン価値の切り下げ(17.55%)⇒輸出競争力の向上 1フラン=金2g (純度900/1000で)に定める 保護貿易の緩和、財政支出の抑制、物価スライド制の廃止(SMIGは除く) 結果:景気後退⇒インフレが減速、国際収支の均衡化さらには黒字化⇒外貨準備の 増加 1960-62年は均衡成長⇒財政赤字の縮小 完全雇用経済 消費と投資が共に成長(加速度原理と乗数効果の結合) 1962年以降の景気後退 拡張的財政政策⇒財政赤字の拡大 金融緩和による過剰なマネーサプライ 生産性格差インフレ、コストプッシュ・インフレ⇒インフレの加速 貿易収支が悪化 (2)戦後におけるフランス政府の経済政策 ストップ・アンド・ゴー政策:1957-62年 1957年から安定化政策:保護貿易政策とインフレ対策 関税20%への引き上げ、20%の輸出奨励金⇒国際収支の均衡化 補助金廃止、公共料金の値上げ、金融引締めと財政健全化⇒インフレ抑制 対外赤字の持続⇒外貨の流出⇒経済健全化政策とフラン価値安定化政策 (1958年12月から) 通貨政策:デノミによって1ドル=4,90フランに( 1ドル=490フランから) フラン価値の切り下げ(17.55%)⇒輸出競争力の向上 1フラン=金2g (純度900/1000で)に定める 保護貿易の緩和、財政支出の抑制、物価スライド制の廃止(SMIGは除く) 結果:景気後退⇒インフレが減速、国際収支の均衡化さらには黒字化⇒外貨準備の 増加 1960-62年は均衡成長⇒財政赤字の縮小 完全雇用経済 消費と投資が共に成長(加速度原理と乗数効果の結合) 1962年以降の景気後退 拡張的財政政策⇒財政赤字の拡大 金融緩和による過剰なマネーサプライ 生産性格差インフレ、コストプッシュ・インフレ⇒インフレの加速 貿易収支が悪化 (2)戦後におけるフランス政府の経済政策 ストップ・アンド・ゴー政策:1963-67年 1963年〜:ジスカール・デスタンの安定化政策(古典的) 心理的価格政策:ガソリン・タバコ価格の引下げ、関税率の引下げ、工業製品価格 の凍結 国債発行による過剰流動性の吸収、貯蓄の刺激(月給化、給与の銀行振込を奨励)、 銀行の監視を強化と金融引締め⇒マネーサプライの縮小 緊縮財政 結果:インフレ率は1963~65年に5%から2.5%に低下、貿易収支も黒字化 しかし、失業増加⇒景気刺激策の必要 1968~73年:経済発展の黄金期−経済成長率は世界第2位 1968年5月のグルネル協定⇒賃金上昇(14~17%)、SMIGのSMICへの変更⇒低所得 者層の実質賃金の急速な上昇⇒消費需要の急速な成長 1968-1974 年の実質平均成長率=5~6% 1960年代末の社会的緊張の高まり 対外不均衡の増大:1968年7月、EC諸国との貿易の完全自由化⇒輸入増加による国 際収支と資本収支の悪化 インフレ回避策:1969年11月、フラン切下げによる国際収支の均衡化、金融引締め、 増税、財政支出の削減⇒インフレは抑制できず、失業が増加 (2)戦後におけるフランス政府の経済政策 ストップ・アンド・ゴー政策の図式化 1950-73年のストップ・アンド・ゴー政策 景気拡大⇒インフレーション+対外不均衡⇒ 安定化政策⇒景気後退⇒失業増加+物価の安定化+国際収 支均衡・黒字化⇒ 失業対策のための景気刺激策⇒景気拡大 こうしたストップ・アンド・ゴー政策はイギリスでも行 われたし、日本でも1965年まで実施されていた。
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