代謝・栄養異常

糖質代謝異常
血糖値
 血糖値=D-glucose濃度
 グルコースは食事から多糖類として供給され、血糖
値は食事により大きく変動する。
 神経系はグルコースを主要なエネルギー源として
利用しているため、空腹時にも一定濃度以上の血
糖値が維持される必要がある。
 逆に高血糖が持続するとさまざまな臓器障害をき
たす(糖尿病)。
血糖値
 通常静脈血採血を行い、血漿を酵素法(glucose-
oxidase法)で測定する。
 ブドウ糖は血球により消費されるため、通常解糖阻
止剤(NaF)入りの採血管を用いる。
 動脈血>静脈血
 空腹時血糖をFBS(Fasting Blood Sugar)と呼び
基準範囲は 70~110 mg/dl
糖質代謝
 単糖類(主にグルコース)が細胞に取り込まれて、
TCA回路や解糖系でエネルギー(ATP)が産生
される
 グルコースは消化管から吸収されるほか、肝臓で
合成される(糖新生)
 グルコースは、肝臓や筋肉でグリコーゲンとなって
貯蔵される
糖代謝に関与するホルモン
 インスリン




膵臓のLangerhans島に存在するβ(B)細胞から分泌
される
アミノ酸51個のポリペプチドでA鎖、B鎖からできてい
る。
細胞膜のインスリンレセプターと結合し、
■ 糖の取り込みを促進
■ 解糖系の酵素を活性化
■ グリコーゲン、蛋白、脂肪酸合成を活性化
結果的に血糖値を低下させる。
糖代謝に関与するホルモン
 グルカゴン


膵Langerhans島のα(A)細胞で合成、分泌
標的細胞で、cAMPを介してグリコーゲンを分解させる
血糖値が低下すると分泌が増加して、血糖値を上昇さ
せる
 その他成長ホルモン、ACTH、サイロキシン、副腎
皮質ホルモン、アドレナリンなども血糖値を上昇さ
せる
血糖調節
 消化管からの吸収により血糖値が上昇
⇒ 膵β細胞からインスリン分泌
⇒ インスリンの作用によりグルコースが細胞内に取
り込まれ血糖が低下
 血糖値の低下
⇒ グルカゴンの分泌が増加し、交感神経や副腎髄質
からカテコールアミンが放出
⇒ グリコーゲンが分解して血糖が上昇
糖代謝異常
 糖尿病

遺伝的要因や環境要因が重なって、インスリン
分泌の欠乏やその作用の低下(阻害物質の過
剰や作用機構の障害)が起こり高血糖状態が持
続し、代謝障害、血管障害によってさまざまな合
併症を引き起こすもの
糖代謝異常
 低血糖をきたす疾患

インスリノーマ、インスリン自己免疫症候群、インスリン
レセプター抗体、薬物、その他
 先天性糖代謝異常



グリコーゲン病(糖原病)
ガラクトース血症
その他
糖尿病の分類
1 型


自己免疫性
特発性
2 型
 その他特定の機序,疾患によるもの


遺伝因子として遺伝子異常が同定されたもの
他の疾患,条件に伴うもの
 膵外分泌疾患、内分泌疾患、薬剤、感染症他
 妊娠糖尿病
1型糖尿病
 遺伝的要因を背景とし、主として自己免疫機序によ
り膵β細胞が破壊され、インスリン治療を行わなけ
れば生命を維持できなくなるような糖尿病
 一卵性双生児の一致率は40%で、特定のHLA型
の集積性が見られる。
 膵島細胞に対する自己抗体が高率に出現する。
1型糖尿病の症状
 膵臓のβ細胞が90%以上破壊されてから症状が現
れる
 急激に始まる口渇、脱水、多飲、多尿、体重減少、
極度の倦怠感
 進行すると悪心、嘔吐、腹痛、下痢、意識障害
2型糖尿病
 インスリン分泌低下を主体とするものと,インスリン
抵抗性が主体でそれにインスリンの相対的不足を
伴う糖尿病で、糖尿病患者の大部分を占める
 遺伝的因子が深く関わっていると考えられるが、こ
れに肥満、運動不足、加齢、過食、食事組成、スト
レスなどの環境因子が加わって発症する
 環境因子は、インスリン感受性を低下させる(イン
スリン抵抗性)ことによって発症を誘発していると考
えられている
2型糖尿病の症状
 初期には全く無症状
 進行すると倦怠感、集中力の低下、根気の
なさ、口渇、多尿、夜間尿、体重減少
糖尿病の病態
高血糖状態
急激な代謝障害
細小血管障害
昏睡
(糖尿病性昏睡)
臓器障害
網膜症
腎症
神経障害
大血管障害
動脈硬化
閉塞
脳梗塞
狭心症、心筋梗塞
跛行、足壊疽
糖尿病の急性合併症
 糖尿病性昏睡

