英語教師の『哲学』と『実践』

英語教師の『哲学』と『実践』
新英語教育研究会関東ブロック研究集会2015
千葉県立成田北高校
組田幸一郎
どんなことでもそうだろうけど、ある程
度「そのこと」を知っていると、断言す
ることははばかられるものだ。全ての問
題を解決するベストの方策などなく、あ
ちらを立てればこちらが立たぬ、という
ことが往々にしてあるからそうなるんだ
ろう。政治も経済も、そして英語教育も
同じ。
ところが、素人は断言してもらわなけれ
ば、なかなかついて行く気にならない。
「○○すれば政治・行政の問題は解決す
る」「××すれば、景気は回復する」
「△△すれば、英語はできるようにな
る」、こんな風に断言してくれると、
「素人」はそれにすがるようにしてつい
て行く。
そしてうまくいかなければ、自分を責め
る。うまくいかなければ、その前提条件
を阻害したものを責める。こう考えると、
政治や経済、英語教育だけでなく、ダ イ
エットもそうだよね。だから、「こうす
れば英語はできるようになる」「こうす
ればダイエットは成功する」なんていう
本・手法が跋扈する。
たとえば、ナントカラーニングなんて嘘
だろうと英語教育関係者はわかりきって
いるけど、どうしてああいった教材にだ
まされるのかを考えると、あれは断言し
ているからでしょう。何人もの、とても
知的水準が高い人から、「スピードラー
ニングは役に立つ?」とポジティブな答え
を期待されたことがあります。
良心的な学校の先生の多くは、スタンド
プレーに恥ずかしさを感じます。だから
断言ができない。断言ができないものだ
から、「素人」がついてこない。そのた
めに、自分たちの「世界」の中で話すこ
とが多くなってしまう。この殻をどう
やって打ち破ればいいんだろうか。
断言する=宗教的な方法で人々を引きつ
ける、ということが、「素人」を巻き込
むいちばんの方法なんだろうけど、それ
はなかなかできない。専門家ができない
から、「独自の人」がそれをビジネスと
し、「素人」がついて行き、英語難民が
できあがる、という構造はどうにかした
い。
TEAPとか、TOEFLだとか、 TOEICだとか、
いろいろとあるけど、適切な英語力をつ
けて点数があがるのならば、「どのよう
に」「何を」勉強するかという断言する
具体論がなければ、 「素人」=世論はつ
いてこないでしょう。唯一の別の方法は、
「具体的に学力を上げる」ことしかない
んです。
「実際に学力を上げる」は、授業で行う
だけでは残念ながら弱い。というのは、
それでは受けられない人にとっては、何
の意味もない。誰しもが、「この教材を
このように」行えば、英語力がつく、と
いう具体的な方法が必要とされているん
じゃないかなぁと私は思います。
「実践」だけでなく、「哲学」が必要では?
 英語という教科は「実用」を求められることが多い
 学校という枠組みで考えたときに、「教育」のひとつの要素として「英語教育」
があるのではないか
 英語教師は、英語という教科を教える免許で仕事をしているので、英語をしっか
りと教える=生徒の英語力を高めることは当然のことながら大切である(実践)
 授業は一通りではないのは、その先生の「哲学」がベースにあるからではないか。
このベースがなければ、「こだわり」はなく、「ティーチングマシーン」となっ
てしまい、授業でのメッセージはなくなる。
 本発表では、「実践」を提示した後、「哲学」を皆さんと考えたいと思っており
ます。
英語学習に対する生徒の悩み
 英文法を学んでも、文法が身につかない
 文型を学んでも、実際の英文では文型が分からない
 単語を覚えても、単語帳では分かるのが、実際の英文ではそれが分からない
 英文を読むと、一文一文は何となく分かるけど、最終的に何が書いてあるのか良
く分からない
 長文を読むスピードが遅い
 学んだ英語が使えない
 英語を勉強しても定着しない
→ 根本的に、英語の学び方が間違っているのではないだろうか?
基本的な文法
ひとつの教え方の提案
「10桁で終了」 円周率ついに割り切れる
 無限に続くと思われていた円周率がついに終りを迎えた。千
葉電波大学の研究グループがこれまでの円周率演算プログラ
ムに誤りがあったことを発見。同大の スーパーコンピュータ
「ディープ・ホワイト」を使って改めて計算しなおしたとこ
ろ、10桁目で割り切れたという。10桁目の最後の数字は
「0」だった。(『虚構新聞』2005/02/09)
認知レベル
 画像的認知
 文字を文字として理解せずに、図形として認知する
 「重たい」
 意味的認知
 文字を意味として理解している。
 「軽い」
苦手な生徒にとっての教科書や板書
 苦手な生徒にとって英語は「画像」
 板書を写すのに時間がかかる
 参考書などで自分で勉強することができない
 英語のスペルの区切りがごちゃごちゃ。( I lik edo gs . )
 覚えることができない
 認知レベルを画像→意味にするために、英語の先生が意識しないで行えているこ
とを、生徒には意識させることが必要ではないか?
