韓国障害運動の歴史 (1950年~2007年) 立命館大学先端総合学術研究科 鄭喜慶(ジョン ヒギョン) Copyright 1996-2001 © Dale Carnegie & Associates, Inc. ▣目的 • 韓国では、2000年から重度障害者自立生 活運動が入り、運動の主体が軽度障害者 から重度障害に変わった。障害者福祉の大 きなパラダイムの転換である。その運動の 成果で、今年障害者差別禁止法が国会を 通過した。また、障害者福祉法が改正され、 韓国最初の法律に基づく重度障害者介助 サービス派遣事業が始まった。 • 今回はここに至るまでの韓国障害者運動を 時代別に探ってみることにした。 2015-09-30 2 ▣対象 • 障害者青年学校1回~7回資料集(毎年1回) (http://www.dpiseoul.or.kr/)では50年から 85年の運動史を参考にした。 • ウリント(全国障害者問題研究所)活動記録集 では86年から92までを参考にした。 • 「障害開放、その一つの道に」障害者ハン家族 活動記録集、93年から98年までを参考にした。 • 障害者各団体のインターネットサイト http://www.ablenews.co.kr などを参考にした。 2015-09-30 3 50年代(6.25事変前後) • 政治の背景:6.25戦争で休戦、南と北別々 • 経済の背景:戦争で国全体が貧困 • 国外の背景:小児麻痺ワクチン完成(アメリカ)、ノー マライゼーション理念の法定化(デンマーク) • 特徴 ♦傷痍軍向けの支援策が中心 ♦ 1948年憲法制定で、第19条「老齢、疾病など労 働能力がない人を法律によって国家から保障がえ られる」韓国最初の成文化された法令である。 ♦障害者の状況は79.1%が下流層、17.1%が中流層 で96.2%が絶対貧困を占める、社会内に病理化さ れた社会集団として放置されていると見られる 。4 2015-09-30 60年~70年(障害者運動なかった) • 政治の背景:朴正照将軍クーデターで政権掌握 • 経済の背景:経済発展のため、資本主義広がり • 国外の背景:青い芝居の運動(日本) • 特徴 ♦社会福祉の制度的な枠が整備されるが軍事政権の 道徳的な正当性確保するためである ♦障害予防関連新聞記事 朝鮮日報(68.9.27)「小児麻痺予防接種は予算の事 情で新生児、それも農村50%、都市100%が接種 の対象になる」 京郷新聞(69.9.29)「国民優生法を制定し、悪性因子 を早く除去し、悪性因子をもつ人は結婚禁止、子供 を産めないように規制するべき」 2015-09-30 5 60年代~70年続き • 社会的な問題:障害を理由で入学拒否 ♦小児麻痺学生、体力試験で不合格(67年) ♦視覚障害者に障害を理由で不合格(70年) • 評価 ♦このような入学拒否は社会的な関心を呼ぶ時に限って 個人的に救済されるが制度を改善することまでは至ら なかった。 ♦個人としての「不具者」はあったが、社会現状と集団とし ての「障害者」は存在しなかった。 ♦障害者運動の中心は障害当事者より、親や福祉関連専 門家と医療関係者である。 2015-09-30 6 80年~86年(大衆的運動の誕生期) • 政治の背景:全斗換軍事政権、5.18光州抗争を 残酷に制圧したことに対して、学生、市民、反独 裁、民主化運動が盛んになる。 • 経済の背景:成長期 • 国外の背景:国際障害者の年、自立生活セン ター設立、基礎年金(日本), • 特徴 ♦多様な障害者団体結成(DPIなど)、障害問題研 究会ウリントが障害問題を制度内の問題を超え 変革の運動としての最初の組織 ♦障害者の日制定(4月20日)各種イベント 7 ウリントの87年の闘争 • 88年障害者オリン ピック反対運動と法制 化闘争(街で、政府庁 舎の前で、道路で) 2015-09-30 8 80年~86年の続き • 社会的な問題:全国に運動が広がり 障害を理由で司法研修終えるが法官に落ちる ー運動が全国に広がり、救済される ♦ 「道路に段差をなくして欲しい」と飲毒自殺 -障害青年学生たちが葬礼式闘争でソウル市長はソウ ル市に段差を無くすことを約束 • 評価 ♦障害者移動権問題を提起した最初の運動 ♦障害問題を個人の問題ではなく社会問題化し始める ♦社会的な認識を根本とする組織的な抵抗の誕生 2015-09-30 9 87年~92年(進歩的な運動の胎動) • 政治の背景:国民の反応に関心がある政権 • 国外の背景:ADA法(アメリカ) • 特徴: ♦87年6月の政権に抗争と労働者大闘争など社会 変革運動から影響をうける(反政府) ♦障害当事者の視覚から問題解決しようとする団 体が結成され進歩的な運動をする ♦障害権益問題研究所は学会や法界の人脈を動 員し、また、政府の窓口の役割として、市民団体 と同じく上昇気流に乗る 2015-09-30 10 87年~92年の続き • 社会的な問題: ♦障害者オリンピック拒否闘争 ♦障害者雇用促進法と障害者福祉法の制定運動 • 評価 ♦民主主義と社会主義を闘争の理念とし、多様な 闘争方式で他の社会運動分野と同じように一 つの領域つまり、障害者領域として認められる ♦障害の問題を社会に発信したと大きく評価され る。 2015-09-30 11 90年代運動 1.文化闘争(市内で障 害解放歌を歌う) 2.施設の前で座り込み 3.剃髪で意志を高める 2015-09-30 12 93年~99年(運動の停滞期) • 特徴 ♦障害当事者の参加のない中で多様な法が制定 され、改正される。また、予算が増え施設が飛躍 的に建設されるが、施設を通じた支援のゆえに 当事者の生活に大きな変化はなかった ♦日本からアメリカ型自立生活運動が入り始める • 評価 ♦社会主義の崩壊により、理念と活動方式に変化 を求める時期となるが運動の理念を失ったと当 事者の不在もあり運動は停滞する 2015-09-30 13 00年~07年(重度障害者の出現) • 政治の背景:文民政府 • 国外の背景:バリアフリー法、自立支援法反対運動、 介護保険(日本)、国連権利条約 • 特徴:日本から「アメリカ型の自立生活運動」が入り、 自立生活理念を基本とする運動が始まる。その時か ら運動の歴史に一度も姿を見せなかった重度障害者 が出始める。(ピアカウンセリングと障害青年学校は 障害者運動の卵を育つ手段になる) 彼らにより、移動権問題、介助問題、脱施設運動、自 立生活運動、権利条約、差別禁止法など全国的な組 織網を持ち、組織的な多様な運動となる。国際的な 連帯が強くなる 一方では、進歩的な労働運動と手を組んでもっぱら激 しい闘争をする移動権連帯の運動も大きな特徴であ る 2015-09-30 14 00年~07年続き • 評価:重度障害者の出現、医療モデルから社 会モデルに変わる障害者福祉のパラダイムの 転換である。 争点としてはまず、介助サービスの時間を拡大 していくことと、自己負担を無くす事である。二 つ目は重度障害者労働権である。これは仕事 場をつくることと、重度障害者に対して勤労支 援である。三つ目は来年から実行される差別 禁止法が定着されることである。差別される前 に差別を予防することで国民全体と社会全体 2015-09-30 15 が成熟することが望みである。 重度障害者の出現 1.警察と向き合う 2.福祉府の前に座り込んで 3.バース停留所で移動権 要求 2015-09-30 16 ▣まとめ • 韓国障害者運動の歴史は長年、軽度障害者中心の運 動であった。80年代後半まで、それなりの運動と評価 はあったが、障害者の問題を社会の問題化し、社会を 変革するところまでは至らなかった。一方、重度障害者 は入所施設が少なかったため、家族の中で生活するし かなかったが、社会的な支援がほとんどなかったため 家族の負担が多くなる。結局、家族の負担から抜け出 すためにカトリックの宣教師と慈善事業家たちが作った 非営利施設に入る。そこで、恩恵と同情に囲まれ宗教 に依存してしまたのである。2000年代に入りようやく、 重度障害者は自立生活理念の元で自らの声を出すこと になる。その手段になったのは確かにピアカウンセリン グであった。当事者主義と当事者主権を知ってし まった重度障害者の活動は、これから大きな社会の変 化と成長をリーダーすると考えられる。 2015-09-30 17 ▣考察 • 80年代半ば、組織的に社会変革運動を経験 した軽度障害者は90年代後半運動の目的と 主体の不在により運動の停滞期を経験する。 運動の目的と運動のやり形を探していた彼ら は自立生活理念と出会う。そして、重度障害者 が地域で出る場を作り、彼らに組織的な運動 方式と、組織の作り方と連帯をなどを教え伝え、 新しい世代が運動を続ける背景を作りあげた。 その世代交代が適切だったので、重度障害者 はある程度整なったところで運動をし、短期間 で大きな成果を挙げて来たとも言える。これか ら、もっと重度障害者運動は続くと予想される。 2015-09-30 18
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