糖尿病性ケトアシドーシス
 血中、尿中ケトン体が著増、動脈血pH低下、
HCO3-著明低下

非ケトン性高浸透圧性昏睡
 高血糖(500~1000以上)、浸透圧著増

乳酸性アシドーシス
 pH低下、乳酸、ピルビン酸の増加
糖尿病慢性合併症の症状
 網膜症による視力障害
 四肢特に下肢の異常感覚
 便秘、立ちくらみなどの自律神経症状
 腎機能障害による浮腫、高血圧
 脳梗塞による神経症状
 狭心症、心筋梗塞
 間欠性跛行、足壊疽
 種々の皮膚病変、歯槽膿漏、易感染、その他
糖尿病の慢性合併症
 糖尿病性網膜症
 糖尿病性腎症
 糖尿病性神経障害
 心筋梗塞
 脳梗塞
 糖尿病性壊疽
 脂質異常症
 その他
三大合併症
糖尿病性網膜症
 網膜の毛細血管壁の肥厚
⇒ 閉塞
⇒ 新生血管、小動脈瘤
⇒ 出血
⇒ 失明
 発病後20年で75%、30年で90%以上
 治療


糖尿病のコントロール
光凝固治療
糖尿病性腎症
 腎糸球体の進行性の破壊
⇒ 腎不全
 症候



初期には蛋白尿
進行すると浮腫、低蛋白血症、高コレステロール血症
(ネフローゼ症候群)
さらに進行すると、高血圧、尿毒症、貧血、Ca代謝異
常による骨障害
 治療

糖尿病のコントロール、血液透析、腎移植
糖尿病性神経障害
 多発性神経障害




対称性の下肢の自発痛、靴下状知覚消失
深部知覚の低下、消失
筋萎縮と脱力
足底部の潰瘍
 自律神経障害



頻脈、起立性低血圧
下痢、弛緩膀胱、インポテンス
発汗異常、その他
糖尿病のコントロール
 治療の目標は平均血糖値を下げ、一定に保
つこと
 食事療法、減量(標準体重の維持)と運動療
法(インスリンへの感受性を高める)が基本
 それでも血糖が下がらなければ経口血糖降
下薬の投与やインスリン注射を行う
糖尿病の検査
 糖尿病の診断

血糖、糖負荷試験(75gOGTT)、HbA1c
 病型分類・病態把握のための検査
 糖尿病の経過観察のための検査


血糖、血糖日内変動、SMBG、CGM、尿糖
HbA1c、GA、1.5AG
 合併症の検査
OGTT 経口ブドウ糖負荷試験
(Oral Glucose Tolerance Test)
 8時間以上の絶食後に、通常ブドウ糖75gを含むブ
ドウ糖溶液を飲み、飲用前後に採血を行って、血糖
値、インスリン濃度、尿糖を測定する。
 採血は通常、負荷前、負荷後30分、1時間、2時間
(3時間)に行われる。
OGTT実施上の注意点
 空腹時血糖や随時血糖で糖尿病型を示している場
合はOGTTは実施しない(糖尿病を悪化させ、糖尿
病性昏睡などを引き起こす危険がある)
 実施前3日間は糖質150g以上が摂取されているよ
うにする。
 耐糖能に影響を与える薬剤はできるだけ服用を中
止する。
 OGTTはできるだけ早朝に実施する(絶食期間の
延長により耐糖能は低下する)。
糖尿病の診断基準
 糖尿病型


①空腹時血糖値(FBS)≧126mg/dl または
②75g糖負荷試験(75gOGTT) 2時間値≧200mg/dl
③随時血糖値≧200mg/dl)
④HbA1c(NGSP)≧6.5% (HbA1c(JDS) ≧6.1%)
 正常型

空腹時血糖値<110mg/dl
かつ75gOGTT 2時間値<140mg/dl
 境界型

糖尿病型でも正常型でもないもの
糖尿病の診断基準(続き)
 初回検査で①~④のいずれかを認めれば「糖尿病
型」と判定し、別の日の再検査で再び「糖尿病型」
が確認できれば糖尿病と診断する。
 血糖値とHbA1cが同一採血で糖尿病型を示す場
合(①~③と④)には初回検査のみで糖尿病と診断
 一回の検査で糖尿病型血糖を示し下記のいずれ
かの条件が満たされれば糖尿病と診断できる
(1)糖尿病の典型的症状(口渇,多飲,多尿,体重減少)
の存在
(2)確実な糖尿病網膜症の存在
膵β相棒関連自己抗体
 1型糖尿病では自己免疫機序により、下記のような
自己抗体が検出される。
 抗GAD抗体
(anti-glutamic acid decarboxylase antibody)
 抗IA-2抗体
(anti-insulinoma-associated protein-2 antibody)
 ICA
(Islet Cell Antibody)
病型分類・病態把握のための検査
 インスリン分泌能に関する検査