 画像を意味にするためには、音声という「橋」が必要になる。つまり、音読やリ
スニングは授業で大切な要素。
認知レベルを画像から
意味にしない限り、英
語を身につけることは
できない!
生徒の認知レベルを意味と
する方法の提案
英語学習の基本(名詞句)
名詞句は大切だが、おざなりにされているのではな
いか?
名詞句がまとまりとして理解できないので、Sは「い
ちばん左の語」と覚えている生徒がいる。その結果、
These students are my students. → These
studented are my students.とstudentsを「過去
形」にしてしまうことがある。
名詞句が分からないと、SとOとが分からない。
基本的な名詞句のグループ
 a / two, three… / some+名詞
 the / this(that)+名詞
 代名詞の所有格+名詞
 形容詞(名詞)+名詞
 名詞+of+名詞(これが分からない生徒は多い)
 名詞+前置詞+名詞 ( the bird in the cageなど)
 名詞 and 名詞
→名詞句は□で囲ませる
英語学習の基本(前置詞のグループ)
 in+名詞
 to+名詞
 for+名詞
 on+名詞
 with+名詞
 at+名詞
→(前置詞+名詞)は(
(ofは別立てとして考える(名詞句))
)で囲む
SVを意識させる
「文型」論議はいろいろとあるが、SVを意識
させることは大切である
SVを意識させるためにも、次の2つに分ける
1.SがVする
2.A is B. → A=B
語順シートを使い、教科書を理解する
 「意味順」とは発想が違います(左→右への一方通行)
 SはⅠ、VはⅡ、OCはⅢ
 Ⅳには「どこ」「どのように」「いつ」「理由」を入れる
 be動詞を含む「熟語」(be interested in, be fond ofなど)
はⅡにいれる
 that節は、開く(最初の段階では従属節も開くといいか)
 SがVする/A is B.→A=B
考えさせる
どちらのタイプなのかを最初は
学習の「横のつながり」を持たせる
 学習者は「どこの部分」を学習しているのか分からないのではないか?
 関係代名詞や現在完了を授業で教えても、なかなか定着しないのはどうして?
 関係代名詞の役割、その節が後置修飾であることも分かる。しかし文章の中で出てくる
とよく分からない
 学習者は「虫の目」、教師は「鳥の目」
 鳥の目:横のつながりが分かる
 虫の目:横のつながりが分からない
 語順シートと併用することで、横のつながりが分かる
 虫の目で学習するので、パターンプラクティスをしても、並べ替えなどをしても、
答えられなかったり、「なんとなく理解」(定着しない)で終わってしまうので
はないだろうか?
名詞(□で囲む)を作る「文法」
→主語と目的語
分詞の形容詞的用法(前置修飾/後置修飾)
関係詞(後置修飾)
to不定詞の形容詞的用法(後置修飾)
動名詞
to不定詞の名詞的用法
名詞+名詞
動詞のグループ(語順シートⅡ)の「文法」
否定文
完了
助動詞
進行形
受動態
句は[ ]でくくる
that節は[ ]でくくる → 開くと効果
的
従属接続詞+SV~も[ ]でくくる
関係代名詞+(S)Vも[ ]でくくる(そ
の上で□でくくる)
授業は教えすぎない
 学習者ができる作業を行う。
語順シートに書き込ませる(初期のみ)
テキストをプリントして、記号をつけさせる
 パターンプラクティス→暗唱
 音読/対面リピート/オーバーラッピング/シャドウイング
/リード&ルックアップ(即時・5秒後・15秒後)
 学習者を「信じる」
 採点は誰が行うか?
私の授業について
コミュニケーション英語Ⅱ(My Way English Communication Ⅱ三省堂)
蟹は甲羅に似せて穴を掘る
授業の展開は、自分の英語の「読み」をなぞってい
くのではないか?
単語はどのように覚えているか
Listeningでは何を意識して聞いているか
長文をどのような意識で覚えているか
自分が英語を勉強するとき、どのように英語を勉強
しているか
単語の学習
(『フレーズで英単語3000』)
 1回のテストで日本語→英語
(基礎)
21個(上級)/10個
 出版社から生データをもらい、それを加工してプリントを作
る
 試験は全て日本語→英語
 上級はプリントを練習プリントを渡すのみ
 基礎はプリントを渡して、音読・対面リピート
 採点は自分たちで行い、「ペナルティ」はない
リスニング
What’s this passage about?(What’s the theme
of this passage?)
