通訳者の就業と身分

通訳者の就業と身分
通訳は「職業」として成り立つか
専門職として成立するか?
 通訳案内業
 資格試験合格率は公認会計士なみ
 合格しても就業保証はない
 会議通訳・放送通訳・司法通訳
 市場規模が小さい
 極めて高い技能を要求される
 コミュニティー通訳
 無償奉仕のボランティアが中心
 スポーツ・エンターテイメントの通訳
 市場アクセス困難
専門技能者としての認定
 語学検定とは異なる「通訳技能」の検定試験
 国家資格は通訳案内業試験のみ
 英・独語の場合はほかに下記の通訳検定あり
 ボランティア通訳検定



英語ビジネス通訳者検定
通訳技能検定
日独通訳技能検定
 http://license.evidus.com/license/genre/g_1.html
 問題点
 通訳ガイド以外は無資格者の就業に対する制限なし
 エージェント登録の決め手とならない
 プロから見ればいずれもアマチュアが受験するもの
 英・独語以外の言語には通訳能力に関する試験なし
フリーランスで働くということ
 自由業
 自由業は「不自由業」(自分でコントロールできない)
 不安定な収入(景気に大きく左右される)
 社会的信用の低さ(フリーターと同じ扱われ方?)
 仕事に必要な経費は全て自己負担
 精神的ストレス
 権利を守るための同業者組合もない
 搾取されやすい
 自らダンピングに走る
 仕事を得るために何でもする
 法廷通訳人のストライキの例
社内通訳者は?
 企業内通訳者

身分保障、福利厚生などの埒外にある
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
多くは派遣スタッフ(正社員ではない)
必要な期間のみの勤務
嘱託などの形態、一年~二年の契約で
 正社員として通訳・翻訳も行う場合


通訳・翻訳は本来の業務に付帯するもの
「語学屋さん」のレッテルは昇進のさまたげ
 外国語をペラペラ喋ることに対する反感(日本文化?)
社会的認知
 第22期 国語審議会 第3委員会 ((第3回)議事要旨) より引用
海外における通訳教育は大学院レベルで行われていることが多い。日英,英日の通
訳教育が大学院で行われているのはフランスのパリ大学,アメリカのモンテレーイン
スティテュート(大学院大学),オーストラリアのモナシュ大学,クイーンズランド大学な
どである。(中略) 大学院における通訳教育の充実が必要だが,現役として通用する
通訳力と研究者としての能力や資格を併せ持つ教員の該当者が極めて少ないのが
実情である。 (立教大学 鳥飼玖美子教授の発言)
大学院レベルでの通訳研究の必要性が指摘された。通訳研究によってPh.dを取得
するのだろうが,通訳者が知識や教養を持っていると,自分の考えがじゃまをして通
訳に差し支えることはないか。
 国語審議会に出席している学識経験者の通訳者に対する認識もこの程度
 通訳者には知識も教養も必要ない?!
社会的身分
 オーストラリアの通訳者


「私たち通訳者は社会になくてはならない重要な仕事をしているのに、
社会的身分は弁護士や医者たちよりはるかに低い」という事実が不満
の大きな原因である
日本で盛んに活用されているボランティア通訳こそ通訳という職業の社
会的地位を引き下げるものであるとしか考えられない。

日本から来た福祉関係の団体から、教授連の講義を聴いてその後話し
合いをするのにボランティア通訳者を手配してくださいと頼まれて驚い
たことがある。オーストラリアにはそんなものは存在しない。
以上、「オーストラリアと日本の通訳に関する問題」
ピンカートン・曄子(モナシュ大学 メルボルン)より引用
日本における通訳技能の価値
Q:通訳は,母国語能力,外国語能力,言葉の文化的背景を含む幅広い教養な
ど大変な能力を必要とする職業だと思うが,国内外における通訳に対する
認識はどうか。
A:欧米では専門職と認識されているが,日本では外国語ができれば通訳は
できるだろうというように,簡単に考えられる傾向がある 。
第22期 国語審議会 第3委員会 ((第3回)議事要旨)
 気軽に無償奉仕を頼まれやすい
 通訳者の日当が数万円と聞くとほとんどの人は大いに驚く
 実体のないものには支出したがらない
 単に言葉を置き換え、並べ替えるだけの仕事だと思われている
 言ったことは何でも100%訳せると思っている
 通訳者自身が自分の仕事の価値を過小評価している
通訳教育の課題
いかにして優秀な通訳者を養成するか
通訳者養成の公的機関の欠如
 海外では大学院で通訳者養成が行われている


アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、韓国、中国、台湾な
どに通訳・翻訳大学院修士課程
詳細は下記のサイトを参照
http://www02.so-net.ne.jp/~a-mizuno/link.html
 日本における通訳教育は伝統的に民間のPCO付属の
スクールで



学習時間の圧倒的な短さ
仕事を持ちながら学習する困難
演習によるスキル習得中心、理論無視の教育
 日本でもようやく大学院での通訳教育が開始

大東文化、立教、東京外語、大阪外語など
通訳スクールの課題
 伝統的な通訳スクール
 初級段階では通訳訓練手法による語学力向上
 中級段階で逐次通訳演習
 上級段階で同時通訳演習
 教育メソッドの確立
 理論研究への貢献
 講師が現役の通訳者であることを最重要視
 見込みのない者を淘汰する授業
 言語によってはOJTを期待できない
 働きながら学ぶ受講者のモチベーション維持
通訳研究の課題
通訳について何を研究するのか
通訳研究の目的と関連分野
 外国語教育への貢献

教育学、言語学、第二言語教授法研究
 異言語間コミュニケーション効果の改善

社会言語学、コミュニケーション学、言語心理学
 言語理解、言語産出のプロセス解明

認知言語学、認知心理学、脳科学、機械翻訳
 国際関係改善への貢献

言語政策、外交、国際経済、国際法など
通訳研究の発展
 海外の通訳研究
 日本通訳学会
 通訳研究による学位論文
 通訳研究をテーマとした学術書、論文集
昨今は日本でも研究が盛んになっているが、
学術研究分野としてはまだ確立されているとは
言い難い。しかし通訳学会は日本学術会議に
正式の学会として登録されている。
『通訳研究』2000年12月
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逐次通訳ノートから見た談話理解の方策
通訳理論の地平―情報処理アプローチと語用論
的研究
放送通訳における明示化の方略
北米の通訳教育研究機関調査報告
Thematic Challenges in Translation
between Japanese and English
放送通訳の訳出率―同時通訳と時差通訳の訳
出率の比較研究
通訳学会第三回年次大会
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「シャドーイングの有効性をめぐって -- 外国語教育と通訳
教育の視点から」
「通訳プロセスにおける非言語コミュニケーションを考える」
「同時通訳を逐次通訳より先に訓練する可能性について
の調査と考察」
「同時通訳における「という」とメタ表象~認知語用論的ア
プローチ~」
「同時通訳における認知タグ」
「ノートテイキングの指導法について」
「通訳・翻訳における多義語の訳出における認知プロセス
―asの訳出事例」
来週は休講です
11月19日は午後から内閣府主催の日中韓交流
セミナー通訳を依頼されましたので、授業を休講
します。
次回の授業は11月26日になります。
内容は「通訳の歴史」です。
来週のぶんは一回補講します。