IRI、CPR(基礎値、負荷後)、1日尿CPR
 インスリン抵抗性に関する検査


グルコースクランプ法
HOMA-R
 糖尿病の成因に関する検査


膵β相棒関連自己抗体
HLA、遺伝子解析
インスリン(IRI:immunoreactive insulin)
 血中インスリンは通常免疫学的測定法により測定
される。
 1型糖尿病ではβ細胞破壊によるインスリン分泌の
低下のため高度減少する。
 2型糖尿病では空腹時、糖負荷後のインスリンは
症例により軽度減少~増加までさまざまであるが、
糖負荷後のインスリン分泌が遅延する。
 インスリノーマ、異常インスリン、インスリン抗体で
は異常高値となり、肥満、肝硬変、腎不全でも増加
する。
インスリン分泌指数
Insulinogenic index
 75gOGTTの負荷前と30分で血糖値(BS)、
インスリン(IRI)を測定し、増加分の比
ΔIRI / ΔBS < 0.4
ならばインスリン分泌低下と判断する
HOMA-R
(homeostasis model assessment ratio)
 外因性インスリン投与や内因性インスリン分泌を刺
激する薬剤の投与が行われていないときに、インス
リン抵抗性を評価する指標
 空腹時血糖(mg/dl)×空腹時IRI(μU/ml)/405
 2.0以上ならばインスリン抵抗性が疑われる
 HOMA-IR(homeostasis model assessment as
an index of insulin resistance)と呼ばれることもあ
る
CPR(C-peptide radioimmunoactivity)
 β細胞で合成されるプロインスリンはゴルジで分解
されてインスリンとCペプチドになる。Cペプチドは大
部分が腎で代謝、排泄される。残存β細胞機能を判
定するために尿中、血中のCPRが測定される。
 尿中CPR

Cペプチドはその15~20%が尿中に排泄されるため、
1日排泄量でインスリン分泌量(膵β細胞機能)を推定
する(健常者 50μg前後、1型で低値)
 グルカゴン負荷試験

β細胞を刺激するグルカゴンの静注前後の血中CPR
の増加(ΔCPR)を調べる
血糖コントロールの指標
 血糖値
 尿糖
 HbA1c、GA、1.5-AG
 尿ケトン体
血糖値
 外来の患者では空腹時あるいは食後一定時間の
血糖値が病態把握のために行われる。
 入院中の患者では、血糖変動を調べるために、一
日血糖(毎食前後、眠前等)の測定が行われる場
合がある。
 また最近酵素電極法などによる小型で簡便な血糖
測定装置が開発され、入院中患者のベッドサイドや
患者の自己管理の測定のために用いられている。
SMBG
(Self Monitoring Blood Glucose)
 患者が血糖自己管理のために採血と測定を自分で
行う。
CGM
(Continuous Glucose Monitoring)
 腹壁にセンサーを刺入し連続的に数日間の血糖変
動を記録するシステム
尿糖
 試験紙法による尿糖検査が糖尿病のスクリーニン
グ検査として広く行われている
 糖は糸球体で濾過され尿細管で再吸収されるため、
尿糖の出現は糖排泄閾値による


GFRの低下は閾値を上昇させる(加齢など)
尿細管吸収率の低下は閾値を低下させる。
高血糖でなくても尿糖が陽性となる状態を腎性糖尿と
呼び、糖尿病とは区別する。
 還元物質(特にビタミンC)の存在により偽陰性とな
る
グリコヘモグロビン(HbA1c)
 ブドウ糖がヘモグロビンと非酵素的に反応して生じ
たケトアミン、高血糖状態の持続により増加する
 HbA1cは過去4~6週の血糖の平均値(積分値)を
反映すると考えられ、血糖コントロールの指標とし
てよく用いられる(直前1ケ月が50%、その前の1ケ
月が25%寄与)
 赤血球寿命が短縮する疾患(失血、溶血性貧血
等)で低下し、血糖値を反映しなくなる
その他の指標
 グリコアルブミン(GA)



アルブミンがグルコースと非酵素的に反応して生じた
ケトアミン。結果は%で表示され高血糖により増加する。
過去数週間(2~3週間)の血糖コントロールを反映
ネフローゼ症候群、甲状腺機能亢進症では低下
 1.5アンヒドログルシトール(1.5-AG)


1.5AGは食物中から摂取され、糸球体で濾過されたの
ち尿細管で99.9%再吸収されるが、尿糖により阻害さ
れ血中濃度が減少する(尿糖排泄量に反比例)。
日々の血糖コントロールを反映
ケトン体
 アセト酢酸、βヒドロキシ酪酸、アセトンの総称
 生体において、糖の利用障害、絶食、飢餓、代謝亢進
などにより、エネルギー依存性が糖質から脂肪酸に
傾くと亢進した脂肪酸代謝の過程で産生される。
 糖尿病ではインスリンの作用不足によりケトン体が上
昇し、著増すると糖尿病性ケトアシドーシスとなる。
 血清(ケトン体、分画、アセトン)、尿(尿ケトン体)で測
定され、日内変動があり朝食前に高い。糖尿病では、
インスリンの不足、ケトアシドーシスにおいて尿ケトン
体が陽性化する(尿の方が高感度)。
合併症の検査
 網膜症:眼底検査
 腎症


尿中蛋白または微量アルブミン(随時尿、蓄尿)
Cre、シスタチンC、eGFR、Ccr、Cin
 神経障害:感覚検査、神経伝導速度、CVR-R
 動脈硬化

頸動脈エコー(IMT)、ECG(安静、負荷)、ABI
PWV、頭部MRI、MRA
 血圧
 血中脂質