やや細かい質問を3題
1. Yes / No Question(選択)
2. 内容を尋ねるQuestion(選択)
3. 内容を尋ねるQuestion(ディクテーション)
新出語句
基本的にコロケーションで覚えさせる
音読→暗記(日本語→英語)<上級のみ>
2人1組でチェック 日本語→英語<上級>
/対面リピート<基礎>
内容の解釈
120語程度<上級>/60語程度<基礎>
 説明は極力しない<上級>/SV□( ) [ ]を1文ずつ確認させる<基礎>
 だいたいの説明の後に音読/全ての説明の後に音読→虫食い→暗唱
<上級>
 2セクションごとに「音読大会」
1. 音声を意識して音読
2. 内容を意識して音読
3. ナレーター読み
4. サイトラ
5. オーバーラッピング
6. シャドウイング
7. Read & Look up
 上級も基礎も Flip & Writeを宿題にする
上級で内容読解を詳しくしない理由
 教えれば、分かるようになるのか
 「前に教えたじゃないの」
 「何度教えても、なかなか理解してもらえない」などなど
 説明をされると、分かるようになるのか
 説明を受けるよりも、SV□( )[ ]を意識し、音読やサイトラ、Read &
Look upなどの活動を通じて、「分かる」ようになるのではないか。
 ターゲットとする文法は、簡単に説明をした上で、口頭でパターンプラク
ティスをしたり、英作文をしたりする。(時間的な制約)
英語教師としての哲学
大学(高校)受験に
は英語は大切な教
科でしょうか?
安定企業に入るた
めには有名大学を
卒業する必要があ
りますか?
安定企業に入社す
れば幸せになれま
すか?
有名大学に合格す
れば、幸せになれ
ると思いますか?
有名大学に合格し
ない方が、幸せに
なれますか?
英語を勉強しない
方が、幸せになれ
ますか?
「人生における幸せ」
と「受験」とは、相撲
とプロレスくらいの違
いがあるのではない
か?
「大学合格」を目的と
することは間違ってい
る。しかし、英語力を
つけない授業も間違っ
ている
どうして英語を授業で
行うのか。答えは一人
ひとり、異なってもい
いのではないか?
どうして哲学が必要だと思ったか
 大学入試を全ての生徒が受験をするのか?
 大学進学率
50.8%(2013)
 推薦入試・AO入試を使い、約5割が大学に入学する(私立大学)
 少子化の止まらぬ流れで、大学入試はより簡単になっていくか
 受験を考えない生徒にとって、英語という教科の価値は?
 文系に進む生徒にとっての理科の価値は?
 有名大学に合格できれば、幸せになれるのか
 一流企業に入社すれば、幸せになれるのか
 幸せとはなんなんだろうか?
 授業に、どのような「メッセージ」を自分は入れているのか?
受験を考えない生徒にとって、英語とはど
のような「価値」があるのか
 実用を「強要」される、唯一の教科ではないか?
 古典を学んだから、源氏物語が読めるようになる?
 音楽を学んだから、作曲ができるようになる?
 技術を学んだから、犬小屋が作れるようになる?
 とはいえ、現実的には実用性がある唯一の教科であることは事実
 どうして、その実用的な英語を学ぼうとしない生徒がいるのか?
 中高生の英語学習に関する実態調査 2014
(http://berd.benesse.jp/global/research/detail1.php?id=4356)
 約半数が「自分は英語をほとんど使わない」と回答
 約9割が「仕事で使うことがある」とも回答
教育の目的とは?
 教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正
義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心
身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。(教育基本法第1
条)
 「人格の完成」: 個人の価値と尊厳との認識に基づき、人間の具えるあらゆる能
力を、できる限り、しかも調和的に発展せしめること。(文部科学省サイト『教
育基本法資料室へようこそ!』)
 自分の英語の授業のどこが、「教育の目的」と合致しているのだろうか?
 「外国語を通じて,言語や文化に対する理解を深め,積極的にコミュニケーショ
ンを図ろうとする態度の育成を図り,情報や考えなどを的確に理解したり適切に
伝えたりするコミュニケーション能力を養う。」(学習指導要領「外国語科の目
標」)
どうして英語を学ぶのか?学校で学ぶの
か?(私の考える理由のひとつ)
達成感『やりきった!』
自尊感情『自分にもできるようになった!』
「達成感」や「自尊感情」は人生を生きてい
く上で、前向きに生きていくための内面的要
因にならないか
とはいえ、このことを
ずっと思い続けて授業
をするのは、至難の業
です(苦笑)
生徒には幸せになってもらいたい
 教師に共通の願いではないか?
 教育基本法の「教育の目的」とは、人間が幸せな人生を送るために必要なことで
はないだろうか?
 生徒の希望(大学に合格したい)と、「教育の目的」との整合性をどう考えるか。
 整合性がとれないなら、その矛盾を自分の中でどのように昇華させていくか
ありがとうございました
 [email protected]
 @KUMITAKoichiro